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『激変する世界と日本の針路』(4)

本エッセイ「激変する世界と日本の針路」は、私が2019年1月28日に行った島田塾の年頭講演の講演メモを、今回から4回に渡って掲載するうちの第4(最終)回です。

Ⅶ.   安倍長期政権とレガシー
 1. 安倍第三期政権の誕生
 ・2018.9.21.安倍首相は自民党総裁選に勝ち、順当に行けば、2021.9まで3年間、自民党総裁
  の地位を確保。現在の自民党と安倍一強の状態が続けば、あと3年間、首相の地位も事実上
  確保したことになる。その暁には、安倍首相は、日本の憲政史上最長の首相となる。

  安倍氏が総裁選に勝って、史上最長の首相になり得るのは、自民党の総裁任期について規約
  変更が行われたからだ。その議論は2016年頃から自民党内で提案されるようになり、2017年
  の自民党総会で、これまでの連続最長3年2期から3年3期までの延長が認められた。
 
 ・今次、総裁選の対抗馬は、石破茂氏。総裁選では、安倍氏が国会議員と一般党員票の69%
  を獲得。総投票数553のうち、安倍氏は議員票329、党員票224を得た。石破氏は議員票は
  73だったが、党員票181を獲得して予想外の善戦と言われた。

 ・石破氏が党員票の45%を獲得した事実は重い。安倍一強態勢の中で、地方の一般党員といえ
  ども、反安倍に票を投ずることはそれなりの覚悟と勇気が要る。それにも関わらず、45%
  もの安倍批判票が出たことは、自民党員ですら安倍氏にたいするある種の”不信感”が根強い
  ことを示唆する。一般国民ならなおさらだろう。

  ・安倍氏の人気は2016年後半から急速に低下していた。それは安倍氏の任命した閣僚などに
   不始末や不祥事が頻発して任命責任を問われる事態がつづいたこと。それ以上に、森友
   問題や加形学園問題など安倍氏自身が関わったのではないか、と猜疑を持たざるを得ない
   ようなスキャンダルが政界のみならず世上の大きな関心事となったことが大きい。

  ・これに対して、安倍首相は、野党の追及も巧みにかわし、問題を官僚機構の欠陥として
   その改善に注力するという建前で、結局、問題解明はされずに、2017年10月の総選挙の
   勝利で、事実上の幕引きとなった。国民の多くが、正面からの説明を避けて問題の隠蔽
   を図る安倍首相の態度や対応に、不信感を募らせたことは否定できない。一般党員の45
   %が批判票を投じたことには、このような背景があったと思われる。

  ・国民は安倍氏の努力を評価する一方、安倍氏の性格や手法について一定の疑念や不信を
   抱いているだけに、残された3年の任期をフルに活用して、大多数の国民をなっとくさせる
   骨太の政治を今ことしてもらいたいと思う。


2.  歴代政権のレガシーと安倍首相の意欲
 ・安倍氏はその任期を全うすると、国民が良く記憶しているどの首相よりも任期は長くなる。
  例えば、吉田茂、鳩山一郎、岸信介、佐藤栄作、田中角栄、中曽根康弘、小泉純一郎など。
 ・任期満了が視野に入ると、政治リーダーは、国民の記憶に残るレガシーづくりに注力する
  ようになる。それは国民の関心を最後まで引きつけ、また、歴史に名を残すためである。
  安倍氏もおそらく例外ではないだろう。

 ・日本の歴代の首相は、どのようなレガシーを残したか?
  国際政治面では、吉田茂氏はサンフランシスコ講和条約を締結した。鳩山一郎氏は日ソ国交
  回復を達成した。佐藤栄作氏は沖縄返還を実現した。田中角栄氏は日中国交回復を実現
  した。小泉首相は北朝鮮と平壌宣言に合意し、拉致被害者の一部帰国を実現した。

 ・また、国内政治や経済政策の面では、田中内閣は”列島改造”を成し遂げ、中曽根内閣は国鉄
  民営化を達成し、小泉内閣は郵政民営化を実現した。

 ・これら歴代首相の業績に比して、安倍首相の業績は何か?

