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2019年11月

米中ハイテク覇権戦争:その経過と展望(3)

Vll. ツキディデスの罠


1. Allison教授チームの研究:米中対立とツキィディデスの罠
ーツキディデスの罠
 ・ギリシャの歴史学者ツキディデスが描いた紀元前5世紀のスパルタとアテネの覇権戦争はその
  後ツキディデスの罠としてしばしば言及される。
 ・これは当時、地中海域で覇権国だったスパルタと追い上げてくるアテネとの間に緊張感が
  高まり、結局、ペロポネソス戦争でアテネが勝利して新たな覇権国となったという史実。
ーハーヴァード大学「トゥキディデスの罠研究」
 ・ハーヴァード大学ベルファーセンターの応用歴史学PT「トゥキディデスの罠研究PT」を主催
  したGraham Allison教授はこのPTで振り返って研究した過去500年の歴史の中で、新興国が
  覇権国を脅かしたケースと16件確認。
 ・そのうち12件で戦争が起きた、と報告。
    グレアム・アリソン『米中戦争前夜』(藤原朝子訳)2017、ダイヤモンド社
  
 ・ちなみに戦争に至った5件は:
     日本とアメリカー20世紀半ば
     日本vs中国ー19世紀末
     日本とロシアー20世紀初め
     ドイツとフランスー19世紀半ば
     イギリスとオランダー17世紀半ばから末
     ハプスブルグ家vsフランスー16世紀前半
 ートゥキディデスの罠に陥るのか
 ・明らかに中国が新興勢力として事実上の強力な覇権国であるアメリカを追い上げ。
 ・トランプ政権はその中国に対して経済力を減殺すべく高関税を賦課し、
 ・また戦略的に極めて重要な通信インフラの構築で世界をリードしている華為技術をはじめ
  とする先端ハイテク企業に対しアメリカ発の部品や技術の輸出禁止措置で制裁。  
  →事実上の戦争状態に近い緊張の高まり。こ
 ・これがトゥキディデスの罠に陥って本当の戦争に発展するのか、
  世界は今、固唾を呑んで注視。
 ー中国の追い上げ  
 ・アリソン教授は、覇権国アメリカに脅威感と警戒感を抱かせる近年の中国の激しい
  追い上げ現象を詳細に記述している。そのいくつかを例示。
  ・中国は2014、GDP(PPP)でアメリカを抜いた。
  ・一人当たり平均所得:1980、193ドル、2017、8100ドル以上
  ・世界同時不況(2008)以降、世界経済成長の80%は中国
  ・1996年から20年で420万kmの道路建設、高速道路網はアメリカの1.5倍長さ。
  ・中国高速鉄道網の全長は、全世界の高速鉄道網の全長を上回る。
  ・中国の国家開発銀行(対外投資)欧米の6大開発銀行の融資残高1300億ドルを上回る
   金額を国際開発PTに融資。
  ・対艦ミサイルで米空母を、衛星攻撃兵器で米軍事衛星を破壊できる非対称戦可能
ー米覇権低下への懸念
  ・中国の急速な台頭→アメリカの経済力の相対的低下→覇権の相対的低下への懸念
    アメリカ人は経済の優位はアメリカに不可分の権利。それはアメリカのidentityの一つ
    
  ・とりわけアメリカの中国involvement戦略への反省
    中国の1980s以降の急速な発展→中国の所得上昇→中産階級の増加→自由への欲求
    →アメリカ型民主主義への同調→世界経済への参加許容→WTO参加の許容
    その結果、世界貿易をテコに中国の成長加速、
  ・ところが、習近平政権は、中国強国化戦略、国際的影響力拡大戦略
     例:「一帯一路」「AIIB」「新型大国関係」
  ・習近平一強体制の恒久化(2017.10.第19回共産党大会、2018.3.三中全会憲法改正)
    
  ー中国への警戒感↑→中国への対抗措置
  ・オバマ政権:戦略的忍耐
  ・トランプ政権:高関税賦課攻撃→輸出減退→成長↓→報復関税↑→物価↑→国民生活圧迫
     ⇒中国経済の弱体化
 ー情報・諜報覇権侵食への警戒と対抗手段
  ・通信インフラは国防の根幹:通信は情報の授受と収集(諜報)の基本インフラ  
  ・5G(高速通信、超信頼・低遅延、同時多数接続の次世代インフラ)で中国先行
  ・通信インフラにbackdoor(秘密の情報摂取装置)を仕掛けておけば、超高速の
   uploadで瞬時に大量の情報を摂取することができる。そのインフラで世界をリードする
  ・HWを今、潰しておかないと覇権を維持する情報インフラの優位性を失う。
  ・HWは高度な国際分業と協業のメリットを生かして急発展してきた企業。HWが依存する
   アメリカ製もしくは発の枢要部品や技術を禁輸すれば、HWは糧道を断たれて衰滅する。


 2. 米中の思想と国家・世界観の相違  ーフランシス・フクヤマは冷戦の終了を見て「歴史の終わり」を唱えたが
  (「歴史の終わり?National Interest 1989」)
  ・サミュエル・ハンチントンはこれを批判。文明間の断層は深く激しく長期につづくので
   歴史が終わることはない、と主張(Foreign Affairs 1993)◉Book?
  ・現在の米中対立を見透す?
  ーアメリカ「自由、人権、平等、民主主義、個人主義」が基本。
   この思想と価値観は、近代を規定したフランス革命に由来。
  ・民主主義の政府のみ正統性あり。人民の人民による人民のための政府。
   政府の正統性は統治される人民が同意した時にのみ得られる。自由選択の選挙が基本。
  ・アメリカは自由に最大の価値:G.Washingtonとともにアメリカ建国の父と言われる
   Patrick Henry(初代Virginia州知事)”Give me liberty, or give me death.”
   
  ー中国:儒教文化「権威、序列、対立回避、面目重視、個人の権利と利益は社会そして国家
   に従属、調和的秩序は序列(分を弁える)でもたらされる。
  ・政治的正当性はその実績で与えらえる。実績ゆえに選挙は不可欠ではない。
   実績ゆえに一党独裁は正当化される。
  ・統治者は人民に安寧と豊かさをもたらせば良い。人権も個人の自由も本質ではない。
  ーこのように水と油ほど違う価値観の両国の共通項=極端な自己優越意識
  ・アメリカは自国の基本理念が普遍的と信じ、他国を折伏し強制しようとする。
  ・中国は自国の文化の優越性を誇示し文化序列で近隣諸国にその秩序尊重を要請。
  ーこの文明の対立が今日の米中対立の根底にある。
   
 3. アメリカの自己主張の矛盾
  ーAllison教授の問題提起:
   ・アメリカ人は「中国は私達と同じように振る舞うべきだ」と説教するのが好きだ。
    だが、本当にアメリカ人のようになって欲しいのか、もう少し慎重に考えた方が
    いいかもしれない。
   ・100年前にTheodore Rooseveltが「アメリカの世紀」の到来を自信満々で
    宣言したとき、アメリカはどのように振る舞っていただろう。
   ー米西戦争:
     1898.215.ハバナ湾でアメリカ軍艦メイン号爆発沈没。スペインの仕業として
     宣戦布告。アメリカはスペインを破りCuba独立、 Puertorico、Guam、
      Philippines割譲。
   ーパナマ運河:
     1903パナマの革命機運の乗じて海軍派遣。コロンビアを威嚇してパナマを国家と
     して承認。今日までつづく莫大な利権獲得。
   ーアラスカ国境問題:
     1867年にロシアから購入したアラスカのカナダ側国境に金鉱発見。権利を主張
     するカナダとイギリスを軍事力で威嚇して1903仲裁法廷でアメリカ主張の判決。
   ー米墨戦争:
     1836、多くのアメリカ人不法移民に占拠され、テキサス共和国がメキシコから独立を   
     宣言。1845、テキサス共和国がアメリカに併合されたがメキシコは認めず。テキサス
     を併合したアメリカは幾多の国境紛争に続き、1846.5.23に宣戦布告。47.1.13調印の
     条約で、カリフォルニア領有権。48.2.2.調印の条約でアメリカはカリフォルニア、 
     ネバダ、ユタ、アリゾナ、ニューメキシコ、ワイオミング、コロラドの大半にテキサス
     同様の管理権を設定。この結果、メキシコは国土の1/3を喪失した。
 
    ー太平洋戦争直後、GHQ諮問委員会メンバーとして特に労働法策定に参画したHelen
      Mearsは著書「アメリカの鏡・日本(Japan: Mirror for Americans 1948)」執筆。
     その中で日本の戦略行動は欧米に見習ったもの。それは欧米の過去の鏡ではないか、
     と本質的な問題提起。
    ・Allison教授の問題提起にしたがえば、アメリカに見習うことは強欲な侵略国をめざす
     ことになる。
   
 4. 覇権戦争を回避する知恵はあるか?
    ーAllison教授は、米中戦争回避の知恵として以下を示唆。
      1. 新旧逆転に適応する
      2. 中国を弱体化させる
      3. 長期的な平和を交渉する
      4. 米中関係を定義しなおす。例えばアメリカから「新型大国関係」を提案。
    ーその意思と知恵が両当事者にあるか?

 


Vlll. ハイテク覇権戦争の展開と行方


 1. 中国の躍進と中国夢
  ー中国の近年の躍進は、単に開発途上国から先進国をめざす移行過程で、いわゆる中進国の
   罠に陥らないために先進的なアメリカの情報技術を学び、経済の質的向上を官民挙げて
   追求した成果。
  ・しかし、より大局的には、習近平主席が唱えるように、アヘン戦争以来の180年に及ぶ屈辱
   の歴史を克服し、本来の中国人民の力を発揮して共産中国建国100年にあたる2049年まで
   に経済的にもそしてその結果として真の強国になることをめざすという長大で真剣な国づく
   りの思想がその根幹にある。
  ・さらに言えば、中国の文明史は3000年の長さを誇り、アメリカ合衆国の歴史はまだ2世紀
   半に満たない。中国は2000年にわたって世界最大の帝国であった。そうした視野で強国
   中国の再興をめざしているとすれば、中国は容易に掲げた目標を下ろせないだろう。


 2. 収束への可能性  ー中国がこのような壮大な国家的野望の下に総力を挙げて取り組んでいる一方、アメリカも
   世界に君臨する覇権国として、中国に簡単に譲歩するわけにはいかない。とりわけ国家
   統治の価値観が大きく異なるだけに双方とも妥協は容易ではないだろう。
  ・トランプ大統領の最大の目的は大統領選に勝つこと。その限りで”Deal”もあり得る。
   しかし、中国への警戒感、敵対意識は、今や民主党も含めアメリカの主導層に広く
   強く浸透している。特に軍と諜報部門に警戒感が強い。
  ・中国はアメリカの関税攻撃に対して日中戦争中に”毛沢東”が唱えた”持久戦。”戦法。
   遭遇戦→陣地戦(今)→逆転攻勢。
  ・こうした状況では収束には時間がかかり、その可能性は見透せない。


 3. 世界の分断はあるか
  ・通信など中国のハイテク企業の対し、アメリカは彼らがこれまで依存してきた重要部品や
   技術の禁輸措置で締め付けを図っている。他方、華為技術など中国の企業はそれらを内製
   化する技術自立化を図っている。
  ・アメリカの締め付けと中国の技術自立化が進むと、これまで世界を包んでいたサプライ
   チェーンが分断され、大袈裟に言えば、世界はアメリカ経済圏と中国経済圏に分断する
   可能性も指摘されるが、そうなるか?
  ・米中の新冷戦が言われるが、かつての米ソ冷戦と違って、米中による世界経済の分断は
   起きないと考える。米ソ両国は経済的にはほとんど交流がなかったが、米中経済は依然
   として世界でもっとも相互依存、相互浸透の進んだ関係にあり、事実上分断は困難。
  ・両国はハイテクの部分では相互依存や浸透の程度は低下するだろうが、経済全体として
   は不可分の関係がつづくだろう。


