« 激動する世界と中国の課題(2)トランプ発貿易戦争をどう克服するか | トップページ | 『激変する世界と日本の針路』(2) »

『激変する世界と日本の針路』(1)

本エッセイ「激変する世界と日本の針路」は、私が2019年1月28日に行った島田塾の年頭講演の講演メモを、今回から4回に渡って掲載するうちの第1回です。

Ⅰ.   はじめに

 ー世界は激動ー戦後70年つづいた世界史の転換点
 ー何が起きているのか、全体像の理解必要
 ・トランプの現状破壊、貿易戦争、Brexit, EU危機、中国、北朝鮮、ロシア、安倍政権
 ・世界と日本の景気・経済展望
   景気減退 or 後退? ソフト、ハードランディング? クラッシュ?
 ーそのうえで、日本経済の行方、日本の針路を考えよう。

Ⅱ.   トランプ政権下の米国の実情と問題
1. トランプ発貿易戦争
  ・今、世界が最も関心をもち、心配しているのは貿易戦争
  ・世界の景気後退の引き金引くおそれ
  ・冷戦の再来の可能性
  ・その経緯と内容を理解し、意味を考えよう。

 1)鉄鋼・アルミへの追加関税
  ・トランプ氏は2016の選挙中から、中国や日本などからの工業製品の輸入に高関税をかけて
    アメリカ労働者の雇用を守ると公約。しかし、2017年中は大型税制改革などの議会対策
    に忙殺されて関税問題に取り組めなかった。

  ・2018.3.1. トランプ氏は鉄鋼とアルミの輸入増が安全保障上の脅威になっているとして
   輸入制限を発動する方針発表。鉄鋼25%、アルミ10%。その理由は耳を疑う。

   ・その根拠は、米通商拡大法232条。これは1962年に制定。産品の輸入が米国の安全保障を脅かす
     恐れがある場合。これまで、79年のイラン原油輸入禁止措置、82年のリビア原油輸入禁止措置
     のみ。日本や欧州など同盟国にも適用する米国の主張に正当性があるか疑問。 

  ・3.22. トランプ大統領は知的財産権の侵害などを理由に中国製品に関税を課す
     大統領令にも署名。500億ドル相当の中国製品に高関税をかける制裁措置表明。
   ・その根拠は米通商法301条。同法は米国は外国による不公正な貿易慣行に対し、調査した
     うえで、一方的に制裁措置を発動できるとしている。

  2)中国知財侵害への制裁関税
  ・WHの貿易政策担当の補佐官として対中国強硬論を展開しているナバロ(Peter Navaro)氏
   は、アメリカは中国の不公正貿易のおかげで莫大な貿易赤字を被り、経済成長が阻害
   されてきた、と非難。

 
  ・2018年3月に公表されたUSTRの調査では、中国に進出した米企業が不当な技術移転を求め
   られたり、米企業の買収に中国政府の資金が使われたなどの「知的財産権の侵害」がある
   と結論。4つの手口を詳細に指摘。
       ⓵   外資規制で技術移転を強要:
     ⓶   技術移転契約で米企業を差別的扱い
     ⓷     先端技術を持つ米企業を買収
     ⓸   米国企業に人民解放軍がサイバー攻撃:鉄鋼や原発など情報収奪。

   ・5月に2回、米中通商協議:
    アメリカの高圧的な要求。中国側(劉鶴副首相代表)は、輸入増大などでアメリカの
    赤字削減に努力すると提案。ムニューチン代表(財務長官)がそれを評価して、付加関税
    執行をしばらく猶予すると発表。

   ・ところが6月に入りトランプ氏が中国からの2000億ドル(約22兆円)相当の製品に対し
    10%の追加関税措置検討すると発表。”トランプ氏のチャブ台返し”  背景に、WH内
    での対中強硬派の巻き返し。

   ・中国は姿勢を二転三転させる米国に不信感↑。米国が仕掛けた貿易戦争に、中国側は
    トランプ政権の要求にある程度譲歩し、同時に米国のestablishment層の中国叩きをかわ
    そうと対応をしてきたが、ここで中国の対米認識が大きく変わり、6月に入って中央外事
    工作会議では韜光養晦論を軌道修生し「以戦止戦」の方針を決めたとされる。

   ・その後、関税戦争は3次にわたる米中の関税引き上げ応酬の実戦段階に:
   ・7.6 トランプ政権は、産業用ロボットなど340億ドル(約3.8兆円)分に25%の第一次
    制裁関税を発動。中国も直ちに応酬。
   ・8.23. 制裁関税の第二弾を発動。半導体や化学品など、279品目。160億ドル相当。 
    中国も直ちに同規模の報復。
   ・9.24 トランプ政権は、約2000億ドル(約22兆円)相当の中国製品に10%の追加関税
    第三弾を発動。中国も600億ドル相当の米国製品に5~10%を上乗せする報復関税を
    即日実施。
   ・中国の対米輸出は約5000億ドル。アメリカはその半分に高制裁関税。中国のアメリカ
    からの輸入は1300億ドル。中国はすでにその8割に付加関税。余地ほとんどなくなる。
   ・トランプ氏は、中国からの輸入品2670億ドル(約30兆円)相当(残り全部)にさらに
    関税をかける用意があると脅し。
 