3.  国際政治面でのレガシー
 ・国際政治面では、日米関係、日中関係、日露関係が重要。

 ー日米関係:
 ・安倍政権は良好な日米関係を発展させるために注力した。オバマ大統領やトランプ大統領
  と個人的な信頼関係を築くために傑出した努力をしたことは評価される。
 ・制度的にも”積極的な平和主義”にもとづき軍事的な協力を強化する安保条約の改定、武器
  輸出三原則の緩和による日米協力の強化、米国からの武器輸入を拡大する安全保障大綱の
  見直しなどは米国から歓迎されている。日米関係の強化と発展は重要で評価すべきだが、
  これらはレガシーというよりはルーティンの充実。

 ー日中関係:
 ・2015年の尖閣列島問題以来、日中の政治的関係は冷却していたが、日中国交回復40周年に
  当たる2018年には、李克強総理の訪問はじめ関係がやや進展し、2019年には習近平主席の
  訪日も企画されているようだが、これは多分に、トランプ氏の貿易戦争に対する中国の味方
  づくりの意図?
 ・2018年10月には安倍首相が中国を訪問し、習近平主席と会談したが、両国の関係強化
  を謳ったものの実質的進展はなかった。日本にとってこれから中国の重要性は政治的にも
  経済的にも大きく高まることは確実だが、信頼できる関係を築くには、相互理解を大きく
  深める必要がある。中国は安倍首相の政治スタンスに疑念を持っており、安倍首相も本格的
  な信頼醸成を進めようと考えているのか、大きな課題が残る。
 
 ー日露関係:
 ・安倍首相はプーチン大統領と、24回も会談しており、個人的に親密な関係。
 ・安倍首相の最大の関心は北方領土の返還。これをレガシーにしようとの思いがにじむ。
  しかしプーチン大統領は手強い交渉相手であり、北方領土の返還が実現するかは不透明。
  2018年9月にプーチン大統領が提起した平和条約先行案に乗って、結局、良くて主権なき
  2島返還と多大な経済協力に終わる可能性。
 ・果たして北方領土の返還を今、多大なコストを払って追求することが国益か検討必要。
  名目的一部返還がありえても、それはレガシーには相当しないのでは。
 
4. 国内政治と経済政策でのレガシー
 ・憲法改正、アベノミクス、そして累積財政赤字問題が重要。

 ー憲法改正:
  ・憲法改正は安倍首相がおそらく最大のレガシーとして実現したい課題だろう。
  ・1955年の自民党結党の趣旨の一つは自主憲法の制定であり、レガシーにしたい意欲
   はわかるが、それを今、拙速で追求することが国益になるか疑問。
  ・現実的な改正案の焦点は、憲法9条の2項を残したままで「自衛隊」の項を付加する?
   それ自体論理矛盾であり、公明党や批判的世論への妥協。むしろ2項削除で自衛隊を  
   位置付ける石破案の方が判りやすい。しかしそれは拙速で追求すべきはない。
  ・戦後、現代史の教育をしてこなかった日本では、国民の理解が不十分。そこで拙速な
   改憲の推進は、いたずらに左右の不毛な論争を助長するだけで国益とは遠い。むしろ
   現代史教育の充実に注力すべきではないか。

 ーアベノミクス:
  ・安倍内閣が提唱し推進してきたアベノミクスは、重要な経済戦略であり、一定の成果
   を挙げている。これがレガシーになるか、以下に詳細に検討。
 
  ・総合評価:アベノミクス5年=45点
        第三期安倍政権経済政策評価=25点
 
Ⅷ.    アベノミクス5年の評価
 1.  第一次アベノミクス:三本の矢
  ・安倍内閣の目標:デフレの脱却、財政再建、持続的経済成長
  ・それを実現するための三本の矢

  1)第一の矢:金融    
  ・デフレは貨幣供給の不足が原因との認識
  ・黒田東彦日銀⇒異次元的金融緩和
   2013年4月言明:
    ベースマネー供給を2年間で2倍:130兆円から270兆円へ⇒2年以内に2%インフレ達成
  ・世界投機→円安→株価↑、2012末8000円から2013.5、1.5万円、最近2万円強、
   企業利益↑
  ・インフレ:2013年やや↑、2014年央から失速、その後も2%目標に届かず。
  ・ベースマネーストックはGDPに匹敵(500兆円)、出口戦略の大きな課題