 4. 日本への警告と課題
  ・米中間で敵対的な相互依存がつづく中で両勢力の中間にある日本は困難な選択と舵取り
   を迫られる。
  ・同盟国として安全保障については完全に米国依存をしてきた日本は、こうした米中関係の
   下では、これまでのような依存から協力と自立の関係に移行すべきだろうし、中国とは
   相互理解を深め経済協力を進める必要がある。
  ・米中関係も不安定な中で戦略的な共存を求めて常に変動すると考えられるから、その両勢
   力とポジティブな関係を維持するためには、日本はこれまでより遥かに両勢力について
   情報と理解を深め、外交的に敏速で巧みな対応をする能力を磨く必要があるだろう。   

米中ハイテク覇権戦争:その経過と展望(2)

V.   デジタル時代の安全保障の中国脅威論


1. 5Gの中国先行への米国の警戒感、脅威感
 ー5Gは最強の軍事・諜報インフラ
  ・通信ネットワークと機器は重要な軍事インフラ。軍の戦略配置や展開また戦闘行為を
   支えるのは情報。情報の伝達は軍事活動の実行を直接支える重要機能であると同時に
   敵の置かれた環境や状況を事前に知り、また常に監視する手段すなわち諜報活動の
   基礎でもある。
  ・5Gは次世代通信技術として、現在の4Gにくらべ遥かに高度な機能を持つ。
   例えば、大容量・超高速(10倍)、超信頼・低遅延(精確)、多数同時接続(100倍)など。
   軍事・諜報情報の伝達手段として5Gは超高度の性能を持ち、これを支配する者が
   軍事・諜報上優位に立つのは明らか。
  ・5Gの研究開発と実装で、現在、HWが世界をリード。これは中国の軍事・諜報活動の  
   世界優位を可能にするとの米国軍事・諜報関係者の強い懸念。
  
 ー中国の体制はAIと親和性が高い
  ・中国体制はトップに国民が政治的意思を委託。国民による審判(民主選挙)、野党による
   国会論戦、マスコミの批判もなく、効率的。プライバシーは軽視。14億国民からビッグ
   データを吸い上げ、AIで分析して国家目的に活用することは容易。
  ・こうして構築した国家的な情報収集・分析・操作能力を仮想敵国へん諜報活動に活用する
   ことは可能。
  ーHWは共産党の支援を受け共産党に従う企業
  ・2018.1.米上院情報委員会の公聴会。FBIの Christopher Rey長官「我々と同じ価値観を
   持たない外国政府に対し、恩義にある企業や組織が米国の情報通信ネットワーク上で力
   を持つリスクを深く懸念」
  ・HWは元将校が創業した人民解放軍と一体の企業。中国共産党政府の意を受けて活動する
   ハイテク企業という理解。
  ・そうした企業HWが次世代通信技術で世界をリードすることはアメリカの覇権への深刻な
   脅威。HWを叩くなら今。
  ーHWは危険企業?  
  ・21世紀覇権をめざす中国の尖兵がHW。5G時代に独走を許せば覇権を取られかねない。
   早く潰しておくべき?
  ・ FCC(連邦通信委員会)の懸念。もし通信機器やネットワークにバックドアの細工がある
   と、ここからデータが盗まれたりシステムが破壊されたりするリスクを懸念。
  ・HWは過去30年一度もそんな事故はないと反論。
  ーHWは共産党企業の決めつけは公正か
  ・米中ハイテク戦争の進展の中で、HWは共産党企業とのイメージが流布しているがそれは
   公正か?HWは共産党の支援で誕生し発展したのか?
  ・創業者任生非氏は若い頃、父母が共産党を支持していたにもかかわらず教員だったため。
   文革で牛小屋(牢屋)に閉じ込められ造反派から糾弾され続けた理不尽を納得できず、
   共産党に入党しなかったが、軍務中、全国科学大会に参加することになり仕方なく
   入党した。父母はそれを喜んでくれたという。創業者のこの経歴を知るならHWが共産党の
   助けで創業したことはあり得ない。
  ・HWは弱小民間企業だったので、国有企業のように資金も資源も人材も容易に得られなかっ
   た。従業員持ち株制を始めたのは当初は従業員から資金調達の意味もあった。大企業にな
   ってからでも、資金が足りず、会社を残す手立てとして米社に買収を打診したこともあっ
   た。国際展開に際して政府から国有企業並みの開発融資を受けたのは近年のこと。国家
   資金で成長したとは真逆な発展過程である。
  ・HWは世界92社から部品や技術を導入する国際協業を最大限に生かした企業であり、その
   うち1/3はアメリカ有力企業であることはHWはアメリカが育てた企業という方が適切。


 2. 5Gとは何か
 ー超高速で情報を収集(抜き取り)できる5G
  ・5Gは4Gに比べると10倍の通信速度。それはダウンロードの場合だが、アップロード
   でも6倍。それは従来よりはるかに早く端末から情報を吸い上げることができることを
   意味する。それはそれは軍、諜報部門、国家の需要に答える強力な武器。
  ー移動通信システムの進化。
    1Gは音声通話、
    2Gはメールやウェブ
    3Gはプラットフォームとサービス
    4Gは大容量コンテンツ
  ー通信の標準化と5Gのビジョン
  ・「国際電気通信連合」(ITU: International Telecommunication Union:
    通信に関する国際標準化団体)が標準化に先だって5Gのヴィジョンを検討。
  ・2015.9にビジョン(ITUーR M.2083)発表。5Gの3利用シナリオ明示。
     1.  高速大容量通信(eMBB: enhanced Mobile Broad Band)
               2.  超信頼・低遅延通信(URLLC:Ultra Reliable and Low Latency
                     Communications)
               3.   多数同時接続(mMTC:massive Machine Type Communications)
  ー5Gを実現する技術:
   1. 大容量通信:
    ・5Gに割り当てられた電波は3.7GHz帯、4.5GHz帯、そしてミリ波帯の28GHz帯
     の超高周波帯。
    ・基地局のアンテナを集積する技術、そのアンテナから減衰しやすい高周波の電波を高
     い指向性を持って端末に送る「ビームフォーミング」などの要素技術を組み合わせて
     4G時代の10倍以上の通信速度実現。具体的には5Gでは下り最大20ギガbps、上り
     最大10ギガbps水準を達成。上りの強化が画期的。
   2. 超信頼・低遅延通信:
     5Gの遅延は1ミリ秒。4Gの10分の1。短い経路で通信を完結する「エッジコンピュー
     ティング」や通信の制御系(C plain)と伝送系(U plain)を分離して並行できる技術
     などを組み合わせて、超信頼・低遅延通信を実現。
   3. 多数同時接続:
     4Gで基地局あたり100台ていどの端末に同時にアクセスできたのを、5Gでは100倍の
     1万台ていどの同時アクセスが可能になる。端末と基地局のやりとりの事前許可を省略
     するグラントフリー方式など多様な技術の組み合わせで実現。多数同時接続の性能は
     IoTで高い効力を実現。
  ーHWの5G戦略
   ・5Gの国際基準の設定では多くの国と大小の通信ベンダー欧州が主導権をとり、それに米
    国、韓国、日本が追随する形だが、欧州がHWを受け入れたので国際協調が成立。
   ・HWは優れた企業の国際的な協業を最大限に活用して5Gでも製品開発と供給を推進し、
    いくつかの領域で世界をリードする役割を果たしている。
   ・HWは通信機器の性能、価格(安さ)、製造と提供の速さ、サービスの良さに注力。
   ・開発とサービスの例として基地局。4Gの基地局は大きく重いものが多く、設置にも人手
    と時間がかかった。HWは5G基地局を1人で背負える程の小型化に成功し、設置の人件費
    と時間の節約に大きく貢献し、世界的に顧客から評価されている。
   ・米中ハイテク戦争で、アメリカがHWの5Gを使わないように世界に圧力をかけている。
   ・5G市場で大きな比重を占める欧州は2019.3.に「5Gネットワークのセキュリティーに対
    するEUの共通の取り組み勧告」を発表し、EU加盟国の取り組みと「EUの取り組み」に
    分け、HWとどう付き合うかを加盟国に委ねた。
   ・その後、トランプ大統領や米政府高官が欧州各国を訪問してHW排除に同調するよう
    要求したが、英国のメイ首相は拒否、フランスもドイツも独自基準で判断するとした。
   ・アメリカのHW排除の理由は機器の中にbackdoorwと呼ばれるスパイ装置が装着されて
    いる可能性が高いということ。欧州各国では独自の基準と装置で厳格に検査しており、
    HW製品に特段の疑念がないとしている。
   ・HWの松山キャンパスのサイバーセキュリティー館では、顧客の対して十分に納得がいく
          まで製品を検査する機会を提供しており、そうした状況下でスパイ装置を装着した製品
           を提供することはおそらく困難であり、またその理由もないのではと思われる。
         ・中国国有通信大手は11.1から5Gの商用サービス開始。50都市に13万基地局設置。
     
 3. 中国の諜報戦略への警戒
  ーHWの5Gは最強の諜報インフラ
  ・5G時代には世界中に散りばめられたスマホやPCなどの端末がネットに数秒繋がるだけ
   で、PC内部の大半のデータが瞬時に吸い上げられる最強の「諜報インフラ」となる。
   5Gの規格化で最多の特許保持はHW。5Gは諜報のためのインフラ。安価で効率的な
   インフラを提供しそこを通過するデータをすべて当局が押さえることができる。
 ー中国の「国家情報法」
  ・中国は2017.6.27.」は国家の安全強化のためとして、国内外の情報工作活動に法的根拠を
   与える「国家情報法」を制定施行した。2018.4改正)。同法は第7条で「いかなる組織も
   公民も法律に基づいて国家の情報工作を支持し、協力し、適合していかねばならない」と
   規定。
  ・さらに2017年初から、すべての企業と国民が、人民解放軍に協力することを義務付ける
   軍民融合促進法の審議も開始。
  ・このような法律の下では、すべての企業と国民は政府と軍の命令に従って要請された情報
   は提供せざるを得ない。こうした体制の下では、米国などが中国を軍事と諜報上、強く
   警戒せざるを得ないことも理解できる。
  ・ただ、多くの国々は中国のようにあからさまな法律などにはしていないが、政府はいざと
   いう時には暗号化したものも含め国民や企業などのあらゆる情報を確認できる体制が
   取られているようだ。
 ー中国は危険国家?
  ・上記のような国家体制の中国が情報化や情報インフラで世界をリードすることには国際
   社会から多くの疑念がもたれることは否定し難い。
  ・アメリカでは、中国が世界中から戦略的に役に立つ情報を多様な情報機器を使って収奪し
   国家目的に役立てているという観念が広く行き渡っているようだ。
  ・専門家の間では、いろいろな事例が認知されているようだが、2015年にアメリカで発見
   された電子機器のマザーボードに「Big Hack」という監視用の極小のスパイチップが
   組み込まれており、そのマザーボードは中国の下請け業社が作成したもので、それが官民
   に広く使われていたので、世間の関心を引いた。伊藤秀俊、松田学『米中知られざる
   仮想通貨戦争の内幕』2019 宝島社。
  ・中国が強い関心を集めているが、こうした問題は世界で多かれ少なかれ存在する深刻な
   問題の氷山の一角なのだろう。

