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Brexit の経緯と課題(2)

Ⅲ.   通商協議開始と移行期間の設定

 1. 通商協議入りの停滞
  ○入り口の停滞
  ー2017年末、つまり国民投票から1年半かかってようやく離脱の三条件についてまがりなり
   にも暫定合意が得られ、Brexit本丸の離脱後の英国とEUの通商関係についての交渉が開始
   される段階になったが、それがなかなか進まない。

  ー離脱条件の一つとして基本合意されたはずの「清算金」についてEUから上積み要求が出
   出され、また2017年7月に予定された第二回交渉を前にしてメイ首相は、7.17. EU離脱を
   めぐり、移民制限や司法権の独立など英国の権利回復を優先すること、また単一市場から
   完全に離脱すると表明。2016.6の国民投票の民意を尊重するとして、強硬離脱路線を強調。

  ー7月20日に開催された第二回交渉では、「清算金」に関する英国とEUの溝が埋まらず、
   通商協議に入れるか展望開けず。英与党保守党内の議論もまとまらず、英国の交渉姿勢
   不確定。総選挙に大敗したメイ政権の求心力が著しく低下し、政治が動揺する中で、
   産業界には、英国とEUの交渉がまとまらず合意なき離脱という最悪のシナリオも
   あり得るのではないか、との懸念↑。

  ○メイ首相の来日
  ー2017年8月末、メイ首相が初来日。彼女は30社ほどの英企業幹部を引き連れての来日。
   Brexitで英国に直接投資している日本企業のつなぎとめ、とさらなる対英投資の勧誘
   を意図。その際、日本とのFTAも提案。これは彼女が主張しているGenuin Global
   Britainの手がかりの模索?日本はすでにEUとFTA交渉が大詰めにかかっているので
   行方の判然としないBrexitを抱えた英国に不用意に言質を与えるわけにはいかない、
   という消極姿勢の終始。

  ーちなみに、メイ首相が京都から東京に向かう前日、私はBBC世界TV放送で、メイ首相
   についてのコメントを求められた。「メイ首相のFTA提案に対して日本は消極的
   だが・・」とういう質問。私は「日本とEUとのFTA交渉の手前、日本政府として慎重
   にならざるを得ない。しかし日本人は英国を評価して応援しているので、頑張れ!」
   とメイ首相にエールを送った。

  ー2017.10、EU離脱第5回交渉。英国の政権内部で意見錯綜。「清算金」問題で停滞。
   通商協議への展望もてず。離脱交渉に残された時間が少なくなる中で、関係企業は
   英・EUの交渉決裂に備える動き↑。

 2.  移行措置の検討
 ー交渉がとりわけメイ首相の求心力の低下と保守党の内部混乱で停滞している一方、
  交渉の課題は膨大なので、EUは早くも暫定措置として「移行期間」設定の提案。
  EUと英国は、「移行期間」について2018年3月合意をめざす。しかし離脱の
  激変緩和措置としての「移行期間」については、延長の余地や各種権利の保持
  で溝が多く、交渉は綱渡り。

 ー2018.3.2. メイ首相はロンドンで演説。英国はEUと世界一緊密なFTAを結ぶ。
  英国は独自に規制を定める権限を取り戻す一方、製造業については無関税など
  の恩恵は維持したいと主張。May首相の見解にたいしてEU側は「いいとこ取り」
  と反発↑。FTA交渉が円滑に進むか予断を許さない。EUと合意が得られなければ
  2019年3月末の無秩序離脱のリスクも残る。

 ー英国とEUは、移行期間をめぐり暫定合意。2020年末まで1年9ヶ月の延長。
  2018.3.22開幕のEU首脳会議で、英離脱の「移行期間を2020年末までと設定し暫定合意。
  移行期間中の単一市場残留問題について4月から準備協議を開始することで暫定合意。
  しかし、アイルランド問題は複雑で、本格協議は先送り。なお英国はTPP参加の可能性を
  排除しないとした。

