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コロナウィルス感染と世界経済(1)

 

コロナウィルス感染の蔓延の中で世界諸国はその被害を最小に留めようと懸命な取り組みを進めています。感染を抑制するためには人々の接触を叶う限り無くすことが要諦ですが、それを徹底すれば経済活動は停止することになります。

2019年12月末に中国で新型コロナウィルスが発生してからほぼ半年が経ちますが、世界諸国は感染抑制か経済活動維持かのtrade offの最適なバランスを求めて試行錯誤を繰り返しています。本稿では世界各国のその取り組みの実態を経済の観点から体系的にかつ詳細に展望し、今後求められる方向についての手がかりを提示しています。

本稿は大変長い文章となったので、全体を5つのパートに分けてこれから順次このブログに掲載していきたいと思います。ご高覧戴ければ幸いです。

 

Ⅰ.   はじめに

 

 ー世界は、今、新型コロナウィルス感染の猛威に襲われているが、各国は懸命に感染拡大を

  防止して犠牲者を最小にすべく総力を挙げて取り組んでいる。

 

 ーウィルス感染を防止するためには、有効なワクチンが開発されて世界の人々に広く提供される

  ことが何よりも求められるが、それまでには相当の時間がかかると見込まれている。

 

 ー効力のあるワクチンによって感染が収束するまでの期間、感染の拡大を防ぐほとんど唯一の 

  対策は、人々が接触をしないようにすることである。それは、ウィルスが非常に微小な存在

  であり、感染者の体内の細胞などに寄生するウィルスが人の咳などから飛び散る飛沫の中に

  含まれて他の人に付着して感染する、あるいは人が会話する際の呼気に含まれたウィルスが

  他の人に移ることがないように、人が他人の至近距離に近づかないようにするためである。

 

 ーそのために世界諸国では、人々が移動せず、集合せず、近寄らないために、いわゆるSocial

  Distancing(社会的距離の確保)を人々に要請し、さらに要請するだけではSocial Distance

      が確保されない場合には、都市をlockdown(封鎖)したり、人々が集まる商業施設、娯楽

  施設、学校などを閉鎖する対策をとっている。

 

 ーこうしてSocial Distanceを確保することは、ウィルスの感染を抑制するためには必要では

  あるが、人々が会話をし、会食し、集合し、集会し、通勤、通学、さらに地域や国境を

  を超えて移動することは、まさに経済活動そのものであり、そうした人々の行動を抑制

  したり禁止することは経済活動そのものを抑制し停止させることである。

 

 ーしたがって、感染を防ぐために経済活動を抑止・停止するのか、経済活動を継続するために

  感染を許容するのかは, 今、世界諸国さらには人類が直面している重大な選択もしくは

  trade offの大課題である。

 

 ーウィルス感染の問題は今にはじまったことではない。ウィルスは何億年も前から存在した

  ことが知られており、おそらく人類よりも長い歴史をもっている。人類が文明を持って

  からも例えば中世の”黒死病”では欧州人口の多くが犠牲者になったとされており、1918~

  1920年の三波にわたったスペイン風邪では、3500万人もの人々が犠牲になった。近年で

  もエイズと通称されるHIVやエボラ熱などが記憶に新しいが、それらは皆、ウィルス感染の

  現象であり、さらに言えば毎年多くの犠牲者が出るインフルエンザもウィルス感染である。

 

 ー文明が発達し、医学が長足の進歩を遂げてきた現代では、こうしたウィルス感染にたいして

  は効果的なワクチンが開発されて、感染の流行やパンデミックは一定時間の後には沈静化

  し克服されてきた。今回の新型コロナウィルス(WHOはこれをCovit19と命名したので、

  これからは本稿ではCVと略称したい)に特徴的なことは、これが非常に急速に短期間に

  世界中で蔓延したことである。12月末に中国の武漢市で感染が発見されたとされているが

  中国を含め、わずか2ヶ月後には欧州で感染爆発が起き、3月後半からはアメリカが感染大

  爆発の被害をうけている。効果的なワクチンが開発されるまでには、世界諸国はおそらく

  一回以上の膨大な波状感染の被害を受けることになるのではないか。

 

 ーCVがあまりに短期間に世界全体を覆って甚大な被害をもたらしたおそらく最大の要因は

  新型のウィルスがあまりに強悪な性質をもっているということ以上に、世界のいわゆる

  グローバル化があまりに高密度に進展したことにあると思う。

 