  
4. アメリカの諜報戦略
(1)Snowden事件
・Edward Snowden:
 アメリカ合衆国安全保障局(NSA)および中央情報局(CIA)の元職員。NSAによる国際的監視網(PRISM)の実在を告発した。
・S氏はGardian紙にNSAの極秘ツールであるBoundless Informantの画面を示し、クラッパー
 国家情報長官が議会公聴会で否定した3月に合衆国内で30億件/月のインターネットと電話回線
 の傍受が行われていたことを明らかにした。
・標的になった情報は通話者の氏名、住所、通話内容のみならず、メタデータも収集。通話者双方
 の電話番号、端末の個体番号、カード番号、時刻、基地局情報から割り出して位置情報も収集。
・インターネット傍受はアプリケーションプログラミングインタフェースのような形のバックドア
 によるもので、コードネームPRISMと名付けられた検閲システムによって行われていた。標的
 情報は、電子メール、チャット、電話、ビデオ、写真、ファイル情報ビデオ会議、登録情報。
・通信傍受ではMS, Yahoo, Google, PalTalk, Youtube, Skyp, AOL Appleなどの協力が明白化。
 FBには2012年後半6ヶ月で、NSAから18000~19000個のユーザーアカウントについて情報
 提供依頼があったと報告。
・S氏によると、NSAは世界中で6.1万件のハッキング。そのうち数百万回以上が中国大陸と香港
 の政治、ビジネス、学術界を目標。中国へのハッキングは2009以降活発化。NSAには外国との
 共同作戦のための専門委員会も設置。
・Gardianは、S氏の極秘文書により、NSAが38カ国の大使館にも盗聴していたことスクープ。
 対象:日本、フランス、イタリア、ギリシャ、メキシコ、インド、韓国、トルコなど同盟国も。
・Washington DCのEU代表部への情報工作のケースでは、暗号機能つきのファクス内に盗聴器
 と特殊アンテナが仕組まれ、90人の職員のPC内のデータすべてを覗き見る手法で実施。
・フランスオランド大統領、ドイツ報道官らは「容認できない」と苦言。オバマ大統領は一般論
 として「諜報機関を持つ国ならどこでもやっている」と理解求めた。
・オリバーストーン監督『スノーデン』では、日本が同盟国でなくなった場合は電力システムを
 停止させられるなどのマルウェアを横田基地駐在時に仕込んだ」という内容が語られている。


(2)中国諜報技術はアメリカのコピー?  
 ・米国連邦通信委員会(FCC)はHWなど中国l通信機器メーカー製品の政府調達を禁止。 
   FCC委員長は「通信機器に密かに仕込まれたバックドアを用いて敵対的外国勢力がスパイ
   活動を行うことができる」と明言。それでは米国はなぜHWを通信スパイ企業として起訴
   しないのか。
 ・しかし米当局がHWを起訴した罪状は通信スパイでもなければ盗聴でもなかった。主に、
  金融詐欺、司法妨害、企業秘密窃盗で、盗聴やデータ不正アクセスの言葉は見当たらない。
 ・実はバックドアそのものを犯罪とするのは米国にとって都合が悪い。通信機器には基本的に
  開発上のバックドアが存在する。それは製品のリリースとともに閉鎖されるが、政府の要求
  するもの、あるいは意図的に仕込まれたものは残される。
 ・米政府関連機関のある開発エンジニアは「米国政府にはHWがスパイ企業と言えない理由が
  ある。それはHWは米国政府が開発した通信機器用のバックドア技術を転用しているので、
  バックドアを利用した通信スパイを禁止すると明言してしまうと、米国政府のバックドア
  利用も批判されかねないからだ」という。
 ・つまり、米国政府も利用しているバックドア技術を中国政府も使っていることを批判すると
  米国政府は自分で自分の首を絞めることになる。
 ・しかしアメリカの諜報部門にとっては、HWが5Gで覇権を取ることは、諜報システムの
  インフラを中国に支配されることを意味すると考えているようで、HWを潰しても阻止しなく
  てはならないようだ。

 


Vl.   中国の強国化戦略


 1. アヘン戦争以来の屈辱の歴史の超克
           ・中国は古代から近代まで東洋の圧倒的な超大国であり、文化の中心であり、
     最大の覇権国だった。 
    ・中国は特に1840~42年のアヘン戦争と1856年のアロー号事件で、イギリスに事実上
     植民地化され、欧米列強が相次いで中国に利権を設定し、つづいて20世紀前半には
     日本によって蹂躙されるに至った。
          ・中国は1980年代以降、鄧小平の指導による積極的な開放改革戦略で目覚ましい
     発展を遂げた。鄧小平は事実上の超大国への道を急進するこの期間、”韜光養晦
     (爪を隠して内に力を蓄える)という路線を堅持した。しかし、2012年、国家主席
     に就任した習近平主席は、中国の力を内外に誇示する戦略に転換した。
  2. 中国夢
    ・習近平主席は、盛んに”中国夢”を唱え、中国は今や、アヘン戦争以来170年の屈辱の
     歴史を乗り越え、中国人民にふさわしい世界の大国、強国になるのだと国民を鼓舞
     した。そのキャッチフレーズが”中国夢”である。
           ・習近平政権が追求する”中国夢”は、170年間の屈辱の歴史の克服と払拭そして欧米
                列強の歴史的横暴に対するリベンジであり、中国人民の国家的復権をめざすもので
               ある以上、それは実現せねばならぬ国家の基本戦略である。
    ・それを実現する最大の基礎は経済力、特に質の高い競争力に裏打ちされた経済力で
     ある。その戦略の重要な一環として、中国政府は「中国製造2025」というビジョン
     そして工程表を提示した。


  3. 中国建国100年強国構想
          ・中国は、2021(共産党創設100周年)を念頭に、
       2020:小康社会の全面完成
       2035 :社会主義現代国家建設
       2049(中華人民共和国建国100周年):社会主義現代化強国。
    ・そのためには創新(イノベーション)が基本戦略


      4. 「中国製造2025」に象徴される経済強国化戦略
   ・中国国務院が2015.5発表の産業政策『「中国製造2025」は、次世代情報技術や
     ロボットなど10の重点分野を設定、製造業の高度化をめざす。
         ・中国は建国100年の2049に「世界の製造強国の先頭グループ入り」をめざす。
          「中国製造2025」はその長期戦略の第一歩。
    ・発展途上国に多かれ少なかれ共通する国家主導発展戦略
      例:戦前・戦後の日本、19世紀のドイツ、1970年代以降の韓国、シンガポールなど。
  ー「中国製造2025」
   ・中国国務院が2015.5発表の産業政策『「中国製造2025」は、次世代情報技術やロボット
    など10の重点分野を設定、製造業の高度化をめざす。
   ・中国は建国100年の2049に「世界の製造強国の先頭グループ入り」をめざす。
   「製造2025」はその長期戦略の第一歩。
  
   ー製造強国への工程表
     1. 第一段階(2015→2025):製造大国(規模)→製造強国の仲間入り
     2. 第二段階(2025→2035):→製造強国の中等水準
     3. 第3段階(2035→2049):→製造強国の先頭グループへ躍進。
   ー「中国製造2025」重点10分野
    1.   次世代情報技術:
    2.   高度なデジタル制御の工作機械・ロボット
    3.   航空・宇宙設備
    4.   海洋エンジニアリング・ハイテク船舶
    5.   先端的鉄道設備
    6. 新エネ・省エネ自動車
    7.   電力設備
    8.  農業用機材
    9.   新素材
    10.  バイオ医薬、高性能医療機械


 5.  ハイテク覇権と台湾統一   
  ・中国の究極の戦略は、台湾統一。それは習近平の悲願。
   それができれば、ハイテクメガ企業、HW, TSMC, ホンハイは中国傘下。
  ・HW製品の約半分は、子会社のハイシリコン(海思半導体)が製品の心臓部となる
   コアチップを設計。その設計に基づいてTSMCが、台湾新竹、上海、南京の工場で
   受託生産。そのTSMCの半導体を組み込んだ製品を、ホンハイが中国各地の工場で生産。
  ・しかも任正非、張忠謀(モリスチャン)、郭台銘は旧友で一蓮托生。習近平とも密接
   (任正非はやや?)
  ・それだけに香港の若者反乱の波及効果を凝視。対応を誤ればその機会は永久に喪失。
  

米中ハイテク覇権戦争:その経過と展望(1)


l.  はじめに

 ・米中ハイテク摩擦が加熱している。ハイテク覇権国アメリカを中国の台頭が脅かす構図。
 ・アメリカは特に5Gで世界先端に立つ中国通信機器グローバル企業、華為(HW)潰しに注力。
 ・通信機器は軍事・諜報の重要インフラ。覇権国アメリカはこの優位を死守したい。
 ・覇権争いは戦争になった例が多く、世界は米中対立の行方を注視している。
 ・国家制度とその根本思想が異なる米中の妥協は困難?解決の可能性はあるか。
 ・ここでは事実経過を詳細に振り返り、ハイテク覇権争いの行方と課題を展望する。

 

ll.   孟晩舟氏の逮捕劇

1. 孟副会長の逮捕
・2018.12.8. 華為技術副会長の孟晩舟(Men Wanzhou)氏をカナダ司法当局が逮捕。
・孟晩舟氏は中国では中国産業界を代表する女性の経営者として人気が高く慕われている。
 彼女はファーウェイ社の創業者の娘。彼女は東日本大震災の際、いち早く日本に駆けつけ、
 数百基の基地局の復旧作業を指揮したことでも知られる。
・この逮捕にたいし、中国政府はカナダ当局に猛烈に抗議し、カナダ人関係者を別件で逮捕する
 という対抗策。国際関係は一気に緊張した。

2. 逮捕の容疑
 1. イランむけ禁輸違反。ファーウェイが香港の設立したダミー企業「スカイコム」を
  通じ、イランに2009~2014にわたり米企業の通信機器を納入した疑い。
 2.  アメリカの特許技術窃盗。特に2012.6~2014.9にかけてTモバイルUSの機密の窃盗。
 
3. 米中首脳会談(ブエノスアイレス、2018.12.1)
 ・ブエノスアイレスでの米中首脳会談首脳会談は中国側の要請で開催されたとされる。
 ・中国側はアメリカ製品や農産品を大量買い付けするに引き換え、関税25%への引き揚げ時期
  を3.1まで延期=執行猶予。
 ・アメリカはその90日間で以下の5項目について合意が得られなければ中国からの輸入のすべて
  に高率追加関税を課けるとの条件をつけた。

 ・5項目とは:
    (1)技術移転の強要をしない
  (2)知的財産権の保護
  (3)非関税障壁の撤廃
  (4)サイバー攻撃とサイバーによる窃取をやめる
  (5)サービスや農業貿易の障碍除去
    
 ・この交渉結果で中国がホッと一息ついた1週間後、2018.12.1に孟CEOの逮捕劇。
  アメリカ司法当局は周到な準備。
 ・このことをトランプ氏が首脳会談を終わるまで逮捕劇を知らされていなかったとされる。
  ジョン・ボルトン安保担当補佐官が故意に報告を怠ったためか。

