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CV感染と政策対応: 日本の経験:日本型モデルは成功するか?(3)

5. 緊急事態宣言と緊急経済対策の陥弊

 

   ー意思決定の遅れと時機喪失

   ・3.13の特措法の成立後、新規感染者の増加ペースが東京をはじめ各地で高まり出し、

    危機感が強まる中でも政府は地方自治体の首長に権限を付与する緊急事態宣言になか

    なか踏み切らず、宣言発出は4週間後の4.7。この間、貴重な時間が空費されて時機を

    失した。

   ・安倍首相が緊急経済対策の策定を指示したのは3.17。ところが、公式に発表されたのは

    4.7.その後、所得急減家計への給付金が、国民一律10万円に変更される補正予算の改定

    があり、実施は5月にずれ込んだ。この変更がなくても財政規定と財政法の定める手続き

    で2ヶ月はかかる。実現に2ヶ月もかかる対策は緊急対策とはいえない。

   ・緊急事態宣言と休業要請は同時にすべきだった。宣言にもとづく外出自粛要請は休業

    要請と同時でなければ効果がない。休業要請を宣言から2週間ほど様子を見てからという

    発想は信じがたい。

   ・緊急事態宣言は本来全国に向けて発令すべきだった。迅速に最大の対策を打つのが

    危機管理の鉄則で、政府の緊急事態宣言の逐次発令はその真逆だった。

 

   ー曖昧な内容と自己矛盾

   ・4.7に発表された緊急経済対策は、総額108兆円のうち、医療支援はわずか1.8兆円、

    中小企業の資金繰りと給付が5.1兆円、減収家計給付が4兆円、その他大部分はV字型

    回復に伴う民間資金も含む事業費や税・社会保険料の支払猶予などで、とても本格的

    な緊急対策とは言い難い。また急ごしらえで各項目の内容も明確でない。

   ・休業要請をするのに、休業補償がないのは自己矛盾。サービス業の大半は小零細企業

    で、資金力が乏しい。その多くは資金繰りが1ヶ月もできなければ倒産する。本気で

    休業要請をするなら国と自治体が力を合わせて十分な休業補償をするかわりに徹底的

    な休業を要請するのが当然。

 

   ー逐次小出しの給付追加。

   ・中小企業向け「持続化給付金」売り上げ半減などの事業者対象。

     法人最大200万円、フリーランス含む個人事業主最大100万円

     予算規模2.3兆円(2020補正予算)、2020.5.8.支給開始、申し込み殺到、底つく恐れ

    ・家賃補助:自民・公明、5.8.家賃支払い困難な中小事業者への支援策で合意。

      大幅減収事業者に家賃の2/3を国が助成。上限は中堅中小企業が月50万円

      家賃の財源は2兆円弱。第二次補正の根拠に。

     ・公明党は荻生田文科大臣に、大学生らに1人10万円給付を要請。対象は低所得世帯

      やアルバイト収入で生活を支える学生など50万人想定。

 

  6. 医療崩壊は防げるか

 

   ーはじまった医療崩壊

   ・感染者の増加ペースが高まるにつれて、「感染症法」(感染症の予防及感染症の患者に

    対する医療に関する法律、1999.4.1施行)の規定で、感染者は軽症であっても入院させ

    ねばならず、それでなくても病院は通常の多くの患者に対する医療提供で手一杯の状況

    であるため、医療の供給能力を超える”医療崩壊”現象がはじまっている。医師、看護師、

    コメディカルスタッフの能力の限界が多くの医療施設で指摘されている。

   ・日本医師会は4.1.「医療危機的状況宣言」を発出。

 

   ーベッド数は多くても医療サービスが不足

   ・日本の病院はベッド数そのものは多い。イタリーのようにベッド数不足で医療崩壊が

    起きる状況ではない。

   ・人口1000人あたりのベッド数は、たとえばドイツ8.2、フランス6.2、イギリス7.1、

    アメリカは少なく2.9であるのに対して、日本は13.2(OECD調査、2016)。

   ・足りないのは医師。ベッド100あたりの医師数は、ドイツ49.9、フランス53.8、

    イギリス102.4、アメリカ88.6にくらべ日本は17.9と極端に少ない。

   ・日本は1960に国民皆医療、皆保険制度を実現したが、それを本当に担う医療サービス

    の体力がなく、いたずらにベッド数を増やして入院日数を伸ばすなかでなんとか対応

    してきた経緯がある。

   ・「日本は地域医療構想見直しで、病床の機能区分で過剰を抑制する計画をつくる段階

    でまだ動いていなかったので、なんとかなった」(横倉義武 日本医師会会長)

   ・足りないのは病床ではなく、医師、看護師、医療スタッフなど人材。彼らの過酷な

    勤務状態が医療崩壊につながる。

 

   ー外電記者(Robin Harding)による欠陥指摘(FT 2020.5.7)

   ・コロナ感染疑いの患者、引受病院探すのに数時間、40km。

   ・多くの病院、設備・資材整わないのでとくにICUに感染患者引き受けに二の足。

   ・感染患者、退院まで二度陰性検査結果必要、1ヶ月の在院も。

   ・日本はベッド数は多いのにその活用は極めて非効率。事実上の医療崩壊現象。

 

   ー防護具、機材、薬剤の不足、過少な感染テスト

   ・院内感染が各所で起きているが、感染防護マスク、アイソレーションガウン、フェース

    シールドなどの器材や薬剤不足も一因。これらの大半は中国など海外に依存していた。

   ・PCRなどの感染テストが韓国やドイツなどにくらべて非常に少ない日本の状況の背景

    要因については上述。

   ・これらはいずれも克服できない問題ではない。

 