  3.  通商協議開始
 ー2018.3末でようやく本丸の通商協議に入るメドが立った。これからは時間との闘いとなる。
 ー2018.5. 金融の扱い焦点。BoE(イングランド銀行)は独立性、独自ルール設定を望む。
  Treasury(財務省)はCityの現状維持で税収を望む。EUは妥協案としてequivalence rule
  (同等原則)を提案。しかしEUのequivalence ruleは規制色が強い。英金融関係者は、City
  は競争力があるので、EUの統制志向は回避し、できるだけ自律性独自ルール設定力)を維持
  することが望ましい、との立場。

 ーこの点に関し、上述した私とCity of Londonの金融関係者が、「Cityは、英国のEU離脱で
  EUの単一市場や関税同盟のメリットを受けられなくなったとしても、これまでの世界最大
  の取引実績、技術・制度インフラ、そして何よりも金融人材の厚い蓄積があるので、それほど
  大きなダメージは受けないでやって行けると思う」と静かな自信を見せていたのが、印象に
  残る。


Ⅳ.   アイルランド国境問題
アイルランド国境問題とは何か
○北アイルランドとアイルランド共和国の国境
ーBrexitで最大の難関となったのが、アイルランド国境問題である。それは何か?そしてそれが
 なぜBrexitの最大の難関となるのか?

ーアイルランド国境問題とは、アイルランド島の北部にある英領北アイルランドと南部を占める
 アイルランド共和国の間の国境である。

ー英国の国民投票の結果としてBrexitの方針が採択されるまでは、英国本土も北アイルランドも
 アイルランド共和国も皆、EUの加盟国ないし加盟地域だったので、国境問題はなかった。
 EUは単一市場と関税同盟を採用しており、EU加盟国や地域の間では、ヒト、モノ、カネおよび
 サービスの流れは全く自由で、入国審査や関税検査などはなかったからである。

ーところが、Brexitが実現すると、北アイルランドと英国本土はEU非加盟となるので、北アイ
 ルランドとアイルランド共和国の間の約500kmにわたる国境では、ヒト、モノ、カネの移動
 についてチェックが必要になる。

○メイ政権のアキレス腱
ー単独では下院で過半数を確保できないメイ政権率いる保守党は、北アイルランドの地域政党
 DUP(民主統一党)の閣外協力でようやく過半数を維持している。このDUPは、2016年6月
 の英国の国民投票の際に、北アイルランドが全体として「残留」が多数だったのに、「離脱」
 を掲げ、また、厳格な国境管理には絶対反対の立場で、事実上国境管理のない国境のあり方
 を実現・維持することをメイ内閣への閣外協力の条件とした。

ー英国がEUを離脱、すなわち関税同盟を離脱すると、必然的に国境管理は英国のEU加盟以前の
 ように復活せざるを得ない。しかし、復活が不可避となれば、DUPは閣外協力から脱退し、
 そうなればメイ政権は崩壊する。それを避けるには、英国はEU非加盟国としてDUPの要求
 する事実上国境管理のない国境のあり方を実現するという難問を解決せねばならない。その
 現実的な具体策がこれまで(2018年11月)英国から示されてこなかったために、交渉は
 膠着状態で遅々として進まない。これがアイルランド国境問題がBrexitの最大の難関と
 なっている所以である。

 2. アイルランド国境の歴史的背景
 ○17世紀から20世紀初頭まで
  ー1600年代半ばに、イングランドの宗教改革後の混乱を受け、清教徒革命が起きて
   クロムウェルが政権を取ると、カトリックの巣窟だったアイルランドに侵攻して
   カトリック教徒の大虐殺が起こり、宗教戦争の様相。
  ーその後の名誉革命(1688年)の際にも、宗教が絡んで、オレンヂ公ウィリアムによる
   アイルランド遠征が行われ、イングランドが完勝してアイルランドは完全に植民地化。
  ーその後もアイルランドの対英反乱が繰り返され、手を焼いたイングランドは、徐々に
   アイルランド議会の権限拡大を認めるなど、現地プロテスタントを通じた支配を行っていく  
   が、差別された被支配カトリック教徒を服従させることはできなかった。

