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悪化する日韓関係:打開は可能か?(改訂版)

日韓関係が急速に悪化をしており、このブログでも前回(8月9日)にそのことについて書かせて戴きましたが、その後さらに状況が深刻になってきています。この問題について、日本側の主張は法的には正当ですが、国際関係についてはそれ以外の考慮もあり得るかもしれません。そうした観点も含めて私の考察をさらに進めてみましたので、ここに成果を記させて戴きたいと思います。御興味のある方には、御高覧を戴ければと思います。
「悪化する日韓関係:打開は可能か?」
Ⅰ.   はじめに
 ー日韓関係が急速に悪化している。
 ー従軍慰安婦問題、元徴用工個人補償問題、輸出管理規制強化、そしてついに(GSOMIA)軍事情報包括保護協定の破棄にまで発展した。
 ー事態がここまで悪化すると、日韓のみに限らず、北東アジア、世界にも影響する重大な問題。
 ー事態の理解、今後の対応の方向性について冷静な判断をもつ必要。
 ーそのためには、まず、急速な悪化の経緯を知る必要。
 ーそして悪化の背景と意味を理解する必要。
 ーその上で、今後の対応について冷静な判断の手がかりを考えたい。
Ⅱ.  日韓関係悪化の経緯
 1. 従軍慰安婦問題での裏切り
  第一は、慰安婦問題で、日韓の間で「最終的かつ不可逆的」な解決として合意された事項に、文在寅政権が異論を唱えて事実上、両国間で達成された合意を反故にしたことである。
  2015年12月28日に朴槿恵政権と日本政府が、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的」な解決で合意し、16年7月28日には元慰安婦を支援する「和解・癒し財団」が発足した。それを受けて日本政府は8月24日に財団への10億円拠出を閣議決定。ところが12月30日に韓国の市民団体が釜山の日本総領事館前に慰安婦を象徴する少女像を設置した。
  韓国政府は日本政府と「最終的かつ不可逆的解決」に合意したのであるから、合意に反するこうした行為は当然厳しく取り締まるべきだったが、全く無策だった。それは両国間の信義にもとる態度であり、それへの抗議の意味を込めて日本政府は長嶺安政駐韓大使を一時帰国させた。2017年初頭は韓国は朴槿恵大統領糾弾の大衆運動で騒然としており、3月10日には韓国憲法裁判所が朴槿恵大統領罷免を決定した。後日、大統領に就任した文在寅氏はこの少女像を抱擁し「彼女を寂しがらせないよう国民全体で慰安婦問題に取り組もう」と呼びかけた。
  5月10日に就任した文在寅大統領は11日に安倍首相と電話で会談し、日韓合意について「韓国国民の大多数が感情的に合意を受け入れていない」との見方を伝えた。そして7月31日、韓国外務省は慰安婦問題に関する日韓合意を検証する作業部会を省内に設置した。12月27日、作業部会は「合意に非公開な部分があった」として、合意に否定的な報告書を発表。これを受けて文大統領は合意に「重大な欠陥」があったとする声明を発表。翌年1月4日には文氏は元慰安婦9人と面会し合意について謝罪を表明した。
  こうした文政権の言動によって、元慰安婦の一部や支援団体は、文政権が「合意」を破棄するのではないかとの期待感を高めたことが推察される。文政権の康京和(カンギョンファ)外相は2018年1月9日この問題に対する新方針を発表したが、そこでは日本政府に対して日韓合意の再交渉は求めなかったが、日本に対して「自発的な真の謝罪」を要請した。この対応に韓国の支援団体らは不満で合意の破棄を改めて求めた。日本政府は「合意」を無視してさらなる謝罪を求める韓国政府の要求には一切応じないとしている。
  慰安婦問題は、その後、知日派として知られる文喜相(ムンキサン)韓国国会議長が米国ブルームバーグ通信とのインタビューで「天皇(平成)が元慰安婦の手を握って本当に申し訳なかったと言えば、問題はすっかり解消される」と述べたと同通信が1月9日に明らかにした。日本側はこの発言に抗議し、発言の撤回と謝罪を要求したが、彼はそれを拒否した。韓国反日派の対日批判の強硬化はとどまるところを知らない。
 2.  レーダー照射問題
  それは2018年12月20日に起こった。能登半島西方海域で監視業務をしていた海自のP-1哨戒機に対して韓国海軍駆逐艦(クアンゲト・デワン)から射撃管制レーダー(FCレーダー)が輻射された事件である。現場海域では距離1000m程度離れたところで上記の韓国艦、海洋警察庁警備艦および小型船が作業しており、海自機は一定の距離を置いて近接。第二回の近接時に海自機はFCレーダーを探知。直ちに距離を離して5000m程度の距離から継続監視をしたが、その際にも複数回のFCレーダー波を探知した。海自機はFCレーダーの意図確認のため無線電話をかけたが韓国艦からは応答なし。