ー上記の条件のうち4点はすでに2018年3月に公表されたUSTRの調査で技術移転の強制ならびに
 知的財産権の侵害の4つの手口として強調されていた。
 ・米政府の上記のような中国の知財侵害などへの批判の背景には、トランプ政権の貿易戦略
  大統領補佐官Peter Navaro氏の激しい中国批判がある。それが米国政府の中国批判の骨格 
  に。
 ・孟副会長逮捕は米中両国が第三国も巻き込んで、事実上の戦争状態ともいえるほどの緊張
  状態に入っていることを示唆。
 ・アメリカはなぜHWをここまで敵視して追求するのか?
 ・そこにはアメリカが国防上の理由で中国ハイテク企業を狙い撃ちにする制度条件が設定
  されている。


lll.    国防特別法とEntity List


 1.  米国の中国ハイテク企業締め付け戦略
 ー「米国防権限法」
 ・米国の中国ハイテク企業攻撃の根拠法。「2019年度米国防権限法(NDAA2019)」
 (2018.8. 上下両院で超党派の賛成多数で可決)。
 ・同法によれば、
 ・2019.8.13以降、下記5社製品を組み込んだ他社製品を政府などが調達することを禁止。
 ・20.8.13以降は5社製品を社内で利用しているだけで米政府とのいかなる取引も不可。
 ・この法律に基づき、米政府は、2020.8.から、ファーウェイなど中国ハイテク企業の製品を
  使用しているだけで米政府との取引禁止方針を打ち出す予定。
 ・米国が特に安全保障上のリスクがあるとして警戒しているのは下記の5企業。
    ・ファーウェイ、
    ・ZTE(中興通訴)
    ・杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)監視カメラ大手
    ・浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)
    ・海能達通信(ハイテラ)

 ーZTE攻撃
 ・2018.4.16  商務省はZTE(HWにつぐ中国第二位、世界4位の通信機メーカー、深圳市
  政府が経営する国有企業)を血祭り。ZTEがイラン、北朝鮮に違法輸出をしたとの嫌疑で、
  Entity List(後述)に記載、すべてのアメリカ企業に7年間すべての輸出を禁じた。部品の3割
  をアメリカ依存のZTEは倒産の恐れ。しかしロス長官が2018.6.7. ZTEに過去最高の罰則を課
  して制裁を解除。その後、商務省に対する報告に虚偽があったとして再指定。Qualcom や
  Intelが即座に取引中止したので、ZTEは今は生産停止状態。

 2. 米中交渉の展開と”5月の反転”
 ー米中交渉”5月の反転” 
  ・19.2.24、トランプ氏は交渉期限を3月1日でなく延長を提案。
   4月には交渉は順調に進んでいるとツィッター。
  ・5.10. 米側は「9割完成していた合意文書案の全7章を中国が大幅に修正して一方的に送付
   した、と反発し、2000億ドル規模の追加関税を10%から25%に引き上げた。この文章は
   習近平主席の中学時代の同級生で抜群の秀才だった劉鶴副首相が妥協して合意したものだ
   が、習近平氏はこんなものは受け入れられないと大幅に修正したといわれる。
  ・このどんでん返しを朱建栄教授は”5月の反転”と呼ぶ(朱建栄「参考消息 2019.7.12)

 ー譲る気のない中国
  ・直後に劉鶴副首相が訪米して協議したが、物別れに終わった。
   劉鶴氏はDCを離れる前、3つの原則に関しては譲らない、と中国メディアに語った。
   1. 追加関税を全て撤廃
   2.  貿易購入数量は合意を恣意的にかえるべきでない。
   3.  文書の均衡性を改善すべし。どの国にも尊厳がある。
  ・中国側はその交渉に最初から結果を期待せず、自分のペースに持って行こうとの作戦?

 3.  Entity List(2019.5)とその影響
 ーHWを敵と認定
 ・”5月の反乱”の直後、5.15. トランプ大統領「情報と通信技術とサービスのサプライチェーン
  の保護」大統領令にサイン。外国の敵から自国産業保護する国家緊急事態宣言
  ファーウェイを敵と規定、その台頭を国家緊急事態と認識。

 ーEntity ListにHW記載
 ・翌 5.16. 米国商務省はHWを米国の国家安全保障や外交に問題をもたらす懸念のある企業
  としてEntity Listに記載して公開した。

 ーEL記載の意味
 ・Entity List(特別規制対象)とは 商務省産業安全保障局(BIS)の輸出管理規則(EAR)に基づ
  く措置。米国の国家安全保障や外交に問題をもたらす(懸念のある)企業や組織、個人を
  Entity Listで公開し、該当品目の輸出を制限する。
 ・HWは2019.5.16から事実上アメリカ企業から部品など購入できなくなる。直接輸入だけで
  なく、他国からの米国製品の再輸入もできなくなる。

 ーELはHWの国際サプライチェーンの崩壊を意図
 ・HWは世界でも最も多くの国々の多くの企業と協力関係を高度に発展させている企業。国際的
  な分業と協業のメリットを最大限に生かして効率的な資源配分を達成し急速な成長を実現。
 ・HWは2018.10、大口取引先「92社リスト」発表していた。アメリカIT大企業33社含む。
  これらから110億ドルも半導体部品など調達してきた。スマホでは59%が海外製品依存。
 ・HWはこれまでグーグルのOS「アンドロイド」、ARMのCPU、Qualcomから年間5000万
  セットのコアチップを購入。HWのサプライチェーンの国際協力度は極めて高い。
 ・Entity List はHWの世界170カ国にわたるこうしたサプライチェーンの崩壊を意図。

 ーEL記載の海外への影響
 ・この措置を受けて、アメリカはもとより、世界各国でHWとの取引を停止する企業が続出。
  例:5月21日にはGgが基幹部品の提供停止、23日には英Arm社設計技術協力停止。その後、
  オランダの半導体製造大手AMSLは次世代装置の納入中止発表
  トランプ政権は政府高官を欧州諸国に派遣してHWとの取引禁止に同調するよう要請。
 ・Entity List記載の影響で、HWのスマホは4000万台の生産減、海外輸出は4割減少見込み。

 ーリスクを予想していたHW
 ・HWは深圳市郊外に広大な二つのキャンパスを持つ。欧州諸都市の美観を再現したテーマ
  パークのような開発研究機能が集中した松山キャンパス。また経営中枢機能と開発、生産、
  検査機能が集中した坂田キャンパス。
 ・これらのキャンパスには黒い白鳥(black swan)が泳ぎ、灰色の犀(gray rhinos)の作り物
  が置かれている。黒い白鳥は予期せぬリスク、灰色の犀は気づかぬうちに静かに悪化する
  リスクを表すという。創業者任正非氏が従業員に常にリスクへの備えを怠らぬよう留意
  させるもののようだ。
 ・今、HWを襲っているトランプ政権の攻撃はまさにblack swanが象徴するリスクだろう。
  そして世界最強の企業となったHWはそうしてリスクも想定していた。

 ー技術・部品内製化への取り組み
 ・これまで半導体の供給をアメリカや韓国企業に依存してきたHWは2004年、自前で半導体の
  設計をすべく、2004にハイシリコン(海思半導体)を設立。2019I売り上げ17.5億ドルで
  世界5位。1万人従業員。
 ・HWは今や、通信設備、スマホだけでなくCPU(中央演算処理装置)、コアチップ、AIの
  ような核心技術も自社で開発。しかし技術の総合的自立には時間がかかる。

 ーHWは活力強化
 ・逆風下、HW業績(2019前半)前年比23%増収(6.3兆円へ)。下期は楽観せず。
 ・研究開発強化のため、博士新人初任給3100万円で今年30人、2020には300人採用予定。
 ・2019.8.から5G対応スマホのを発売
 
4. 米中首脳会談(大阪、2019.6.29)と”持久戦”

 ーチキンゲーム
 ・5月中旬から6月末までは、報復関税の欧州。まさにチキンゲーム。 
  5.13. 中国が6.1に25%に引き上げる600億ドル規模の報復関税を発表。
  米側はさらに中国製品3805品目に3000億ドル規模の追加関税の第4弾を検討と言明
 ・5.28 国家発展改革委員会は、レアアースを対抗手段として使うと公言。
 ・中国メディアは「貿易戦争」 ”奉陪到底”(最後まで付き合ってやろうじゃないか)との
  論調で満ち溢れた。

 ー6月末、米中首脳会談へ(G20)
 ・習近平主席がG20にこない?トランプに合わない?の噂。
 ・6.10.トランプは「習近平が来なければ、中国からの全輸入品に追加課税する」とツイッター。
  北京は大阪の首脳会談をトランプが渇望していると読んだ?
 ・6.18、トランプ氏と習氏で電話会談。大阪での会談に合意。

 ー米中首脳会談(大阪:6.29)
  ・6.29.11.30から80分間、米中首脳会談。
  ・さらなる追加関税は見送り、
  ・期限付きなしに貿易交渉の再開に合意。
  ・ファーウェイに対する締め付け緩和の意向示す。
  ・任正非氏は7.2.緩和方針の効果は大きな影響なしとコメント 

 ー中国側のトランプ政権観察(朱建栄氏)
  ・トランプ政権は一枚岩でない。Ponpeo: 反中保守、 Lightheizer:締め付け派、
   トランプ氏、ディール重視。政権内は不一致。
  ・中国政権は一致。トランプ相手で良い。T氏は経済に徹しており、民主化、人権など問わ
   ない。再選が全て。ディールが可能。

 ー持久戦への戦略転換
  ・劉鶴の訪米と5月反転の際、中国首脳部内の認識に変化と新戦略の決定
  ・習近平氏は、貿易戦争の初期段階で「遭遇戦(予期せぬ戦い)」と表現、受け身。
  ・冷静に分析後、トランプは再選を最優先。貿易戦争の影響も米当局の予想より大。
  ・中国からの輸入に短期では代替案がない、
  ・政治局会議では、長い交渉に持ち込み、米側と我慢比べ、「持久戦略」を決定。
  ・「持久戦」には防御(遭遇戦)、互角の対抗(陣地戦)、逆転の3段階。
    参考:北京では2018末頃から毛沢東の「持久戦を論ず」が読まれている。

 ー為替操作国指定、WTO提訴、関税第4弾の脅し 
  ・2019.8.5.アメリカは中国を25年ぶり為替操作国指定。中国は強く指定に反発。  
  ・8.20.中国はWTOが米国の関税算定に誤りを指摘したことを受けて、これまでの過重を相殺
   する24億ドル(2600億円)分の報復関税をWTOに申請。
  ・8.23.米国は現行2500億ドル(26兆円)の制裁関税率を10.1に25→30%引き上げ発表。
  ・8.23.第4弾制裁関税(スマホなど消費財対象)3000億ドルを当初の10%から15%に引き
   上げ、12月実施予定。米産業界は一斉反発。

 ー再選がすべてのトランプ大統領
  ・10月10~11日閣僚級協議での部分合意。米農産品の輸入大幅拡大。知財保護、金融開
   放。一方、9.15予定の2500億ドル(27兆円)分関税引き揚げ見送り。HWは協議。
  ・トランプ氏はこれを歴史上最高ディールと自賛→選挙民に成果見せたい思惑。
  ・トランプ氏は部分合意の交渉場所として彼の票田激戦区のアイオワ州を示唆。


Vl.   アメリカの中国脅威論の先鋭化

 1. トランプ大統領と対中強硬派の岩盤
 ー再選優先とDeal重視のトランプ大統領
  ・トランプ大統領の最大の関心は2020年の大統領第二期再選の勝利。そのためにすべて
   の政策を投入。
  ・米中貿易戦争は、トランプ氏の2016年大統領選の公約。高関税賦課で中国からの輸入を
   減らして国内産業=雇用を増やす、という”重商主義”
  ・ハイテク戦争は”アメリカ第一主義”の手前、アメリカ覇権は固守すべし。そのためには
   中国覇権の尖兵となるHWは壊滅すべし。
  ・それらの公約を実現して選挙民の支持を固めることが最優先。そのためにはDealもある。