 ー近年、情報化が急速に進展し、人々は個人でも組織でも国家レベルでも瞬時に世界中の 

  どんな情報も入手できる時代になった。情報で理解したことを具現化し現実の成果にする

  ために、人々はこれまでとは比較にならない速さと密度で、交流し、会合し、交渉し、集会

  し、世界中を移動する。現在の世界では、国境を超えて何億便もの航空機が延べ何十億人も

  のグローバルな移動を実現している。CVの急速で爆発的な感染はまさにこのようなグロー

  バルな人の動きに乗じて展開したといえる。

 

 ーCVパンデミックを収束させるには、まさに、現在の世界の経済活動を支えているこうした

  人々の動き、あるいは経済活動そのものを抑制する必要がある。感染抑制か経済活動の抑制

  かという深刻なtrade offに直面して、世界諸国では、今、経済活動の抑制を最小限に抑えて

  感染を効果的に抑制できないか、懸命な試行錯誤が行われている。

 

 ーCV発生源となった中国では、感染爆発を強力な感染者隔離政策で短期間に収束させた。

  イタリーはじめ欧州諸国では感染爆発による多大な犠牲をはらったが、少しずつ、経済

  活動の再開を試行している。アメリカは感染対策が遅れたため、NYを中心に感染爆発

  が起き、莫大な犠牲を被っている。韓国、シンガポール、台湾などアジア諸国ではSARS

  の経験を教訓にして早期の感染防止策をとり、一定の成功を収めている。

 

 ー日本は1.2億人という大きな人口の割には累積感染者数も死亡者もすくなくとどめてきた。

  しかし2020年3月下旬から新規感染者数が急速に増える兆しがあり、4月7日に緊急事態宣言

  が発令され外出自粛と店や施設等の休業を要請した結果、感染爆発は回避された。とはい

  え、こんご第二波、第三波の感染拡大が起きた時に有効に機能する感染抑制体制を構築した

  とは言えない。

 

 ー感染の経験とならんで、これらすべての国々に共通する大きな関心は、感染の増加を抑制

  しながら、どのように経済活動を再開し、持続していくのか。また感染収束を視野にいれて

  感染がもたらした莫大な経済被害を克服し、将来のV字型回復につなげるのか、ということ

  である。そのためには、すべての国々で、また国際協力をつうじて適切な経済政策が立案

  され、実行される必要がある。

 

 ー本稿の目的は、そうした問題を実際の事象の観察をつうじて体系的、総合的に考えること 

  である。

 ー以下では、II章で、 CV感染抑制と経済活動抑制のTrade Offの関係を理論的に整理、

  III章で、CV感染の世界展開の過程で生じた経済活動の崩落とそれを緩和するための 

  経済政策、崩落の原因となった感染抑制策の解除の動きなどを事実に即して展望、

  IV章では、世界各国のCV感染抑止への取り組みの経験を中国、EUと欧州諸国、アメリカ、

  アジアとして韓国、シンガポール、台湾そして日本の順で跡付け、

  V章では、IMFの2020.4.の世界経済展望を中心に経済予測と金融、財政問題レポートを

  紹介、VI章は結語に換えて今後の課題を5点ほど述べる。

 

 

Ⅱ.   CV感染抑制と経済活動抑制のTrade Off

 

1. ウィルス感染の増大と収束

 

 ーCVの感染は2019年12月末に中国武漢市で確認され、2020年1月から2月にかけて中国で

  感染は爆発的に拡大した。1月下旬から中国当局の強力な感染抑制策が展開され、2月下旬

  から感染は収束にむかった。2月中旬から感染は欧州で急速に拡大し、3月には欧州諸国は

  感染爆発が進行した。3月にはいると感染はアメリカで急激に拡大した。アメリカは5月

  下旬には感染者170万人、死者10万人を超えて甚大な被害を被っているが、まだ、収束の

  段階にはいっているとはいえない。韓国、台湾、シンガポールなどアジア諸国は検査と

  感染者隔離の徹底で、感染爆発を回避しており、日本は5月末までの段階では感染拡大の抑制

  と死者の最小化を達成している。

 

 ー以上、CV発生以来およそ半年にわたる世界諸国の感染状況の経緯を概観したが、CV感染

  の拡大を抑制する各国の努力もあり、アメリカ以外の諸国では、感染の急増から1~2ヶ月

  のうちに新規感染者の増加が逓減しており、感染はピークから収束の局面に移行している

  ように見える。図1.参照

 

 図 1. 世界諸国の感染状況:感染増大と収束  

Photo_20200618170101

 

 図1の展開を単純にモデル化すると図2のように描けるだろう。

  図2の曲線は、epidemiological curve(疫学的感染曲線)と言われる。

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 ・左から右は5段階で示される。それは、1. ウィルスの発見、2. 感染者の確認