  FC レーダーの照射は、攻撃準備のためのレーダー照射なので、不測事態の発生または不時の交戦防止のため、各種国際規則で禁じられている。また通常、どの国でもFCレーダーの照射のためには艦長の許可が義務付けれられているので、もしFCレーダーが照射されたとすればそれは何らかの理由による意図的な行為と言わざるを得ない。
  
  海自ではレーダー波の受信結果を詳細に検討し、FCレーダーであるとの確証を得たが、韓国側が事実を否定しつづけるので、その波動音を開示した。これに対して韓国側はその波動音を逆用して、それは海自の捏造であるとし、日本を糾弾する動画を作成して8ヶ国語で世界にアピールした。
  一方、海自の事実究明への呼びかけには韓国側は全く応じなかったので、海自は呼びかけは無意味と判断して、取りやめるに至った。
 3.  元徴用工個人補償問題
  文氏は大統領に就任後も、元徴用工の補償問題は、国家間では解決しているとの認識を示したかと思えば、就任100日後の記者会見(2017年8月25日)では、「両国間の合意は個人の権利を侵害できない」と発言して、個人補償請求の権利があるとの認識を示し、それまでの両国政府の考え方を事実上覆した。
  日本と韓国の政府は1965年6月22日に東京で、日韓基本条約を締結し、その中で日韓請求権協定として元徴用工の補償については「完全かつ最終的に解決された」(協定第二条)との合意をし、韓国歴代政権もその理解を踏襲してきたが、2012年に韓国大法院(最高裁判所)は元徴用工の個人の請求権は国家間の合意に含まれていないとして請求権を認める判断を下している。
  そして2018年10月30日、韓国大法院は、元徴用工が新日鉄住金を相手取って損害賠償を求めた訴訟の差し戻し上告審で、同社の上告を棄却した。この決定で、2013年にこの元徴用工に賠償を認めた2013年7月のソウル高裁の判決が確定した。この判決の意味は極めて大きい。現在でも元徴用工を名乗って賠償請求をしようとしている予備軍は少なくとも数百人はいるとされ、この判決を契機にそうして損害賠償請求が陸続と拡大することが懸念される。
  しかしそれよりももっと本質的なことは、それは1965年の日韓基本条約という両国のそれ以降の関係を基本的に規定する国際協定を覆すもので、その協定に基づいて推進されてきた日韓両国間の協力関係を根本的に崩壊させる危険を含むということである。
  この問題はとりわけ重要なので、以下に項をあらためてやや詳細に説明することにしよう。
Ⅲ. 元徴用工個人補償問題
 元徴用工に対する個人補償問題について、日本政府(当時、佐藤栄作政権)は1965年の朴正煕政権の韓国との合意で完全に解決済みとの立場を堅持している。なぜなら日韓両国が1951年のサンフランシスコ講和条約を受けて、戦後国交正常化に向けて14年間の交渉を経てようやく締結した日韓基本条約で明記された日韓請求権・経済協力協定の第二条には「請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決された」と明記されているからだ。そして日本は韓国に当時の額で8億ドルに上る経済援助を提供することとした。
 8億ドルは当時の韓国の国家予算2年分に相当する額である。朴政権はこの資金を韓国経済発展のためのインフラ整備や鉄鋼産業など主要産業の支援のために活用し、その結果、韓国経済が「漢江(ハンガン)の奇跡」とされる目覚ましい経済成長を達成したことは良く知られている。高度成長する韓国に対して日本企業も積極的に投資し、韓国の企業と日本企業の間には、密接な相互補完関係が築かれ、その後の日韓の深い産業連携に基づく経済発展が促進されたことは周知である。
 この間、国家と国家の合意で補償問題は解決済みと理解されたが、それとは別に個人の補償問題はしばしば提起された。元徴用工の個人補償の訴訟は、該当する日本企業に対して提起されたが、日本での裁判結果は、1965年の日韓合意の理解の下で、ことごとく原告敗訴に終わっている。一方、韓国では、文在寅政権が発足するまでは、歴代の政権で個人補償の問題は韓国の国家が責任を持って対応するという理解が維持された。
 たとえば、革新系の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権でさえ、2005年、請求権協定に伴う日本の3億ドルの無償協力に関し「強制動員被害補償の問題解決の資金が包括的に勘案されている」との見解を表明。元徴用工の個人が日本企業に賠償を求める問題の解決の責任は韓国政府が持つべきだとの認識である。ちなみに盧武鉉氏は文在寅氏の師匠でもある。
 ところが2012年、韓国大法院は、徴用工の賠償請求を退けた高裁判決に関し、個人請求権は消滅していない、との初判断をしめして審理を差し戻した。その理由は、個人請求権消滅について韓日両政府の意思の合致があったと解する十分な根拠がない。1965年の請求権協定は両国政府の政治的合意であって「不法な植民地支配に対する賠償を請求する交渉ではなかった」という理屈づけである。これは日本から見れば勝手な事後解釈というほかはない。しかし2018年10月30日の大法院の判決は、この2012年の判決を踏襲する形で、元徴用工が強制労働の「慰謝料」を要求する権利は認められるとの判断をしめした。