  3)NAFTAからUSCM?へ
   ・アメリカ、メキシコ、カナダ3国は、これまでNAFTA(北米自由貿易協定)。
   ・メキシコとカナダからはアメリカに関税なしで輸出できたので、両国だけでなく日本や
    EUなどからも両国に企業が進出し、北米を中心に貿易量が増え、世界経済の発展に寄与
   ・トランプ氏は、他国がアメリカの市場を利用して儲け、アメリカは被害を被っている、
    としてNAFTAの全面改訂を要求。
   ・メキシコ大統領選で現職大統領が負けた残任期間につけこんでメキシコと改訂合意。
   ・同様の改訂をカナダに要求。応じなければカナダを除外すると脅して改訂合意取り付け
   ・カナダ、メキシコからの対米輸出に数量制限、低賃金輸出の禁止など全面改訂。
    WTO違反のおそれ。
   ・これは両国に大規模に進出している日本企業にも大きな影響。企業戦略見直し必至。

  4)自動車追加関税の脅し
   ・トランプ氏は5月に自動車にも安全保障を理由に制裁関税をかける検討に入ると言明。
   ・日本やEUは鉄鋼関税ではそれほど大きな影響はないが、自動車は甚大な影響。
   ・EUの強い反発に、トランプ政権は7月、自動車以外の関税や非関税障壁ゼロをめざす
    交渉開始を条件に、自動車関税は当面猶予。
   ・日本とは9月、TAG(Trade Agreement of Goods、物品協定)の交渉開始で合意。
    協議中は自動車への関税はかけない。
   ・トランプ対日貿易問題に乗り出す可能性、日本G20議長国になる6月が山場?

  5)中国不公正貿易非難と圧力
   ・米中貿易戦争の背景には、トランプ氏だけでなく米国指導層の対中認識の大きな変化。  
   ・10.2. Mike Pence氏のHudson Instituteでの講演が象徴的。
    ・ペンス氏は、中国が不公正な貿易で巨利を得、アメリカに敵対的な戦略をとっている
     と強く非難。
    ・ペンス演説は、トランプ政権のみならず民主党の中国警戒・強硬派も含め、米国の
     establishmentの対中国観を集約・代表するものと受け取られている→新冷戦の開始?
    ・米議会の超党派諮問機関、米中経済安全保障再考委員会(USCC)は11.14、中国の
     ハイテク技術が米国の安保上のリスクになると警告する報告書公表。

 3. トランプの選挙公約とその実践
  1)トランプの選挙公約
   ・トランプ氏は2016年選挙戦中から、保護主義的な主張を繰り返し強調していた。
     例えば、中西部や南部ラストベルトの選挙民にたいし、彼らの雇用機会(job)は中国や
     日本に騙し取られている。俺はそれを取り返してやる(”Your jobs have been ripped
     off and shipped off to China and Japan. I will get them back to you guys”)
   ・具体的には:
    ・NAFT見直し
     ・TPP離脱と二国間FTA主張
     ・対米黒字国に対し不公正貿易への対抗措置として高関税、など。
 
  2)アメリカ第一主義
  ・トランプ氏は”America First(アメリカ第一主義)を至上命題とする。これはトランプ
    流のナショナリズムであり、排外主義、保護主義であり、国際協調の否定でもある。
  3)オバマ全否定とオバマケア撤廃
  ・トランプ氏は、オバマケア(医療保険制度改革法)、TPP, イラン核合意、気候変動に
   関するパリ協定、金融規制のDodd-Frank法、キューバとの国交回復などオバマ前大統領
   の業績を全て否定している。
  ・トランプ氏は、とりわけオバマケアを目に仇にした。アメリカは先進国なのに、これまで
   国民皆保険がなかった。オバマケアは皆保険をめざした。トランプ氏はこの撤廃をめざし
   たが、共和党内の反対派説得など議会工作につまずいて撤廃ができず、修正案に留まった。
   しかし、2017年末の税制大改革の中で、オバマケアで課された保険加入義務違反に対する
   罰金の廃止盛り込まれ、オバマケアは実質的に骨抜きになったとされる。

  4)イラン核協定離脱
  ・これまで30年間、核開発疑惑のため米国の経済制裁を受けていたイランが、今後10年間
   核開発をしないと約束するなら、経済制裁を解除するというイラン核合意が、オバマ前
   大統領の肝いりで、イランと米欧6カ国で2015年に協定された。
  ・トランプ大統領はイランは合意を守っていないと非難し、米国は合意協定から離脱し、
   経済制裁を再開。イランと取引する諸国に対しても制裁を課すとしたために、多くの
   国々が、原油や金融取引から撤退。イランは猛反発。緊張が高まっている。

  5)パリ協定離脱
  ・地球温暖化対策の国際的枠組みとして、初めて最大のCO2など排出国である中国や
   アメリカを含む195カ国が署名した画期的な「パリ協定」が2015年に締結された。
  ・トランプ氏は2016年の選挙選中から「米国に不利益、他国の利益で非常に不公平」
   と非難していたが、2017.6.1.脱退を表明。
  ・国際社会からも、また米国の産業界からも批判を浴びている。
  6)WTO批判と攻撃
  ・トランプ大統領は、WTOが中国などを利するのみで、適正に機能していないと選挙選中
   から批判。
  ・2017.8.27. 9月に任期切れとなる上級委員の再任拒否を伝達。
  ・WTOの紛争解決手続きは二審制。一審に相当する紛争処理委員会で決着がつかなければ、
   上級審に提訴できる。上級委員は定員7人。選任は全150加盟国の同意が必要。アメリカの
   反対で再任が妨害されているため、2018年12月には上級委員は一人。審査は3人で行われ
   るので、上級審は機能不全。
  ・多くの国がトランプ政権の追加関税を提訴しているが、アメリカには及ばない状況。WTO
   の機能は事実上停止状態。