   ー医療崩壊を防ぐ方策

   ・以上を踏まえると、医療崩壊を防ぐ方策がみえてくる。

    1. 医療人材の強化。長期的には医療人材の育成を大規模に推進すべきだが、今は

      現有の人材が過度な労働強化にならないよう、配置、編成、労働環境を整備。

      また彼らに社会が感謝し、偏見、中傷などは厳につつしむことが肝要。

    2. 防護具、機材、薬剤など、これまでの輸入偏重を改め、国産化を強く推進。

    3. PCRテストは、ドライブスルーの促進、規制を撤廃し民間企業活用推進。

 

   ー感染のピークを低位に抑えることが最大の方策

   ・最大の対策は、イタリーやアメリカNYのような感染爆発を避けるため

    感染者増加のピークを低く押さえ続けること。爆発で感染者数が医療の

    能力を超えると、医療崩壊と爆発の悪循環が起きて制御不能になる。

 

  7. ゴールデンウィークを”Stay Home Week”に

 

   ー小池流アピール戦術

   ・流行語づくりの名手、小池都知事は5月のゴールデンウィークが爆発を未然に防ぐ正念場

    と位置付け、命を守る”Stay Home週間”と名付けた。このキャッチワードが全国の

    合言葉となり、4.25~26の週末は都市の盛り場や観光地で明らかに人出が減った。

    知事はスーパーでの買い物も3日に一度にするように、など細かい要請を重ねている。

   ・知事の強い呼びかけ以降、東京都では一時は200人を超えた1日の感染者増が2週間ほど

    100人前後で推移。感染者増加のペースがやや鈍化したことはたしか。 

     

   ー接触8割削減の呼びかけ

   ・感染者数の増加が加速し始めた4月以降、安倍首相はじめ感染対策関係者は人との接触

    を8割減らすよう繰りかえし訴えた。

   ・8割削減の根拠は政府専門家会議メンバーで感染者数の予測を数理モデルで解析している

    北海道大学の西浦博教授の計算した数字。8割減達成すれば、1ヶ月で収束。0.7だと

    2ヶ月。0.6だと収束しないという。西浦教授は巷では”8割オジサンの異名。”

 

   ー国民の理解と自粛に期待する日本型の実験

   ・日本が今やろうとしていることは、都市封鎖も罰則を伴う外出規制も強制休業

    もなしに、自粛と補償なし要請で人々の行動パターンを変え、感染爆発を防ごう

    という挑戦。欧米や中国とは異なる日本型の実験。 

   ・これまでのところ、感染者数、死亡者数とも国際的にははるかに少数で済んでおり、

    日本型の実験は注目に値する。

 

   ー”Stay Home Week” キャンペーン、一定の成果

   ・G Week 連休を含む外出自粛キャンペーンは、盛場、行楽地への人出は激減。

    航空乗客率、JR乗車率は9割減少、

   ・東京の新規感染者は図5に示されるように5月以降は100人以下の日がつづいて一定の

    成果が伺われる。

 

   ー「陽性率」の公表

   ・東京都は5月にはいって「陽性率」の毎日公表を開始した。陽性率は4月上旬には30%

    ほどあったが、5月以降は7%台まで低下の傾向。

   ・毎日の新規感染者数と陽性率を合わせて評価すると感染の動向と意味が良く判るとの

    判断。その背景には欧米諸国で、陽性率の高い国では死亡者が多く、低い国では

    低いという観察事実が見られているという事情がある。

   ・陽性率は、陽性感染者数が分子だが、分母はPCR検査者数なので、検査者が多ければ

    陽性率が下がるという問題があり、検査母数の異なる陽性率をそのまま評価すること

    には問題がある。

 

   ー緊急事態宣言延長

   ・2020.54. 安倍首相は、緊急事態宣言の5月末日までの延長を宣言。

   ・延長宣言に先立ち「専門家会議」の意見。人との接触を8割減らす目標達成不十分

    行動自粛を継続すべき。週日昼間の接触制限しきれず大都市では減少4~6割。

   ・ウィルスとの戦いは”長丁場”として”新しい生活様式”を提示。例:大皿で食べない。

    食事中は会話をしない。ヨガ教習所では動画を使って練習する、など。

 

   ー緊急事態39県解除

   ・5.14. 政府は「特定警戒地域(8都道府県)」以外の39県の緊急事態宣言を5/31

    の延長期限を待たずに解除

   ・西村経財再生省は、再感染の波のおそれは高いので、解除後も感染予防に注力するよう

    注意喚起。もし感染が増えれば再指定あると警戒要請

 

  ー東京:休業解除の7条件

   ・5.15. 東京は6月からの段階的解除を目指して、休業緩和の7条件を発表

         -1日の新規感染者数   20人未満(解除)50人以上(再要請)

         -感染経路不明率     50%未満(解除)50%以上(再要請)

         -週ごとの感染者の増減   減少     倍増

        その他、重症患者数、入院患者数、陽性率、受診相談窓口相談件数

 

 ー感染収束につながるか?

  ・このやり方で感染者の増加ペースが鈍化していけば、強制なしに最小コストで達成

   された成果で、それはそれなりの”成功”

  ・しかしそのやり方でコロナウィルス感染を最終的に収束できるのか、が問題。  

   日本型モデルに問われる最大の課題。

 

 図 5  日本と東京都におけるCOVID19の新規感染者数

 

 5  

     

 

  

   

 

 

 

     

 

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