  この判断にもとづき韓国大法院は10月30日、徴用で強制労働をさせられたとして新日鉄住金を相手に損害賠償を請求していた韓国人4人の訴訟の差し戻し上告審で、同社の上告を退ける判決を言い渡した。この判決によって、4人に請求全額の計4億ウォン(約4000万円)の支払いを命じたソウル高裁判決が確定した。
  元徴用工の損害賠償請求訴訟は、10月末時点で、上告審では新日鉄住金と三菱重工、2審では両社ならびに不二越、日立造船、そして3審では日本企業の約90社が対象になっている。これらの訴訟で損害賠償を請求している原告は遺族は1000人以上にのぼる。韓国政府の推計では、損害賠償が可能なら請求をしたい元徴用工は22万人にのぼるという。2018.10.の大法院判決は原告1人につき1億ウォン(約875万円)損害賠償。22万人に支払えば総額は1.925兆円に達する。
  2019年1月8日、新日鉄住金に賠償を命じた元徴用工訴訟で、韓国の大邸(テグ)地裁浦項支部が同社の韓国内資産の差し押さえを認める決定を下した。日本政府は韓国の裁判所による資産差し押さえ通知が新日鉄住金社に届いたことを確認し、1月9日、秋葉剛男外務次官が外務省に李洙勲(イスフン)大使を呼び、文書と口頭で日韓請求権協定にもとづく政府間協議を正式に申し入れた。ちなみに日韓請求権協定では第3条で協定の解釈や実施をめぐる紛争は外交協議によって解決する、と明記されている。
  2019年1月9日、文在寅大統領は年頭の記者会見で、「元徴用工を巡る大法院判決を韓国政府は尊重しなければならない。日本政府は不満があっても、基本的にはどうしようもないという認識を持つべきだ」と言明した。
  なお、大法院の判決の直後、韓国の李洛淵(イナギョン)首相は、「司法の判断を尊重し、関係省庁や民間の専門家などと諸般の要素を総合的に考慮して対応策を講じていくとの政府見解」を述べたが、その後は明確な対応はなく、個人の賠償問題の責任は韓国政府にあるという1965年の日韓合意の考え方については態度を曖昧にしたままだった。上記の文大統領の言明は曖昧から踏み込んで、1965年の日韓合意の精神を明らかに否定したものと言える。
  その後、河野太郎外務大臣をはじめ政府当局は韓国側に何度も重ねて政府間協議をの開催を催促したが、韓国側は日本側の要請に応じていない。一方、原告団や支援団体は訴訟対象の日本企業の差し押さえた資産を現金化する準備をしている。早ければ2019年8月にも現金化が開始される可能性がある。これを放置すれば、問題は他のアジア諸国などで解決済みの賠償問題を再燃させかねない取り返しのつかない事態になる恐れもあるので、日本政府は危機感を強めている。
  政府では韓国側が再三の協議申し入れにも応じてこないので、協議が開催できない場合、次のステップとして協定に位置付けられた「仲裁委員会」の開催を申し入れることを検討した。仲裁委員会はは日本、韓国、第三国の委員で構成されるが、第三国の委員を選ぶためにも日韓の協議が必要だ。しかし外務省の担当者などには「委員の選任は容易ではない」との見方が強い。 
  
  日本政府は国際司法裁判所(ICJ: International Court of Justice)への提訴も視野に入れ、すでに国際裁判専門の弁護士選定などの準備を進めている。しかし、韓国側は訴えに応ずる義務がある「義務的管轄権」を受諾していないため、審理が実現する可能性は低い。こうしてみると日本が国際社会にその正当性を訴えられる環境条件は極めて限られているといわざるを得ない。
  こうした中にも、3月15日には韓国地裁が不二越の資産仮差し押さえを決定、3月22日には韓国地裁が三菱重工業の資産差し押さえを決定、4月4日、元徴用工らが日本コークス工業など4社を相手取り追加訴訟、4月29日、元徴用工らが三菱マテリアルなど9社を相手取り追加訴訟、5月1日、原告側が日本製鐵と不二越の資産売却手続きに着手するなど、事態は時事刻々悪化している。
  こうした事態を受け、自民党内では強硬な意見が台頭してきた。例えば、駐韓大使の一時帰国、訪日ビザの免除停止、韓国製品の輸入関税の引き上げや日本にある韓国企業の資産差し押さえなどの対抗措置を求める声があがった。
  2019年6月19日、韓国外務省は日本と韓国の企業が自発的に資金を出し合い原告と和解する案を日本政府に提示したと明らかにした。これに対し、河野太郎外務大臣はツィッターで「韓国の国際法違反の状態を是正することにならず、受け入れられない」と拒否。韓国側は、日本がこの案を受け入れるなら、日韓請求権協定にもとづく二国間協議に応ずる用意があるとした。日本政府は日本企業に負担を求める韓国側の案は両国の請求権問題の完全かつ最終的な解決をうたった1965年の日韓請求権協定に反するとして拒否の立場だ。