  ーところがフランス革命からナポレオン戦争に至る過程で、カトリック教徒たちは、
   フランスに触発されて第反乱を起こし、さらにはナポレオンと軍事的に提携する動きを
   見せたことから、イングランドは、アイルランド議会を通じて、1800年には連合法を
   成立させ、翌年アイルランド併合に踏み切った。その結果、グレートブリテン連合王国
   はグレートブリテン&アイルランド連合王国になった。

  ーしかしアイルランドでは、人口でプロテスタントを大きく上回るカトリック勢力が
   反乱やカトリック差別の解消を求める大デモなどを通じ、徐々に英国議会内における
   政治勢力を伸ばし、20世紀に入ると自治に向かっていた。

  ○第一次大戦から北アイルランド紛争まで
  ーところがそれが実現されようとする矢先に第一次大戦が勃発して実現が遅れた。
   これを不満とした強硬派が、大戦に追われる英国の隙をついて、英国からの完全な
   独立を訴えて武装蜂起。その反乱は英国軍の武力で鎮圧されたものの、1918年の
   選挙で勝利した独立派は1919年1月には再び武装蜂起してアイルランド共和国の成立  
   を宣言。アイルランド独立戦闘に突き進んだ。

  ーこの独立戦争はおよそ1.5年にわたって続き、1921年12月にようやく休戦協定が
  成立。そして大英帝国とアイルランド共和国暫定政府の間で条約が結ばれ、アイルランド
  に英連邦内の自治領として「アイルランド自由国」の建国が許された。

 ーその際、プロテスタントの多いアイルランドの北部6州は大英帝国に留まることを選択。
  カトリックの多い南部の26州はアイルランド自由国に加わることを選択。その結果、
  アイルランドは北部6州からなる北アイルランドと南部26州からなる「アイルランド自由国」
  に分断。

 ーアイルランド自由国は、1922年に英国国王の名のもとに正式に発足したが、国内では
  異論が渦巻いていた。その不完全な分断状態が、再びプロテスタント対カトリックの争い 
  と結びついて激しい内戦になった。内戦は1922年から約1年続き、多くの犠牲者が出た。
 ーその後も、北アイルランドでは、英国のプロテスタント支配から脱して、南北アイルランド
  の統一を求める人々が半数近くを占めた。アイルランド自由国は1937年に英連邦から離脱
  したが、南北分断への不満はくすぶり続け、1960年代になると、北アイルランド内での
  カトリック差別への不満が武力闘争に転化し、3000人を超す死者を出す北アイルランド紛争
  が起こる。

○Good Friday Agreement(ベルファスト合意)
 ーその紛争解決に向けた長い和平プロセスを経てやっと「聖金曜日合意(ベルファスト合意)
  が結ばれたのが1998年4月。この和平合意によってアイルランドは国民投票によって憲法を
  改正し、北アイルランド6州の領有権主張を放棄した。

 ーその和平合意が実施され、やっと北アイルランドの自治政府が成立したのは2007年。
  そこでは統合派(プロテスタント)と民族派(カトリック)の両方の政党が代表を
  出しており、現在も微妙なバランスを維持している。

 ーしかし和平プロセスは英国やEUの経済支援もあって機能しており、孤立した和平反対
  の単発的なテロはあるが、政治問題としての北アイルランド紛争は決着している。

 ーEUは和平合意をサポートする目的で毎年数百億円相当の予算をアイルランド向けに支出
  している。(このEUの資金援助も北アイルランドが残留を支持した理由の一つ)。
  こうした歴史背景のもと、今回の国民投票では、北アイルランドは、離脱反対が55.8%
  を占めた。

 ー紛争中は治安当局がチェックしていた南北アイルランド国境は、和平の一環として自由に
  往来できるようになったが、英国が離脱したら、それが制限されかねない。さらに英国が
  離脱すると、南はEU,北は非EUということになり、関税問題も。またEUに残るアイルランド
  では、これまで通り、EU諸国から自由に移民がやってくる。その移民たちが理屈続きの北
  アイルランドに入ってくるのを国境管理なしで止められるかという差し迫った問題がある。

