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2018年9月

トランプ発 貿易戦争(2)

Ⅵ.   NAFTA、WTO 

 1.  NAFTA再交渉とメキシコ
  ー8.29  NAFTA: Mexico:
   8.27、米国、メキシコはNAFTA見直し案に大筋合意
              主な合意内容:
   ・自動車関税をゼロにする条件(原産地規則)として、米・メキシコからの
     部材調達比率を75%(現在はカナダ含め62.5%)
   ・時給16ドル以上の地域で製造した部材を40~45%使用。
     (メキシコの平均時給は7ドル)(→米国内で生産せよとの意)
   ・鉄鋼やガラスなどの素材で米・メキシコ産品の使用拡大。
   ・5年毎に自動失効するサン・セット条項は不採用。6年毎に見直しながら
       16年間延長する仕組み導入。

   ー新協定は2020から段階的に適用、2023に完全実施。
    ・トランプ氏はWHの記者会見でわざわざメキシコのペニャニエト大統領に
     電話して自賛。メキシコ現大統領の任期中に合意。

 2.  NAFTA再交渉とカナダ
   ー8.30:メキシコとの合意受け、カナダとの協議、8.28開始。
      米国と同様、高賃金のカナダは、16ドル以上の規定には抵抗なし。
      しかし、乳製品や卵など農産品には大きな隔たり。メキシコの農産物への輸出
      補助金など保護政策の廃止で合意。カナダに対し、乳製品への補助金
      を撤廃せねば、自動車に高関税をかけると脅し。

   ー8.30  トルドー首相は、2019年総選挙。トランプ氏に弱腰を見せれば有権者の反発も。
      トランプの望む米国乳製品への市場解放が焦点。カナダとの交渉が難航した場合、
      カナダなしの新NAFTA発効も。その場合、カナダからの輸入車に25%の高関税
      の脅し。

   ー9.2   再交渉は、合意期限としてきた8.31.に決着できず、9.5に再協議。トランプ氏は
     メキシコとの2国間協定に先行署名すると議会に通知。強硬姿勢。
     日本は、トヨタのベストセラーSUV「RAV4」はカナダ産。生産40万台のうち20万台
     はカナダからアメリカに供給。レクサスもカナダで生産。影響は大。

   ー9.3.  カナダとの妥結は遅れ、分裂リスク↑。
     米国とカナダの通商関係はメキシコより深い。米国のモノ輸出最大はカナダ
     (2827億ドル)五大湖をまたいでサプライチェーン。米国に輸出するカナダ車の
     部材5割以上は米国産。米国の対カナダ貿易赤字は173億ドル(メキシコ711億ドル)
     本来、通商で摩擦はなかったが、2017.8開始のNAFTA再交渉で、Buy American義務
     づけ要求以来摩擦↑。例、カナダ木材などを不当廉売として多額の制裁関税付加。

    ートルドー首相は、2018.5.再交渉の合意に向け、乳製品の市場開放で譲歩しかけ、
     カナダ産業界から猛烈な弱腰批判。土壇場で譲歩撤回。ワシントン入りも見送り。
     与党自由党の支持率39%や↓。野党と逆転。

    ー追い討ちはアルミの輸入制限。カナダで直後開催のG7サミット。トルドー氏は
     「侮辱的」と対米批判。トランプはG7閉幕前にカナダを去り、機上から「首脳
     宣言を承認しない」と非難。トルドー氏のトランプ批判で、支持率↑。トルドー氏
     基盤のケベック州はアルミ産地。カナダ流自国主義に同調不可避。任期切れ近い
     死に体のペニャニエト政権とは違い、総選挙控えるトルドー政権の命運はNAFTA
     再交渉にかかる。

    ー9.13.  米国とカナダ9.11にNAFTAめぐる閣僚会議。再交渉の決着期限は9月末。
     両国とも決裂は避けたい。トランプ氏は中堅選挙で選挙民向けの成果望む。
     カナダはNAFTAの恩恵がなくなるのは困る。
    ・カナダとの交渉(妥結or未決)のタイミングは日米交渉にも影響。カナダが
     うまくいけば、またはうまくいかなければ、日本との交渉で成果求める?