  安倍首相は2019年6月28と29日にかけて大阪でG20サミットを議長として開催した。韓国は安倍首相との首脳会談を望んだが、安倍首相はこれに応じなかった。2日間のサミットで、両首脳が接近したのは、28日の会議と夕食会で安倍首相が各国首脳を迎えた時だけだった。
  その背景には韓国が6月19日に公表した日韓の企業が自発的に資金を出し合って原告と和解する案があった。日本側は事前に提示された段階でこれを拒否していたが、それにも関わらず韓国政府はこの案を公表した。文氏は6月26日の聯合ニュースなどとのインタービューで「現実的な解決案だ」とし、安倍首相に会談を呼びかけて「この機会を活用できるかは日本にかかっている」と日本側の責任を強調していた。
  これまでの経緯の中で、文氏は「司法の判断を尊重する」としてきたが、1965年の日韓請求権・経済協力協定を守る意思があるのかは明確にしていない。日本政府側には文在寅大統領は、この半世紀以上、日韓協力の基盤となってきたこの合意の見直しを提起してくるのではないか、との疑念と警戒感がある。
Ⅳ. 対韓国輸出規制管理強化
  日本政府は2019年7月1日、韓国にたいし、半導体製造などに必要なフッ化水素など3品目の輸出管理につき「外国為替および外国貿易法」(外為法)に基づき規制を強化すると発表した。対象の3品目は、半導体の洗浄に使うフッ化水素、不マートフォンのディスプレーに使われるフッ化ポリイミド、半導体の基板に塗る感光剤のポリイミド。
   韓国はこれまで輸出手続きを簡略化する優遇措置を受けられる27カ国の「ホワイト国」の一つとして認定されていた。今回の措置は韓国をこのホワイト国から外すということである。
  
   これら3品目は、半導体大国・韓国を狙い撃ちにするには最も効果的とされる。いずれも日本が世界で7~10割近いシェアともち、サムソングループ、LGグループ、SKハイニックスなど韓国企業はほぼ全量を日本から調達している。
   しかし、韓国製の有機ELパネルやNAND型フラッシュメモリーではサムスンが4割の世界シェアを持っており、それらの部品提供を受けている日本メーカーには影響が出る可能性もあり、対韓国輸出規制の強化はやがて世界のサプライチェーンを混乱させる恐れがある。
   安倍首相は、7月1日、読売新聞とのインタービューで「国と国との信頼関係の上に行ってきた措置を見直したということ」とし、韓国との信頼関係が損なわれたため管理強化に踏み切ったとの考えを示した。政府には、徴用工問題が日韓関係の根幹をゆるがす深刻な問題であることを韓国側に認識させるべきだとの考えが強い。
   一方、韓国の成允模(ソンユンモ)産業通商資源相はソウルで「韓国大法院の判決に対する経済報復措置であり、WTO提訴をはじめ対応措置をとっていく」と述べた。Financial Times紙(電子版)は「日本の自由貿易の偽善を露呈するもの」と批判。ある外電は、安倍首相は政治問題に経済的武器を使うトランプ流の戦術を採用したようだが、結局、損害は自らにも及ぶとコメントした。
   この事案を担当する経済産業省は輸出規制導入の理由について「不適切な事案が発生したから」としているがその内容は守秘義務として説明していない。また世耕弘成経済産業相は「輸出管理を適切に実施するため、運用上の対応をしている」とし、韓国側のWTO協定違反との批判にたいしては、日本側はGATT21条の「安全保障上の例外措置」であって違反ではない、と説明している。7月12日、日韓事務レベル会合に出席した韓国当局者は、日本側がWTOの協定違反には当たらないと主張したのにたいし「理解も納得も同意もできない」と述べた。
   一方、安倍首相は7月3日、日本記者クラブ主催の党首討論会で「1965年の日韓請求権協定で互いに請求権を放棄した。国と国の約束をたがえたらどうなることか、ということだ」「約束を守らないうえは今までの優遇措置は取らない」と述べており、最高責任者の見解では、輸出規制強化措置の理由は明らかというべきだろう。
   日本政府は対韓国輸出規制を二段階で実施する方針だ。第一段階はリスト規制として対象品目を上記3品目に限定して7月4日に発動された
が、第二段階は非リスト規制として8月末以降に発動されると見込まれる。そこでは韓国をホワイト国から除外し、食品や木材などを除く全品目のうち、経産省が指定する品目のすべてが対象となる。
 
   7月18日、韓国外務省は、日本政府が1965年の日韓請求権協定にもとづいて要請していた仲裁委員会の設置に応じない方針を正式に示した。一方、日本政府による事実上の対抗措置とみられる半導体材料の輸出規制強化では、韓国がWTO(世界貿易機関)に提訴すべく準備をしている。