 ーまた離脱後、北アイルランドはEUから開発支援を失うので、経済水準向上という和平
  プロセスへの支持基盤を維持するため、これに代わる経済支援を英国が見つけなければ、
  という難問もある。

 ーアイルランド国境での「厳格な国境管理」に反対する北アイルランド人の心情を、ある
  政府高官は率直に語っている(日経2018.10.22)。「厳格な国境管理の復活は政治的、感情
  的に受け入れられない。北アイルランド紛争では3000人以上の犠牲者が出た。国境の復活が
  すぐ紛争とはならなくても国境警備官への攻撃などはありうる。経済も重要だ。英国は
  アイルランドにとって最大の輸出先。北と共和国の間では数千の中小企業がビジネスが
  行われ、ヒト、モノ、カネが行き交っている。合意なき離脱と国境復活のどちらを選ぶか
  は飢饉か疫病かを選択しろということだ。」
 
○メイ政権の提案、EUの代案、英国の与野党の見解
 ーBrexit実行後、英国はこのアイルランド国境で、厳格な国境管理のない国境という稀有の
  状態を実現しなくてはならない。EUは英国の直面するアイルランド国境問題という難問
  について「厳格な管理のない国境(no hard border)」を実現するという原則で英国と
  合意している。

 ー問題は、それをどのような形でいかに具体的かつ現実的に実現するかである。
 ーメイ政権は、後述するように2018年7月はじめに発表した政府白書(通称Chequer’s Plan)
      で、厳格な国境管理を回避する具体策としてITの先端技術を駆使して、関税事務所や関税
  手続きの目に見える作業なしで、事実上、関税業務を実現させる新しい入国審査や関税業務
  のあり方を提案した。しかし、これはこれまでには世界のどこでも実施されていない未踏の
  空想的な技術であり、現実性・具体性がないとしてEU首脳から全く評価されなかった。

 ーEU当局は、メイ政権が具体案を示せずに時間が浪費されることにしびれを切らし、2020
  年末までの「移行期間」については、北アイルランドだけを関税同盟に残すという案を
  提示したが、これに対しては、メイ首相が、それは英国を分断するに等しいので、全く
  認められない、と拒否した。

 ー具体的な解決策が見つからずに窮地に追い込まれたメイ首相は、2018年11月になって、
  英国の分断を回避し、かつ厳格な国境管理をしないで済む方策として、北アイルランドを含む
  英国全土をしばらくの間(当面は「移行期間」)、関税同盟に残すという対案を提案した。

 ー関税同盟に当面残留することについて、英国労働党は肯定的な反応を示したが、メイ政権内
  および与党保守党の強硬離脱派は激しく反発している。離脱後の英国が当面(明確な期限は
  未定)関税同盟に残留することは、その間、英国はEUの諸規則の制約を受けることになり、
  EUからの国家主権の完全回復を求めて選択された国民投票の趣旨に完全に反するという理由
  である。


Ⅴ.  Chequer’s plan、離脱相と外相の辞任

Chequer's plan
○Chequer’s Plan(メイ政権離脱白書)の公表
ー2018年7月はじめ、メイ首相は、離脱後のEUとの通商関係に関する英国政府(メイ政権)
  の基本方針を取りまとめた。これは98pにおよぶ文書で、将来の通商関係に関するメイ政権
  の方針を体系的に記述している。メイ首相は、彼女の別荘Chequer's Houseに内閣の関係
  閣僚を招いてこの案を提示・説明したことから、この文書は「白書」もしくはChequer's
  planと通称されることになった。

ーBrexitの交渉は、離脱の方法などを規定する「離脱協定案」と離脱後の通商協定
 など将来の英EU関係の大枠を提示する「政治宣言」に大別される。Chequer’s planは
 後者に当たる。