 ー対中強硬派の岩盤。
  ・アメリカは1980年代以降の中国のめざましい経済発展を見て、中産階級の勃興が欧米と
   価値観を共有する可能性を期待して中国をWTOなどに迎え世界的発展を支援。
  ・2012年、習近平体制の発足と2017年第二次習政権はその期待を裏切った。中国は欧米
   と価値観を共有するどころか、大国意識、敵対的、国家主導の経済軍事強化に邁進。
  ・これを危険そしてアメリカ覇権への脅威と見る政治家、軍部、諜報部、実業人が増えた。
   しかし、戦略的忍耐を唱えるオバマ政権下ではこれら対中強硬派の意見は前面に出難かっ
   た。トランプ政権誕生でホワイトハウスの方針が大転換し、対中強硬派の存在感が増大。
  ・ペンス演説はそうした声を象徴する。

 2.  ペンス副大統領演説(2018.10.2)は新冷戦の始まり?
   ・Michael Richard Pence(Mike Pence)氏のHudson Instituteでの講演
   ・1980年代以降の鄧小平主導「改革解放」戦略による中国の目覚ましい発展
    を踏まえて、米欧は中国の発展による自由化を期待し、中国をengage(取り込み)
    しようとWTO加盟も支持し、手を差し伸べてきたが、裏切られた。習近平政権
    は経済的に攻撃的、軍事力↑志向。
   ・アメリカは中国が不公正な貿易で米国に被らせた赤字を容認しない。
   ・中国共産党は「中国製造2025」を通じ、世界の先端産業の9割支配をめざしている。
   ・中国はここ数年、自国民への統制と抑圧を強化。少数民族への迫害↑。途上国に
    借金漬け外交を強要。台湾の孤立化を画策
   ・中国はトランプ政権の打倒を狙って、アメリカ国内政策と政治への干渉を強化。
   
       ・ペンス演説は、トランプ政権のみならず民主党の中国警戒・強硬派も含め、米国の
   establishmentの対中国観を集約・代表するものと受け取られている。
  ・米国の対中姿勢の根本的転換を示すー新冷戦の開始とも言われる。

 3. 米中経済安全保障再考委員会(USCC)報告(2018.11.14)
  ー米議会の超党派諮問機関、米中経済安全保障再考委員会(USCC)は2018.11.14、中国の
   ハイテク技術が米国の安保上のリスクになると警告する報告書公表。
   ー経済:
   ・多国間枠組みでは中国の不正な商慣行を十分是正できない
   ・外資企業は中国の報復を恐れ知的財産権保護を主張しにくい。
  ・中国がハイテク分野の国際標準で主導権握れば安全保障リスクに。
   ー安全保障:
   ・一帯一路を名目に整備した港湾は中国の軍事拠点にもなる。
 
4.「中国の危険への対応委員会」
・2019.3.「Committee on the Present Danger」(現在の危険に関する委員会)がワシントンで
 復活。政治・世論にキャンペーン
・歴史:最初に組織されたのは1950(トルーマン時)、敵対国はソ連。
・米ソ対立を軸とする冷戦の終結以降は、民族紛争やテロなど新しい危機↑。そこで2004
 テロとの戦争に対処するため CPDが再開。その後しばらく休眠状態。
・今回、CPDは広報活動と提言を通じて中国の脅威から米国を守ることを使命。自ら
 CPDC(Committee on the present danger :China)と自称。CIA,国務省、国防総省など政治
 軍事、宗教、人権分野の専門家が結集。影響力のある政治家も参加。

5. ペンス副大統領演説(2019.10.24)
・当初、2019夏頃に企画されていたが、2019.6.の米中首脳会談を避けて2019.10.24実施。

・中国の近年の成功の多くは米国からの対中投資による。米国は過去25年間で中国を再建したが
 そうした日々は終わった。米国は現在の中国を戦略的かつ経済的なライバルと認識。
・数百万人の少数民族と宗教的少数派がの宗教的文化的なアイデンティテイを共産党は根絶やし 
 にしようとしている。
・昨年(2018.10)のハドソン研究所での講演から1年経ったが中国は米中関係改善のための意味
 ある行動をとっていない。多くの分野で、中国の行動はさらに攻撃的で撹乱的になった。
・知的財産侵害を止めると2015に約束したのに、中国政府は侵害を支援しつづけている。
・中国はかつてない監視国家を構築し、その技術をアフリカ、南米、中東に輸出。
・この1年、中国の行動は隣国にさらに挑発的。南シナ海に対艦ミサイルを人工島に配置。
・日本の対中スクランブル2019には過去最高。尖閣列島周辺海域、中国は60日以上連続侵入。
・一帯一路使って世界中の港に足場。台湾の民主主義に圧力強化。
 香港問題は、共産党への嫌悪感の表象。

6. 中国情報強国への警戒
・GPS(アメリカ版位置測定衛星)は1978年に開始されてから全世界で活用されてきた
 が、2000年に開始された中国の通信衛星システム北斗(ベイドウ)を展開。中国政府は
 2018.12.27.全世界に向けた北斗のサービス開始を宣言。アメリカの稼働衛星31基に対し
 北斗は35基。これも FCCは警戒している。 
  
・大陸間海底ケーブルでもHWは巨大な存在。子会社HW marine networks(華為海洋網路)、
 2019末までに全世界で90ヶ所、延べ5.36万km海底ケーブル敷設予定。軍事強硬派には
 脅威。米政府は米中企業共同出資のケーブル設置阻止に動く。ネット分断の恐れ。

中国、驚異の情報革命はいかに実現したか(3)

Ⅴ.   モバイル決済の創始者アリババ
 1. アリババ創業の苦闘と馬雲
 ー世界最強の総合プラットフォーム企業。
  ・アリババドットコム(企業間取引 B to B)、淘宝網市場(タオバオ:C to C 取引)、
   天猫(Tモール)(B  to C 取引PF) 国内、天猫国際(T モールグローバル)
   など展開。
  ・アリババのネット通販取引総額(2016)は3兆元(51兆円)。Walmartはここまで 
    半世紀。ABはわずか13年。B2CタオバオやB2BのTmallだけでなく、ヘルス、エン
   タメ、スポーツ、ニューメディア、物流、決済、金融、クラウドコンピューティング
   サービスなどのビジネスインフラと共に構成されるエコシステム。
 ー苦闘の創業期
  ・ アリババ集団、浙江省杭州市高校教師 馬雲1999.3設立。当初企業間電子商取引
   サポート仲介サイトは苦難の連続。2000ネットバブル崩壊直撃→倒産の危機。
  
  ー淘宝(タオバオ)・アリペイで開けた運命
  ・復活の転機は2003.5.開始のC2Cの淘宝(タオバオ)。
   
  ・勝敗は決済サービス。eBayはCCなどの前払い(欧米一般的)。これはCC保有低く、
   決済成功率の低い中国市場に馴染まなかった。 馬雲は、ネット決済の中国独自の課題に
   気づき、米国Paypalの仕組みを参考にアリペイ(エスクロー第三者預託サービス)を中国
   で最初に導入。買い手が代金をアリペイの口座に預託。送付商品確認して問題なければ
   アリペイに支払い指示。そこで初めて売り手に代金支払われる。売手も買手も不安なし。
  ー前例のない決済サービス
  ・金融サービスの許認可のない民間企業が、決済サービスを行う前例なし。法律にも
   規定なし。「問題が起きれば僕が刑務所に行く」馬雲の決意で開発急ピッチ。
  ・2004.12.29、アリペイアカウントシステムが杭州で誕生。
  ・アリペイ促進策。全額補償キャンペーン、利用者の不安↓。利用者のリスクを全てアリペイ
   が負う。タオバオの決済、アリペイの利用率は7割に。手数料無料化:eBayとの差別化。
  ーインターフェイスを開放、加盟店を味方に
  ・2005.5. 担保取引と決済のインターフェイスを開放。タオバオ以外のEC事業者の
   利用促進。決済手数料無料、加盟店に奨励金。当初は皆慎重。しかしタオバオが
   アリペイ効果で年100%以上成長。皆アリペイ導入決断。アリペイは電子決済で
   自動的に各社取り分を計算。他の決済手段ではできない効率化がアリペイで実現。
  ーeBayに打ち勝つ
  ・中国ではeBayのシェアが圧倒的。アリババ・タオバオ導入後、eBayのシェア低下。
   2005シェア逆転、2007.9 馬雲はEC事業者大会で、アリペイ利用者5000万人突破を
   報告。翌年1億人。手数料にこだわったeBayは敗退、撤退。
  ーイノベーションの後追い規制
  ・2005、中国人民銀行は「決済精算組織管理弁法」を発表。アリペイのような第三者決済
   機関を対象に入れる意向。 2010.6.「非金融機関決済サービス管理弁法」発表、第三者
   決済サービス機関にライセンス。中国は新サービス発生、すぐに規制せず、発展を
   見守って後追いで規制。日本の民泊のように、既存業界保護で規制するのと対照的。
  ーアリババクラウド誕生
  ・2017.11.11(ダブル11、独身の日)取引高、1682億元(2.85兆円)。取引ピークには
   毎秒32.5万回。データベースの処理のピークは毎秒4200万回。ネット攻撃全て防御。
   2010以来の独自分散型処理技術。このクラウド技術がアリババの競争力の源泉。
         アリババの技術は進化つづけ、クラウドシステムのサービスをアリババ以外にも提供
     ー余額宝(ユエバオ)誕生
  ・2012証券監理委員会一行がアリババを訪問した際、無名のファンド天弘基金が出し入れ
    簡単でネットショッピングにも利用でき資産としても運用できるサービスを提案。
    アリペイと天弘は特別PTを編成して商品化。2013.3.監理委員会は販売事実上解禁。
    2013.6余額宝(ユエバオ)発売。利用者急増。アリペイはユエバオで収益を生み出す
    ウォレット(財布)として人気↑
   ーWeChat Payの追い上げ
    2012頃からTCのWechat Payが追い上げ。決済を通じて消費者との接点を確保できれ
    ば、より多方面での情報を取得できるので、アリババとテンセントは激しい入り口争奪
    戦に戦略的取り組み。こうした切磋琢磨からさらに多様な革新が生まれた。
Ⅵ.   SNSの王者テンセント
 1.  創業の挑戦と馬化騰
  ー巨大なプラットフォーマー
   SNSを起点としつつ非常に幅広く、ゲームなどデジタルコンテンツの提供、決済など金融
   サービス、AIによる自動運転、医療サービス、AWSのようなクラウドサービス、新小売
   の店舗展開。テクノロジーの総合百貨店。
  ーQQメッセンジャーサービス
   ・TCは馬化騰(Ma Huateng、Pony Ma)が1998.3.設立。馬化騰はシステムエンジニア
            出身。通信会社のシステム開発経験。オンラインコミュニケーションアプリØICQから
            スタート。OICQはイスラエルのMirabillis社のインスタントメッセンジャーICQから
    ヒント。ICQの中国語版であるインスタントメッセンジャーアプリ開発。アプリ名称を
    OICQとした。OはOpenの意味。
   ・ユーザーのデータをサーバーに保存できる仕組みやダウンロードの時間短縮のために
    ソフトサイズの縮小など工夫を重ねユーザー獲得。中国最大のメッセンジャーサービス
    に成長。ICQを買収したアメリカ企業から知財侵害訴えで、名称をQQに。
  ー会員向けQQ秀(QQshow)でネットカフェ席巻
   ・2000NTTドコモのiモードに触発されたチャイナモバイルが移動夢網(モンターネット)
    (モバイルインターネット)を開始。TCは6500万人の会員基盤を武器に提携したが、
    解消され、TCは自らユーザー確保の必要性を痛感して2003.1.会員向け有料サービス
   「QQ秀」(QQshow)開発。Virtual tool購入などで自己実現志向の若者に人気。これは
    マーケッティング部門の発案。後にTCの商品マネジャー制につながる。
  ー微信(WeChat)開発
   ・2007、初代i-phone発売。スマホ革命。中国ではシャオミやファーウェイの格安スマホ
    が普及。人々のライフスタイルが変わった。開発部隊の張暁龍がアメリカで先行している
    無料メッセンジャーアプリと同様なサービスの開発を馬化騰に提案。TCでは複数開発が
    進行していたが、馬化騰は重複コストよりスピード重視。社内レースで微信(WeChat)が
    勝利。2011,1,Wechatがリリース。これは後に「社内競馬制」に発展。
  ーWeChatは不可欠の生活インフラに
   ・スマホ大手の小米が類似の「米聯Mihao」リリース。当初はMihaoが先行。
    WeChatが改良重ねて人気↑。登録者、2012.3.1億人、2012.9.2億人、2013.1.
    3億人、改良と進化で、WechatはSNSサービスの域を超え、人々の生活スタイルと
    融合、必要不可欠になった。アリババも開発したがWechatに勝てず。SNSの王者に。
  ー公式アカウント開設
   王者TCには世間の批判や風当たりも強くなり、馬はビジネスインフラ「公式アカウント」
   の開放決断。サービス提供者と利用者をつなぐツール。購読、サービス、企業アカウント
   など。2018には2000万加入。多くの企業がこぞってTCの公式アカウント開設に。
 