   7月23、24日、WTOの一般理事会がジュネーブで行われた。韓国は日本の輸出規制強化問題をWTOの第一次審査の前段階である2国間協議のテーマとして取り上げるべく参加国の賛同を求めたが、一般理事会は加盟164カ国・地域に共通する貿易課題を議論するのが主な目的なので、加熱する日韓の対立の解決になぜ一般理事会が使われるのか、この段階では参加国の理解は必ずしも得られなかった。しかし韓国の代表者は記者会見で「反応がなかったことは韓国側の提案が支持された証拠だ」述べた。
   注意すべきは、韓国はWTOを舞台にした貿易紛争ではかなりの実績があることだ。例えば直近では、福島など東北8県の水産物に対する韓国の輸入禁止措置を、日本がWTOルール違反として訴え、一審では勝訴したにも関わらず、2019年4月の最終審では逆転敗訴した苦い経験もある。
   この時、一審で敗訴した韓国が最終審で勝つべく入念な準備をしたと言われる。あるWTO関係者は、韓国は最終審での口頭尋問に備え、ジュネーブのホテルに約2週間、缶詰になって予行練習したと打ち明けたという。今後、韓国は大規模はロビー活動を含め、周到に準備してくる可能性がある。
   ポンペイオ米国国務長官は、ASEAN地域フォーラムが開かれるバンコクで、7月31日、河野太郎外務大臣と韓国の康京和(カンキョンファ)外相と懇談し、日韓対立の仲介役を買って出る意向を示し懇談したが、具体的な成果はなかった。ポンペイオ長官の行動は数週間前にトランプ大統領が必要なら仲介役を買って出ても良いと述べたことを受けてのことと思われる。
   そして2019年8月2日、政府は輸出管理を簡略化する優遇対象国から韓国を除外する政令を閣議決定した。半導体材料の韓国向け輸出管理の厳格化につづく第二弾である。8月7日に公布し、28日に施行する。韓国むけの輸出の際に食品と木材を除くほぼすべての品目に経済産業省が個別審査を求めることができるようになる。
   日本政府が韓国を優遇対象から除外する政令改正を閣議決定したことについて、文在寅氏は「今後起きる事態の責任も全面的に日本政府にある」とし、「盗っ人たけだけしく大口を叩く」と日本を批判した。日本の措置に応じて我々も段階的に措置を強化する」と言明。文氏の発言を受けて、洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相は「韓国も優遇対象国から日本を外し、輸出管理を強化する」と表明した。
   
    さらに8月5日、韓国政府は、主要な部品・素材の国産化に向け研究開発投資に7年間で7.8兆ウォン(約8600億円)をあてると発表した。日本政府が輸出優遇国から韓国を除外したことへの対応策で100品目を戦略品目に指定した。このうち日本が輸出管理を強化した半導体材料3品目を含む20品目は1年以内に「脱日本依存」を達成するとしている。
    ところで、8月8日、「外国為替および外国貿易法」(外為法)に基づいて輸出規制の管理をする立場にある経済産業省が、7月初に輸出管理を厳格化すると発表してからはじめて半導体3品目の一部(サムソン向けレジストと見られる)を許可すると発表した。世耕弘成経産相は「韓国政府から『禁輸措置』との批判があり例外的に公表した」が、審査は公正に実施していると説明した。
    しかし、韓国政府は8月12日、安全保障に関わる戦略物資の輸出管理の優遇対象国から9月中に日本を除外すると発表。日本の輸出管理強化への報復である。
    そして8月15日の光復節(日本の併合から解放された記念日)に、文在寅大統領はそれまでの強烈な日本批判のトーンを緩和し、「日本が対話と協力の道に出てくれば喜んで手を握る」と述べ、日韓対立の沈静化に期待をにじませたと受け取られた。
Ⅴ.   軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄
    それから1週間経った8月23日、韓国政府は日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA:General Security of Military Information Agreement)の破棄を日本政府に通告した。協定は毎年更新することになっており、8月24日までにどちらかが破棄を通告しなければ、自動延長される。それを韓国政府は一方的に破棄通告することで協力体制を終了させたのである。
    この協定は、日韓両国が暗号情報や戦術データなどの防衛機密を共有するもので、当初は2012年に締結の予定だったが、韓国からの申し入れで2016年に締結された。2016年は北朝鮮が長距離ミサイルの発射と核実験を加速させていた時期にあたる。日米と米韓はそれぞれ安全保障条約を締結しているが、日韓両国ではこれは唯一の安全保障がらみの条約であり、アメリカを頂点として日本と韓国がいわば二等辺三角形の底辺として日米韓の安保体制を支える構造の重要な道具である。
     この情報共有体制は、例えば、北朝鮮のミサイルの軌跡を分析したり予測したりする時に役に立つ。韓国国防省はミサイル発射直後の情報をいち早く入手できる立場にあるが、着弾点近くの情報は日本のイージス艦などの情報収集がより精確であるとされ、日米韓の情報を迅速に総合することで、この地域の防衛体制の運営がより的確になる効果がある。
 