○白書の概要
ーその内容は、基調としてEUと特権的な関係(privileged link)を保持することを謳っている。
 英国はモノについての自由貿易域(free trade area)を維持し、アイルランド国境を含め国境の
 すべてにおいていかなる摩擦も回避するよう精緻に構築された仕組みによってEUの関税同盟の
 メリットを享受する。しかし、英国のGDPの80%を産出するサービスについては英国とEUとの
 間により緩やかな関係を提案。すなわちサービスについては英国は自律的にルールを設定でき
 る自由度を確保する、という趣旨。

ーモノの自由貿易地域では、アイルランド国境も含めてEUの関税同盟のメリットを享受し、国境
 のすべてにおいていかなる摩擦も回避するように精緻に構築された仕組みを活用する、として
 いるが、その焦点がアイルランド国境にあることは明らか。これまで繰り返し述べてきたよう
 に、この問題については、北アイルランドのDUPから国境管理のない国境を実現するよう厳し
 い注文がつけられている。この要請に答えるため、当初は、500kmの国境でなく、港あるいは
 海上でフェリーの上で税関業務をするという案も検討された模様。それはEU地域向けの商品
 の関税徴収を英国の税関が輸入側のEU加盟国側の税関に代わって行うことになるため、EU当局
 から主権にかかわる問題として棄却された。

○厳格な国境管理を避ける夢の技術
ーそうした試行錯誤の結果、Chequer’s Planでは、最先端のITを駆使した目に見えない方法で
 事実上の税関業務を行うという夢物語が語られている。具体案はつまびらかでないが、例えば
 貿易商品にICチップを埋め込んで、税関吏の現場での作業なしに、関税審査などが実行される
 といった未来志向の構想のようだ。しかし、このような技術はこれまで世界のどこでも実用
 されたことがなく、近い将来に実現する保証もないので、EU首脳からは問題外と批判された。

ーメイ首相はこれまで、離脱後には関税同盟を脱退するとの方針を掲げてきた。EUはそれなら
 FTA が唯一の選択肢と主張。しかしFTAなら原則として税関手続きの復活が不可避となる。
 またEUへの輸出品が英国製であることを証明する原産地規則も適用される。

○白書の特質
ー今回のChequer’s Planでの英国提案の自由貿易圏は「関税ゼロで税関手続きも不要」という
 現状の恩恵を享受しようというもので、英国にとってかなり都合の良いことを書き並べている
 が、メイ首相がホンの半年前まで主張していた強硬離脱路線からは大きく転換し、穏健離脱(soft Brexit)にむけて舵を切ったことは明らか。

ーまた、英国GDPの8割を占めるサービス(金融が大きい)については、英国は自律的に独自の
 ルールを設定する権能を保持するという原則論を掲げている。すなわちサービスについては
 独自色を強調しているが、詳細かつ具体的な言及はない。

ー一方、離脱後もEUからビザなし短期観光・ビジネスを容認し、企業間異動や高度人材、留学生
 受け入れを促進するとしている反面、移民の受け入れについては制限するという基本的立場を
 主張している。

2.  白書への批判:EU当局と英国強硬離脱派
○EU当局者の批判
ーこれにたいし、EU当局者は、英は「いいとこ取り」と警戒。EUの首席交渉官(chief
  negotiator)であるMichel Banier氏は、英国はモノの取引だけで単一市場型のメリットを享受
 して、サービスやヒトの移動の分野をそうした扱いから除外することは許されないと警告し、        英とEUがあたかも合同の関税領域にいるような状況つくるIT技術の実現性についても疑問を
 呈した。

○英国強硬離脱派の批判
ー一方、白書の提案は、英国が離脱後もEUルールに縛られることを意味する。離脱後は英国はEU
  ルールの作成や変更に関与できないため、一方的な順守迫られることになる。EU離脱で国家
  主権を取り戻すことを訴えてきた強硬離脱派から見るとメイ首相の提案は譲れない一線を
  超えた?

