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CV感染と政策対応: 日本の経験:日本型モデルは成功するか?(4)

Ⅴ.   感染抑制と政策対応の経済シミュレーション

 

  ー感染抑制政策と緊急経済対策が感染の抑制と中期的にどれほどの経済コストになるかを

   判りやすく示すために、二つの対照的なシナリオでシミュレーションを試みる。

  ー中期的とはこれから2年ほどの期間。それ以降にはCVに対するワクチンが開発され

   世界の人々に広く提供される可能性があると想定。以下のシナリオはそれ以前の状況

   での感染抑制と経済コストのあり方を対照的に示す。

 

 1. シナリオA:小出し逐次政策対応と感染・経済コスト

   ー日本政府がこれまでに推進してきた感染抑制政策と緊急経済対策をシナリオ化。

 

   ーその特徴は以下:

    1)感染抑制策は日本の「感染症法」にもとづく伝統的な感染症対策を踏襲。

    ・それは国立感染症研究所を中心に地方衛生研究所と全国市町村の設置された

     保健所のネットワークを駆使して、感染者の行動追跡からクラスターを究明し、

     濃厚接触者などの健康・行動調査をつうじて感染拡大を抑制する方法。

    ・これは感染対策が小規模(全国で感染者が1000件ていど)段階では有効だが感染者

     が15000(2020.5.初)にもなりその大半の感染経路が不明の状況になると機能し難い

 

    2)CPR検査の数量が限られ、増強のスピードが極めて遅い。

    ・CPR検査を徹底して実行し、成果を収めた先行例として韓国があり、4月頃からドイツ

     など欧州諸国やアメリカなどが1日10~20万件規模で検査を実施している。

    ・日本は安倍首相が早くから1日2万件を主張しているが、5月初段階では8000程度。

     検査の数量限定と拡大の遅れは、緊急事態宣言体制の解除にともなって発生しうる

     感染再拡大(第二波、第三波)に対応するデータ基盤の乏しさから再拡大を防止する

     対応が不十分で感染再発が起こりやすいリスクがある。

 

    3)Social distancingを徹底するための休業の補償が不十分。

    ・効果的なワクチンが開発され國民に広く提供されるまでは、GV感染抑制策は感染者

     の入院隔離を除けば、もっぱらsocial distancing(接触しない)、self-quarantine(外出

     自粛)しかない。諸外国は外出を罰則で規制している例が多いが、日本は強制力の

               ない自粛要請のみ。

    ・Social distancing を徹底するには、人々が出かけ、集まる先を閉じるほかない。その

               ためには飲食や集合できる施設を閉店するしかない。日本ではそれらの施設に休業を

     要請してきたが、休業中の収入に対する補償はほとんどない。これら施設の大部分は

     小零細事業であり、資金力は極めて限られる(1~2ヶ月ていど)。確かな休業補償が

     なければ、多くが倒産、廃業そして多くの事業者と労働者(失業保険非加入者も多

     い)は所得を失い困窮者になる。結果として経済基盤が劣化し経済活力が失われる。

 

    4)緊急経済対策の発動の遅れと内容の不適格。

    ・緊急経済対策は4月7日緊急事態宣言と同時に発表されたが、感染拡大にともない

     改正特措法に基づき自治体等の感染抑制策に法的根拠をあたえる緊急事態宣言の発令

     を求める声が3月はじめ頃から高まっていたにも拘らず、政府の対応は1ヶ月も遅れ

     同時に経済対策の発表も遅れたため、迅速さが求められる政策発動が大きく遅れた

     ことは問題。

    ・発表された対策には緊急対応として医療支援のほかに所得が急減した家計や小零細

     企業への所得補償が掲げられたが、所得急減家計への補償は実効性がなく結局、國民

     全員に一律10万円給付という政治決着になり、緊急対策として本来救済すべき所得

     急減家計への集中支援はなおざりになった。

    ・総額108兆円という超大型対策の”真水”は30兆円あまりであり、多くの事業経費

     がV字型回復のための対策として観光地への”go to”プロジェクトなど緊急対策とは

     関係のない意味不明な内容。

 

   ーシナリオAは以上のような特徴をもつこれまでの日本政府の対応のしかたを前提として

    以下のシミュレーションをする。

   ・シミュレーションの時間視野は2020年ならびに2021年。

 