     日韓の対立が、元徴用工問題から輸出管理の強化問題へと発展する中で、韓国は(GSOMIA)を更新するかどうか検討するとして、日本から譲歩を勝ちとる材料としてきた経緯がある。日本政府は安全保障問題は取引に使うべきものでないとして更新を要請しつづけてきた。
     最近になって、韓国の態度に懸念を深めたアメリカは7月22日にビーガン北朝鮮担当特別代表を、同月下旬にはボルトン大統領安全保障補佐官、8月上旬にはエスパー国防長官を派遣して韓国に慎重な対応を促してきた。韓国政府内でも国防省筋はGSOMIAの継続を望んだが、大統領府の強硬派の意見が押し切ったとされる。
     8月23日にGSOMIAを発表した韓国当局者は「事前に米国の理解を得ていた」と主張したが、ポンペイオ国務大臣はじめ米国政府の高官は異口同音に「強い懸念と失望」として韓国政府の言い分を真っ向から否定した。これは同盟国に対する批判表現としては異例の強さである。
     韓国大統領府の関係者は発表後の記者会見で、文大統領が8月15日の光復節での演説で日本批判を抑制したにも関わらず日本側が無反応だった態度は「外交努力」を欠いていると批判し、これがきっかけであることを匂わせた。
     日米の安全保障関係者には、文大統領は安全保障の意味を理解していないのではないかとの疑念も生じているが、韓国大統領府関係者には、日米韓の密接な協力を前面に出すことは朝鮮民族の南北融和のさまたげになるという全く異質な考えもあるようだ。そこには文大統領が南北の融和と民族の統一を何よりも重要視するのに対して、日米は現状の南北の対立を前提として地域の安定と安全を確保するという安全保障観の大きな相違が伏在している。
     安全保障観の相違はともかくとして、GSOMIAの突然の破棄がこの地域の安全保障にどのような弊害とリスクを孕むかについては後述する。実際、破棄発表の翌日8月24日、北朝鮮は新型の短距離ミサイル2発の発射実験敢行した。それまでは、8月5日から20日までの米韓合同軍事演習への反発と位置付けていたミサイル発射をこの時点で行う意味は明瞭だろう。     
Ⅵ.    文在寅氏の思想と政権の体質
  今回の日韓関係の悪化の意味と背景そしてこれからを考えるには、文在寅という人物と彼の政権のあり方を理解する事がまず何よりも重要と思われる。
  太平洋戦争直後、朝鮮半島は米ソの勢力によって38度線を境に事実上分割統治されたが、1948年8月15日、李承晩がソウルで「大韓民国」建国を宣言。その直後、9月9日に金日成が「朝鮮民主主義共和国」の成立を宣言した。李承晩は併合時代の日本統治に反発してアメリカに亡命し、ハーバード大など最高学府に学ぶとともに朝鮮独立運動に一身を賭けたが、38度線をソ連に提案したアメリカに失望し批判を深めた。
  李承晩大統領失脚後、韓国の政治は”保守”と”革新”陣営の激しい相克の歴史を刻むが、私見では、保守というよりも日本の力を認めそれを利用しようという陣営と、革新というより反日・容共の陣営の対立図式と理解した方が解りやすいように思う。
  日本利用派の先駆は朴正煕大統領だ。朴は日本の帝国陸軍で訓練を受けた軍人(日本名は高木正男)だが、1961年クーデターで政治の主導権を握った。1965年朴正煕政権は時の佐藤栄作政権との間で日韓基本条約を締結した。基本条約に付随して元徴用工補償問題の原点になる「請求権協定」も締結された。この条約締結の見返り?として日本は韓国に8億ドルに及ぶ資金提供を行い、それがインフラや基幹産業の整備に注入されて後に「漢江(ハンガン)の奇跡」の原動力と言われたことは上述した。
  軍事ジャーナリストとして活躍している高橋浩祐氏はこの日韓基本条約の性格と韓国人の見方について鋭い観察をしている「RONZA」(2019.8.17)。その要点はこうだ。基本条約が結ばれた頃は冷戦がアジア地域でも深刻化していた時で、アメリカは共産勢力に対する防波堤として日韓の国交正常化そして基本条約の締結を急がせた。
  その頃、日本は高度経済成長の真っ最中で、所得は急速に上昇し、国際的にもアジア開発銀行をアメリカと組んで創設するなど存在感を高めていた。一方、韓国はまだ開発途上で一人当たりGDPは日本の1/8に過ぎず、日本の援助で高度成長のきっかけを掴みたい朴政権は日韓の国力の圧倒的な差の下で「不平等条約」を結ばされたという思いを問題意識のある韓国人は抱いているという。
   朴正煕大統領は自分の部下に暗殺されたが、朴政権の日本利用の系譜はその後、全斗換、李明博、朴槿恵政権への受け継がれていく。
   これに対して、日韓併合を民族の屈辱と捉え、日本の戦争についての謝罪も賠償も不十分で、戦後の体制を日本に根本から反省させ、日本を利用しようとしてきた”保守派”のこれまでも清算させねばならないという強烈な反日、そして必然的に親北朝鮮の流れがある。それは尹ボ善、盧泰愚、金泳三、金大中、盧武鉉、そして文在寅に受けつがれる。その系譜の中でも、文在寅は特別に強力な反日そして容共派と言える。