 3.  トランプ政権のWTO批判と妨害
    ー米国は8.27. WTOに対し、9月に任期切れとなる上級委員の再任拒否伝達。
     WTOの紛争解決手続は二審制。まず提訴した国は相手国と二国間協議。60日以内
     に解決できねば、一審に相当する紛争処理小委員会(パネル)の設置要請できる。
     その結果が不服なら、最終審にあたる上級委員会に上訴。
    ・上級委員は7人定員。WTOは原則加盟国(164)全会一致方式。米国が拒否すると
     上級委員の選定進まぬ。9月末にはモーリシャス出身委員の任期切れ(任期は4年)
     一件を3人で審理。現在7人定員のうち9月末には3人に。機能不全。

                ー上級委員会が危機。委員定員の7人のうち3人が空席。任命や再任は加盟国全会の同意が
    必要。しかし米国が拒否している。9月末には4人の一人が任期。本人は再任希望。
    しかし米国が拒否。代わりの委員も任命されていない。このまま昨日不全がつづけば
    19年12月にも委員は一人に。WTOは審理は3人なので、上級委員会は機能しなくなる。

   ー多くの国がトランプ追加関税を提訴。しかしこのように機能不全なら米国には影響なし。
   ー8.15:Barry Ikengreen教授。中国の行動パターンを変えるのは有効な目標。
     しかし、トランプの高関税戦術は機能しない。各国が連帯してWTOのルール改善  
     が最善の道。

   ー9.4.  WTOアゼベド事務局長は、WTOに批判的な米国と対話しつつ改善の余地あり。
     特に全加盟国・地域の全会一致原則は改善の余地あり。

Ⅶ.   貿易戦争の行方と世界経済


 1.  破天荒なトランプ攻勢
   1)経済原理と理論の無智
   ートランプ大統領は、18世紀型の”重商主義”信奉者。これは貿易でより多くの黒字
    を獲得した方がそれだけ経済が成長するという単純な経済観。これは足し算引き算
    だけのゼロサムの世界観で、今日の経済学を知る人は誰もこのような誤った理解は
    持たない。

   ー国際経済学のみならず経済学入門でも最初に習うのは”比較優位”の原則。経済を
    構成する人々や国々が自分の得意の分野に特化して最高の生産性を上げ、お互いに得意
    を生かして交換すれば経済全体が成長し構成員も成長するという理論。これが開放的な
    国際貿易の論拠である。トランプ氏はPennsylvania Universityの学位を持つというが
    本当に勉強したのか疑問だ。

   2)二国間交渉とDeal
   ートランプ氏は経済的な競争条件を決める上での、多国間の協議を嫌う。1対1の
    勝負を好む。彼はそうした勝負の駆け引きをDealを呼ぶ。多国間協議では多くの
    国々すなわち最大多数にとってより良い結果が求められる。トランプ氏は1対1の
    Deal で勝ち、自分だけがより良い結果を得ることを好む。Dealに勝つためには
    情報も重要だが、脅しや騙しも有効だ。トランプ氏はそうした禁じ手を活用する。

3)  選挙と貿易戦争

   ートランプ氏が追求してやまない目標は、選挙で勝つことだ。彼は2016年11月の
    大統領選で、民主党のクリントン候補に勝って大統領になったが、歴代の大統領では
    もっとも不人気だったし、今も4割の支持を確保しているに過ぎない。彼は2020年の
    大統領選に勝って大統領職を二期つづけることを最大の目標としている。

   ーそのためには、まず2018年11月の中間選挙で与党共和党を勝たせなくてはならない。
    一方では、彼のロシア疑惑の調査がつづいており、少なくとも共和党が上院の過半数を
    占めなければ、彼はロシア疑惑で弾劾される恐れもある。彼は貿易戦争も北朝鮮対応も
    全てそれらの選挙の勝利のために最大限利用しようとしている。

 2.  世界経済への影響
   1)サプライチェーンの波及効果
   ー今日の世界経済では、情報が行き渡っているので、世界のどこで生産しどこで売れば
    最大の利益を得るかは見通しやすい。多くの企業は世界の有利な国や地域で、有利な
    協力者と組んで生産体制を構築している。サプライチェーンである。

 
    ートランプ政権は中国から米国への輸出品に高関税をかけているが、実は中国は
     世界のサプライチェーンの中では比較的最終段階(組み立て段階)に位置している
     ので、高関税は中国製品の付加価値には大きく影響しない。最終製品に占める中国
     の付加価値は1~2割ていど。対中高関税は、したがってサプライチェーンを通じて
     中国の最終製品を構成する世界の多くの国々の産品に影響を及ぼす。アメリカの中国
     攻撃は実は世界諸国への攻撃となっており、時間の経過とともに高関税のネガティブ
     な影響は世界に波及し、拡散する。

   2)米金利引き上げと貿易摩擦
    ーリーマンショックから続いた超金融緩和を脱却したアメリカ連銀はこの2年ほど
     金利引き上げを進めている。とりわけトランプ政権下で経済加熱が懸念されるなか
     でJay Powell議長率いるFedは金利引き上げのペースを早めている。アメリカ国内
     経済の金融面からの調節としてはそれは肯定されるだろうが、ドル金利の引き上げ
     は債務を抱えた低所得、弱小国にとっては深刻な打撃だ。これらの国々では債務が
     膨張し、ドル資金が米国に流れるので、通貨価値が下落し、不況が深刻化している。