  7)移民(不法)排斥とメキシコとの国境に壁建設
  ・トランプ大統領は就任直後に、イスラム系7カ国に対しアメリカ入国禁止大統領令。
  ・ワシントン、SF、ホノルルなど連邦地裁から差し止め命令。2017.6.最高裁は禁止令を禁止
   の範囲を狭めた条件付きで容認。
  ・メキシコからの不法移民を排除するために国境に壁を建設するとの選挙公約。
  ・費用はメキシコが負担せよとの要求はメキシコが拒否。
  ・かなりの部分はアメリカ負担で建設されたが、2018.11の中間選挙で民主党が下院で多数
   を握ったため、2019年度の壁建設予算は議会で阻止。トランプ大統領は壁予算が承認され 
   ねば、予算署名を拒否するとして、一部政府機関が2ヶ月以上機能停止状態。
  ・「壁」にこだわるのは目に見える選挙公約。民主党は取り締まり強化が重要と主張。
 
 4. 猜疑と”恐怖”のホワイトハウス
  1)異形の大統領
  ・既成の政治と政治家そしてワシントンの権力に倦怠感と嫌悪感を持っていたアメリカ国民
   が選んだトランプ氏は、これら既成勢力や機構と無関係なマヴェリックな実業人。
  ・内外の政治の経緯や制度に無知。当然かも。そして不勉強
  ・政治手法としてDealと直接交渉を好む。不動産業者としての体験。Multilateralism忌避
  ・独特な直感。
  ・Tweet で数億人に直接伝える手法は斬新。政治の情報伝達の歴史を変えた。
   既存メディアの否定。既存マスメディアでは政治発言は幾重にもscreenされ編集される。
  ・公約は強力に追求。そして実現。一定の成果。
 
  2)内幕本が伝えるWHの実態
  ・Michael Wolf " Fire and Fury”、Bob Woodward “Fear”内幕本がベストセラーに。
  ・トランプ氏、自分のスタッフに才能や力量より、忠誠心のみ求める。
  ・強力な権力信仰。権力の核心はFear(恐れ)と言ってはばからない。
   人事や決断の予測不可能性が恐怖を生む。Jurasic Park のティラノサウルスの恐怖に似る
  ・WH内は、独裁者の下で、互いの猜疑、裏切り、中傷、権力闘争。
  ・ちなみに、Steve Banon氏は、2016年のトランプ選挙戦略を立案推進したデマゴーグ
   (扇動家)。WHでは”ラスプーチン”のような権勢を振るった、女婿クシュナー氏らと対立
   2017.8にWHを去った。その状況は”Fire and Fury”に詳しい。
 
 3)追放される常識派と国際協調派
     ・Gary David Cohn(NEC)委員長が、2018年3月6日、トランプ氏の高率関税賦課の
  方針に反対して辞任した。トランプ氏はの後任に、Larry Kudlow氏を指名。Kudlow氏は
  保守系の知名度の高いTV評論家。レーガン政権時代にホワイトハウス入りの経験も。近年
  は、インフレなき経済成長を説く。大型減税で企業は投資↑→生産性向上→物価↓で
  インフレなき成長可能との主張でトランプ政策を支持。
 ・ Rex Tillerson国務長官が、3月13日、解任された。Tillerson氏はトランプ氏のツィツター
  で解任を知ったという。 Tillerson氏は2017年夏にトランプ氏をmoron(低能)と評した
  として物議を醸した。国際協力を否定するトランプ氏と馬が合わなかった。
 ・Jim Mattis国防長官は、海兵隊大将の経歴。mad dogの異名を持つが、8000冊の蔵書に
  親しむ読書家で真摯、思慮深い人物。同盟国の重要性をトランプ氏に説き続けた。2018.
  12. ISに勝利したのでシリアから撤兵を決めたトランプ氏の決断に辞表。トランプ氏は
  2019.2末の解任を1.1に早めた。WHで唯一、信頼できる”大人”が去ったと惜しまれた。
  後任はPatrick Sharahan氏。
 
4)極端な自国中心派が牛耳る国家戦略
 ・Tillerson氏の後任にMike Pompeo氏を指名。彼はComey氏の後任としてCIA長官に任命
  されていた。Pompeo氏はイラン核合意は最悪の協定として批判、CIAによる拷問を容認。
  イスラム教徒の入国禁止も支持しており、トランプ氏は”思考回路を共有できる”としている
 ・3月23日、安全保障担当の最高補佐官Herbert R. MacMaster前陸軍中将を解任。後任に
  John Bolton元国連大使を3月22日に任命。Bolton氏はBush Jr.政権で国務次官や国連大使
  を歴任。北朝鮮やイラクへの攻撃を主張するなど超タカ派のネオコン(新保守主義者)。
 ・Peter Navaro氏、WHの貿易担当補佐官、強硬な反中国派。Harvard大経済学博士という
  がトランプ氏の重商主義を信奉して理論化するという扇動者?
 ・Robert Lighthauser氏、USTR代表、対中交渉の責任者。中国を不公正貿易国と見立てて
  非難、攻撃。