3.  離脱相と外相の辞任
○離脱相と外相の辞任
ーそして破壊的な事態が起きた。7.6のChequer’s Houseでの閣議で、メイ首相穏健離脱方針に
 閣議全閣僚が同意したが、7.8夜、Davis離脱担当相が辞任。同氏は2016年7月から離脱担当相
 として交渉に当たってきたが、M首相の穏健離脱方針に反発した。さらに、デービス離脱担当相
 につづき、D担当相辞任発表の15時間後、ジョンソン外相が7.9辞任した。

ー両氏の辞任の引き金は、離脱後のEUとの経済関係の交渉方針を決めた7.6の特別会議。
 M首相は10時間を超えるマラソン閣議で、EUとの自由貿易圏創設、工業製品の規格・基準の
 EU との共通化を提案。強硬派からは関税同盟に残るとEUに譲歩を迫られやすい弱い立場に
 なるとして批判。ジョンソン氏ら強硬離脱派はEUの単一市場から撤退し、他国と自由貿易を
 拡大すべしと主張。

○メイ首相不信任の動きも
ー保守党の規定では、党議員の15%(48人)の同意で、不信任投票が開始できる。メイ内閣は
 危機的状況に陥った。


Ⅵ.  Saltzburg9月臨時EU首脳会議、Brussel10月EU首脳会議

SaltzburgEU臨時首脳会議
○Saltzburgでの臨時EU首脳会議の開催
ー2018,9.20〜21にかけてSaltzburgでEUの臨時首脳会議が開かれた。EUは英国に対して
 アイルランド国境問題の具体的な解決策をはじめ、離脱後の通商関係をついての
   workable(実装可能)な構想を提示するよう宿題を出していた。Chequer’s Planはメイ
 政権のそれへの回答という位置付けだったが、その白書が公表されると、EUの首席
 交渉官Michel Barnier氏はじめ多くの関係者から厳しい批判が寄せられた。

ーEU当局は、問題の重大性に鑑み、2018年10月の定例首脳会議の一ヶ月前に、臨時の
 EU首脳会議を開催し、メイ首相を招いて、より率直に英国案について、EU加盟国首脳
 の意見を伝え、改善を求めようとしたものと思われる。

ーEU首脳は、メイ首相が登場する前にすでに意見を述べ合い、メイ首相が登場した時には
 あたかも待ち構え得て批判・攻撃するような形になった。

ー首脳の発言のいくつかを紹介しよう。フランスのBruno Le Maire蔵相は、Chequer’s planは
   欧州の基本信条を掘り崩すもので、これを認めることは欧州の終焉を意味する。英国はEUを
 離脱するが単一市場のメリットはすべて享受するというのではそれは欧州主義の否定だ。
 マクロン大統領は、2016年の離脱派の勝利は、容易な解決策しか考えない嘘つきの人々が
 仕組んだものと批判し、Brexitはコストと帰結を伴うことを知るべきだ、と強調。
 デンマーク、ベルギー、オランダなど英国と密接な通商関係を持つ国々からは、英国の
 このような「いいとこ取り」が許されるなら、我々の国は地盤沈下してしまう。

 ーDonald Tusk EU委員長は、「Chequer’s Planは”いいとこ取り”で、具体的な提案が
  なく、その主張はEUの単一市場の仕組みを崩すものだ」と批判し、10月の定例EU
  首脳会議までに4週間あるから、それまでにより良い案を提示してもらいたい」と
  要望した。

 ー総攻撃を受けたメイ首相は、かなり激昂して「Donald Tuskは、我々の提案は機能
  しない。それはEUの単一市場を掘り崩すものだ、と非難したが、彼はそれがどのように
  掘り崩すのか、その理由も具体的説明もない。そして対案も示さない。Brexit交渉の
  全過程をつうじて、私は常にEUに敬意を払ってきた。貴方方も英国に対して少しは
  敬意を払うべきではないか」と論駁。