    ー社会インフラとして共存努力
   TCとAlibabaのあまりに急激な発展は既存産業に衝撃。両社は2013年頃から全てのサービ
   スを自社提供に限らず、他企業と連携オープン戦略推進。TCは総合プラットフォーム企業
   として取引マーケット、決済、物流、クラウドシステムなど未来のビジネスインフラ提供
   をめざす。
   
Ⅶ.  後に続く革新企業群
 ー百度(バイドゥ)
  ・中国のグーグルとも称される。バイドゥ検索、地図、翻訳 動画ストリーミングサービス。
  ・中国政府の「次世代人工知能の開放・革新プラットフォーム」PTで委託
   AI 事業4事業者のうち、バイドゥが自動運転事業を受託。
   2013にはすでに自動車メーカーと協力して自動運転に取り組み。高精度3次元地図、
   ローカリゼーション(自動位置特定)、センシング・行動予測、運行プランニング、運行
   インテリジェントコントロールなど自動運転に関わる技術開発を進めていた。
  ・これらの蓄積の上で2017.4 自動運転プラットフォーム『アポロ計画」を発表。
   2018アポロ3.0。自動運転バス実装化。
  ー滴滴出行(Di Di):シェアリングエコノミー(交通)の最大手。
  ・創業者 程維は、元アリペイ社員。2012. 29歳で滴滴打車を設立。2015 滴滴出行に。
   創業時、反応乏しい。北京の冬、雪の日タクシーつかまらず、滴滴のアプリ使う人口コミ
   で広がる。アプリのデモで失敗。百度からスピンアウトの張博をチームごとスカウト。
   アプリの品質にこだわり。ハイレベル人材。マッチング成功率↑。
  ・類似会社が参入したが、成長加速の滴滴は引き離し続ける。テンセントの資本の入った
  「快的打車」と「焼銭大戦」と言われる値引き、報奨金の激しい競争。2015両社合併。
  ・2014.2. 上海、広州、深圳にUberが進出。両社市場獲得の熾烈な戦い。両社の消耗は
   大きく、2016.8.休戦。滴滴がUberブランドや業務データすべての資産を買収。
   Uberは見返りに滴滴の株式5.89%獲得。約70億ドルの権益獲得。
  ・2018.4. 滴滴登録運転手2000万。毎日2500万のオーダー処理、世界最大ライドシェア
   サービス。
 ー陸続とunicorn企業
  ・衆安保険(Insure Tec), センスタイム(AI)、廣視科技、科大訊飛、出門問問など
   ユニコーン企業群。
 

Ⅷ.   中国の可能性と課題

  1. 起業家精神と激しい企業間競争
 ー自立的起業家精神
 ・21世紀初頭にめざましく台頭した中国の新興企業群の際立つ特徴は、華為の創始者、任生非、
  アリババの馬雲(Jack Ma), テンセントの馬化騰(Pony Ma)などに共通する自立心の強い
  起業家精神である。これは日本で戦後の焼け野原から立ち上がった松下電器の松下幸之助、
  Sonyの井深大、ホンダの本田総一郎、確立した織機を脱却して自動車をめざした豊田喜一郎
  らを彷彿させる。
 ー激しい企業間競争
 ・今ひとつ、これら中国企業に共通するのは激しい企業間競争を勝ち抜いて今日の隆盛を達成
  している点だ。華為が国家の支持と支援を受ける国有企業との熾烈な戦いから浮上したこと
  と、アリババとテンセントをめぐるモバイル決済事業の激しい戦い、また滴滴出行とUberの
  市場シェア争いなど枚挙にいとまがない。
 ー国家はこうした民間活力を利用
 ・こうした経験は、彼らが国家主導で国家の支援を受けて成長したという批判が全く的外れで
  あることを物語る。政府はむしろこうした民間活力を事後的に利用してきたと言える。
2.  中国のDigital Transformation
ー中国のdigital transformationは加速する
 ・こうした創造的な企業群を追って多くの活力あるベンチャー企業群が生まれており、
  いわゆるユニコーンが陸続と成長している。彼らの企業力はdigital革命の潮流を踏まえ
  ますます強大になりつつある。
ー巨大人口とビッグデータの有利性
 ・14億人という巨大人口は超ビッグデータを生む基盤であり、この点では中国は他の諸国を
  を圧倒する。ビッグデータはDeep Learningを可能にし、AIによるその分析から次の
  イノベーションや新産業が発芽する。
ー巨大digital 企業のPF展開力
 ・そうしたビッグデータの有利性をあますところなく利用して多くのプラットフォーム
  企業が多様なサービスと繰り広げ、それがデータ革命をさらに促進するという循環が
  起きている。
3.  国家の戦略と執行力
ー新常態経済、「製造2025」、AI戦略
 ・中国が開発途上国から先進国への転換をはかる過程で、「新常態経済」「中国製造2025」
 「AI戦略」などの国家戦略が打ち出された。それらはそれまでの低賃金経済の量的成長では
 なく高賃金経済を支える質的高度化をめざした。
ー国家戦略と政策執行力
 ・21世紀に入っての中国の凄さは、それらの戦略や政策が机上の議論ではなく着実に
  そして確実に実行されていったことである。政府のそうした実行力を理解する必要が
  ある。
 ・ちなみに日本では、安倍政権の下、毎年6月に「経済財政諮問会議」ならびに
  「未来投資会議」が5.0ソサエティーの実現など総合的な政策案を公表しているが、その
  内容が確実に実現されることはあまりない。
ー政府の統制力、個人情報の活用力
 ・一方、中国では、個人の自由が制限され、国家の統制が優先する特質がある。それはデータ
  革命をより容易にする側面があると同時に、国際的批判の対象にもなっている。
 
 4.  中国から学ぶ時代
ー中国のinnovationから学ぶ時代
・中国はこれまで開発途上国の常として先進国の技術をコピーして発展してきた経緯があるが、本
 講義でつぶさに紹介したように、digital革命の多くの側面で中国はすでに世界をリードしつつ
 ある。中国の優れた面は率直に評価し、学ぶ必要がある。
ー中国の動向を注視しよう
・2012年の尖閣列島問題以来、日本は中国から目をそらし、彼らの発展の様相の理解を怠ってき
 たうらみがあるように思う。中国は多様な意味で日本にとって極めて重要な存在なので、その
 動向は注視しつづける必要がある。
ー中国企業との協業のメリット
・日本の企業は中国を対等の相手としてよく理解し協力し合えるところは協力してお互いの
 メリットを増幅するべきだろう。

中国、驚異の情報革命はいかに実現したか(2)

Ⅳ. 通信機器産業をリードした華為技術社


 1. 華為技術有限公司の目覚ましい発展
  ー世界最大・最強の通信機器メーカー
  ーたった30年の歴史で世界のトップへ
  ー次世代通信5G技術では世界をリード
  ーユニークな経営・人材管理戦略で注目


 2. 華為技術有限公司の発展略史
  ー1987創業以来、今日までの32年の歴史を概観
  ー創業者、任正非氏。
   ・ 1944 貴州省安順市に生まれる。貧困地域。両親は学校教師。7人の子供を学校に
     通わせるため、満足に食事もできない貧困生活。
   ・1963 高校卒業後、重慶建築工程学院(現、重慶大学)に進む。
   ・1966 文化大革命の衝撃:両親は教師だったので、教育批判の標的にされ、牛小屋(反革
    命派の牢獄)に投獄、革命支持派だったが理解されず、思想改造追求で三角帽で吊し上げ
    られる10年悲惨な期間。この不条理は任氏の人生観におそらく強烈な影響。
   ・1970 人民解放軍工兵部隊入隊。父親問題で共産党に入党できず。
   ・1983 軍の非戦闘部門の規模縮小で所属部門は解散。退役。
    任氏は電子企業でセールスマネジャー。しかし商売を知らぬ悲しさ。TV売買をめぐる
    詐欺に巻き込まれ、責任を取って退任
  ー創業の苦労
・1987、任氏を中心に6人の共同出資者で資本金2万1000元(約31万円)、従業員14の 
    民間企業として深圳市で「華為技術有限公司」設立。当初は脂肪低減薬や墓石も販売。
   ・1988遼寧省のある農村の電信局長の紹介。香港の交換機メーカー康力公司の輸入代理店
    この香港企業が買収され、HWの代理店権利消失。
   ・1989、代理店からメーカーへの転換を決断。製造当初は部品すべてを他社から入手。
    その内簡単な部品は自主製造。2年後には主要部品は自主開発。
   ・任氏、交換機の技術はデジタルが主流になることを直感。デジタル交換機の製造決意。
  ー局用デジタル交換機自主開発
   ・1993に局用デジタル交換機の自主開発成功。1994から本格販売開始。    
    当時、通信機メーカー200社ほど。しかし局用デジタル交換機を自主開発したのは5社。
    創業期に農村部に派遣され、苦しい経験をした仲間が後のHWの幹部に。後の製販融合
    研究開発体制は、創業期の小さな組織が有していた研究開発・製造・販売の一体性の
    発展とも言える。局用交換機の技術ははるかに複雑。研究開発費は巨額。
   ・1992、任氏は構内用交換機で得た利益の大半を、局用交換機の研究開発に投資する決断。
  ー自主開発支える人材確保
   ・デジタル交換機の基幹技術はソフトウェア。優秀なソフトウェア研究開発技術者が鍵。
   ・自主開発のために任氏は華中科技大学や清華大学等に技術提携を働きかけるとともに
    人材の誘致を進めた。郭平は、華中科技大学の教授がHWを訪問した時に連れてきた
    卒業仕立ての青年。任氏に口説かれてHWの技術者に。彼はその後、華中科技大学の優秀
    な人材の周旋人役割も。
   ・HWの研究部門の責任者になった鄭宝用は、当時、清華大学教授とHWが締結した共同
    開発で派遣されてきた学生。華中科技大を卒業後そこで教師、1989に清華大学で博士
    課程に合格したが、博士を諦めてHWで開発責任者に。
   ・HWはさらに多くの優秀人材を誘致。その手段は破格の給料。元幹部の劉氏「上海交通
    大学教師の給料月給400元、HWは大卒新人1000元、修士1500、博士2000元。
    実績ある技術者には6000元も。
   ・全国の通信関係の教師と人脈。有能な技術者の人脈も徹底活用して人材集め。
  ー製品多角化へ飛躍
   ・2000年代初頭、パケット交換方式が主流になることを見越してルーター製品化。
    ちなみに伝統的通信機器メーカーのルーセントはルーターへの転換が遅れて衰退。
    HWには先見の明。
   ・2003、シスコの知財訴訟、HWがまだリバースエンジニアリングに依存していたこと
    を示す。
   ・2004、展示会で初めて3G端末機を展示。本格的に携帯端末市場に進出開始。
  ー国際展開
  ・国際市場進出は2段階:
    第一段階: 中東、アフリカ、南アメリカ等開発途上国。
    第二段階: 欧州、北米、日本等先進国に。
 ー経営戦略の強化
  ・HWは早くから製販統合型研究体制を進めていたが、IBMとの提携で、その経営
   方式から学んで IPD(Integrated Product Development:統合型製品開発)を
   核とした製販統合型研究開発体制確立。
  ・ サプライチェーン改革「ISC:Integrated Supply Chain:統合型サプライ
   チェーン体制確立
  ーハイエンドの製品開発と人材戦略
  ・1990年代中盤、HWはソフトウェア生産でプログラム作成等の下流業務が外注化。コスト
   削減で生産体制の効率化と高度化を達成。
  ・高度なソフトウェア技術を駆使して、さらにハイエンドなデータ通信用ルーターやアクセス
   サーバーなどの製品開発を推進。携帯端末事業も本格展開。
  ・こうした事業発展を支える人材戦略を強力に推進。例えば2001年理系大学新卒採用は
   5000人。当時200の理工系大卒は28万人(54人に1人はHWに)。
  ・HWの報酬
    大卒月7150元、修士8800元、博士10万元、そのほかに10万から16万元の持株配当。
   