 5. ロシア疑惑とトランプ再選の可能性
  1)トランプのロシア疑惑は明らか
   ーサイバー攻撃(機密情報入手)、フェイク(偽)ニュースのネット散布。
   ・スイング州での獲得選挙人:トランプ290人、クリントン227人
     スイング州獲得票数:Hillary 7万票差のみ。全国全票数:Hillary: 290万票多
   ・ネット効果は少なくとも100万人? ロシア妨害効果明らか。
   ーオバマ大統領は、この件、確信しており、9月の杭州でのG20で、プーチン氏に
     「大統領選へのサイバー攻撃での干渉をやめない場合、深刻な結果を伴う」と
      直接警告したことを12月に明らかにした。
   ・2016.12.7、米政府は民主党全国委員会に対するサイバー攻撃について「ロシア
      政府が指揮した」と断定し、名指しで非難声明。
   ・2016.12.29. ロシアのサイバー攻撃での米大統領選への干渉に対し、ロシア外交官
      35人の国外退去の制裁措置を発表。
   ートランプ氏の対応:Mike Flynn補佐官解職:ロシアとの接触を偽証したとの理由。
   ・James Brien Comey Jr.CIA長官解職:フリン捜査やめよとの圧力(司法妨害)に
    抵抗したため。

  2)Mueller調査の進展
   ・2017.5.17. Mueller、Robert特別検察官任命。Mueller氏はベトナム戦勇士として国民的
    人気、FBI長官として関係者から信頼が厚く、8年任期を10年に延長奉職。
    Mueller特別検察官は精力的に調査活動を開始。
    8月には調査結果に基づき、トランプJrやマナフォート氏の疑惑につき大陪審を招集。
    10.30:Paul Manafort,  George Papadopoulos(トランプ選対幹部)起訴
    12.3. フリン偽証罪で追訴、また本丸の選挙妨害についてもロシア在住の被疑者13人
    を起訴、Trump Jr.のロシア弁護士との接触など疑惑解明を続けている。
   ・2018年には、Mueller検察官の地道で綿密な調査はさらに進展。様々な疑惑の解明
    につながる事実が明らかになるにつれて、フリン元補佐官、マナフォート元選対部長
    さらにトランプ氏の最側近として彼を支えた弁護士のCohen氏など起訴された重要
    関係者が次々に、司法取引に応じており、重要事実の関連が明らかになりつつある。
   ・Muelller検察官の調査で、トランプ氏のロシアと組んだ選挙妨害工作、司法妨害、
    ロシア関連の資金洗浄、女性スキャンダルの隠蔽工作などの実態が解明されつつ
    あり、それらを踏まえて、最終報告書が近日中にまとめられ、公表されると見込まれ
    ている。

  3)大統領弾劾の手続き
   弾劾(impeachment)の手続きは:
    1. 下院本会議が過半数で弾劾訴追を決定→上院へ      
    2.  上院:最高裁長官が議長。弾劾裁判。下院が議決した弾劾訴追項目を審議。それぞれ
     の項目につき、有罪か無罪の採決。2/3以上が有罪に賛成すれば大統領は罷免される。
   ・2018年11月8日の中間選挙の結果は、下院では民主党が改選前の193議席から41議席を
    増やして234議席を獲得、共和党は改選前の235から199へと減らした。民主党は過半数
    を大きく確保したので、弾劾訴追を決定することができる。実際ペロシ下院議場は
    2019年1月の新議会会期冒頭に”弾劾の選択は排除しない”と発言している。
 
   ・一方、上院は、共和党が中間選挙で議席を増やし、これまでの51:49から53:47へと
    その差を4議席に増やしたので、、トランプ氏は中間選挙結果は”最高”と自賛した。
    ”弾劾”は上院の”裁判”で決まるので、彼は弾劾は回避できたと安堵した?
   ・しかし、Mueller Reportが発表されると、その中でトランプ氏のあまりに醜い反国家的
    行状が明らかになり、それが国民の眼に広く晒されると、民主党はもとより、共和党
    の議員の中にも、果たしてそうした大統領を支え続けることが、彼らがこれから選挙民
    の支持を確保する上でプラスになるのかどうか、疑問が生まれる可能性がある。Report
    の結果によっては、トランプ氏の弾劾もあり得ない訳ではない。
 
   ・ペロシ議長はじめ民主党の執行部は、しかし、今、トランプ氏を弾劾しても、制度的に
    はペンス副大統領が昇格するだけで、トランプ路線は継続される。それよりも、この
    2年はトランプ氏を泳がせておいて、2020年の選挙でホワイトハウスを奪回することが
    望ましいとの思惑もあるとされる。
 
  4)大統領再選の可能性
   ・トランプ氏は、ロシアゲートを回避できれば、2020大統領選で再選される
    可能性が少なくない。
   ・トランプ氏には選挙民の約4割の根強い支持者層があり、また選挙公約を
    トランプ流に実現してきたことがその支持をより強固にしていると見られる。
   ・さらに民主党には多くの顕在と潜在候補者がいるが、求心力のある候補者が見当たら
    ないことがある。ただ、アメリカでは、大統領候補者は1年半あればつくり出せると
    される。多くの候補者の絞り込みのプロセスで選挙民の共感が得られれば、民主党
    のWH奪還も不可能ではないかもしれない。