  2)第二の矢:財政政策
  ・機動的積極的財政政策:大型財政支出、年次予算と補正予算(災害対応、消費税対策等)
  ・財政再建目標(2020年、基礎的財政収支Primary balance均衡or黒字)遠のく。
    →莫大な財政赤字(GDP比220~240%)→財政危機の可能性

  3)第三の矢:成長戦略
 ー第一次成長戦略は、2013年6月に閣議決定。その内容は:
    ・日本産業再興プラン:(産業、人材の新陳代謝:「産業競争力法案」)
    ・戦略市場創造プラン(健康、エネルギー、次世代インフラ、稼げる地域育成)                
    ・国際展開戦略プラン(FTA比率を19%から70%へ)。TPP 、RCEP (東アジア地域
    包括的経済連携) FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)華々しい提案だがいささか抽象的。

  ー第二次成長戦略、安倍首相は自ら岩盤規制に穴を開けるドリルの刃になる覚悟と称して、
   2014年6月に発表した。これは確かに意欲的な構造改革戦略で分量も詳細に見れば
   数千項目に及ぶ膨大な計画で、海外では、The Third Arrow ではなくThe Thousand
    Needlesと評されたが、それなりに評価された。

   ー内容は主な分野だけでも:
     1)企業統治と資本市場の改革
     2)競争力強化法(2013年12月制定)
     3)TPP参加と交渉プロセス
     4) 農業改革
     5)働き方の規制改革
     6)女性の活躍支援:
     7)地方創生:
     8)社会保障:
     9)医療改革:
     10) 国家戦略特区
     11)賃金引き上げ:
     12)法人税引き下げ:2018年29%へ(5年間で7%)

   ーこれらの取り組みのめぼしい成果は(1)企業統治と資本市場の改革はコーポレート
    ガバナンスや収益率の改革を通じて日本の企業行動や資本市場に一定の改善。
   (3)TPP参加と交渉プロセスは参加12ヶ国とのマラソン交渉を成し遂げそのための
    農業を始めとする国内の構造改革もかなり進展した。(4)農業改革は減反制度の廃止、
    農地所有制度の改革、農協改革など困難な分野に相当な進捗があった。

   (5)働き方の規制改革では、成果報酬制度や解雇の金銭補償などが実質的に進まなかった
    のは残念。(6)女性の活躍支援も声だけ。(8)社会保障は構造改革の本丸だが、ほと
    んど何も進まなかった。(9)医療改革は混合診療改革に一定の進捗が見られたが、膨大
    な重要項目はほとんど触れられなかった。意欲的な取り組みは大いに評価されるが、
    構造改革の困難さが浮き彫りにされた。

  ー第三次成長戦略は、2015年6月に発表された。その柱は生産性向上、イノベーション、
    サービス産業、ローカルアベノミクスとされ、その主な内容には、産業の新陳代謝の
    促進、雇用制度改革・人材力の強化、大学改革・イノベーション、市場創造などが並んだ
    が、実質的な内容がほとんどなく失望。安倍首相の関心がもっぱら新安保法制に注がれ
    た時期のため?安倍政権の経済戦略に取り組む熱意がこの頃から感じられなくなった。

 2. 第二次アベノミクス:一億総活躍を実現する新三本の矢
  「一億総活躍」(2015年11月):若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病の人も、一度
   失敗をした人もみんなが包摂され活躍できる社会」と定義。それを実現する三本の矢:

  ー第一の矢:”希望生み出す強い経済”⇒2020年までにGDP 600兆円   
      投資促進、生産性革命、イノベーションベンチャー創出力強化、成長担う人材創出、
      名目成長率3%を実現しつづけていけば2020年には600兆円達成可能。

  ー第二の矢: ”夢つむぐ子育て支援”⇒2020年代半ばまでに希望出生率 1.8 実現
      若者の雇用安定と待遇改善、サービス産業生産性向上、結婚支援充実、妊娠・出産・育児
      支援、子育て支える三世代同居・近居しやすい環境づくり、多様な保育サービス充実、
 
   ー第三の矢:”安心につながる社会保障”: 介護離職ゼロ 
     高齢者ニーズに対応した介護サービス基盤、介護人材の確保、高齢者に多様な就労機会確保、
     障害者、罹病者の活躍支援、介護家族が介護休業、休暇をとりやすい職場環境

