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『激変する世界と日本の針路』(2)

本エッセイ「激変する世界と日本の針路」は、私が2019年1月28日に行った島田塾の年頭講演の講演メモを、今回から4回に渡って掲載するうちの第2回です。

3. メルケル政権後のドイツ

 1)2017.9総選挙の与党大敗からメルケル退陣へ
 ・2017.7に島田村塾はドイツに研修訪問をした。4年に一度の総選挙を2ヶ月後に控えて、
  ドイツは選挙モード一色だった。その中で印象的だったのは、メルケル氏が4選するとの
  見方が多かったことだ。
 ・メルケル首相は、中東などから大量の難民・移民が欧州をめざして流入し始めた2015年に、
  人道的立場から彼らを受けいるべきと主張し、EU各国に受け入れの割り当てを提案する
  に及んで、EU諸国のみならずドイツ国内からも強い批判を浴びて人気が急落した時期が
  あった。メルケル首相はその後、受け入れ政策に慎重になったが、そうした負の遺産が
  あるにも関わらず、選挙に強いメルケル氏の”神話”はなお健在に見えた。
 ・メルケル氏は牧師の娘で東ドイツ育ち。ライプツィヒ大学物理学部卒の理化女。ドイツ統一
  を成し遂げ、Euroに道を開いた大政治家Helmut Kohl氏の寵愛を受け、出世街道を駆け上り
  CDUの代表。社民党のSchroeder政権後、ドイツ連邦首相になって3期12年連投した。
 ・その間、リーマンショック後のドイツ経済の復活に尽力、Euro圏を危機に陥れたギリシャ
  問題を決着させ、また東ウクライナ紛争ではモスクワとウクライナのシャトル外交でプーチン
  と渡り合ってミンスク合意を取り付けるなど輝かしい業績は枚挙にいとまがない。EUを
  代表する大政治家の評価。
 ・そうした栄光が今なおメルケル神話を定着させているのかと思えた。
 ・ところが選挙の結果は、メルケル率いるCDU+CSUの大敗だった。各党の得票は以下の通り
           1.  CDU+CSU    32.9 %(―8.6%)     246議席(ー65議席)
     2.  社会民主党(SPD) 20.5%(―5.2%)  153議席(ー40議席)
     3.  AfD 12.6%(+7.9%)   94議席(+94議席)
     4.  自由民主党(FDP) 10.7%(+5.9%)  80議席(+80議席) 
     5.  左翼党(Die Linke)  9.2%(+0.6%)  69議席(+5議席)
     6.  同盟(Bundnis) 90+緑の党(Die Grunen)8.9%(+0.5%)  67議席(+4議席)
     ・CDU+CSUの大敗とは対照的にAfDの驚異的躍進が目立った。AfDは移民排斥を唱える
   ナショナリスト政党。ドイツの選挙制度では、連邦レベルで5%以上の得票率を得ないと
   国政に参画できない。AfDはそれまで地方の小政党だったが、今回の総選挙で一気に第3党
   に躍り出た。ドイツの選挙民がどれだけ移民受け入れの負担を忌避していたかが浮き彫り
   になった。対照的に、移民受け入れを唱えてきたメルケル氏に世論は背を向けた。
  ・CDU+CSUは第1党であってもそれだけでは過半数を取れないので政権は担当できない。
   これまで12年間連立を組んできたSPDが大連合を組んでくれれば政権を担えるが、Shultz
   氏率いるSPDは今回は頑ななに大連立を拒否した。大連立ではCDUの影に隠れて選挙民に
   アピールできない。これまでも独自性を出せなかったが、今、大連立を組むと、次の選挙
   では埋没どころか消滅さえしかねないという危機感をSPDは抱いていた。
 
  ・メルケル氏はやむなくFDP(自由民主党)とDie Grunnen(緑の党)と連立のための交渉
   を開始した。しかし、両党とも、CDUとは政策が大きく異なるので、連立交渉は不調に
   終わった。総選挙が済んで、3ヶ月近くが経とうというのに、連邦政権が組成できないと
   いう事態は歴史的にも空前の異常事態である。内外から決められないドイツの政治に対
   する批判は当然高まった。
  ・そうした中で、12月に入ると、シュルツ党首が、連立は必ずしも拒否はしないという姿勢
   に変化した。拒否はしないが、埋没を避けるために政策や人事で多くの要求を突きつけ
   た。何回も何時間にもわたるトップ交渉で調整が行われた。それだけでは済まず、地域
   組織や一般組合員の了承も得なくてはならなかった。2018.3.4に発表された最終的な党員
   投票の結果、ようやく大連合が了承された。総選挙から実に半年が経過していた。
  ・大連立内閣の構成は、多くのメルケル反対派が要職を占めており、メルケル首相の指導力
   はひどく低下していた。また、空費されたこの半年の間に、メルケル氏の求心力は著しく
   低下、ドイツの国際政治におけるプレゼンスも矮小化した。  
 
 2)ドイツ政治の立て直しと復権は?
  ・大連合はようやく成立したが、その前途には、選挙民の厳しい審判が待っていた。
   2018.10.14 南部バイエルン州の州議会選挙は、同地域を牙城とするCSUが大敗。
 