 6. トランプ政権の経済政策とアメリカ経済
 ・トランプ政権が重視する三大経済政策:大減税、大インフラ投資、関税政策
 
 1)大減税とアメリカ経済
 ・トランプの大型税制改革は2017年末に上・下両院の折衷法案として成立。
 ・その内容は:
      ・法人税率21%(34%→21%)
      ・個人所得税:最高税率39.6→37%へ。税率区分3段階→7段階へ。基礎控除↑
      ・資金還流税制:海外留保金に一時重税。海外子会社からの配当課税廃止
      ・投資促進税制:固定資産取得の即時償却
      ・減税規模 10年で1.5兆ドル。
 ・アメリカ経済は、2008年から10年間、景気上昇を続けており、2017~2018年はほぼ
  完全雇用状態。トランプ政権の拡張型の経済政策の下で、名目経済成長率は2018年央か
  ら米国経済の潜在成長率(約2%)を大きく上回る4%前後の成長を記録している。そう
  した加熱状態の経済に、大規模減税が実施されれば、労働需給は逼迫し、インフレを加速
  する。また、減税で歳入が減るので、財政赤字は増加する。
 ・FedはYellen議長時代、2015.12にそれまでのゼロ金利政策を解除し、慎重に金利正常化
  をはかったが、トランプ政権下でインフレの加速が懸念される中で、Powell議長率いる
  Fedは経済安定を維持するために、FFレート引き上げペースを早め、2018年末には2.25
  ~2.5%レンジまで引き上げた。2019年にはさらに利上げ。

 2)大インフラ投資と財政赤字
 ・トランプ氏は、アメリカの老朽化したインフラを更新するためとして、2018.2に
  大規模なインフラ投資計画(Infrastructure Initiative)を発表。
 ・10年間で1.5兆ドル規模の財政出動。
   共和党案:連邦2000億ドル、残りは州、地方政府、民間セクターで。
   民主党: 連邦の負担過少と批判
 ・現段階(2019年初)では、計画の詳細は詰められていないが、この大規模財政出動が実行されると、それはインフレを助長すると同時に、財政赤字を膨張させる。

 3)高付加関税政策
 ・トランプ政権は2018年後半から中国はじめアメリカへの主要輸出国に対して、安全保障上
  あるいは不公正貿易などの理由で、高付加関税をかけ始めた。高関税政策は、輸入財の価格 
  を押し上げ、供給量を減らすので国内需給を逼迫させ、インフレを助長する。
  GMは高関税によるコスト高で5工場閉鎖、1,5万人リストラ。トランプ激怒。GMは合理的。
 ・米国の輸入はGDP12%程度。高関税による経済下押しリスクはそれほど高くない? 
 
 4)インフレ、高金利、株安、ドル高と景気後退
 ・こうした状況でインフレが進むと、Fedは経済安定化のために利上げを重ねざるを得
  ない。トランプ氏は利上げを続けるPowell Fedが ”狂っている” と中央銀行の独立性を
  無視した危険な批判を繰り返しているが、金利でコントロールしなければ、アメリカ経済
  はインフレが昂進して悪質なスタグフレーションに陥るだろう。
 ・しかし、金利の引き上げは、株安を招き、また期待成長率とリスクプレミアムの高い
  トランプ政権下のアメリカ経済では長期金利が高まらざるを得ない。長期金利の上昇
  はドル高を促進し、それはアメリカ経済の輸出競争力を削ぐだけでなく、弱小の新興国から
  の資金のアメリカへの流出によって通貨下落や、ドル建て負債を抱えた国々の破綻を招く
  など、世界レベルでの景気後退と経済縮小を招くおそれが高い。
 ・トランプ政権が第二期に入ると、その三大経済政策が全開するので、こうした悪夢の
  シナリオが実現する可能性が一層高まるだろう。
 
 ・リスク: 
   インフレ↑→金利↑→長期金利↑
     →輸出減退
     →弱体国:トルコ、アルゼンチンなど。通貨↓、インフレ↑、金利高騰↑
     →債務国:経済↓、破綻、default, 通貨↓失業↑
     ⇒世界経済収縮

Ⅲ.    混迷する欧州と伏在する危機
 1. Brexitの経緯と顛末
  ・Brexit問題は欧州のみならず世界の緊急かつ重大な関心。
  ・離脱期限の2019.3末までに円滑な離脱ができず、No Deal Brexit(合意なき離脱)になる
   と英国、欧州だけでなく世界経済に甚大な衝撃と経済活動阻害の後遺症。

  1)世紀の愚策:キャメロン首相による国民投票
  ・2016年6月23日に行われた国民投票の結果は、Brexit派が51.9%対48.1%僅差で勝利。
  ・青年層、高学歴層、ロンドンなど大都市の市民は残留、地方在住、低学歴者、中高齢者層
   はほどんど離脱投票。多くの知識層は残留を当然と考えて投票に行かなかった?
  ・国民投票の背景。2015年の総選挙を前に、英国独立党の急伸や保守党内の対立に悩んだ
   キャメロン首相が1975年のウィルソン首相(労働党首)がEC加盟を国民投票にかけた成功
   経験に倣い、国民の関心の外部化をはかって国民投票を約束?
  ・2015.5.の総選挙は、保守党が大勝。国民投票は約束の2017でなく2016.6.23に前倒し実施
  ・国民投票の前にキャメロン首相はEU当局と交渉、一定の理解と譲歩を得たので残留が得策
   と考えて国民に分厚いパンフレット配布してアピール。詳細すぎて選挙民の理解超えた?
  ・キャメロン首相が頼みにしていたBoris Johnson ロンドン市長やMichale Gove氏が離脱派
   の旗手になったのはキャメロン氏には痛手。離脱派は反移民を感情的に訴え、離脱すれば
   EU から金が戻るとの虚偽の喧伝をして国民を扇動した。