   ー海外の高い関心と期待:(The Economist とAdam Posen FT)
            ・”Overhyped, under appreciated” The Economist July 30, 2016
            ・Adam Posen “Abe’s stimulus is a lesson for the world” FT, 2016.8.3.
        先進成熟国はどこも人口高齢化と労働力増加の低減で潜在成長力低下に直面。
     安倍政権の「一億総活躍」は先進成熟諸国にとって注目すべき挑戦・実験。

 3. アベノミクス5年の総合評価
  1)経済成長
   ・景気回復:2012.12に開始、2019.1に74ヶ月、戦後最長。
     いざなぎ景気(57ヶ月)、小泉景気(73ヶ月)
   ・景気回復の実感がない?
     安倍景気:経済成長率1%強、いざなぎ景気(平均10%)は高度成長期
     安倍景気回復は困難な環境:
      サービス化で生産性成長1%、労働力減少-0.7%、純潜在成長力0.3%
     潜在成長力を上回る長期成長は評価できる。
   ・評価:▲
 
  2)サプライサイド:労働力参加↑
   ・潜在成長力を上回る経済成長必須の時代
     デフレギャップ(総供給ー総需要)が縮小ないし解消
     総供給力↑必須:技術革新で生産性向上、人口減少化で労働力↑

   ・労働力率↑戦略課題:女性、高齢者労働力率↑の実績↑
     労働力率:近年(最近5年ほど)女性の労働力率の高まりによって労働力人口が増加
     する傾向。2017年労働力人口:6528万人(前年を1%↑)。97年の過去最高6557
     に迫る。女性とシニアの労働参加↑で15~69歳女性労働力率67%(2012)→68.2
     (2017)。女性の就業率、今やアメリカ以上。しかし、2025年には限界?↓予期。
  ・評価:▲

  3)自由貿易圏の推進
   ・TPP:2018年12月発効
     アメリカが2017.1.に離脱した後も粘り強く協力、推進。
     11カ国、6億人、アメリカ除いてもなお大きなシェア
     もっとも進化した総合的自由貿易協定。物品、サービス、知的所有権など。
   ・日欧自由貿易協定:2019年2月発効
     5億人の大きな先進国市場
     世界の自由貿易枠組み維持に大きな役割
  ・評価:●

  4)働き方改革
    ・「働き方改革」はアベノミクスの成長戦略の中で最重要と位置づけられた改革
      ・日本はサービス経済化が進むにつれて労働生産性が主要国に比べて立ち遅れ。
     それは日本の労働時間にもとづく賃金制度が、労働の成果が問われるホワイトカラー
     労働になじまないため。また雇用制度が硬直的で環境変化に対応しにくい欠陥も。

    ・安倍政権は成長戦略の構造改革として「成果報酬制度」と「解雇の金銭補償」を
     提案したが、労働組合、野党の反対、そして労働省の抵抗もあり、2013年の問題提起
     から5年を要して2018.6.29に成立した「働き方改革の関連法」は生産性向上にかけた 
     安倍首相の企図とはかけ離れたもの。
    ・「解雇の金銭補償」は門前払い、「成果報酬制度」は年収1075万円以上の非常に少数
     の対象者に限られ、その反面、労働時間短縮と賃金の格差是正には厳格な規制と監督
     が課せられることになり、企業の負担が高まる反面、労働生産性向上の効果は
     ほとんど望めない結果となった。
    ・評価:✖️

  5)外国人労働力の導入
   ・2018.6.5「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」で”外国人の受け入れを
    拡大するため、新たな在留資格と創設”と課題提起。
   ・政府部内の検討と国会審議を経て、2018.12.8. 「出入国管理・難民認定法(入管難民
    法)」改正案は参院本会議で可決、成立。
   ・在留資格として「特定技能1号」と「特定技能2号」を新設。
    1号には、技能実習3年の経験または日本語と技能試験に合格すれば資格取れる
     ただし、家族帯同は不可。単純業務14業種想定。
    2号は、さらに高度な試験に合格。家族帯同・事実上の永住可。
   ・特定技能者は、2019.4から5年間で34万人想定
   ・特定技能で見込む14業種:介護6万、外食5.3.、建設4、ビルクリーニング3.7、農業3.7.
   ・入国在留管理庁へ格上げ。300人増員。
   ・参考:在留外国人263万人。うち働く外国人218万人:
     永住・結婚45.9万人、留学アルバイト29.7、技能実習25.8、専門研究23.8
  ・評価:▲