   それは単に思想的な信条だけでなく、彼の場合には、経済的そして国際政治的力量も、彼の理想を実現するために充分にあると自分自身考えていること、そしてそれは単に画餅でなくそれなりの実績を挙げているという自信に裏付けられた行動に結びついているという点で、彼の先輩達にはない強烈さを秘めていると言える。
   一つには、現在の韓国の経済力が彼の先輩達の時代とは比較にならないほど高まっていることがある。1960年代には韓国の一人当たりGDPは日本の1/8だったが、近年では名目的には日本の85%、実質的には同等以上。サムソンなど主要先端企業は世界市場で大きなシェアを誇っている。
   今一つは、親北派の悲願である南北対話を金委員長と手を取り合って休戦ラインを超えるという劇的な形で実現したばかりでなく、トランプ大統領に接近して米朝首脳会談の契機をつくったという自覚が国際政治のリーダーとしての自己認識となっている。
   これらの経済的ならびに国際政治的プレゼンスの高まりは相対的に韓国にとって日本の地位と重要性を低下させる。一方の安倍首相は日本憲政史上最長の首相になるなど国内的また国際的リーダーとして強い自己認識を持っており、互いに容易に譲歩や妥協はしない状況になっている。
   ちなみに、文在寅氏は1953年、韓国南部の巨済島の生まれ。両親は現在に北朝鮮地域出身のいわゆる「失郷民」で、今も叔母が北朝鮮にいる離散家族。大学時代、朴正煕政権を批判する民主化運動に参加して逮捕、服役を繰り返す。出所後、司法試験に合格するが前歴から検事や判事にはなれず、人権弁護士として知られていた盧武鉉と出会い、合同法律事務所設立。盧武鉉が大統領当選後は最側近として青瓦台で要職を歴任。
   盧武鉉は退職後、親族らが相次いで贈賄容疑で逮捕され、自身も検察の聴取を受け2009年5月自宅裏山の崖から投身自殺。文在寅は盧武鉉の国民葬を取り仕切ったあと政界入り。2012年大統領選に出馬、統合民主党の有力候補になったが、セヌリ党の朴槿恵に惜敗。しかしセヌリ党の内紛や崔順実事件で「共に民主党」は党勢回復。文在寅も朴槿恵大統領糾弾の1000万人ローソク集会などを推進し、朴大統領弾劾免職後は彼自身選挙を経て大統領となった。
   元駐韓国全権大使武藤正敏氏は大統領選直前の文在寅氏になんとか面会をすることができたが、彼は日韓関係の発展などには全く興味はなく、もっぱら北朝鮮との融和、竹島など日本との領土問題そして歴史問題に関心が集中していた印象を受けたと記している。武藤正敏『韓国人に生まれなくてよかった』1917年。南北融和と民族統一が最大の目標で、北の核は自己防衛で韓国攻撃はあり得ないと確信している模様。 
   日本の輸出管理強化に直面して文在寅氏は8月5日、「南北の経済協力で私達は一気に日本に追いつくことができる」と発言。高橋浩祐氏は文在寅氏の頭の中では 韓国にとっての敵性国家は北朝鮮ではなく日本になっているのではと思わせる発言と指摘している。    
   
Ⅶ.     日韓政府対立の展開と影響
   日韓政府の対立は、安倍政権が政治的動機から輸出管理強化という経済的手段にを採用したことから、アジア地域だけでなくより広い世界のサプライチェーンに混乱を発生させる可能性が出てきた。すなわち日韓の対立は日韓のみに限られず世界経済に波及する可能性があるということである。
   それだけでなく輸出管理強化という手法は、日本はトランプ流の経済的脅迫を採用するのか、あるいはFT誌が「日本の自由貿易主義は欺瞞だ」とコメントするなど国際社会での理解が得にくい。経済産業省は日本の輸出品が例えば北朝鮮に流れるなどのことがないよう韓国当局が充分に管理しているかといった安全保障上の管理であり、韓国の現状の管理を全面的に信頼できない面があるので、規制を強化すると説明している。実際、審査を厳格にした結果、レジストなど一部の製品については輸出を許可して”公正性”を演出している。日本政府は公式にはそのような技術的側面を強調しているが、それが国際世論の支持を得るように戦略を工夫し最大限の努力を傾注して行くことが肝要だ。
   一方、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄に至った日韓両政府の対立の展開は、東アジア地域での安全保障協力の重要な一環が損なわれたということで、日米韓の安保協力体制にほころびが発生したことを意味する。それは小さなほころびかもしれないが、協力体制の機能不全はいわゆる「力の空白」を生む恐れが大きい。実際、北朝鮮は軍事情報共有体制の欠陥を突くかのように短距離ミサイルの実験を繰り返している。また2019年7月末にはロシアの早期警戒管制機が竹島周辺で領空侵犯をし、また中国とロシアの核搭載可能な爆撃機が韓国の防空識別圏に侵入するなどの事件が発生している。日韓両国の対立が激化して協力が不在であることを見透  かしての挑発であるように思われる。本当に力の空白が生じた時には他の力が介入してくることは歴史が繰り返し証明している。