  2)義務感で硬直したメイ首相
  ・国民投票で負けたキャメロン氏は首相を降板。キャメロン内閣で内相を4年担当した
   Theresa May氏が消去法で首相になった。対抗馬が辞退などしたため、議員選挙も
   党員選挙も経ずに2016.7.首相になった。
  ・首相就任後しばらく(8~9月)はメイ首相の発言は旗色不鮮明だった。彼女はもともと
   残留派だったので、国民投票は実は法的には参考意見に過ぎないという理由で、ウヤ
   ムヤにするのでは、との観測も一部にはあった。それができたら大政治家かも。
  ・しかし、彼女はやがて「国民投票の結果は明白であり正当だ。離脱は離脱(Brexit is
    Brexit)との立場を明確にするようになった。メイ首相は10月の保守党大会で強硬離脱
  (hard Brexit)の旗色を鮮明にした。彼女はもともと残留派だったが、首相になるやその
   職責上、自分の信条とは正反対の”強硬離脱”に政治生命をかけるようになった。
  ・2017.3.29 リスボン条約50条に基づき、メイ首相はEU本部に”離脱”を正式に通告した
   離脱期日は、2年後の2019.3.29となる。
  ・予備交渉のためブラッセルを訪ね、離脱条件を打診した際、彼女はBrexit Bill(手切れ
   金?)が莫大であることを知る。英国の欧州への寄与や特殊性を訴えて、減額を要請
   したが、メルケル首相に ”Rule is rule” と撥ね付けられて帰国。
  ・メイ首相はそこで、総選挙という賭けに出る。1. 圧倒的多数をとってEUにたいする交渉力
   を強めること、2. 総選挙を経た首相になること、が動機?下馬評は保守党の圧勝が大勢。
   ところが選挙結果は、予想外に保守党の大敗。メイ氏の賭けは完全に裏目にでた。選挙を
   動かしたのは若者の投票行動と言われた。労働党の若者におもねる授業料無償化、福祉増
   額などの公約が若者を引きつけたとの解釈もあるが、2016.6の国民投票にまさかBrexitに
   なるとは思わず、投票に行かなかった若者が投票したことが大きいのではないか。
  ・6/8の英国総選挙でメイ首相率いる保守党は12議席も議席を減らし、318議席と過半数
  (326議席)をも割り込んだ。労働党は逆に229から262議席へと議席を大幅に増やした。
   そこでメイ首相は下院で10議席を有する北アイルランド保守政党の民主統一党(DUP)に
   擦り寄り、閣外協力で合意を得て、ようやく政権は継続できることになった。しかし、
   このことがいわゆるアイルランド国境問題として、その後メイ首相を苦しめつづけること
   になる。
  ・2017年の年末に向けて、離脱条件の交渉が大詰めを迎えた。離脱には大別して三つの条件
   をクリアーすることが必要だった。
   1)Brexit Bill(手切れ金=離脱請求書)、英国がEUに負っている債務の清算分。
   これは(EU予算の未払い分、EU官僚の年金負債、EIB(欧州投資銀行)融資の保証分など)
   であり、当初EUは600億ユーロ(8兆円)を要求したが英国が特別扱いを要求。困難な交渉
   の結果、12月に入ってようやく英国側が400億~450億ユーロ(5~6兆円)を英国が受け
   入れたので原則合意が得られた。

   2)在英のEU市民と在EUの英国市民の権利保護

   3)英国とアイルランドの国境問題の解決
    アイルランド問題は17世紀の宗教革命から今日まで続く対立と紛争の歴史に血塗られた
   困難な問題である。現在はアイルランド共和国(南、カソリック多い)と北アイルランド
  (英連邦、北部地域、プロテスタントが多い)に分割されている。
    南北ともこれまではEU加盟国だったが、英国の離脱で、北が英国領である限り非加盟と
   なる。 EUは南北国境をヒト、モノ、カネの自由流通を保証することを離脱の条件として
   要求している。 メイ首相は2017.12.13~14のEU首脳会議に向け、それを受け入れる意向
   を提示した。
    これにたいし、12.8.北アイルランドDUP(民主統一党)のフォスター党首は閣外協力
   の撤回も辞さずと強硬に反対。自由流通・移動だとアイルランド共和国側から移民が北に
   無制限に入国することを排除できない。国境問題は今後の通称協議で継続審議ということ
   で、12月13.14のEU首脳会議の段階では玉虫色で一応決着した。アイルランド国境問題は
   その後も関係者が納得する解決策が見出せず、現在までBrexit問題の桎梏になっている。
    EU首脳会議(Brussels)では、英国はenough guaranteeを示したとして離脱条件に
   関するE.Commission Recommendationを承認した。以上が、英国のEU離脱条件に
   関する原則合意である。それをふまえて、Brexitは、本丸の通商条件の交渉に入ること
   になる。