  6)インフレ目標
   ・安倍政権の経済戦略の主眼はデフレ脱却。
   ・黒田日銀はインフレ目標2%追求。
   ・2013年にはややインフレは高まったが、2014年中頃から停滞。以降、1%強にとどまる
   ・デフレマインドの定着?
   ・2%実現目標の先延ばし。果たして2%実現に固執し、ベースマネー供給を増やし続ける
    ことは必要か?出口戦略の困難などむしろ弊害が大きいのではないか。
   ・アベノミクスの主眼だったインフレマインド醸成は失敗?
  ・評価:✖️
  アベノミクス5年の総合評価:▲、▲、●、✖️、▲、✖️=45点
 
 
Ⅸ.    安倍政権の新たな経済政策
1.  消費税引き上げと対策
  ・2019.10。消費税8%→10%への引き上げ予定。
  ・増税にともなう消費減への対応として、2兆円ほどの対策を2019年度予算に盛り込み。
  ・消費税2%増税にともなう国民負担増はそのままでは5.6兆円。軽減税率1兆円、教育無償化
   1.5兆円を差し引くと、実質国民負担増は3.2兆円。
  ・増税対策約2兆円:
    キャッシュレス決済でポイント還元5%、0.3兆円(オリンピックまで9ヶ月)
    プレミアムつき商品券 0.2兆円
    住宅ポイント制度給付金 0.2兆円
    住宅ローン減税、自動車税減税、防災・減災公共事業 1.3兆円
  ・対策後の実質負担は1.1兆円
  ・5.6兆円の増税にたいしてここまで対策をとる必要があるのか?増収は1.1兆円止まりに。
  ・増税の消費への影響を過度に懸念? 財政健全化に資さない増税の意味はあるか?
 ・評価:✖️
 
 2.  教育無償化
 ・教育無償化論は2017.10.総選挙の論点として急浮上。安倍首相は、消費税8%→10%の2%
  増税で期待される5.6兆円の増収分をこれまでは財政健全化に使う方針だったのを、3兆円
  ほど教育と社会保障の充実に使う使途変更をしたいので、総選挙で国民の信を問いたいと
  した。なぜか教育無償化は野党もこぞって主張していつの間にか社会通念化?

 ・教育無償化は、義務教育の前後すなわち保育と高校の無償化を企図。当初、2兆円規模
  想定。そのうち0.3兆円は安倍氏は産業界から支援期待とした。2019年度予算では結局
  1.5兆円を見込む。

 ・教育無償化には意味があるか?保育と高校教育はほとんどの家庭がすでに負担しており、
  「無償化」による若干の支援は家庭への付加給付となり、進学促進になるかは疑問。
 ・むしろ優秀で意欲もあるが、家庭の困窮で進学や学業持続が困難な学生をきめ細かく
  重点的に支援すべきではないか。
 ・また優秀な学生に留学などさらなる支援で出る釘を伸ばす支援の方が人材戦略として
  は効果的ではないか。
 ・安倍政権の「教育無償化」にはバラマキによる選挙対策の色彩?
・評価:✖️
 
3.   2019予算
 ・2019年度予算は史上最大の101兆4564億円。
 ・歳入は税収62.49兆。新規国債発行32.66兆(税収が増えたので、国債発行は3.1%↓)
 ・歳出は、社会保障34.59兆(自然増)、消費税対策2.28兆、防衛5.26兆など。
 ・社会保障改革手付かず。財政再建さらに遠のく。
・評価:▲
 
4.   技術革新による生産性の向上
 ー産業競争力会議報告 2018.6.15.
  ・「未来投資戦略218:”Society 5.0” ”データ駆動社会”への変革」

  ー「新しい経済政策パッケージ」(2017.12.8.閣議決定)
   ・2020までの3年間を、生産革命・集中投資機関とし、大胆な税制、予算、規制改革
   ・Society 5.0の実現に向け、最先端、総合取り組み
    第四次産業革命の社会実装、現場のデジタル化と生産性向上、データを共有財産とする
   ・GDP600兆実現