 ー次世代通信技術5Gで世界通信機器産業をリード
  ・HWは次世代通信技術5Gで世界通信機器産業をリードしている。基地局設備など
   での競争力はその品質、価格、サービスなど総合的に突出しており、世界では
   スエーデンのエリクソン、フィンランドのノキアがそれにつづくが、技術的には
   HWは1~2年開発が先行しているとされる。
  ・アメリカは5G開発ではまだHWに匹敵する企業はないが、一方、HWの存在が
   安全保障上問題があると批判している。HWはこうした批判に対してはソース
   コードを開示するなど透明な説明に注力している。


 3. 1990年代以降の中国産業政策の転換:HW発展の背景
  ー鄧小平、改革開放戦略の推進
・1979、鄧小平は文革の後遺症を払拭すべく改革開放を打ち出した。ところが、1989の
   天安門事件で、学生の民主化運動を武力で鎮圧、国際社会から孤立。共産党内の改革派
   は後退。守旧派が主導権を握って改革開放路線は停滞。
  ・1992、鄧小平は上海や深圳、武漢など巡り、改革開放路線を説いた。”南巡講話”
  ー1980s末まで中国の通信事業は郵電部による中央集権管理
  ・経済改革前は、通信事業は郵電部(巨大な中央政府組織)によって運営。
 
  ー1990sに中央集権型旧体制を改革、競争的市場の形成
   1978以降、中央に集中していた権限を地方に移す地方分権が進められた。
  ・1988→1991、電気通信産業に関する権限が全国2500箇所の電信局に移転。
  ・1985. 高等教育制度改革で自主的職業選択制度導入。それまでは統一分配制度で就職指定
  ・これらの改革で、民間新興企業にも通信機器産業に参入の余地。
  ・1994~1998に進められた「政企分離」政策の下でも、通信機器の購入は実質的に
   地方政府が決定する状態が続いたので、通信機器メーカーは各地方政府に働きかけ。
   HWは受注確保のため、地方電信局とで合資企業を設立するなど努力。
  ー通信機器国産化の5企業
  ・1990s、通信自由化で通信需要が急増。通信産業に多くの企業が参入したが、それら200
   ほどの企業のうち、デジタル交換機自主開発に成功し存続したのは5企業。
     1. 巨龍通信設備有限公司(国有)
     2. 金鵬電子有限公司(国有)
     3. 大唐電信科技股有限公司(国有)
     4. HW技術有限公司(民間企業)
     5. 中興通訊(ZTE:半国有半民間)
  ー華為技術がなぜ突出したか
  ・その後巨龍は消滅、金鵬は主要5社から脱落、大唐は低迷。ZTEは存続したがHWの後塵
  ・企業連合型大組織は責任体制が不明確、政府資金受けると自立心が低下のリスク。
   その点、HWやZTEは自己責任で自律経営。
  ・特にHWは独特な経営理念と人材管理で傑出。単位制度の伝統の残る国有企業は、ヒト、
   モノ、カネの資源は優位だが、ソフトウェア技術者の管理に適した「戦略的人的資源
   管理」のようなあ革新的労務管理の導入は困難。


 4. ソフトウェア技術と研究開発人材戦略
  ーデジタル通信時代の中核技術はソフトウェア
  ・デジタル化は、通信機器製造の主要技術をハードからソフトに変えた。ソフトを生産する
   ソフトウェア技術者が最重要資源。ハードウェア基盤上に確立された先進国の国際分業
   システムに縛られずHWのような後発企業が対抗できる余地。
  ーソフトウェア技術を担う研究開発人材の戦略的活用
  ・ ソフトはすべて人間が生産。 ソフトは顧客=使用者の各種の要望を叶えやすい。
    顧客ニーズ重視はHWの核心。
   ・そのソフトウェアに経営資源を集中したHWの戦略は創業者任正非氏と若手技術者の密接
    なアライアンスから発展。
   ・HWの自主技術形成は若手技術者の高い専門性と社会経験豊かな壮年の創業者の経営能力
    から生まれた。
   ー研究開発人材の能力と意欲をいかに最大に発揮してもらうか
   ・HWは以下の戦略的人事管理システムで若手技術者の動機付けを最大化した。
     1. 能力主義的職能給制度
     2. 従業員持株制度、
     3. 裁量労働制
     4. 開放的内部昇進制。
   ・1990年代においても多くの研究開発人材が国有セクターに取り込まれていたので、
    新興民間企業HWが通常の方法で、優秀な研究開発人材を確保することは至難。
    この人事制度は、研究開発人材確保に役立っただけでなく、民間弱小なHWが同一産業
    の有力国有企業を押しのけて競争上の優位を確保する最大の要因ともなった。
   ー大量辞職事件:2007. 10月、6000人以上の集団辞職事件がニュースに。集団辞職者は
    辞職後それまでの終身雇用型のジョブナンバーから能力主義型の雇用者ナンバー制に
    移行するということで深圳市労働局が調査に入ったが辞職者に不満がないことが判明。
    その後、辞職者の大部分は再雇用。華為技術の関係者に聞き取りしたところ、
    売り上げの伸びない販売部門の職員が自主退職を申し出たことから発展した事件
    とのこと。華為技術では、成長過程でも従業員が中国の他企業と同様の終身雇用的
    期待感で勤務するのでなく”奮闘者”として活躍する人だけが勤務を続ける雇用管理
    を実現しようと努めており、この事件はそうした試行錯誤の一環?
   ー高度開発研究の環境整備:
   ・華為技術は深圳市近郊に、松山と坂田というテーマパークのように美しく整備された
    キャンパスを持つ。松山はまだ整備中だが、欧州12都市の景観を再現。松山には
    特に研究開発機能が集中。坂田は経営中枢、研究開発、検査施設が設置。美しい景観
    は精神ストレスが高まりがちな開発研究者の癒しを意図している。キャンパスの食堂
    は内容が良く、シリコンバレーで有名なGoogleの食事よりはるかに美味しい。日本贔屓
    の任氏の趣向で江戸時代の京都の街並みを再現した迎賓館もある。
   
 5. 華為技術の経営理念と実践
  ー誰もが参加するが、求められるのは奮闘者
・任正非氏は創業期から今まで企業経営、技術革新、人事労務管理などにつき、主に従業員
   を対象に毎年10~40回に及ぶ社内講話で多くを語ってきた。困難を知る者こそが経営を
   担うことができると繰り返し説いている。
  ー華為技術基本法
  ・ HWの経営理念は基本法に明記。基本法は1995年から検討開始、何度も全社的議論を経て
   制定1998年に全従業員に公表。基本法は6章103条にわたって詳細に規定されているが、
   それはHW諸規則の上位法ではなく、任正非の経営思想を体現。公表後、改正なし。
  ー従業員持株制度
  ・HWは従業員所有企業の形。従業員持株制はそれを象徴。
   ・給与と持株制で2元報酬制。持株制制定当初は、新興民間企業で政府からの資金支援も
   なく資本の自己調達の意味もあった。
  ・その後、会社法の制約もあり、従業員持株制度に使用されていた「株式」を「ファントム・
   ストック虚似受限股)と呼ぶ「擬似株式」に変更。多くの従業員は持ち株が重要な所得と
   資産形成の一環になっており、それが会社への帰属意識を高める要素に。
  ー任正非氏のいましめ
  ・任氏は日本を深く研究しており、高度成長後の日本企業の低迷を鋭く分析している。その
   一方で、華為技術は通信産業発展の世界と中国の流れに乗って成長してきており、深刻な
   困難を経験していない。日本人からすると美化しすぎに思えるが、長期低迷を克服しようと
   している松下電工などの日本企業の強さに学ぶべき、といましめている。
 

中国、驚異の情報革命はいかに実現したか(1)

Ⅰ.  はじめに


 1. 中国の目覚ましい情報経済の躍進
   ・中国の最近の情報化による経済の質的発展には瞠目すべきものがある。
 ・中国は2010年以降、GDP(ドルベース)で日本を追い越し、規模では経済大国に
  なったが、国民1人あたり所得はまだ低く、技術的にはまで世界水準にキャッチ
  アップしようという後発国の段階にあるとの印象を我々日本人の多くは持っていたの
  ではないか。
 ・それが近年、情報化が急速に進み、社会全体がデジタル技術で大転換をしており、
  また次世代通信技術である5Gでも世界をリードしているといったニュースが伝えられ
  るようになった。


 2. この急激な発展はなぜ、どのように起きたのか
 ・規模は大きくても、質的技術的にはまだ遅れていると思われていた中国が、最新の情報技術
  を取り入れ、社会・経済全体のデジタル転換を進め、通信技術でも世界の最先端に立つと
  いう急激な発展をどのように達成したのか。


 3. 中国の近年の変化を知らなかった日本
 ・中国の情報化、デジタル化の急激な発展は最近10年ほどの間に加速度的に実現したものと
  思われる。
 ・ところがそのニュースも実態も日本にはあまり伝えられず、その理解が不足している印象。
 ・この情報ギャップは、とりわけ、2012年の尖閣列島をめぐる日中対立が先鋭化し、日本企業
  排撃運動が高まった頃から日本にも”嫌中感情”が高まり、また中国の賃金コストの高まりを
  受けて日本企業の”中国離れ”が進んだ中で広まったように思われる。


 4. 中国の変化の実態を学び、中国の可能性と課題について考える。
 ・本講では中国の近年の驚異の情報革命の実態の事実を学ぶとともに、その背景、これからの
  可能性そして課題について考える。