  ・得票率は、CDU+CSU37.2%(前回に比して-10.5%)、SPD9.7%(-10.9%)
   対照的に、緑の党17.5%(+8.9%)、AfD10.2%(+10.2%)
  ・さらに10.28のヘッセン州議会選挙でも、メルケル氏率いるCDU+CSUと大連合を
   組むSPDは大敗した。
  ・大連合再成立にいたるまでの半年以上かかった迷走はCDU+CSUとSPDという既存大政党
   に対する選挙民の失望を買い、さらに2015年にメルケル氏が主唱した難民の積極的受け
   入れ方針に対する国民の反発は深く潜行していたと言わざるを得ない。
  ・これらの選挙結果を受けて、10.29、メルケル首相は、CDU党首の座を降りること、
   しかし連邦政府首相の職務は2012年末の任期満了まで務めることを発表。
   メルケル氏は、CDU代表の後任候補としてメルケル氏が長年嘱望してきた
   Annegret Kuramp-Karrennbauer(AKK)氏を推すことを明らかにした。メルケル氏
   は残る任期を首相として政務を全うすることで、AKK氏が党務に注力できる環境を
   用意する?。
  ・AKKは、2018.12.7.CDU党大会での党首選で、決選投票の結果、党首に選出された。
   彼女の当面の仕事は、CDUの団結であり、最大の課題は、ドイツ連邦の政治的再集結。
   AKKはCDU幹事長に、政府の難民政策を批判してきた若手のツィーミャク氏を登用して
   党内融和を演出。メルケルの中道左派路線を継承するAKK氏には、左右の反発が一層
   強まることも予想され、ドイツの統合と復権の前途は容易ではない。

4. マクロン改革は実現可能か
 1)マクロン大統領誕生と果敢な改革
 ・2017年4月13日、フランス大統領選挙の第一回投票が行われた。その結果、驚くべき地殻
  変動が明らかになった。それはこれまでのフランス政治を支えてきた共和党と社会党という
  伝統的な大政党が大きく後退し、極右、極左や新興政党が躍進したこと。以下参照。
             マクロン       24%
             ルペン        21.3%
             フィヨン(共和党)  20.0%
             メランション(極左) 19.6%
             アモン(社会党)   6.4%
 ・誰も過半数を取れなかったので、マクロン氏とルペン氏による決戦投票が5月7日に行われた
  その結果は、大方の予想を超えてマクロン氏の圧勝となった。
     マクロン 66.1%(2075万票)、ルペン 33.9%(1064万票)
 ・エマヌエル・マクロン氏:39歳、オランド政権の経済相、中道系独立候補。対するマリー・
  ルペン氏が勝てば、彼女の主張にしたがってフランスもEU離脱をする可能性があった。
 ・マクロン氏の政策構想は大胆で画期的だが、実現可能性について、また大統領の実行力に
  ついて当初、内外から疑義が提起された。
  例えば、マクロン氏は EUを連邦型にしたいと主張。そのためにはEUの財政統合を進める。
  具体的にはEU予算、財務相を置き、銀行同盟で規制と監督を強化するなどである。
  これに対して、理想は良いが、膨大な予算負担と事務量が必要となり非現実的。例えば、
  EU予算のために、フランスは現在の国家予算の半分もの付加的負担が必要になるとの批判。
 ・また、国内改革できるか?硬直的労働市場、莫大な政府部門とその非効率性、それらを解決
  することが宿題なのではないか、といった批判。さらにマクロン氏は政治基盤がないので、
  そうした改革を主張して国民の支持得られるか?国民議会選挙で勝てるか、などの疑問。
 ・こうした懸念や批判を尻目に、マクロン氏は2017年6月の国民議会選挙では、大統領の
 「共和国前進」が308議席と過半数(総数577議席)を獲得、中道連合を入れると350議席で
  6割を占めた。既存の共和党は113席、社会党は29議席、極右ルペン党首率いる国民戦線は
  わずか8議席にとどまった。
 
 ・マクロン大統領は議会で過半数と獲得したので、公約の公務員削減、財政再建、労働
  時間規制の柔軟化などこれまで主張してきた大胆な構造改革を提案。これにより、生産性
  を高め、フランス経済の再生を図る方針を強調した。
2)マクロン大統領のEURO圏改革案
 ・マクロン大統領は2017年9月26日、ソルボンヌ大学での講演で、 EUの統合深化策について
  画期的な提案を行った。その要点は以下のとおりである。  
    ・各国共通防衛予算
    ・急進的技術革新担うEUの専門機関
    ・利益あげた国での課税(グローバル企業のタックスヘブン利用阻止のため)
    ・法人税率統一(低税率国で生産:social dumping防止)
    ・富裕層減税capital gainsに同一税率(flat rate)
 ・マクロン大統領の改革提案は急進的でプロビジネスである。マクロン氏は大統領当選
  当初、既存の政治基盤を持たず、また政治指導力も未知数だったので、同氏が主張する
  改革が実行・実現できるのかについて懐疑的な見解が多かったが、その後、マクロン氏は
  国内のパワーネットワークをかなり掌握しており、意外にしたたか、という評価が増えて
  いる。 
 ・国内政治で地歩を固めつつ、特に、ユーロ共通予算の編成とユーロ財務相ポストの新設
  など懸案の財政統合に踏み出すものと見られる。一方、ドイツの選挙後、求心力が低下した
  メルケル首相も、マクロン氏の唱えるEU条約改正への取り組みには一定の理解を示して
  いる。

3) マクロンの成果と課題
 ・マクロン大統領は、内政と外交で目覚ましい成果を挙げてきた。
 ・内政では、フランス経済の効率化の一環として、労働改革を提起。鉄道ストライキなど
  労働組合の激しい反発を受けながら、労働組合トップとの交渉で労働条件の弾力化など
  の合意を獲得して労働法大改正への糸口をつけた。
 ・就任1年で、テロ対策法など20本の法律制定もしくは改正を達成。
 ・いよいよ公務員の削減という大課題に取り組む。
 ・外交でも存在感。メイ首相が国内の反対でトランプ大統領を国賓として迎えららなかった
  のに対し、2018.4.14.パリ祭の機会にトランプ氏を国賓として迎え最大級の歓迎をする一方
  で、トランプ氏を前に、自国中心主義を批判、国際協調の重要性を内外にアピール。
 ・2018.11.11.第一次大戦勃発100周年記念式典をパリで開催。各国首脳を招いた席で
  「古い悪魔が再び目覚めつつある」とナショナリズムの台頭に警鐘。
 