 ーSatzburgの顛末を伝えた報道機関は、このサミットの意味するところは、これは
  論理の対決というより力の対決であり、力で勝るEUが英国提案を”いいとこ取り”
  として批判し拒絶したということ(Financial Times, 2018.9.22.) また、英国政府
  は自らの力を過信して、失敗した。これは正義の有無ではなく力の有無が左右した
  場面だった、と論評。

 ー結局、定例の10月18.19のEU首脳会議での最終決着は事実上断念され、懸案は
  11/17〜18の臨時首脳会議に持ち越されることになった。

2. 英国保守党大会
 ○メイ首相、保守党大会乗り切り
 ー018.10.3.保守党大会が開催。大会では、メイ首相が閉幕前に演説。持論の主張を繰り返した
  が、力がこもっており、大会の空気を主導。「「必要なら無秩序離脱も恐れない!」と自ら
  の離脱方針を維持する立場を強調、迫力あり。Boris Johnson氏らも演説したが、具体的内容
  に乏しく、しかもメイ首相に対抗して保守党党首を奪取しようという気迫なし。大会はメイ
  首相ペース。メイ首相の国内での復活を感じさせた。

3.  国民投票の再投票問題
 ○再投票問題への関心の高まり
 ー労働党は関税同盟の維持などEUとの関係重視を求め流が、メイ首相の離脱については
   拒否する構え。労働党では党員の9割が再投票支持。
 ー再投票の運動を推進するジョン・カー上院議員(EU条約の離脱条項策定に携わった)はなぜ
  に答えて”informed concent” だ。

 ースコットランド国民党の党首は、英国下院の35名の議員はもし再投票になれば疑いなく
  参加して英国のEUとの交渉が決定的な結果を産むよう議会をつうじて働きかける、とした。

  ○再投票は民主主義の毀損
 ー再投票の最大の被害は、democracyの毀損(Financial Times2018.10.8 )
 ー再投票は国民を分裂させる(Financial Times◉)
 ー再投票をすれば、今度はEU残留が多数を取るのでは、との観測が多々なされるが、私が
  2018.10末に懇談をしたロンドンの金融や大学の関係者は、民主主義国家としてあの国民
  投票の再投票をさせることは考えられない、との見解。それは国民への信義の問題という。

4.  10月EU首脳会議
○10月首脳会議の重要性
 ー10月17〜18に予定されているEU首脳会議を前に、バルニエ交渉官は今回の首脳会議が
  合意なし離脱を回避できるのかどうかの「決定的瞬間になる」とした。

 ーこの会議では、英国を除くEU27加盟国の首脳らは17日の夕食会で英国離脱を議論。
  一方、英国は16日に開く閣議でEUへの妥協案を協議する方針。交渉打開につながる
   提案をメイ首相が示せるかが鍵。

  ーEUと英国は各国の議会承認の手続きの時間を確保するため、10月首脳会議で
  (1)離脱の手順や条件などを定めた「離脱協定案」、
  (2)通商協定など将来関係の大枠を示す「政治宣言」の合意をめざしてきた。
   しかし、英国内の離脱方針をめぐる混迷で交渉は停滞。
  ー9月中旬、ザルツブルグで開いた非公式EU首脳会議では10月合意を断念。代わり
   に、EUは10月首脳会議で、交渉の「最大限の進展」(トウスクEU大統領)を 
   確認できれば、11月17〜18に臨時の首脳会議を開いて合意をめざすと表明。
   その進展がなければ「合意なき離脱」が一気に現実になる。

○首脳会議の結果
ー10.17〜18開催のブリュッセルEU首脳会議。行き詰まる交渉の打開策描けず。
  11月の最終合意をめざしてきた英・EUは最終期限をクリスマスまで伸ばしたが、
  実現のハードルは下がっていない。
 ーEUのトウスク大統領は「十分な進展はなかった」と18日、首脳会議閉幕後の記者
  会見で淡々と語った。
 ーアイルランド紛争の再発を避けるために英・EUはno hard border(厳しい国境管理
  を避ける)で2017.12に合意。英国は具体的な解決策を示すと約束したがEUの
  理解をも得られる妙案を出せていない。