  3. 感染者の急増(爆発)とピーク、4. 新規感染者の減少、5. 収束段階

   

 ーCVのような感染型の疫病を抑止、撲滅するには、有効なワクチンが開発され、多くの

  人々がそれを服用して、感染しないようになることが望ましいが、CVの場合、ワクチン開発

  の努力はまだ端緒についたばかりで、開発と普及にはまだ数年はかかるとされる。

 ーしたがって、当面(1~3年)はワクチンが活用できない状態で、世界はCV感染の抑制と克服

  を図らねばならない。その状況で、CV感染を抑制する方法は、できるだけ多くの人々の健康

  状態・感染の有無を確認し、感染者を隔離して治療すること。そして、その他すべての人々に

  は互いに接触しないよう”social distancing” を徹底することである。

 

 ーCVは人々の唾や体液などの微小な飛沫に含まれて他人に感染し、また会話の際などの呼気

  にも含まれて感染するので、人々が互いに接触もしくは近接しないようsocial distancingを

  徹底することが極めて重要だが、それが不徹底だといわゆるovershoot(管理不能の感染

  爆発)現象が起きる。2月中旬のイタリーや4月以降のアメリカなど。

 

 ー管理不能の原因は”医療崩壊”。

 ・感染爆発で大量の感染者が発生。

 ・彼らが病院に殺到し、病院の医療能力を超えると医療崩壊

 ・医療システムは有限: ベッド、ICU、熟練医師・看護師、人工呼吸器

 ・病院はふつう他の病気で入院している患者の治療の従事。そこにCV感染者が大量に送り

  こまれると、感染者のみならず治療を受けられない患者は劣悪な状態におかれて死亡率↑。

 ・医療崩壊の防止=死亡者の最小化

 

 2. 感染カーブの平坦化:

 ー医療崩壊を防止するには、感染カーブを平坦化する必要

 ー感染カーブの平坦化のためには、 Social distancingと優れた医療サービスで感染率↓。

 ・入院感染者が少なければ、病院はゆとりを確保できるので、医療サービスの質↑できる。

 ・これまでの世界の経験では、中国、韓国、台湾などが死亡率抑制成功。医療崩壊回避の例

 

 ー新規感染者数を少なく抑えるにはSocial distancingを徹底することが有効。

 ・ただし、social distancingを徹底することは経済活動を抑制すること 

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 3. 感染抑制は不況の深化

 

     ーCV不況の特徴は、感染抑制がそのまま不況を深化させることになるということ。

   感染抑制のためには、現状では、都市封鎖、移動・外出禁止などの手段で人々の

   接触を回避(social distancing)をせざるを得ず、それはそのまま経済活動を低下させる

   ので、不況を深化させざるを得ない。残念ながら不況を深化させることが今のところ

   感染抑制の唯一そしてもっとも効果的な手段。

   

  ー感染カーブを平坦化することは、結果的に、不況カーブを深化させること。

  ・Social distancingの強化:学校・大学休校、不要不急ビジネス休業、外出自粛・規制

   はとりもなおさず、生産活動と取引の減少。

  ・在宅勤務できる労働者の比率はまだ限られている。 

 

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   ー経済活動減少→GDP↓

   ・CV不況はリーマン不況より深くなる。リーマン不況、毎月80万人失業    

    しかし大部分は雇用され働いている。失業率ピークは10%

   ・CV不況、短期間ではあるが、50%以上が仕事できない状態。

            この状況は経済に衝撃波を与え経済にさらに深刻な影響を及ぼす。

    経済運営を間違えるとより大きなより長期な被害。

 

   ーCVの負の経済効果

   ・医療効果:入院中、隔離中は人は働けないのでGDPにはマイナス。

   ・外出規制効果:自宅待機中は生産活動できない。

   ・期待効果:感染拡大中は将来不安が大きいので人々は消費を手控える。

   ー経済循環の負の拡大効果

    ・現代経済は相互に関連した主体が構成する複雑なwebのような構造。

     雇用者、企業、供給者、銀行、その他の金融機関

    ・このリンクが感染や隔離で断絶すると、断絶が連鎖して拡大する。

 

  4. CV不況は経済循環ネットワークをつうじて増幅する 

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   ーCV危機の中で経済循環の流れが途絶するリスク

     X1: 企業の破綻もしくは倒産

     X2: 解雇、賃金・労働時間カット

     X3:国内サプライチェーンの分断

     X4 :  金融危機

     X5 :  国際サプライチェーンの分断

     X6 :  国際需要ショック(所得減は先行き不安で需要急減)