  ー生活と産業の変容
   ・自動化:移動、物流革命で人手不足、移動弱者解消
   ・次世代ヘルスケアシステム構築
   ・遠隔、リアルタイム化:地理的、時間的制約の克服
   ・経済の糧:分散型セキュリティー(ブロックチェーン活用)ビッグデータ活用
     エネルギー転換、脱炭素化イノベーション、Fin Tech, Cashless化
  ー産官協議会、未来投資会議
 ・評価:▲

5.  金融の出口戦略
 ・デフレ脱却をめざして黒田日銀がベースマネーの供給を増やしつづけた結果、今や、ベース 
  マネーのストックはGDPに匹敵する巨額に達している。リーマンショック後、超金融緩和で
  ベースマネー供給を増やしてきたが2015年にそれを停止した時のベースマネーストックは
  GDP 比で約2割。それでも出口戦略を完結するには10年以上かかるとされている。

 ・日銀はすでにGDPに匹敵するベースマネーを提供しており、出口戦略をいかに実現する
  かは想像を超える。大量の国債を市場で売却すれば価格が下がって金利が暴騰する
  リスクがあり、金利の正常化はマネタリーベース(大部分は銀行から預かっている当座預金)
  の金利を引き上げるので、日銀の経営を圧迫するリスクがある。

 ・田幡直樹氏は日銀保有国債の満期到来額を平準化し、市場と情報を共有しつつ再投資を漸次
  停止するなどの方法で混乱を最小限にできると提言している。これは平時ソフトランディング。

6.  出口戦略が機能しない場合のリスク
 ・異次元緩和にそもそも出口はあったか?
 ・390兆円の当座預金の金利1%↑でも4兆債務超過。莫大な評価損。
  2017.9.の質的緩和から長期国債購入↑。金利↑→評価損↑。
 ・藤巻健史氏:現在の日銀を破綻させて日銀の債務である通貨を解消。新しい日銀設立
 ・国民は税負担を忌避するので、財政再建は、ハイパーインフレで政府債務を圧縮=事実上、
  国民に政府債務を負担させるのが、打開策?
 
 ・評価:✖︎
 
   第三期安倍政権発足時の総合評価:  ✖︎、✖︎、▲、▲、✖︎ =25点
 
 
Ⅹ.   安倍首相が追求すべき真のレガシーとは
 1.  日本の深刻な累積財政赤字問題
 ・日本の財政は深刻な累積赤字問題を抱えている。累積財政赤字はGDP比220ないし240%
  (財政赤字の定義による)に達し、国際的にも歴史的にも最悪の状況。歴史的には敗戦後
  の205%をはるかに上回る。
 ・日本は1990年までは赤字比率はEUの財政基準をクリアーするほど低かったが、2000年には
  世界最悪となった。1990年以降、日本経済がほとんど成長せず、賃金に連動する社会保障
  拠出が伸びなかった反面、高齢化が急進して社会保障給付が膨張したことが、社会保障会計
  の赤字を急増させ、その差額を賄う国債発行が大きく増えたことが主たる要因。
 ・”失われた”期間に、日本の雇用と社会構造は大きく変容し、不安定雇用の増大で勤労世代の
  1/4ほどは家族の再生産が困難な状況に陥っている。

 2. 迫る財政破綻の危機
 ・2020年代前半には、70歳代の人口が急増するので、財政赤字の累積は加速すると予想される
  が、それは何らかのショックで財政破綻につながる危険を孕む。
 ・財政破綻のトリガーはいろいろあるが、高齢化の進展にともなって、現在1300兆円ほどの
  家計純資産総額の伸びが鈍化している反面、1200兆円ほどの財政累積赤字総額が増え続けて
  おり、今後、10~15年に両者が逆転する可能性が高い。そうなると新規に発行される国債
  を購買する国民の資金がなくなるので、海外投資家に期待することになるが、海外投資家
  は財政不安を抱えた国の国債を現行の”日銀相場”では購入しないだろうから、国債の利回り
  そして金利が高騰するおそれが大きい。それは政府の国債発行と民間の資金調達を
  困難にするので、財政破綻から経済破綻に陥るおそれが大きい。

 3.  財政ー経済破綻の怖さ
 ・世界では数年ないし10年に一度くらいの頻度で経済破綻が起きており、日本だけ例外では
  あり得ない。ロシア経済破綻(20世紀末)時は、GDP激減、平均寿命↓。
 ・日本はWWII直後、財政破綻に直面。政府債務は推計 GDPの205%(現在240%)。政府は
  財政破綻を避けるため、預金封鎖、新円切り替え、財産税で国民の資産を収奪。それは
  明治憲法下。今はそんな手段は取れないが、藤巻氏はハイパーインフレは同じ効果という。 
 ・危機サバイバルの手段:(1)農業で食料確保、(2)安全通貨(ドル?)保有、(3)
  仮想通貨?