 ・その一方で、問題も。
 ・閣僚の相次ぐ辞任。2018.10初頭、Gerard Collomb内務相、Nicolas Hulot環境相、Laura
      Fresselスポーツ相。マクロン氏の政治手法に反発。
 ・ミスや失言が不人気や批判を呼ぶ。:子供が”Manu”と呼んだのに対して大統領閣下と呼べ、
  と叱責。議会をベルサイユ宮殿に呼びつけて説諭、人々を”彼らは無意味だ”と批判。

4)大衆の反発とマクロンの挫折?
 ・2018,11月末からパリを中心にフランス各地で大デモ勃発。毎週末、大動員。
  断続的に二ヶ月続く。12月はじめのデモでは死者3、数百人が重軽傷。デモ隊は
  一様に黄色のベストを着ているので、gilets jaunessと呼ばれる。政府は非常事態を宣言。
 ・彼らの直接の主張は、マクロン大統領が提起した”燃料税引き上げ”への反対。
  燃料税引き上げは、マクロン政権の財政健全化の一環。政府赤字のGDP比を3%以内に
  抑えるというEU財政規則遵守のため。しかしガソリン代の引き上げは、車依存度の高い
  庶民とくに農業者や商工業者には大きな負担。
 ・一方でマクロン大統領が就任早々に富裕層に有利な税制改正をしたことが社会的不満を
  蓄積していたところに、燃料税引き上げで、庶民の生活を不当に圧迫するとして不満が
  爆発。
 ・マクロン大統領はもともと富裕層や大企業を大切にし、庶民や労働者階層を犠牲にする
  とのイメージを持たれており、投票者の48%とされる反マクロン派の存在を軽視した
  とも言える。
 ・2018.12.4. マクロン政権は、2019.1に実施予定だった燃料税引き上げを撤回。
 ・この結果、財政赤字の3%以内実現は困難?おそらく3.2%に。これはEU諸国に対して
  財政基準の遵守を呼びかけてきた独仏主導路線の信頼が揺らぐ可能性。
 ・マクロン氏のEU、EURO改革は、財政統合が目玉。EU共通予算、EU財政相の設置
  などで、通貨統合だけの矛盾を克服しようという大構想。これは欧州統合をめざして
  尽力したJan Monetらが掲げた理想だったが、Charles de Gaulleの強い反対で実現
  できなかった。今回の燃料税撤回→財政赤字の抑制困難はマクロン氏の大構想追求
  を阻害するおそれがある。

5. Eurosceptism(反欧州主義)の台頭
 1)反欧州主義政党の台頭
 ・欧州で Eurosceptism(反欧州主義)の政党がこの1~2年で急速に台頭。EUの基本政策を
  批判。
   ギリシャで は20115.1.にはSYRIZA政権誕生。
   ポーランドでは2015.10.には「法と正義」(PiS)(EUの難民受け入れ分担
    政策を批判)が与党に返り咲き。
   オーストリアでは2017.12から自由党(移民受け入れを強く批判)が国民党との  
    連立政権。
   イタリーでは2018.3の総選挙でEUの財政規律を批判する「5つ星運動」が
    得票率1位。EUの移民対策を拒否している「同盟」との連立政権が2018.6誕生。
   ハンガリーではフィデス・ハンガリー市民連盟(EU懐疑政党としては早く2010
    から政権担当していた)が2018.4の議会選挙でも圧勝し、オルバン首相続投。
   ドイツでは移民受け入れ反対のAfDが社会民主党(SPD)を抜いて支持率2位(複数
    の世論調査)に浮上
・欧州で、ナショナリズム、ポピュリズムが勢力を増している背景には、ユーロ導入に
 かかわるEUの政策と移民問題がある。
・ユーロ導入は、生産性が低く通貨価値の低かった南欧諸国にとっては、高価値で安定した
 ユーロを得たことで、外資の借金もしやすくなり、不動産価値も上昇したが、政府債務が
 膨張。リーマンショックで外資が逃避したため、深刻な債務危機になった。
・EU当局は欧州金融安定化基金(EFSF)や欧州安定メカニズム(ESM)など救済機関と通じて
 ギリシャなど債務危機に陥った国に金融支援。その条件として、緊縮財政や年金カットなどを
 約束させた。この緊縮財政の結果、財政状態は改善したが、これらの国々の市民はEU統合の
 厳しい政策に強い不満を持つようになった。
・そこに2015年頃から、イラクやシリアなど中東各地での大量の難民が欧州目指して流入。
 それを受け入れる政策を主導したメルケル首相らEU執行部の政策に、最初の上陸地となる
 ギリシャやイタリア、経由地となるオーストリア、ハンガリーそして最終目的地ドイツでは
 大量の移民・難民にたいして激しい排他的感情が高まった。
2)イタリー政権の危険な動き
・今、反EUの急先鋒としてEU官僚支配、独仏主導の欧州統合に反旗を翻しているのがイタリア。
・「5つ星運動」党首のディマイオ副首相はイタリアの一人当たりGDPがユーロ導入時の水準を
 下回るユーロ圏唯一の国であることを念頭に「イタリアの歳出プランは欧州再生の処方箋」と
 主張し、2019年度予算では、前政権がEUに約束した財政赤字比率0.8%への引き下げを反故
 にし、逆に、その3倍の2.4%まで高める積極財政を採用し、1.5%の成長を達成すると強調。
・イタリーの財政難を市場は読んで、国債利回り↑。国債多量保有の銀行資産毀損。中小銀行は
 貸付能力↓、経済下押し圧力に。
・財政破綻→金融危機(金融機関資産毀損)のおそれ↑、
 イタリー経済はギリシャの10倍。EUの救済機構(EFSFやESMなど)やIMFなどで救済
 できるか? 悪性インフレ、金利↑、EURO↓など。
 EU崩壊のリスクも?
 →世界不況のトリガー?
6. EU瓦解の可能性と帰結
 1)2019.5.の欧州議会選挙
  ・欧州議会選挙は、2019.5.23~26に実施。議会選挙は加盟国単位でその期間内に実施。
   2018年現在 定員751(ほぼ加盟国人口比例)。2019選挙ではこれまで英国に割り当て
   の73議席のうち、27議席を他の加盟国に割振り。定数は705。
  ・欧州懐疑主義の潮流が認識されるきっかけは2014議会選挙。14年欧州議会選挙では英国で
   英国独立党(UKIP)、フランスで国民戦線(FN)、ギリシャで急進左派党(SYRIZA)がそれ
   ぞれ得票率で1位。イタリーでは新興政党「5つの星運動」が得票率2位。ドイツでも新興
   政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が得票率5位に。とりわけUKIPの躍進は注目された。
      ・欧州議会はEU閣僚理事会と並ぶ立法機関。EU閣僚理事会は加盟国の閣僚から
   構成。議会は、直接選挙で選出される議員(任期5年)で構成。当初は理事会の
   補佐機関だったが、「EUの決定はブラッセルの一部高級官僚で行われ市民の声
   が反映されていない」との批判を受けて、漸次権限が強化。2009,12発効の
   リスボン(EU)条約で、閣僚理事会と同等の権限を持つ立法府となった。
  ・欧州議会の政治会派の要件:「25人以上の議員参加、加盟国の1/4以上の参加。
   2018年現在、8会派。最大政治会派は、欧州人民党グループ(EPP)=中道右派。
   ついで、欧州議会社会民主グループ(S&D)=中道左派。
 2)EUの瓦解は始まったか?
  ・2019.5に実施される欧州議会選挙をひかえて、今、イタリーの極端なナショナリスト政党
  「同盟」党首サルビーニ副首相が最も力を入れているのが、EU各国のナショナリストや
   ポピュリストに呼びかけての国際ポピュリスト同盟の創設。国際ポピュリスト同盟が勝利
   すれば、欧州議会を反EUのシンボルと位置づけ、EU大統領などのトップ人事に積極
   的に介入する構え。サルビーニ氏は1月、PolandにPiSを訪問。「欧州の春」運動↑を宣言。
 