 

   ー現代の経済は多くの主体が相互に密接に繋がった複雑なシステム:

   ・企業:雇用主=生産者

   ・家計:消費者=労働供給者

   ・政府:政府サービス提供=徴税者

   ・中央銀行:金融システム維持

   ・金融機関:資金提供、

   ・株式市場:投資、投機

   ・世界諸国:貿易:輸出、輸入:サプライチェーン

        :投資:資金市場

 

   ーこのネットワークのどのチャネルで活動阻害(disruption)が起きても国内・国際の

    多層で複雑なネットワークをつうじて、阻害効果が増幅し破壊的影響をもつ可能性。

       ・都市封鎖:企業活動阻害、売り上げ激減、雇用削減、失業増加

       ・外出規制:消費削減、サービス業の売り上げ、利益激減、雇用削減、失業増加

       ・サプライチェーンの分断:輸出入の削減、供給停止、価格高騰

       ・CV不況の不確実性:期待形成に影響、人々の消費抑制、企業の投資削減、株価急落

       

   ○サプライサイド

    ・労働供給↓←休校で子供ケア必要で働けない母親等々、死亡率↑など。

    ・稼働率↓←都市封鎖、自宅隔離、入院隔離など

    ・サプライチェーン分断←中国からの供給途絶、電子製品、機械設備

    ・SC分断はビジネスコスト↑、生産性↓、経済供給能力↓

 

   ○デマンドサイド

    ・所得↓、感染の恐怖、不確実性↑→消費抑制

    ・労働者のレイオフ。旅行業や接客業により大きな被害(例、イタリー)、航空業↓

    ・消費者と企業家心理↓→企業は需要↓を予期。企業の支出と投資削減。

    ー生産低下、廃業、→雇用喪失。

 

   ○金融への影響と波及効果

    ・借入コスト↑、融資条件厳しく→銀行が借入者が負債を期限まで支払えない不安。

    ・借入コスト↑は資金供給の脆弱性:低金利時代に蓄積:負債の借り換えにリスク。

    ー信用低下は供給・需要ショックからくる景気悪化を増幅。

 

   ーこれらのショックが多くの国々で同期化(synchronize)すると、それは国際貿易と投資

    の連関をつうじて増幅し、世界の経済活動を低下させ、商品価格を落下させる。石油

    の急落はその例。

 

   ーCV不況によるこれらのdisruptionsが、経済循環のネットワークをつうじて増幅、波及を

    くりかえし、負の相乗効果の相互作用から大恐慌に発展する可能性も。

 

   ー負のフィードバックループや負のショックを拡大するチャネルを迂回し回避。

   ・それができない(uncheck)と不況は経済の多様で複雑な連関(linkages)を破壊する

    おそれがあり、経済循環を阻害し、回復にかかる時間がより長期化する。

   

   ー経済にもカーブ平坦化の課題

   ・医療崩壊の防止策としてのSocial distancing は、同時に、経済不況カーブを悪化させる。

   ・適切なマクロ経済運営がないと、何百万、何億という経済主体の意思決定が上記の多層・

    複雑なネットワークをつうじて増幅し、不況カーブはより深くなる可能性。 

   ・個々の主体の、消費節約、投資削減、信用供与削減、慎重化などの行動。

   ・個々の主体の判断や意思決定は合理的でも、多くの主体の意思決定がネットワークを

    つうじて相乗効果を持ち、増幅すると、不況が深化するなどのマイナスの外部性

   (合成の誤謬)を助長する可能性がある。 

   

 5. 不況カーブ平坦化への経済政策

  ー重点: 

   1. 労働者が雇用され続けること(賃金給付確保):隔離されても自宅待機中も。

     家計は必要不可欠な支払いがある:家賃、光熱、ローン、保険料など

   2. 企業が倒産しないように危機を乗り切る支援:より条件の良い融資(低利、無担保、

     長期)、税、保険料、賃金、ローンなど支払い繰延措置 or  助成金支給など。

   3. 金融システムの保全(不良債権蓄積などの負担軽減):金融危機への転化防止。

 

  ーその実現のために:

   ・中央銀行は金融市場に流動性の緊急提供

   ・財政スタビライザー発動(減税と財政支出増)

    は家計と企業への打撃を緩和できる。

   ・政府は対象を絞った財政支援提供 or 経済活動全体の底上げ支援。

 

  ーこれらの措置は、悪循環の拡大を抑制もしくは防止。→不況深化を抑制できる。

 

 

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