 4.  財政再建問題に取り組まない安倍政権。
 ・安倍政権は財政再建に真剣に取り組まず、むしろ逆行している。2015年に予定されていた
  消費税引き上げを2回延期し、ようやく2019年に実行することにしたが、4年間の延期で
  財政赤字は約100兆円も増えた。
 ・また、2019年度予算では、消費税2%P引き上げから期待される5.6兆円を教育無償化や消費
  増税対策費などで増ほぼ相殺し、財政再建を遅延させている。
 ・累積財政赤字は、財政破綻のリスクだけでなく、世代会計で見た世代間の格差を極端に拡大
  しており、日本は世界でも、世代間で最も不公平な構造の国となっている。

 5.  財政再建こそ安倍政権の真のレガシー
 ・この深刻な財政問題は小手先の財政操作で解決できるような問題ではない。しかし、
  解決策はある。
 ・消費税を例に取るなら、1%は約2.5兆円の税収。20%は50兆円。これを24年続ければ1200
  兆円の財政赤字は吸収できる。高齢社会に増える相続税収も活用すれば再建は加速する。
 ・他方、国民に安心を提供して納得を得るためには、現在の年金、医療、介護、失業保険
  だけの社会保障でなく、生涯にわたるシームレスな「安心保障」システムを1200兆円
  かけて構築する。
 ・両面を50年かけて同時並行すれば、日本は財政再建と安心社会の構築を実現できる。これ
  は、付加価値税20%の成熟欧州諸国と同様な姿であり、半世紀をかけて「安心国家」を
  つくること、それこそ安倍首相が将来のために国民に残すレガシーではないか。

 5. 後継者の育成は最善のレガシー
 ・安倍首相が今ひとつ心がけるべきは、後継者の育成である。組織はGoing Concernである
  から、そのリーダーの最大の使命は後継者の育成と言われる。国家の指導者も同様。
 ・偉大なリーダーであった田中角栄氏は7奉行を育て、その中から総理大臣を輩出した。
  安倍首相自身も、小泉純一郎首相の後継者として帝王学を学ぶ機会を享受したのでは
  なかったか。
 ・その安倍首相について内外の関係者がもっとも憂慮しているのは後継者の不在であり、
  さらに言うなら、安倍首相自身が後継者の台頭を抑圧しているように見えることである。
  総裁選に挑戦した石破茂氏の処遇、安倍氏の意に沿わなかった小池百合子氏への対応など
  は残念な事例だが、安倍首相が国家の真のリーダーとして残すべきもっとも大切なレガシー
  は後継者であることを銘記すべきと思う。


Ⅺ.   世界経済の展望と課題
 1.  長期持続景気終焉の兆し
 ・世界経済はリーマンショックのを底にして、その後、アメリカ経済を筆頭に長期景気回復を 
  続けてきた。アメリカ経済は、2009.6を谷に景気回復をつづけており、2019.1で115ヶ月。
  もし2019.7まで続くと121ヶ月で戦後最長記録を上回る。日本経済は2012.12から景気回復
  がはじまり、2019.1.には74ヶ月で戦後最長になる。

 ・日本経済の長期景気回復は、四半期で連続マイナス成長がないという条件で達成されたもの
  で、6年間の成長は年率で1%前後の緩やかなもの。したがって好景気の実感がなかった。
  2016年後半からは成長率がやや高まったが、これは世界経済の好調を反映する面が大きい。
 ・長期景気回復は世界的に成熟段階に達している。それは労働需給の逼迫、資産価格の上昇、
  また期待成長率の漸減による投資活動の低下などに反映。長期景気が成熟してくると、
  何らかのショックで景気後退に陥る可能性が高まる。2019は長期景気が終焉するリスクを
  多分に含む展開に。