  ・欧州議会の7月開会を受けて2019.9月には欧州委員会の執行部(EUの政策立案機関)が
   刷新されるが。メルケル首相は、2014選挙を受けて委員長となったユンケル氏の後任に、
   EPP代表のマンフレッド・ウエーバー議員(ドイツ)を推しており、同時期に任期満了を
   迎えるドラギECB総裁の後任に、腹心のドイツ連銀総裁のイエンス・バイトマン氏を推す
   ことは諦めた模様。
  ・もしサルビーニの思惑通り、国際ポピュリスト同盟が欧州議会選挙で勝利すれば、欧州
   委員会や独仏はEUの安定のため、サルビーニなど各国のナショナリストやポピュリスト
   の意見に耳を傾けざるを得なくなる。
  ・中島精也氏は、この状況は「ナチズムの支配を許した90年前のワイマール共和国の悪夢を
   連想させ、戦後、自由と民主主義を謳歌してきた欧州政治の終わりの始まり」を示唆する
   としている『国際金融』(2019.1.1)。
 
Ⅳ.   習近平の中国と米中対抗
 1. 習近平第二期政権の志向するもの
  1)習近平 ”一強” 体制確立の意味と意図
   ・中国共産党第19回全国代表大会(党大会):2017,10.18~10.24開催。 
   ・初日18日:習近平総書記政治報告3時間20分
    「小康社会の全面的完成の決戦に勝利し、新時代の中国の特色ある社会主義の偉大
     な勝利を勝ち取ろう」
   ・新時代:2020年(2021年は中国共産党創立100年)までに小康社会の全面完成
   ・21世紀半ば(2049年は新中国建国100年)までの30年間を2段階に分けて
        「社会主義現代化強国」を実現する時代、と規定 
 
  ー「核心」志向:党規約に習思想を行動指針として明記、毛沢東を意識?
   ・2017年10月24日党規約修正案承認→その後、2018.3の全人代で憲法に規定。
   ・鄧小平氏が定着させた国家主席任期10年の慣行を廃止。習近平主席の”終身化?”
      ・丹羽宇一郎氏の異論(『習近平の大問題』)
        任期撤廃は、レームダック効果を避けるため。まだ体質改革は途上。   
 
  ー第19期中央政治局常務委員:
    習近平64:
     李克強62:首相←留任:胡錦濤に近い、共産党青年団
     栗戦書67(リージャンシュー):全人代常務委員長←中央弁公庁主任 習近平に近い
     汪洋62(ワンヤン):政治協商会議首席←副首相  胡錦濤に近い
     王りょう寧62(ワンフーニン):中央書記処書記←中央政策研究室主任江沢民ブレン
     趙楽際60(ジャオルオージー):中央規律検査委員会書記←中央組織部長王岐山後任
     韓正63(ハンジョン):筆頭副首相←上海市党委員会書記 江沢民の地盤、上海勤務
   ー独裁政治志向?→後継候補考えず?
    ・皆、60歳以上、江沢民も胡錦濤も若手(50歳代)登用を考え、引き上げてきた。
       ・丹羽宇一郎氏の異論:
         若手を中央政治局員に任命しなかったのは不思議でない。
         中央政治局員以外からの抜擢は十分あり得る。過去にも実例。
 