    (1)直接コスト:「緊急経済対策」(2020.4.7) 20.5兆円

      ・その内容は:アビガン確保やマスク配布、自治体交付金 1.8兆円

             中小企業資金繰り対策          3.8

             中小企業などへの給付金         2.3

             特定定額給付金(国民一人一律10万円) 12.6

 

       ・2020.4.7.発表の緊急経済対策に加えてさらに大型対策が実施される

        可能性もあるがここでは4.7.対策を前提。

       

    (2)間接コスト:緊急事態宣言下の休業要請は主として飲食、集会、移動などの産業の

         収益ならびに関連勤労者と事業者の所得を著しく削減するので、それらは

         国民が広く負担する間接コスト。

          ・参考:サービス業の事業所得    134.9兆円(2019年)

              JRと2大航空会社の年間売上高 10.8兆円(2019年)

              詳細はシナリオBで述べる。

       ・シナリオAでは休業補償が充分に実施されない前提なので間接コストは陽表的

        には計上しない。  

 

    (3)GDPの変動

     ・シナリオAでは、小出し逐次政策対応で、CVの感染拡大を2020年中には収束

      できず、さらに小出し対応をつづけているうちに、経済活動は2020ならびに

      2021年にわたって停滞する。

     ・GDP変動は2020、4~6月期がどん底で年率ー20%以上の落ち込みもあり得るが、

      感染収束が実現しない中で、経済も少しずつ回復する。そうした状況は2021年

      中も続くと見込まれる。

     ・GDP変動は2020.4~6月以降年率ー10%、2021年も通年平均ー10%。

 

 2. シナリオB:迅速・大型政策対応と感染・経済コスト

    ー迅速・大型・徹底政策でCV感染を早期収束、2021年に向けて経済V字型回復を

      はかる対応のシナリオ化

 

     ーその特徴は以下:

      1)迅速な政策決定とその果敢な実施

      ・危機対応で何よりも問われるのはスピード。政策が遅れることは問題への対処

       が遅れ、必要な対策を打つべき貴重な時間が失われる。緊急経済対策の構想から

       実現まで2ヶ月の時間の浪費、改正特措法が成立してから緊急事態宣言発令まで

       4週間を要した遅れ、また緊急事態宣言発令から休業要請まで2週間様子を見る

       とした政府対策本部の考え方などは大いに反省すべき。

      ・所得補償を決断しないままに休業要請をしても負担はもっぱら経営基盤の弱い

       小零細企業にしわ寄せされ、休業は徹底しにくい。休業要請は所得補償とセット

       で果敢に実施すべき。

      ・これらの反省に立ち、シナリオBでは政策の迅速な決定と果敢な実行を基本とする

 

      2)感染症対策を立案し実施する本部設置

      ・日本の感染症対策は、対策を立案し実行する体制が一元化されておらず、

        決定と実行のプロセスの権限が不明確で、対応が遅れがち、また不徹底。

       ・韓国:「疾病管理本部」省庁級で常設、

        台湾:中央感染症指揮センターが臨時政府のような強大な権限を掌握。

        アメリカ:US厚生省傘下の疾病対策センター(CDC)も強い権限。

       ・日本の感染症対策の専門最高機関は「国立感染症研究所」だが、この機能を

        生かし、単に厚生労働省の焼け太りにならないよう留意して、対策策定と実行

        の権限をもつ強力な機関を設立すべきではないか。

      

       ・参考

          日本の感染症対策はこれまで厚労省下の国立感染症研究所が主に担ってきた。

          感染研の業務の中心は研究で、知見は示すが、対策の策定や実行権限はない。

          今回、CV対応で、臨時組織を次々と立ち上げて対応。1月末に政府対策本部を設置

          した時は根拠法もなし。2月に同本部に専門家会議を設置、感染研の所長を座長に。

          法的根拠ができたのは3.26. 改正特措法成立を受け同法にもとづく対策本部とした。

          緊急事態宣言の是非を評価する諮問委員会もつくった。  

          感染研は、予算と人員、法の制約あり。平時は機能しても今回のような”戦時”では

          十分に対策をとるのは困難。

  

     3)旧習に囚われない徹底的な感染検査と国民の状況把握

      ・日本の伝統的感染抑制法は伝統的に感染経路からクラスターを究明し、その拡大

        を防ぐ方法で感染規模が比較的小さい場合は良く機能するが、コロナウィルス

        感染のように大規模になると機能しにくい。

       ・感染検査を多くの国民に徹底して第二波、第三波に備えることが必要。その

        ためにはこれまでのように検査は公的検査機関だけでなく広く地方自治体、医

        師会、大学、民間企業も総動員し、新技術も大いに取り入れて国民全員の状況

        把握をめざす。

 