Ⅷ.    今後の対応について
  それではこの事態にはどのように対応すれば良いか。
  文在寅氏とその政権の主眼は南北の融和と民族の統一にあり、その先には南北の協力強化と統一すら志向されていると思われる。また自国の国力増加の認識と自分の国際的役割の高まりの自覚から日本の地位と重要性は大きく低下しており、日本への妥協や譲歩の可能性はますます遠のいている。
  文在寅氏の歴史問題へのこだわりは強く、1965年の日韓基本条約は日韓の国力の大きな格差の下で強制された不平等条約であるから歴史的に清算しなくてはならないとの信念は固く、それが2018年10月の大法院判決を「尊重する」との発言に反映している。文政権の底流には1965年の日韓基本条約は全面的に見直すべきとの考えがあっても不思議ではない。併合時代の日本帝国の統治の正当性を弾劾し、謝罪と全面的な賠償を請求しようという考えである。
  一方、日本政府は1965年の日韓基本条約は正当な国際条約であって二国間の約束の遵守は信頼関係の基礎と考える。さらに言えば、この条約は1951年のSF講和条約の規定に基づいている。SF講和条約では日本への賠償請求は大半の締結国が放棄したが、日本でなくなった地域との請求権問題は特別に取り決めを締結して解決すると規定した。韓国とはこの規定をふまえ65年に請求権協定を含む日韓基本条約を結んだ。この協定を改定することは戦後体制を規定してきたSF講和体制の前提も崩しかねない。
  しかも仮に日本が徴用工の個別補償に応ずると、それは請求権を一括して処理したことになっているアジア諸国で、賠償問題を敢えて蒸し返すことにつながりかねず、日本としては断じてそうした展開は認めることはできない。
  このように考えると、日韓の直面する対立の問題には、文在寅政権が続く限り解決の手がかりも可能性も見えにくい。
  こうした状況と条件を前提にすると、日本が採りうる対応は、日本が国際条約を順守する法的正統性について国際的理解を叶う限り求める努力を行う一方、文在寅政権の韓国の日本との信義や信頼を無視した要求や行動には取り合わず、無視ないし静観するのが成熟国としての合理的対応ということになろう。
  それはそれとして、最近、旧知の韓国知識人達とこの問題について深く語り合う機会があり、その中でこれからの日本の対応のあり方として参考になる示唆を得たように思うので、この機会に触れておきたい。これは8月末にベトナムで行われた国際プロジェクトに参加した際のことで、彼らは日本を良く知り、私と協力してこの国際プロジェクトを長年実行してきたことからも親日派の知識人である。教授達とこの問題について深く意見交換する機会があった。
  そのひとり、R教授によると、韓国の多くの人々は、慰安婦が戦時に日本の兵隊にレイプされたのに、日本からは”心からの謝罪”がない。そこに、韓国を信頼できない国としてホワイト国リストから外すという仕打ちを受けたので、反日感情が炎上した、という。その限りでは文喜相国会議長の発言に共感する人々も多いという。
  M教授は、今回の日韓対立問題は、法的正義と道義的正義の二面があり、法的には安倍政権の主張には理がある。しかし、国際関係は法的ルールだけで処せない道義的側面もあるのではないか。1965年の日韓基本条約は日韓の経済力に大差がある時に、しかも冷戦たけなわで日韓関係正常化へのアメリカからの圧力もある中で結ばされたいわば不平等条約である。対等な関係で条約を結びたいという道義的な意味も理解しても良いのではないか。
  比喩的に言えば、江戸時代末期に欧米列強との国力の大きな格差の下で日本が結ばされた安政の不平等条約について日本は大いに不満を持ったが、日本の国力が高まる中で、陸奥宗光らの活躍で不平等条約を30年以上経た後にようやく改正した故事もあるではないか、と指摘した。
  R教授は、慰安婦問題への謝罪について言えば、日本は本当に韓国と信頼関係 を築こうとしているのか、という疑問があるという。その問題を考える時、参考にされるのが、ナチドイツのホロコーストに対する謝罪のあり方がある。私もこの問題は学んでいるが、戦後ドイツはイスラエルはじめ被害を与えた多くの国々に対して”信頼できる関係”を構築することを最大の目標として、謝罪も賠償も真剣に行ってきた経緯がある。
  日韓関係の改善には、法的正義だけでなく、日本が隣国韓国と真に信頼できる関係を築こうという意思があるかも問われているように思う。法的正義を貫くと同時に隣国との信頼をどう構築するか、日本が近隣諸国とこれからの長い将来に向けてどのような国際関係を築きたいのか、政治家のみならず私達国民全体としてこの機会に改めて考える価値があるように思う。

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