  2)第13期全国人民代表大会(全人代)
    ・第13期全国人民代表大会(全人代)第一回会議は2018年3月11日、国家主席・国家
     副主席の任期撤廃などを柱とする憲法改正案を出席者の99.8%の賛成で可決。
    ・3月17日、習近平氏は全人代出席者2970名の満票で国家主席に再任。王岐山氏は
      わずか1票の反対票で国家副主席に選出。王岐山氏は腐敗撲滅で辣腕を振るったが
      そもそも経済・金融のエキスパート。米国とも太いパイプ。
    ・経済面で注目は、劉鶴副首相(政治局員)。前職は国家発展改革委員会の副主任。
     大臣未経験者の第抜擢。習近平氏の信頼厚い?劉氏は、2013年11月中国共産党
     第18期中央委員会第3回全体会議(三中全会)が採択した「決定文書」を起草した
     中心メンバー。「資源配分において、市場が決定的な役割を果たす」と指摘。
  3)「韜光養晦」から対外覇権志向へ
   ー新型大国関係(太平洋を米中で支配?)を2013オバマ対話で提案。
   ー一帯一路:呼びかけとその後の展開
     一帯:インド洋→アラビア海→地中海 2ルート
     一路:中国→中央アジア→中東→欧州 2ルート  
   ーAIIB(Asian Infrastructure Investment Bank)の発足とその後、
    ・一帯一路基金(10兆円目標:事業規模は100兆円超える)
   ー南シナ海人工島問題
    ・南シナ海の南沙(Spratly)諸島や西沙(Paracell)諸島や多くの岩礁を、中国はこの
     海域全てに中国の主権があると主張して人工島の建設を進め、軍事施設も整備。
     南沙に近いフィリピンや西沙に近いベトナムと領有権紛争。フィリピンの訴えで
     2016.2.12.オランダ・ハーグの仲裁裁判所は国際法上の根拠なしと断定。中国
     はこの裁定に反論・無視。米国は近海に「航行の自由作戦」を展開。
  4)国内強権政治と情報統制
    ー突然の介入→経済に不確実性(洪氏の述懐)
    ・産業界には、トランプの主張をむしろ受け入れて、根底から統治構造を変えた方が
     中国の経済・産業発展には資するのではないか、との見方も。
    ー地方行政も怯えて停滞
     ・地方の経済・建設プロジェクトなどの契約・執行につねに共産党細胞(例えば
     上司の行動を部下が監視)の監視などがあり、業務執行が萎縮する傾向も。1
 2. 成長の鈍化と先進経済への挑戦
  1)成長鈍化の意味
      人口増鈍化趨勢、労働力制約で成長鈍化は不可避、想定内。
  2)二重のチャレンジ
     ・中所得国のディレンマ、成熟経済への
     (1)鄧小平以来の成長モデル脱却必要
       低賃金労働の無制限供給+改革開放路線下の外資導入(資本、技術、経営)
       ⇒輸出ドライブ→高度成長、1980s初頭→2010年代初頭まで30年間10%成長
     (2)中進国のディレンマ:高賃金(一人当たりGDP8000ドル超え)
       外資から見た魅力↓、生産性↑不可欠
       成熟経済の挑戦:高賃金で労働力供給縮小、高齢化の社会的費用↑、
       生産性向上を内発的イノベーションで。
     (3)「新常態」経済。習近平政権、2014年5月に提唱。
        イノベーション技術革新と国内経済構造転換で高生産性経済を実現。
        1.  経済成長は高速成長から中速成長へ
        2.  経済発展パターンは規模拡大と速さ重視の粗放型発展から質と効率を重視
         する集約型発展へ
        3.   経済構造は規模拡大・能力増強からストックの調整へ
        4.   経済発展の牽引役は伝統的な成長リード産業から新たな成長リード産業へ
      ・その後、中高速成長から「質の高い発展」に修正
        また「サプライサイド」の構造改革を強調。
  3)中国の二重構造:新しい中国と中国の構造問題
           (1)新しい中国
     ー先端技術=企業は世界最新レベル、情報化の目覚ましい進展
     ー世界イノベーション企業50(アメリカ調査企業)のうち、
       テンセント12、華為(ファーウェイ)技術45、レノボ50。
     ー世界IT大手10のうち中国4社
      Google, Amazon, Face bookにつぎ、アリババ、テンセント、百度、京東集団
 
     ーイノベーション中心、深圳の目覚ましい発展、特許出願は中国の46%
       シリコンバレーしのぐ活力。トランプの排外政策を嫌って人材は深圳に。
     ー深圳に倣って特区ブーム:1992年10月上海浦東新区、2006年5月天津濱海新区、
      2010年5月:重慶両江新区、2011年以降、新区ラッシュ、習近平政権肝いりで
      19番目に国家級新区。「雄安新区」展開。河北省保定市。
    (2)中国ハイテク企業発展の物語      
    ーアリババ集団
      ・浙江省杭州市の英語教師、馬雲 1999.3設立 企業間電子商取引仲介サイト
       ネットバブル崩壊→苦難の連続、資金難、リストラ
       転換点:2003.5. C2Cの陶宝(タオバオ)事業
       2003頃、C2Cの中国市場、eBAYが圧倒的、
       2004アリババ決済サービス支付宝(アリペイ)導入、当時eBAYが圧倒的シェア 
      ・買い手が代金をアリペイの口座に預け、送付された商品に問題なければアリペイ
       に支払い指示。欠陥なければ支払い。届けたのに支払い遅滞などの売り手の不安
       なし。支払ったのに商品届かないという買い手の不安も解消。
      ・eBAY シェア↓8%に→撤退
      ・当時法律なし。「問題起きれば僕が刑務所に」
      ・全額補償と手数料無料化ーアリペイの進化 
      ・2010.6. 中国人民銀行「非金融機関決済サービス管理弁法」で、第三者決済
       サービス機関にライセンス付与。
      ・11.11.独身の日。膨大取引量、当時大型システムはIBM, オラクルなど集中型。
       それではパンク。オープンソース、分散型アーキテクチュア
       2012自前のアリババクラウド完成でTモールの20%、2013で75%、
      ・技術革新と経営努力、政府は後追いで承認
    ーテンセント(騰訊控股)
     ・1998.11設立、オンライン・コミュニケーションアプリ(QQ)からスタート
      現在、スマホ向けアプリWeChat(微信):世界200カ国、ユーザー10億人以上。
      WeChat中心に総合関連サービス
    ・創業者 馬化騰、システムエンジニア出身。
    ・QQはイスラエルのMirabilis社のインスタントメッセンジャーICQのヒントで開発。
     中国語版開発。ICQは自宅のPCからの接続想定。中国のPC普及は遅れた現状。
     ユーザーの保存したいデータをサーバー保存。使い勝手↑、ソフトサイズ圧縮。
    ・2000.02. モバイルインターネット総合サービス  
    ・有料会員制サービス導入、商品マネジャー制度、社内競馬制度、
    ・2004.8. MSマイクロソフト、メッセージサービスMSNの研究開発センター中国設立
     QQのversion upでMSを圧倒。
    ・技術革新、市場ニーズに対応、経営努力、政府は後追い。
 