     4)緊急経済対策:必要な対象に重点的効果的支援

      ・緊急経済対策は、感染抑制策によって休業が要請されその間、事業所得を失う

        多くの小零細事業者の機会所得の補償と、同時に所得が急減もしくは失業する

        労働者の喪失所得を補填する所得補償が主眼なので、一律給付でなく最も支援

        を必要とする事業者や勤労者への重点支援が基本。

       ・シナリオAでは重点給付の実行には実務的困難があったので、一律給付と

        なった。

       ・もっとも支援を必要とする事業や労働者に重点給付をするにはせっかく作っ

        た「マイナンバー制度」に就労、所得、資産状況など個人情報を接続して

        活用すれば迅速・効率的に重点的給付は可能になる。

 

      5)コロナ後の新しい経済システム構想とその実現

       ・コロナパンデミックは日本はもとより世界中の経済や社会に大きな衝撃と変化

        の契機を与えている。

       ・世界諸国はこれまで自粛と規制の解除を模索しはじめているが、それ感染の

        再発を誘引しないとは限らない。また、ワクチンの開発・普及などによって

        今のコロナ禍が克服されたとしても新たなウィルスパンデックがまた襲来しない

        とは限らない。専門家会議副座長の尾美茂氏の言葉を借りればコロナとは”長

        丁場”の付き合いと覚悟する必要がある。

 

       ・専門家会議はそのために「新たな生活様式」を提案したが、本質的な課題は、

        ウィルス感染の流行に負けない新たな経済社会システムづくりだ。人々の

        接触や移動なしに持続し発展できる経済システムを構想し実現することだ。

 

       ・その大きな手がかりは”情報と通信”の活用にある。今回のコロナ禍で、私たち

        はリモートオフィス、ネット教育、画像の活用などを経験した。今求められる

        のは、その経験を生かして日本中の組織や家庭に高度な通信環境を整備し、産

        業、教育、医療、娯楽、アートなどが人々の接触と移動なしにこれまで以上に

        実現できる経済社会システムを構想することだ。

 

       ・準備し実装する戦略を、政府は感染症の専門家だけでなく内外の英知を

        結集して描き出し、国民に良く説明して理解を共有して、夢のあるV字型

        回復像を提示する。

        

 ーシナリオBでは以上のような日本の抜本改革後の対応のしかたを前提として以下の

    シミュレーションをする。

  ・シミュレーションの時間視野はシナリオAと同じ2020年ならびに2021年。

 

   (1)直接コスト:緊急対策:医療基盤整備、休業補償、急減所得補償など:53.0兆円

      ・その内容は:医療基盤の整備・充実              10.0兆円

             休業補償                    19.0兆円  

              参考:広義のサービス業の年間事業所得は134.9兆円(上記)

                 そのうち、とくに宿泊・飲食、生活・娯楽関連などの

                 事業所得は年間約57兆円、その4ヶ月分19兆円

             航空・交通                    4.0兆円

              航空・交通年間収入は約20兆円その8割の4ヶ月分 4兆円

             所得急減家計の所得4ヶ月分           20.0兆 

           

    (2)間接コスト:緊急事態宣言下で要請される多様なサービス業の休業と国民の外出

        自粛による経済活動の休止もしくは低下は、経済の複雑な連関構造のなかで

        多様なチャネルをつうじて経済の産出と消費を縮小する。この削減効果による

        総合コストはGDPに反映する。

 

      ー参考:熊野英生、第一生命経済研究所主席エコノミストは、緊急事態宣言の

       5.31までの延長で、実質GDPが23.1兆円押し下げられると試算。5.6.までの

       1ヶ月の押し下げ効果はすでに21.9兆円に達し、合計の減少額は45兆円。

       年間GDPの8.4%に相当。

 

      ー参考:中島精也(丹羽連絡事務所主席エコノミスト)は、現在の未曾有のCV経済

       危機にたいしては敢えて迅速かつ巨額の財政支出でウィルス感染を収束させ、その

       後のV字型回復を実現すべきとし、そのためには新たにコロナ基金を創設、100

       兆円の特別国債を日銀に引き受けてもらい、うすくひろいコロナ復興債で50年

       かけて返済すればよい、と提案している「眼光紙背」(2020.5.1日経産業新聞)