 3)アイルランド国境問題
 ・南北アイルランド問題は、300年以上も続いた紛争の歴史。1998年4月にいわゆる
     Good Friday Agreement(ベルファスト合意)で一応の決着がつくまでに、戦後だけで 
  も紛争で3000人もの犠牲者が出た。英国とアイルランド共和国がEUに加盟してからは
  南北アイルランドには事実上、国境がなくヒト、カネ、モノが自由に行き来した。英国
  がEUから離脱すると、南北の間にはまた国境ができる。それは紛争に苦しんだアイル 
  ランドの人々は感情的に許容できない。
 ・しかし国境のチェックがなければ、南の共和国から北アイルランドに移民が自由に
  やってくるし、密輸も横行する。それは認められない。Brexit実行後、英国はこの
  アイルランド国境で、厳格な国境管理のない国境という稀有の状態を実現しなくては
  ならない。
 ・問題は、それをどのような形でいかに具体的かつ現実的に実現するかである。
  メイ政権は、後述するように2018年7月はじめに発表した政府白書(通称Chequer’s Plan)
      で、厳格な国境管理を回避する具体策としてITの先端技術を駆使して、関税事務所や関税
  手続きの目に見える作業なしで、事実上、関税業務を実現させる新しい入国審査や関税業務
  のあり方を提案した。しかし、これはこれまでには世界のどこでも実施されていない未踏の
  空想的な技術であり、現実性・具体性がないとしてEU首脳から全く評価されなかった。
 ・EU当局は、メイ政権が具体案を示せずに時間が浪費されることにしびれを切らし、2020
  年末までの「移行期間」については、北アイルランドだけを関税同盟に残すという案を
  提示したが、これに対しては、メイ首相が、それは英国を分断するに等しいので、全く
  認められない、と拒否した。
 ・具体的な解決策が見つからずに窮地に追い込まれたメイ首相は、2018年11月になって、
  英国の分断を回避し、かつ厳格な国境管理をしないで済む方策として、北アイルランドを含む
  英国全土をしばらくの間(当面は「移行期間」)、関税同盟に残すという対案を提案した。
 ・関税同盟に当面残留することについて、英国労働党は肯定的な反応を示したが、メイ政権内
  および与党保守党の強硬離脱派は激しく反発している。離脱後の英国が当面(明確な期限は
  未定)関税同盟に残留することは、その間、英国はEUの諸規則の制約を受けることになり、
  EUからの国家主権の完全回復を求めて選択された国民投票の趣旨に完全に反するという理由
  である。

2. 離脱案の提案、再提案と英国政治の葛藤
1)Checker’s planとEU首脳の批判
 ・2018年7月はじめ、メイ首相は、離脱後のEUとの通商関係に関する英国政府(メイ政権)
  の基本方針を取りまとめた。これは98pにおよぶ文書で、将来の通商関係に関するメイ政権
  の方針を体系的に記述している。メイ首相は、彼女の別荘Chequer's Houseに内閣の関係
  閣僚を招いてこの案を提示・説明したことから、この文書は「白書」もしくはChequer's
  planと通称されることになった。
・その内容は、基調としてEUと特権的な関係(privileged link)を保持することを謳っている。
 英国はモノについての自由貿易域(free trade area)を維持し、アイルランド国境を含め国境の
 すべてにおいていかなる摩擦も回避するようIT技術を活用して精緻に構築された仕組みによって
 EUの関税同盟のメリットを享受する。しかし、英国のGDPの80%を産出するサービスについて
 は英国とEUとの間により緩やかな関係を提案。すなわちサービスについては英国は自律的に
 ルールを設定できる自由度を確保する、という趣旨。
・この案にたいし、EU当局者は、英は「いいとこ取り」と警戒。EUの首席交渉官(chief
  negotiator)であるMichel Banier氏は、英国はモノの取引だけで単一市場型のメリットを享受
 して、サービスやヒトの移動の分野をそうした扱いから除外することは許されないと警告し、
 英国とEUがあたかも合同の関税領域にいるような状況つくるIT技術の実現性についても疑問を
 呈した。
・一方、英国の離脱強硬派は、白書の提案では、英国が離脱後もEUのルール作成に関与でき
 ないままEUルールに一方的に縛られることになるので、主権を取り戻すためのBrexitの趣旨に
 全く反するとして激しく批判した。それは深刻な事態に発展した。メイ政権発足当初から、
 Brexit問題を担当してきたDavid Davis離脱相が7.8夜、さらにBoris Johnson外相がその15
 時間後に辞任を表明したのである。
・EU首脳部は、2018.9.20~21にかけ、10月の定例首脳会議の一ヶ月前に臨時のEU首脳会議を
 Saltzburgで開催し、メイ首相を招いて、より率直に英国案について、EU加盟国首脳の意見を
 伝え、改善を求めようとした。EU首脳達はChequer's planを検討した上で、「提案はいいとこ
 取りで、その主張はEUの単一市場を掘り崩すものと厳しく批判。メイ首相はEU首脳は彼らの
 批判に反発。結局、10.18~19に予定されていたEU首脳会議での最終決着は事実上断念され、
 懸案は11/17~18の臨時首脳会議に持ち越されることになった。

  2)再提案と英国政治の障害
 ・膠着した事態の打開をはかるため、メイ首相は新しい協定案は2018.11.14に公表した。
  協定案は585pにおよぶ文書で離脱協定案、市民の権利、北アイルランド問題など広範な
  課題を網羅している。
 ・その要点は、英国はすべての財政的責任を果たし、離脱の結果、EU加盟国の負担が増える
  ことのないようにする。英国は、400兆ないし450兆ユーロの負債を完済し、英国在住のEU
  市民に充分な権利を保障する。
 ・2020年末までで合意された「移行期間」はEUと英国双方の合意で延長することができる。
 ・北アイルランド問題(30job):北アイルランドへのbackstop(安全策)は英国全土がEUの
  関税同盟に残留することで保証される。これは、メイ首相のred lineであるアイルランド海峡
  や国境で税関審査をしないことを保証する。
 ・公平なビジネス機会を保証するため、英国はEUの競争法などのルール、EU労働法、環境規制
  そして税制を遵守する。
 ・この新協定案が公表されると、Dominic Raab 離脱担当相が辞任を宣言。彼は、メイ首相の
  案は英国の誠実さへの脅威であり、保守党の公約違反であり国民の信頼を裏切ると批判。
  Raab氏につづいてEsther McVey労働・年金相、さらにSuella Barverman離脱担当副大臣
  またShailesh Vara北アイルランド担当相も相ついで辞任した。
 ・これに対してメイ首相はこの新提案をひっさげて、たとえ保守党が激動してもやり抜く覚悟。
  11.25の緊急EU首脳会議で、離脱協定案とともに正式決定したい、決意を強調した。そして
  11月25日、BrusselsでEU緊急首脳会議が開催され、メイ首相が提出したEU離脱新協定案は
  正式に承認された。 