 ○EUの暫定案
 ーこの問題では、EUは、まず、英国がEU関税同盟から完全離脱する2020末までに
  解決策を見つけられなければ、北アイルランドのみを関税同盟に残す、と提案。
 ーメイ政権はこれに反発。最長2021末まで英国全体を関税同盟に残す案を6月に公表。 
 ーEUは英提案が、21年末以降の国境管理の復活を避ける安全策(back stop)を欠いている
  と批判。
 ー開幕直前の14日、EU当局は(1)EUが英国全体を関税同盟に当面残す英提案を受け入れ、
 (2)英提案が機能しなかった場合の「第二の安全策』としてEU提案も残すとの暫定案を提示

  ○消えた暫定案
  ー暫定合意案に、Boris Johnson氏ら強硬離脱派は「投げ捨てるべきだ」と激怒。これでは
   アイルランド問題の解決策がみつからなければ、英国は永久に関税同盟に残り、離脱後
   もEUルールに縛られ続ける、と猛反発。

  ーメイ首相は、EUとの合意を急げば、メイ政権の強硬派閣僚が更に複数辞任するとの観測。
   メイ首相はそこで土壇場で合意案に「待った」をかけた。14夕、ラーブ英離脱担当相は
   急遽ブリュッセルにバルニエ交渉官を訪ねてメイ首相の懸念を伝達。暫定合意案は幻に。

 ○合意期限を12月に延期
  ー10.16、バルニエ首席交渉官は、英を除く27加盟国閣僚らに「合意なし」の
   離脱を避けるための交渉の最終合意期限は12月になるとの見通しを伝えた。
  ーただ、以降期間中の英国はEUの法律や規制に縛られ、EUへの拠出金の支払い
   義務も残る一方で、EUの意思決定に参加できない。英国の主権回復を掲げて
   きた強硬派を中心に以降期間を短くすべき、との声も根強い。

 ○メルケル首相の発言
  ーメルケルドイツ連邦首相は、EU首脳会議は、もっと柔軟な考え方で、Brexitの
   進展を阻害しているアイルランドの国境問題の解決に取り組むべきではないか、
   と発言。

 ○10月首脳会議以後の展開
 ー10.20. EUのトウスク大統領は移行期間の延長を「英国が決断すれば各国首脳も肯定的に
  検討するだろう」
 ー一方、英与党保守党の強硬離脱派は、延長案は、問題解決の先延ばしに過ぎないと反発。
  移行期間が伸びれば英国がEUルールに従い、EU予算に拠出する期間が長引くから。
 ー閣外協力の北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)も移行期間延長は国境管理の
  厳格化をしない保険にはなっていないと批判。DUPは本土と北アイルランドの分断に強く
  反対し、具体策を求め続けてきた。

 ○アイルランド問題で浮上した二つの打開策成立せず
  1. 物理的な国境は設けない代わり、双方の地元の工場など生産拠点で、製品が安全基準を
   満たしているかなど通関に必要な手続きをする。英政府はこれで厳格な国境管理の回避
   と判断? しかし、動物検疫や食品検査は国境でのチェックが必要。また、DUPは明確
   な国境がなくても通関手続き自体が事実上の国境と問題視。英国分断の関税障壁ができる
   なら予算案に反対と声明。
  2.  メイ首相は11日夕関係閣僚集めて「Ir 問題解決まで一定期間、英国全土を関税同盟に
   残す」案を提示。10月14日のラーブ離脱相とBarnier交渉官で一致、17日のEUサミット
   で大枠合意めざした。しかし、この案には保守党内強硬離脱派が反発。問題解決策が
   みつからないで、英国が永久に関税同盟に残り、EUルールに従い続ける中途半端な離脱
   になることを懸念。

  ージョンソン氏は「閣僚は首相案に反乱せよ」と主張。メイ首相はこの案を強行すれば閣僚
   辞任や予算審議で造反を懸念。この案も断念した。
  ー17日のEUサミットで設定されたクリスマスまでという期限に、合意なき離脱を回避できる
    かの、まさに正念場。

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