Ⅱ.   中国DX(digital transformation)の躍進


 1. 時代はDX
 ー馬雲(Jack Ma) 2014.「時代はITからDT(データ・テクノロジー)へと移行する。
  ・データはガソリンと同様、経済活動の原動力になる」と発言。象徴的。
 ーデータ蓄積が促進するイノベーションと新産業
  ・消費者の購買行動、タクシー、モバイクなどの移動行動、金融取引などがモバイルで決済
   されるとそれらのデータは瞬時に蓄積される。そのデータ量が大きくなるほどまた個人
   認証や信用情報など内容が詳細になるほどデータは経済資源として価値が高まる。
  ・なぜなら、そうしたビッグデータはAIによるディープラーニングなどの分析を通して、
   個人行動や社会動態のより精確な把握・予測を可能にするからであり、そうした理解と
   予測はサービスを提供する企業の行動をより効率化させるだけでなく、新たな産業の創出
   などイノベーションを加速する可能性を持つからである。
   ー中国のデジタル経済規模、2016、22.6兆元(385兆円)、GDPの30.3%。
  ・中国の電子商取引、利用者4.67億人、取引額26.1兆元(443.7兆円)。世界全体の40%。
   モバイル決済(アリペイ、WeChat Payなど)の規模はアメリカの11倍。
   デジタル経済は中国全土で280万人(2016)の新規雇用。


 2. モバイル決済の爆発的普及
  ーモバイル決済の爆発的な普及で中国社会全体がdigital transformation潮流に。
  ・インターネット企業、アリババ、テンセントのようなPF企業、先端テクノロジー企業
   にデータとして蓄積された会話、画像、取引、コンテンツがAIによって解析、それを
   元に新しいサービスが生まれる。人と人、人と企業、企業と企業、人や企業の評価情報
   が蓄積。
  ・主役はアリババ、テンセント、それに続く世界レベルのスタートアップ企業。中国型
   イノベーションの大きな特徴。モバイル決済の普及が起点。アリペイと微信支付(Wechat
           Pay)がモバイル決済を巡って激しい競争を展開したことも大きい。


 3. モバイル決済はイノベーションの起点
  ・中国のイノベーションの発展は、アリババ集団の支付宝(Ali Pay)と騰訊控股(テンセン
   ト)の微信支付(We Chat Pay)の熾烈な競争が牽引したモバイル決済が起点。
  ・その背景には、スマホの普及とQRコードの活用。たちまちのうちにモバイル決済が中国
   全土に普及していた。その結果、世界の先頭を走るキャシュレス社会、デジタル経済圏
   誕生。金融サービス後進国だったからこその一大飛躍。
  ・モバイル決済でシェアリングエコノミーの新サービス↑。膨大な決済データが蓄積される
   ここから中国型のデジタル・イノベーションのサイクルが始動。個人の信用情報が整備。
   新たなサービスに活用。そこにベンチャーファンドなど資金が世界中から。AIなど最先端
   分野のベンチャー相次いで誕生。
  ・モバイル決済は、ビッグデータと画像認識やdeep learningなどのAI技術と融合
   2017後半から、無人スーパー、シェアリングエコノミー、スマートシティ
   など新サービスを生み出す。
  ・中国のモバイル決済は2013を機に爆発的成長。2013は2014の4倍以上。
   2016.の取引規模157.55兆元(2678兆円)、世界最大。都市の住民、財布持たず。
   
  ・Apple がiphone発売した2007がスマホ元年。その後を追って、シャオミなどスマホ
   メーカーが対応。徹底コスト削減、1000元で買えるスマホ、若い世代中心に急速普及。
   ネット人口急増、ネット接続端末スマホの普及が、モバイル決済の土台。2018.6.
   モバイル決済利用者は5.7億人、モバイル経由でシェア自転車利用する人は2.45億人


 4. 中国は今やイノベーション大国
  ・2017年特許出願:華為4024、ZET2965、インテル2637、三菱電機2521、
   クアルコム2013、ソニーが1735など。
   
  ・ AIスタートアップ企業は2542社。うち中国企業は592。AI分野の特許件数は1.57
   万件で、米国に次ぐ2位。かつてコピー大国と言われた中国が知財大国、イノベーション
   大国に劇的変貌。
   
 
Ⅲ.   新常態経済と情報革命への国家戦略


 1. 2010年以降の中国の成長低下と構造変化
 ー2010sから中国経済成長は鈍化
 ・中国経済は1978~2010年、高度成長期、実質年率9.6%、名目5.8%、世界3%→20%へ。
 ・しかし、2011~15年 実質7.8%、2015年は実質6.9%、2018年は6.5%。
 ・IMFは米中貿易摩擦の影響を考慮すると2019年の成長率は5.8%と予測。そうした特殊要因を
  別にしても成長率は低下趨勢にあり、2019年の6.1%から2024年には5.5%になると予測。
  
 ー発展の歴史的転換点を過ぎた中国
 ・経済成長率の低下それ自体は問題ではない。
 ・歴史的大転換期にある中国:(1)中進国のディレンマと (2)人口減少・成熟化が同時進行。
  ー中進国のディレンマ。賃金コスト↑で成長維持できるか。
 ・これまでは低賃金労働、外資と技術導入、競争力↑、輸出で成長:途上国型発展
  鄧小平主席「改革解放」戦略が効果。1970年代末から2000年代初頭、30年間10%成長
 ・しかし賃金コスト↑、賃金上昇、5~6年で倍増。克服するには産業構造近代化、
  自前のイノベーション必要。イノベーションできるかが課題。
 ー人口減少と成熟化
 ・労働力の無制限的供給は終焉(Arther Lewisの転換点)。労働力制限下の成長。
  賃金コスト↑。成長鈍化は必然。さらに成長するには生産性上昇。イノベーション不可欠。
 ・中国:中進国と先進国の課題が複合。
   
 2. 「新常態経済」の提唱
 ー習近平首席:2014「新常態」への移行を呼びかけ。
 ー「新常態」経済戦略の要点。
   1. 経済成長の減速認識、受け入れ、それに見合った経済戦略と政策の推進
   2. 労働力と資本投入による量的拡大からイノベーション(生産性向上と新産業・
     商品創造)による質的向上による経済成長めざす。  
   3. 供給サイド:サービス業、需要サイド:国内消費の発展めざす。
   4. 構造問題の改革、解決


3.  経済強国化戦略と「中国製造2025」
 ー中国建国100年(2049)強国構想
  ・2017、第19回共産党大会で提示
      ・2020:小康社会の全面完成(2021(共産党創設100周年)を念頭に、
  ・2035 :社会主義現代国家建設
  ・ 2049(中華人民共和国建国100周年):社会主義現代化強国。
  ・その実現には創新(イノベーション)が基本戦略
  ー中国製造2025」
   ・中国国務院が2015.5発表の産業政策『「中国製造2025」は、次世代情報技術や
    ロボットなど10の重点分野を設定、製造業の高度化をめざす。
   ・中国は建国100年の2049に「世界の製造強国の先頭グループ入り」をめざす。
    「中国製造2025」はその長期戦略の第一歩。
  
   ー製造強国への工程表
     1. 第一段階(2015→2025):製造大国(規模)→製造強国の仲間入り
     2. 第二段階(2025→2035): →製造強国の中等水準
     3. 第3段階(2035→2049): →製造強国の先頭グループへ躍進。
   ー「中国製造2025」重点10分野
      1.   次世代情報技術:
      2.   高度なデジタル制御の工作機械・ロボット
      3.   航空・宇宙設備
      4.   海洋エンジニアリング・ハイテク船舶
      5.   先端的交通設備
      6    省エネルギー、新エネルギー自動車
      7.   電力設備
      8.  農業用機材
      9.   新素材
     10   バイオ医薬、高性能医療機械


 4.  インターネットプラス、大衆創業・万衆創新
   ・「中国製造2025」は大企業向け
  ー大衆創業・万衆創新(双創)は個人ならびに中小零細企業向け
   ・李克強首相は2014.9. 天津ダボス会議で大衆創業・万衆創新(起業とinnovation推進)
    政策に初めて言及。
  ーインターネットプラス(互聯網+)(インターネットプラス)
   :あらゆる産業にデジタル技術の利活用を推進。サプライサイド政策
  ・2015.3.  第12期全国人民代表大会、第3回会議「政府活動報告」で
   「インターネットプラス」の行動計画策定。
  ・モバイルインターネット、クラウドやビッグデータ、I o Tなど製造業の近代化
   EC、インターネット金融、インターネット企業の国際市場の開拓・拡大を強力に
   支援する方針を明示。
  ・2015.5. 国務院は「中国製造2025」発表。
  ・2015.7. 「インターネットプラス政策」は創業・創新とサプライサイドの構造改革
   の柱としての「中国製造2025」と統合的に進展させる必要との指導意見。
  ・一連の政策には、中国政府の強い決意と危機感。


 5.  国家戦略としてのビッグデータ活用
  ー2016.3.16  全人代採択「中国国民経済・社会発展第13次5ヵ年計画要綱」
  (第13次5ヵ年計画)に「国家ビッグデータ戦略の実施」盛り込まれ、
  ビッグデータ活用が国家戦略に格上げ。
  ・生活者の買い物などのデータがビッグデータとして蓄積。購買履歴、交友関係、公共料金
   返済状況などから、個人の信用度スコアリング。タクシー配車サービスの都市交通情報
   から交通渋滞の予測と誘導。


 6.  AI大国戦略
   ・2017.3.デジタル経済(数字経済)が初めて李克強首相「政府活動報告」に盛り込まれた。
  ー2017.7 国務院「次世代人工知能発展計画」発表。
  ・今後10年でAIを中国経済成長の重要な推進力とすることをめざし3段階アプローチ策定。
   ・ステップ1.:2020までにAIの技術と応用で世界先進レベルに追いつき、1500億元規模
     のAI基幹産業と1兆元規模のAI関連分野実現
   ・ステップ2.:2025までに、AIの基礎的理論研究で重大なブレークスルーはかり、技術と
     応用で世界をリード。4000億元規模のAI基幹産業、5兆元規模のAI関連産業実現。
   ・ステップ3:2030までにAI基幹産業1兆元(17兆円)
     AI関連産業で10兆元(170兆円)
   ・中国を世界で主要な人工知能イノベーションセンターと人材育成基地に。
  ー2017.11. 国務院科学技術部は「国家次世代人工知能オープンイノベーションPF」
    PT指定。
   ・有力な企業Gの分担決定。国家の後押しで、AI分野での振興・育成策が実施段階に。
    ・百度(バイドゥー)→自動運転
    ・アリババ集団→スマートシティ
    ・テンセント→医療映像を中心としたヘルスケア
    ・科大訊飛(iFlytek)→音声認識。
 

中国、驚異の情報革命はいかに実現したか

しばらくご無沙汰しましたが、また新たにブログエッセイを掲載したいと思います。テーマは「中国、驚異の情報革命はいかに実現したか(1)〜(3)」です。


中国の情報革命は近年急速に進んでおり、中国経済もそのDX(digital transformation)で質的向上を遂げています。この実情はこれまで日本では必ずしも充分に伝えられていなかったように思います。そこには2012年の尖閣列島を巡る日中対立以降、メディアなどの関心が中国から離れたこと、また中国の賃金コストの上昇傾向の中で日本企業の中国離れが進んだこと、などの背景があったかと思います。しかし、私達にとって隣国中国の重要性はますます高まっており、今回はこのブログで中国情報革命の実態とダイナミズムを報告したいと思います。

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