    (3)中国の構造問題 
     ー過剰設備、過剰生産、過剰債務、国有企業問題、不良債権=金融リスク
     ー過剰生産、過剰設備、過剰負債:4兆元経済対策(2008年)の構造的後遺症
     ・3中全会(習政権1期目改革:第18期中国共産党中央委員会第三回全体会議)
       高成長→中成長⇒供給側改革必要「市場に資源配分の決定的役割担わせる」
     ー国有企業の整理・改革は?
     ・しかし、その後、公共投資↑、国有企業補助金↑→改革に逆行?
     ・地方では、鉄道、道路、公共事業→債務↑
     ・国有企業改革?、実際は合併、独占↑、ゾンビ企業温存は権力基盤維持? 
     ー既得権との戦いは?ーむしろ逆行?→共産党の企業管理↑:
      ・実質国家管理強化:企業買収海外企業、合併企業から技術奪取
      ・ハードランディングは失業↑、社会・政治不安↑で避けるべき。
       しかし安定重視のあまり、政府指導で成長確保は??
      ・リコノミクスは消滅した?
 
     ー金融リスクの増大:4兆元経済対策(2008年)の金融的後遺症
      ・債務残高のGDP比は2008年末の141.3%から2018.3末には261.2%に。
       IMFも危険を懸念。
                  ・政府債務GDP比は2018年47.8%だが、国有企業が本来政府の債務を肩代わりして
       いると考えると、政府債務は、179.1%に達し、日本の220%の債務構造に近い?
       当面、中国の債務問題が暴発する可能性は低いとしても、中長期的には金融
       危機的状況が発生する可能性。
    4)経済減速への緊急対応
     ・米中貿易戦争の影響が出始め、景気減速懸念が高まったこともあり、
       2018.7.23.国務院常務会議は景気刺激策を発表。
        1. 財政政策の一段の積極化
         2.  金融政策の穏健中立から穏健への緩和
         3.  小型・零細企業へのサポート強化
         4. 建設中のプロジェクトの資金手当支援
      景気サポートのため、緒に就いたばかりのでレバレッジ政策が棚上げされる懸念も?
     ー中国経済:急減速。→公式発表 6.6. or 6.4.%、28年ぶり(天安門後の最悪期)
           実際はもっと低い?            
      ・貿易戦争の影響だけでない。貿易戦争の影響は2019春から。減速は2018秋から
      ・国有企業の問題、政府債務の肩代わり
      ・金融不良債権の累積~財政債務の悪化
      ・過度の介入、検閲→自由な企業活動、産業活力↓?
 
2. 米中貿易戦争とハイテク覇権闘争
1) 米中首脳会談と米側の要求
ー2018年12月1日、アルゼンチンでのAPEC総会に出席した習近平国家主席とトランプ大統領は、
 ブエノスアイレスのホテルで首脳会談。首脳会談の結果は、共同声明はなかったが、両国が
 それぞれ会談の要点を公表した。
・米国側の声明では、巨額の対中貿易赤字について中国側が農産品やエネルギー輸入を拡大
 すると約束。またサイバー攻撃や技術の強制移転など知財侵害について協議するため、12月1日
 から90日間は予定していた関税引き上げを猶予するが、90日間の満了となる2019年2月末日
 までに合意が得られなければ、中国からの輸入のすべてに対して高率追加関税を課けると通告
 した、との内容が公表された。
 中国側の声明では、中国からの対米輸出品に対する関税引き上げは90日間猶予されたこと以外
 に詳しい内容は公表されなかった。
ー90日内に解決に向けて合意すべき事項として米国側が求めている主な項目は以下の4点。
  (1)技術移転の強要:
   米国企業が中国の大きな市場で事業機会を得ようとして進出するとき、中国側では
  米中合弁企業を設立することを条件とし、その事業活動を通じて米企業の技術を中国側に
  提供することを強制すること。
 (2)知的財産権の保護
   中国側が米国企業の製品やノウハウを無断でコピーするなど知財権の侵害行為。
 (3)非関税障壁
   さまざまな規制などの非関税障壁を設け、米企業の中国市場での活動を阻害すること。
 (4)サイバー攻撃とサイバーによる窃取
   中国の人民解放軍を含む多くの組織が米国の企業などにサイバー攻撃をしかけ、企業
  秘密やノウハウを窃取すること。
2)華為技術副会長の逮捕
 2018.12.8. ファーウェイ(華為技術)副会長兼最高財務責任者の孟晩舟(Men Wanzhou)氏を
カナダ司法当局が逮捕。カナダ司法当局は、アメリカ司法当局の要請で逮捕したという。逮捕の理由はイラン制裁違反。ファーウェイが香港の設立したダミー企業「スカイコム」を通じ、イランに2009~2014にわたり米企業の通信機器を納入した疑い。
 孟晩舟氏は中国では中国産業界を代表する女性の経営者として英雄のように人気が高く慕われ
ている。しかも彼女は中国ハイテク産業をリードする世界企業であるファーウェイ社の創業者、
任正非会長の娘であり、中国政府首脳部の信任も厚い。彼女は従業員思いで知られ、ファーウェイ社員の士気は非常に高いという。この逮捕にたいし、中国政府はカナダ当局に猛烈に抗議。本件に直接関係のないカナダ人外交官2人を逮捕、また麻薬密輸容疑でカナダ人一人を中国で死刑判決。孟晩舟氏は11日夜に仮釈放、自宅で監視状態に置かれることになった。 
 米国はカナダとの「犯罪人引き渡し条約」にもとづいて、60日間すなわち2019.1末までに孟氏
の引き渡しをカナダ当局に強く要請。中国は、「もし引き渡せば重大な結果に繋がるだろう」と
カナダ当局に圧力。この1件は、米中両国が、第三国を巻き込んで、事実上の戦争状態ともいえるほどの緊張状態に入っていることを示唆。
 