 2.  トランプの煽り景気とその反動
 ・トランプ政権は、その経済戦略として、大規模減税、大規模インフラ投資、高率関税付加。
 ・超完全雇用経済に大減税→インフレ加速。→減収と財政赤字。インフラ投資も同様。
  関税戦争はリスク↑→リスクプレミアム↑
 ・トランプ政策は世界経済に大きなリスク要因。景気後退の引き金引くおそれ大。

 3.  米金利上昇と世界景気下押し懸念
 ・トランプ政策による景気過熱を抑制するためPowell FEDは利上げ継続。それは必要。
  トランプ氏は利上げを批判しているが、利上げで抑制なければスタグフレーション。
 ・成長期待と貿易戦争リスクにPowell 利上げが重なって長期金利↑傾向。
  新興国や弱小国から資金がアメリカに流出→ドル高。借金国の財政破綻。世界景気後退。
 
 4.  Brexit, 貿易戦争の経済縮小効果
 ・Brexit、貿易戦争などは、世界経済縮小(成長率1~2%↓)とリスク↑

 5.  自国第一主義と国際協調
 ・世界景気後退への対応策、財政・金融政策での国際協調不可欠。
 ・トランプなど自国第一主義は国際協調を阻害し、景気後退への対応を妨げるおそれ。

 6.  狭まる選択肢と活路の可能性
 ・来るべき景気後退に際しては、リーマンショック時にくらべ、選択肢の幅が狭い。
 ・財政赤字↑で財政出動の余地少ない。アメリカ以外は超低金利で金利刺激の余地乏しい。
 ・狭い政策選択余地の中で、いかに景気後退を緩和し、景気回復をめざすかは大課題。

7. 総括展望
 ー長期景気の終焉:長期景気(アメリカ10年、日本6年)の成熟。
   労働力不足、不動産など資産高騰、成長期待↓で投資停滞。

 ー景気は減退?後退? ソフトランディング? ハードランディング? クラッシュ?
  ・10~15年後には財政危機(国民純資産総額<政府総債務)
  ・オリンピック後の不況
  ・2019夏のクラッシュ?(Bernankeコメント)
 
 ーハードランディングもしくはクラッシュのTriggerは?
 (1)トランプ経済政策の破綻:加熱景気、インフレ、金利↑、輸出↓、弱体国、債務国危機。
 (2)No Deal Brexitの衝撃:流通、金融に打撃、GDP:数%~1%↓
 (3)中国:景気後退、株価↓、(Yellen議長時、利上げを延期)
 (4)途上国、弱体国、債務国:通貨↓、インフレ↑、金利↑、→世界景気↓。
 (5)日本:異次元緩和の出口戦略機能せず、金利↑、円安⬇︎、crashの引き金も?

 ーTriggerはどう作用し、ハードランディング or クラッシュになるか:リーマン危機の教訓
  ・21世紀初頭、ITバブルから長期景気、成熟、加熱
  ・アメリカのサブプライム膨張、返済不能、2007 ベアスターンズ証券債務不履行問題
   メガ投資銀行に波及、リーマン破綻、AIG(破綻保険など)救済
  ・G20結成→国際経済協力(財政、金融)、中国4兆元(60兆円)景気対策など。
  ・波及:日本はサブプライム浸透なかったが、輸出↓で株下落最大。

 ー上記5つのトリガーは、いずれも世界景気ハードランディングの引き金を引き得る。

 ーリーマン時と現在の違い。
  ・リーマン時は経済にクッションがあった。高金利、財政力
  ・現在:低金利、財政赤字累積。クッションがない。
   ショックへの抵抗力、耐久力弱い。ハードランディングになりやすい。
  ・リーマン時、国際協力機構機能していた。
   今、国際協力は、トランプ流の自国中心主義、ナショナリズム台頭で阻害。

 ー景気後退は景気循環現象で避けがたい。
  ・安倍政権は、2019.10の消費税2%↑の影響緩和として消費税対策2兆円など。
   景気下押し圧力緩和への微調整に注力している時か?
 ーショック抵抗力、耐久力の不足、国際協力の機能不全を踏まえ、危機をどう克服するか。
  今年の最大課題。

 ー日本は国際経済協力で役割果たせる。
   TPP11(2018.12発効)、日欧FTA(2019.2発効)は重要な成果
   G20議長国(2019.6)に国際経済政策協調でリードすべし。
    G20に政策協議+監視機能機関を。(田幡直樹「日経」2018.12.22)
 

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