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米中ハイテク覇権戦争:その経過と展望(3)

Vll. ツキディデスの罠


1. Allison教授チームの研究:米中対立とツキィディデスの罠
ーツキディデスの罠
 ・ギリシャの歴史学者ツキディデスが描いた紀元前5世紀のスパルタとアテネの覇権戦争はその
  後ツキディデスの罠としてしばしば言及される。
 ・これは当時、地中海域で覇権国だったスパルタと追い上げてくるアテネとの間に緊張感が
  高まり、結局、ペロポネソス戦争でアテネが勝利して新たな覇権国となったという史実。
ーハーヴァード大学「トゥキディデスの罠研究」
 ・ハーヴァード大学ベルファーセンターの応用歴史学PT「トゥキディデスの罠研究PT」を主催
  したGraham Allison教授はこのPTで振り返って研究した過去500年の歴史の中で、新興国が
  覇権国を脅かしたケースと16件確認。
 ・そのうち12件で戦争が起きた、と報告。
    グレアム・アリソン『米中戦争前夜』(藤原朝子訳)2017、ダイヤモンド社
  
 ・ちなみに戦争に至った5件は:
     日本とアメリカー20世紀半ば
     日本vs中国ー19世紀末
     日本とロシアー20世紀初め
     ドイツとフランスー19世紀半ば
     イギリスとオランダー17世紀半ばから末
     ハプスブルグ家vsフランスー16世紀前半
 ートゥキディデスの罠に陥るのか
 ・明らかに中国が新興勢力として事実上の強力な覇権国であるアメリカを追い上げ。
 ・トランプ政権はその中国に対して経済力を減殺すべく高関税を賦課し、
 ・また戦略的に極めて重要な通信インフラの構築で世界をリードしている華為技術をはじめ
  とする先端ハイテク企業に対しアメリカ発の部品や技術の輸出禁止措置で制裁。  
  →事実上の戦争状態に近い緊張の高まり。こ
 ・これがトゥキディデスの罠に陥って本当の戦争に発展するのか、
  世界は今、固唾を呑んで注視。
 ー中国の追い上げ  
 ・アリソン教授は、覇権国アメリカに脅威感と警戒感を抱かせる近年の中国の激しい
  追い上げ現象を詳細に記述している。そのいくつかを例示。
  ・中国は2014、GDP(PPP)でアメリカを抜いた。
  ・一人当たり平均所得:1980、193ドル、2017、8100ドル以上
  ・世界同時不況(2008)以降、世界経済成長の80%は中国
  ・1996年から20年で420万kmの道路建設、高速道路網はアメリカの1.5倍長さ。
  ・中国高速鉄道網の全長は、全世界の高速鉄道網の全長を上回る。
  ・中国の国家開発銀行(対外投資)欧米の6大開発銀行の融資残高1300億ドルを上回る
   金額を国際開発PTに融資。
  ・対艦ミサイルで米空母を、衛星攻撃兵器で米軍事衛星を破壊できる非対称戦可能
ー米覇権低下への懸念
  ・中国の急速な台頭→アメリカの経済力の相対的低下→覇権の相対的低下への懸念
    アメリカ人は経済の優位はアメリカに不可分の権利。それはアメリカのidentityの一つ
    
  ・とりわけアメリカの中国involvement戦略への反省
    中国の1980s以降の急速な発展→中国の所得上昇→中産階級の増加→自由への欲求
    →アメリカ型民主主義への同調→世界経済への参加許容→WTO参加の許容
    その結果、世界貿易をテコに中国の成長加速、
  ・ところが、習近平政権は、中国強国化戦略、国際的影響力拡大戦略
     例:「一帯一路」「AIIB」「新型大国関係」
  ・習近平一強体制の恒久化(2017.10.第19回共産党大会、2018.3.三中全会憲法改正)
    