・華為技術への嫌疑、憶測
  ZTEは中核技術とチップを持たない弱点につけ込み、チップの供給遮断の制裁で屈服
 巨額な賠償金、現在は米国派遣監視員の監視下。華為技術は技術的な弱点がないため、
 共産党や人民解放軍と密着しスパイ活動などのでっち上げ嫌疑で制裁模索。
  任正非会長は青年期に人民解放軍に服役、どの国でも当然。任会長の父親は文化大革命中、
 政治犯(反革命分子)だった。だから政治に距離を置き、技術畑に没頭。工兵部隊の技術者と
 して入隊したが、腕が認められず、除隊後、転々として「華為」を起業。政府の支援のある
 国有企業とは差別扱いをされたため、常に自力自立を説いた。創業初期、深圳の小屋(10数
 m2)に父母と同居し、ベランダで炊事、市場で捨てられた野菜や死んだ海老や魚をおかずに
した(中国ネット記事)。朱建栄『参考消息42号』(2019.1.5)
3)米国の中国ハイテク企業締め付け戦略
  米国の中国ハイテク企業攻撃の背景には、実は、2018年夏に米議会で超党派の多数で可決
 された根拠法がある。それは、「2019年度米国防権限法(NDAA2019)」(2018.8. 上下
 両院で超党派の賛成多数で可決)。
  同法によれば、2019.8.13以降、下記5社製品を組み込んだ他社製品を政府などが調達するのを禁止する。さらに20.8.13以降は、5社製品を社内で利用しているだけで米政府とのいかなる取引も不可となる。この法律に基づき、米政府は、2020.8.から、ファーウェイなど中国ハイテク企業の製品を使用しているだけで米政府との取引禁止方針を打ち出す予定。市場から中国ハイテク企業排除の動きが進めばサプライチェーンにも重大な影響が出ると予想される。
 ちなみに、米国が特に安全保障上のリスクがあるとして警戒しているのは下記の5企業。
    ・ファーウェイ、
    ・ZTE(中興通訴)
    ・杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)監視カメラ大手
    ・浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)
    ・海能達通信(ハイテラ)
3.  習近平の”中国夢”と強国戦略
 1)アヘン戦争以来の屈辱の歴史の超克
      ・中国は古代から近代まで東洋の圧倒的な超大国であり、文化の中心であり、最大の覇権国
   だった。 
  ・中国は特に1840~42年のアヘン戦争と1856年のアロー号事件で、イギリスに事実上植民地
   化され、欧米列強が相次いで中国に利権を設定し、20世紀前半には日本によって蹂躙され
   るに至った。
     ・中国は1980年代以降、鄧小平の指導による積極的な開放改革戦略で目覚ましい発展を遂げ
   た。鄧小平は事実上の超大国への道を急進するこの期間、”韜光養晦”(爪を隠して内に
   力を蓄える)という路線を堅持した。しかし、2012年、国家主席に就任した習近平は、
   中国の力を内外に誇示する戦略に転換した。
  2)中国夢
   ・習近平は、盛んに”中国夢”を唱え、中国は今や、アヘン戦争以来170年の屈辱の歴史を
    乗り越え、中国人民にふさわしい世界の大国、強国になるのだと国民を鼓舞した。
    そのキャッチフレーズが”中国夢”である。
         ・習近平政権が追求する”中国夢”は、170年間の屈辱の歴史の克服と払拭そして欧米
               列強の歴史的横暴に対するリベンジであり、中国人民の国家的復権をめざすもので
               ある以上、それは実現せねばならぬ国家の基本戦略である。それを実現する最大の
               基礎は経済力、特に質の高い競争力に裏打ちされた経済力である。その戦略の重要
                な一環として、中国政府は「中国製造2025」というビジョンそして工程表を提示した。
  3)中国建国100年強国構想
          ー中国は、2021(共産党創設100周年)を念頭に、
       2020:小康社会の全面完成
       2035 :社会主義現代国家建設
       2049(中華人民共和国建国100周年):社会主義現代化強国。
      ・そのためには創新(イノベーション)が基本戦略
        4)「中国製造2025」に象徴される経済強国化戦略
   ・中国国務院が2015.5発表の産業政策『「中国製造2025」は、次世代情報技術や
     ロボットなど10の重点分野を設定、製造業の高度化をめざす。
             ・2005年、胡錦濤政権時、ハイテク産業育成のため「創新(イノベーション)」政策が
      強調されたが、それはハイテクだけに着目。ハイテクが発展するためにはそれを支える
      関連産業の発展が必要。李克強の国務院で策定された「製造2025」は関連産業を網羅。 
      米国などの専門家はそれを脅威と捉えた。
        ・中国は建国100年の2049に「世界の製造強国の先頭グループ入り」をめざす。
          「中国製造2025」はその長期戦略の第一歩。
   ・発展途上国に多かれ少なかれ共通する国家主導発展戦略
      例:戦前・戦後の日本、19世紀のドイツ、韓国、シンガポールなど
   ー参考:
   ・に製造強国への工程表
     1. 第一段階(2015→2025):製造大国(規模)→製造強国の仲間入り
     2. 第二段階(2025→2035): →製造強国の中等水準
     3. 第3段階(2035→2049): →製造強国の先頭グループへ躍進。
         ・「中国製造2025」
    ⓵  次世代情報技術:
    ⓶  高度なデジタル制御の工作機械・ロボット
    ⓷   航空・宇宙設備
    ⓸  海洋エンジニアリング・ハイテク船舶
    ⓹  先端的鉄道設備
      ⓺ 省エネ・新エネ自動車
      ⓻ 電力設備
    ⓼ 農業用機材
      ⓽  新素材
      ⓾ バイオ医薬、高性能医療機械
 