 3. No Deal Brexit(合意なき離脱)の衝撃とこれからの展開
  1)移行期間なしの離脱の甚大な破壊効果
 ・2018.12の英国議会(下院)では、メイ首相の新提案が野党ならびに与党強硬離派の
  反対が多く、承認に見通しが立たないので、採決は2019年1月に延期された。そこで
  どのような展開になるか、現時点では見通しは立たないが、もし適切な合意が得られる
  ずに、No Deal Brexitになると何が起きるか、産業界はじめ各界でその懸念が高まっている。
 ・合意なき離脱となると、EUと合意している2020年末までの「移行期間」も無効になるので、
  突然、英国は海図なき荒海に漂流することになる。
 ・目に見える衝撃として、2019.3末から19.3末から急遽、英仏国境で通関手続き必要となる。
  準備期間や施設が足りない。港湾当局はトンネルを2分足止めでも27km超の渋滞となると
  想定。英国に立地する多くの工場は物流が事実上ストップし、サプライチェーンは機能不全
  となる。その結果、英国産業の空洞化が進み、それは世界経済の縮小に繋がる。
 ・また金融面では、英中銀は、合意なしの離脱の場合、英国に集中している想定元本ベースで
  最大41兆ポンド(約6000兆円)のデリバティブが不安定な状態におかれると警告。合意なき
  離脱となるとその天文学的な契約の書き換えや見直しが急遽要請されるので、英国や欧州
  のみならず世界の金融取引の大きな部分が麻痺状態になり、世界経済に深刻な影響を及ぼす。

 2)その後の展開
 ・メイ首相の次のハードルは、欧州首脳の承認を得た離脱案を、英国議会の下院で承認
  を得ること。当初、議決は2018年12月中旬に実施される予定。首相は、英国にとって
  この最終案を承認をすることの重要性を説き、また否決することの破壊的な影響の深刻
  さについて議員諸氏に熱烈に説いて、一人でも賛成票を増やすことに注力した。
 ・12月上旬にメイ首相の不信任案が議会に提出されたが、それは否決され、メイ氏は
  首相として信任された。
 ・しかし投票予定日の直前になって、票読みをした結果、反対派が、野党ばかりでなく
  与党の強硬離脱派や閣外協力をするはずの北アイルランドのDUP(民主統一党)
  なども加わり、はるかに多数になることが見込まれたので、メイ首相は投票を一ヶ月
  ほど延期する決断。
 ・投票は、2019年1月15日に予定されたが、メイ首相は、なんとか賛成を増やそうと
  「否決すれば、我々はuncharted water(海図なき荒海)に漂流することになると警告。
 ・1月中旬の状況は、メイ首相の牽引力の低下のもとで、議会による新たな離脱案の提出や
  国民投票のやり直しなどの意見が浮上しているが、投票の結果、どのような展開になるか
  現時点では極めて不透明。「合意なき離脱」の混乱も否定できない状況。
   ・2018.1.15夜、メイ首相の離脱案に対する下院の投票が行われた。結果は、賛成202
  反対432という歴史的大差で、首相の離脱案は否決。反対票の中には、保守党の造反票
  が118も含まれていた。
 ・翌日、労働党が提出した内閣不信任案にたいし採決が行われたが、ここでは不信任案
  は僅差で否決され、メイ首相は続投することになった。
 3)今後のシナリオ
 ・首相の再修正案提出:1/21にメイ首相が再修正案を提出して採決を求める。

 ・1/21:メイ首相、微修正、現状打開策示せず。
      アイルランド安全策(backstop)、当面(強調)英国全土関税同盟残留
      強硬離脱派は絶対反対
 ・再度の国民投票:これを求める声が高まっているが、メイ首相は国民の信頼を裏切るとして、
   断固拒否をしている。首相が信任されている以上、再投票は困難。
 ・ただ、労働党は党首以下再投票支持。与党内にも少数の支持。この動きが広まる可能性も。
 ・EUと再交渉:EUは再交渉には応じないとしており、これも困難。
 ・議会の一部に修正案模索の動き、大きな動きになっていない。
 ・3月29日までに、大多数の関係者が納得できる名案が見つかるか。不透明で困難。
 ・合意なき離脱のおそれ。
  →英国:経済に数%のマイナス可能性
  →EU:1~2% マイナス、世界経済:1%前後のマイナス
  →世界不況のトリガーのおそれ大

« 激動する世界と中国の課題(2)トランプ発貿易戦争をどう克服するか | トップページ | 『激変する世界と日本の針路』(2) »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『激変する世界と日本の針路』(1):

« 激動する世界と中国の課題(2)トランプ発貿易戦争をどう克服するか | トップページ | 『激変する世界と日本の針路』(2) »