  ー中国への警戒感↑→中国への対抗措置
  ・オバマ政権:戦略的忍耐
  ・トランプ政権:高関税賦課攻撃→輸出減退→成長↓→報復関税↑→物価↑→国民生活圧迫
     ⇒中国経済の弱体化
 ー情報・諜報覇権侵食への警戒と対抗手段
  ・通信インフラは国防の根幹:通信は情報の授受と収集(諜報)の基本インフラ  
  ・5G(高速通信、超信頼・低遅延、同時多数接続の次世代インフラ)で中国先行
  ・通信インフラにbackdoor(秘密の情報摂取装置)を仕掛けておけば、超高速の
   uploadで瞬時に大量の情報を摂取することができる。そのインフラで世界をリードする
  ・HWを今、潰しておかないと覇権を維持する情報インフラの優位性を失う。
  ・HWは高度な国際分業と協業のメリットを生かして急発展してきた企業。HWが依存する
   アメリカ製もしくは発の枢要部品や技術を禁輸すれば、HWは糧道を断たれて衰滅する。


 2. 米中の思想と国家・世界観の相違  ーフランシス・フクヤマは冷戦の終了を見て「歴史の終わり」を唱えたが
  (「歴史の終わり?National Interest 1989」)
  ・サミュエル・ハンチントンはこれを批判。文明間の断層は深く激しく長期につづくので
   歴史が終わることはない、と主張(Foreign Affairs 1993)◉Book?
  ・現在の米中対立を見透す?
  ーアメリカ「自由、人権、平等、民主主義、個人主義」が基本。
   この思想と価値観は、近代を規定したフランス革命に由来。
  ・民主主義の政府のみ正統性あり。人民の人民による人民のための政府。
   政府の正統性は統治される人民が同意した時にのみ得られる。自由選択の選挙が基本。
  ・アメリカは自由に最大の価値:G.Washingtonとともにアメリカ建国の父と言われる
   Patrick Henry(初代Virginia州知事)”Give me liberty, or give me death.”
   
  ー中国:儒教文化「権威、序列、対立回避、面目重視、個人の権利と利益は社会そして国家
   に従属、調和的秩序は序列(分を弁える)でもたらされる。
  ・政治的正当性はその実績で与えらえる。実績ゆえに選挙は不可欠ではない。
   実績ゆえに一党独裁は正当化される。
  ・統治者は人民に安寧と豊かさをもたらせば良い。人権も個人の自由も本質ではない。
  ーこのように水と油ほど違う価値観の両国の共通項=極端な自己優越意識
  ・アメリカは自国の基本理念が普遍的と信じ、他国を折伏し強制しようとする。
  ・中国は自国の文化の優越性を誇示し文化序列で近隣諸国にその秩序尊重を要請。
  ーこの文明の対立が今日の米中対立の根底にある。
   
 3. アメリカの自己主張の矛盾
  ーAllison教授の問題提起:
   ・アメリカ人は「中国は私達と同じように振る舞うべきだ」と説教するのが好きだ。
    だが、本当にアメリカ人のようになって欲しいのか、もう少し慎重に考えた方が
    いいかもしれない。
   ・100年前にTheodore Rooseveltが「アメリカの世紀」の到来を自信満々で
    宣言したとき、アメリカはどのように振る舞っていただろう。
   ー米西戦争:
     1898.215.ハバナ湾でアメリカ軍艦メイン号爆発沈没。スペインの仕業として
     宣戦布告。アメリカはスペインを破りCuba独立、 Puertorico、Guam、
      Philippines割譲。
   ーパナマ運河:
     1903パナマの革命機運の乗じて海軍派遣。コロンビアを威嚇してパナマを国家と
     して承認。今日までつづく莫大な利権獲得。
   ーアラスカ国境問題:
     1867年にロシアから購入したアラスカのカナダ側国境に金鉱発見。権利を主張
     するカナダとイギリスを軍事力で威嚇して1903仲裁法廷でアメリカ主張の判決。
   ー米墨戦争:
     1836、多くのアメリカ人不法移民に占拠され、テキサス共和国がメキシコから独立を   
     宣言。1845、テキサス共和国がアメリカに併合されたがメキシコは認めず。テキサス
     を併合したアメリカは幾多の国境紛争に続き、1846.5.23に宣戦布告。47.1.13調印の
     条約で、カリフォルニア領有権。48.2.2.調印の条約でアメリカはカリフォルニア、 
     ネバダ、ユタ、アリゾナ、ニューメキシコ、ワイオミング、コロラドの大半にテキサス
     同様の管理権を設定。この結果、メキシコは国土の1/3を喪失した。
 