 4.  ツキディデスの罠と国際社会
  1)ツキディデスの故事
     ーギリシャの歴史家ツキディデス、新興国アテネの覇権国スパルタへの挑戦
     ・結局、ペロポネソス戦争に。アテネの勝利
     ・過去2000年間の覇権争いは半分以上が戦争に。
   2)19世紀のGreat Game:英国とロシアの覇権争い
     ・覇権国大英帝国へのロシア帝国の挑戦
  3)20世紀後半の米ソ冷戦
    ・1950年朝鮮戦争ー冷戦開始、アメリカによる共産圏封じ込め、
     1991年ソ連崩壊。派遣闘争:40年かかってソ連崩壊
  4)1980年代の日本の追い上げと日米摩擦
       ・1985年、日本のGDP/Nはアメリカを2年間上回った。
      ・アメリカは日本の発展戦略を問題視、・プラザ合意による円高↑の強要
      ・日本、円高で競争力維持のため財政・金融で景気拡大政策→過剰流動性→
      ・バブル↑→崩壊↓→失われた20年→日本の退潮
  5)2018年以降の米中貿易戦争
                  ・1980~2010の中国、鄧小平の改革解放で大発展
      ・2012年以降、習近平主席の大国思想、新型大国関係
      6)  ペンス米国副大統領演説と新冷戦の可能性
   ・Michael Richard Pence(Mike Pence)氏の(2018.10.4)Hudson Instituteでの講演
   ・1980年代以降の鄧小平主導「改革解放」戦略による中国の目覚ましい発展
    を踏まえて、米欧は中国の発展による自由化を期待し、中国をengage(取り込み)
    しようとWTO加盟も支持し、手を差し伸べてきたが、裏切られた。習近平政権
    は経済的に攻撃的、軍事力↑志向。
   ・アメリカは中国が不公正な貿易で米国に被らせた赤字を容認しない。
   ・中国共産党は「中国製造2025」を通じ、世界の先端産業の9割支配をめざしている。
   ・中国の覇権志向は失敗する。
   ・中国はここ数年、自国民への統制と抑圧を強化。少数民族への迫害↑。途上国に
    借金漬け外交を強要。台湾の孤立化を画策
   ・中国はトランプ政権の打倒を狙って、アメリカ国内政策と政治への干渉を強化。
    2018年中間選挙、2020大統領選挙へに向けた取り組み、ロシアをはるかに上回る。
   ・米通商政策の転換のために対中投資米企業に圧力。
       ーペンス演説は、トランプ政権のみならず民主党の中国警戒、強硬派も含め、米国の
   establishmentの対中国観を集約・代表するものと受け取られている→新冷戦?
  2. 米中経済安全保障再考委員会(USCC)報告(2018.11.14)
  ー米議会の超党派諮問機関、米中経済安全保障再考委員会(USCC)は11.14、中国の
   ハイテク技術が米国の安保上のリスクになると警告する報告書公表。
5.  米中対決と日本の役割
 ・米国と中国の貿易戦争は両国にとってもそれぞれマイナスであるだけでなく、両国を合わせ
  れば世界GDPの4割に及ぶ世界第一と第二の超大国の対決による経済の減退は、サプライ
  チェーンの阻害などさまざまな経路を通じて世界全体の経済にマイナスの効果を及ぼす。
 ・日本は米国とは安全保障の同盟国でありまた経済的に深い相互依存関係にある。また中国
  は日本の輸出産業にとって最大の市場であり、政治的にも近年は友好関係を進めようとの
  動きがある。米中の間に位置し、両国と経済関係が深く政治的にもそれなりの友好関係を
  持っている日本は、世界にマイナスの効果を生む米中の貿易戦争を緩和するために何らか
  の仲介の役割を果たせないか、と考えるのは自然。
 ・米中の対決は、基本的に”覇権闘争”であり、双方は容易に妥協はしないだろう。中国は
  輸入増や制度改革など多少の譲歩はするかもしれないが、中国夢の根本は変えないだろう。
  アメリカは覇権維持のために強硬な姿勢を貫いているが、トランプ大統領のDealによる
  関係調整はあるかもしれない。
 ・日本の仲介で、両国が方針を変えたり、妥協をしたりすることは考えられない。双方の
  妥協や譲歩を引き出すような力は今の日本には考えられないし、その余地もないだろう。
 ・今、日本に求められるのは、仲介よりも、米中との理解をもっと深めることではないか。
  アメリカは65年にわたる同盟関係の実績から、相互理解があるものと日本は前提している
  が、国際関係や国際政治はそれほど単純ではない。つねに理解を深める努力が必要。
 
 ・それは中国については一層重要な課題。中国は日本のとりわけ安倍政権を信頼していない。
  安倍首相も中国にたいしては心を開いて理解しようという態度は見せていない。中国も
  それを知っており、一定の距離を置いた付き合いになっている。
 ・米中の仲介といった分不相応な役割を夢想するよりも、日本の将来のために、あらゆる
  側面で中国と相互理解と相互信頼を深める努力が必要。果たして安倍首相にその意図や 
  覚悟があるか?
 
 

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