   

    3)GDPの変動

     ・シナリオBでは、迅速・大型の政策対応で、CVの感染拡大を2020年秋には収束。

      2021年に向けてコロナ後の新しい経済システムづくりの準備と実装に着手。

     ・GDP変動は2020、4~6月期がどん底で年率ー30%以上の落ち込みもあり得るが、

      2020年中の感染収束を視野に、経済活動は回復。2021年には回復が加速してV字型 

      回復が実現

     ・GDP変動は2020.4~6月以降年率ー20%、2021年は前年の大きなマイナスを反映

     (反動増を含む)通年平均15%。

 

 3. 感染抑制策と政策対応の経済効果の総合評価

 

  ーシナリオAは、逐次・小出しの政策対応の結果、直接の経済コストは20.5兆円(2020.4.7

   緊急経済対策の財政コストのみ勘案)だが、ウィルス感染を早期に収束できないために

   GDP成長率は2020 ー15.0%、2021年もー10.0%となった。

 

  ーシナリオBでは、休業補償など大型対策を早期に徹底的に実施した結果、直接コストは

   53.0兆円と多額にのぼり、その結果もあってGDP成長率は2020年ー20%だったが、

   2021年には感染収束と未来志向の経済戦略の効果もあってGDP成長率は+15%と

   V字型回復を達成。

 

  ーGDPを総額580兆円前後と想定すると、2020と2021年の2年間で、シナリオBはシナリオA

   にくらべ58兆円ほど多くなる。小出し逐次対応の政策は短期には経済コストが節約される

   ように見えるが、2年間では、早期に大型対策を徹底的に執行する方がV字型回復の効果

   で経済コスト総額は少なくて済む。

  ーそして何よりも重要なことは、小出し逐次政策で感染を早期に収束できなかった場合、

   中小零細企業などの経済基盤が劣化し経済全体の活力低下の後遺症が残ることである。

 

 

 Ⅵ.    日本型モデルは有効か

  ー日本型モデル:国民の理解、自覚、行動に期待?

  ・世界の主要なモデルには、中国モデル、欧州モデル、アメリカモデル、アジアモデルなどが

   あるが、日本はそれらいずれとも異なる日本モデルともいうべき特徴がある。

 

  ・中国は共産党独裁の体制下、国家権力がしばしば私権を超越して徹底的な都市封鎖や外出

   禁止を強制し、また高度に浸透した情報化を活用して感染経路を究明し、感染拡大を短期

   で収束させた。  

  ・欧州諸国は都市封鎖や外出禁止をしたが、イタリーのように悲惨な医療崩壊もあり、人口

   の割には大規模な感染爆発の犠牲を払って、ようやく規制解除に踏み出している。

  ・アメリカは技術も資源も豊富な先進国だが指導者の失政で世界最悪の被害を被っている。

  ・韓国、シンガポール、台湾などはSARSなどの被害を教訓に感染抑制体制を高度に整備。

 

  ・日本は、伝統的な感染対策で当初は拡大を抑制してきたが、感染拡大の加速の直面して、

   都市封鎖や外出規制も休業補償もせず、人々の理解と自粛と自主的な行動変化に期待して

   感染抑制をはかろうとする独特なモデル。

 

 ー日本型モデルを支える政策支援の強化

  ・日本型モデルは、強制も罰則もなく人々の理解と自粛に期待するやり方。

  ・感染規模が少ない段階では伝統的な感染抑制策は機能したが、全国で1.5万人を超える

   規模になると伝統的な感染抑制策は限界。大規模な感染検査で国民全体の状況を把握

   する抜本的な対策とシステムの改革が必要。

  ・また休業要請は十分な補償があってはじめて徹底できる。”戦時”財政措置が必要。

  ・感染抑制体制の抜本改革と有事財政の支援があってはじめて日本型モデルの機能

   は裏付けされる。

 

  ー政策なき日本型モデルは”精神論”の罠に陥る危険

  ・上記のようは強力な政策支援があれば、国民の理解と協力に依存する日本型モデル

   は機能して、世界の貴重なモデルになる可能性がある。

  ・必要な政策支援を欠く日本型モデルは、精神論的な希望にとどまり感染の再来を防げず、

   経済は衰退するおそれがある。

 

以上

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