    ー太平洋戦争直後、GHQ諮問委員会メンバーとして特に労働法策定に参画したHelen
      Mearsは著書「アメリカの鏡・日本(Japan: Mirror for Americans 1948)」執筆。
     その中で日本の戦略行動は欧米に見習ったもの。それは欧米の過去の鏡ではないか、
     と本質的な問題提起。
    ・Allison教授の問題提起にしたがえば、アメリカに見習うことは強欲な侵略国をめざす
     ことになる。
   
 4. 覇権戦争を回避する知恵はあるか?
    ーAllison教授は、米中戦争回避の知恵として以下を示唆。
      1. 新旧逆転に適応する
      2. 中国を弱体化させる
      3. 長期的な平和を交渉する
      4. 米中関係を定義しなおす。例えばアメリカから「新型大国関係」を提案。
    ーその意思と知恵が両当事者にあるか?

 


Vlll. ハイテク覇権戦争の展開と行方


 1. 中国の躍進と中国夢
  ー中国の近年の躍進は、単に開発途上国から先進国をめざす移行過程で、いわゆる中進国の
   罠に陥らないために先進的なアメリカの情報技術を学び、経済の質的向上を官民挙げて
   追求した成果。
  ・しかし、より大局的には、習近平主席が唱えるように、アヘン戦争以来の180年に及ぶ屈辱
   の歴史を克服し、本来の中国人民の力を発揮して共産中国建国100年にあたる2049年まで
   に経済的にもそしてその結果として真の強国になることをめざすという長大で真剣な国づく
   りの思想がその根幹にある。
  ・さらに言えば、中国の文明史は3000年の長さを誇り、アメリカ合衆国の歴史はまだ2世紀
   半に満たない。中国は2000年にわたって世界最大の帝国であった。そうした視野で強国
   中国の再興をめざしているとすれば、中国は容易に掲げた目標を下ろせないだろう。


 2. 収束への可能性  ー中国がこのような壮大な国家的野望の下に総力を挙げて取り組んでいる一方、アメリカも
   世界に君臨する覇権国として、中国に簡単に譲歩するわけにはいかない。とりわけ国家
   統治の価値観が大きく異なるだけに双方とも妥協は容易ではないだろう。
  ・トランプ大統領の最大の目的は大統領選に勝つこと。その限りで”Deal”もあり得る。
   しかし、中国への警戒感、敵対意識は、今や民主党も含めアメリカの主導層に広く
   強く浸透している。特に軍と諜報部門に警戒感が強い。
  ・中国はアメリカの関税攻撃に対して日中戦争中に”毛沢東”が唱えた”持久戦。”戦法。
   遭遇戦→陣地戦(今)→逆転攻勢。
  ・こうした状況では収束には時間がかかり、その可能性は見透せない。


 3. 世界の分断はあるか
  ・通信など中国のハイテク企業の対し、アメリカは彼らがこれまで依存してきた重要部品や
   技術の禁輸措置で締め付けを図っている。他方、華為技術など中国の企業はそれらを内製
   化する技術自立化を図っている。
  ・アメリカの締め付けと中国の技術自立化が進むと、これまで世界を包んでいたサプライ
   チェーンが分断され、大袈裟に言えば、世界はアメリカ経済圏と中国経済圏に分断する
   可能性も指摘されるが、そうなるか?
  ・米中の新冷戦が言われるが、かつての米ソ冷戦と違って、米中による世界経済の分断は
   起きないと考える。米ソ両国は経済的にはほとんど交流がなかったが、米中経済は依然
   として世界でもっとも相互依存、相互浸透の進んだ関係にあり、事実上分断は困難。
  ・両国はハイテクの部分では相互依存や浸透の程度は低下するだろうが、経済全体として
   は不可分の関係がつづくだろう。


 4. 日本への警告と課題
  ・米中間で敵対的な相互依存がつづく中で両勢力の中間にある日本は困難な選択と舵取り
   を迫られる。
  ・同盟国として安全保障については完全に米国依存をしてきた日本は、こうした米中関係の
   下では、これまでのような依存から協力と自立の関係に移行すべきだろうし、中国とは
   相互理解を深め経済協力を進める必要がある。
  ・米中関係も不安定な中で戦略的な共存を求めて常に変動すると考えられるから、その両勢
   力とポジティブな関係を維持するためには、日本はこれまでより遥かに両勢力について
   情報と理解を深め、外交的に敏速で巧みな対応をする能力を磨く必要があるだろう。   

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