    ートランプ発貿易戦争は、こうした弱小国の困難を増幅する。これらの国の産品への
     高率追加関税は、それでなくても弱い競争力を一層弱め、通貨価値の下落を加速し、
     インフレを増長する。

    ートルコは相当の経済規模をもつ地域大国だが、米金利引き上げによる資金流出で
     リラの価値が急速に減価してきたところに、アメリカと政治対立して、経済制裁を
     受け、経済はたちまち破滅的な苦境に陥った。

    ー多くの債務国や弱小国は、このような劇的な危機に直面しなくても、上述のサプ
     ライ・チェーンの網の目に組み込まれている限り、米中の関税報復戦争の余波を
     受けざるを得ない。そうした多くの経済が破綻に瀕すれば、それらの地域の需要
     が縮小して、世界経済の減速、縮小を助長することになる。

  3)世界経済萎縮のおそれ
   ートランプ発貿易戦争が米中の報復関税スパイラルを震源として両国のGDPを次第に
    縮小していくことは目に見えている。その縮小効果は上記の、サプライチェーンによる
    国際分業を通じて世界に波及し、また、米金利の引き上げによる債務国や弱小国の
    困難の深刻化を通じてさらに世界経済の縮小を促進する。

   ーIMFは、貿易戦争で、米国と中国の実質経済成長率が、2019年にそれぞれ最大で
    0.9%程度下押しすると分析した(9.24)。駆け込み需要で現在は堅調な中国の輸出
    も、2018冬以降は腰折れの恐れが大きい。

 
   ークルーグマン教授はトランプ発貿易戦争の最終的な効果を分析した結果、世界貿易量は
    70%縮小する可能性があるが、GDPの縮小は3%ていどにとどまるとした。
   ・クルーグマンの分析結果について、Martin Wolf氏は、これは一般均衡分析という抽象的
    な前提の世界での分析であり、世界経済の仕組みが変化する過程での混乱や不確実性を
    考慮していない。貿易戦争の結果、国際競争が停滞すれば競争による経済の活力が
    失われ、また貿易戦争による国際的な嫌悪感や過度な自己防衛傾向が強まれば、世界
    経済の縮小傾向はさらに増幅の可能性があると指摘。

 3.  米中の覇権闘争
   1)覇権国の被害者意識と傲慢
           ー歴史を振り返ると覇権国はつねにその覇権を維持しようとし、追い上げてくる国を
     蹴落とそうとする。こうした覇権闘争は古来より”ツキディデスの罠”として知られて
     いる。近代でも英国とロシア帝国の覇権闘争は19世紀の”Great Game”と言われた。

    ー第二次大戦後は、アメリカがパックスアメリカーナの盟主となって強大な覇権国と
     なったが、アメリカは冷戦の対極となったソ連を包囲し、結局、40年かかって崩壊
     させた。1980年代、経済的にアメリカに肉迫した日本を、アメリカは1985年のプラザ
     合意などの締め付けで、結局バブルの形成と崩壊に追い込んで、脱力させている。
    ー朱建栄教授は、これを”6割法則”と呼んでいる。「米国は世界ナンバーワンの覇権を
     守るために、ナンバーツーの追い上げを絶対に許さない行動パターンを持っている。
     それは6割法則と言われ、旧ソ連や日本が6割に追い上げた時点でなりふり構わぬ攻撃
     を受けて蹴落とされた。中国は今まさにそこに差し掛かっている」と見る。  

   2)屈辱の歴史と中国夢
    ー一方、中国の観点からは別の世界観が示される。中国は古代から近代まで東洋の圧倒
     的な超大国であり、文化の中心であり、最大の覇権国だった。ところが、18世紀後半
     から産業革命を達成して経済力、軍事力をつけた列強が、東洋の植民地化による収奪
     を図り、多くの国々が侵略、侵食された。

    ー中国は特に1840~42年のアヘン戦争と1856年のアロー号事件で、イギリスに事実上
     植民地化され、欧米列強が相次いで中国に利権を設定し、つづいて20世紀前半には
     日本によって蹂躙されるに至った。中国は第二次大戦では戦勝国となったが、2049
     年に毛沢東率いる共産党によって現在の中国が建国された。

    ー中国は1980年代以降、鄧小平の指導による積極的な開放改革戦略で目覚ましい
     発展を遂げた。鄧小平は事実上の超大国への道を急進するこの期間、”韜光養晦
     (爪を隠して内に力を蓄える)という路線を堅持した。しかし、2012年、国家主席
     に就任した習近平は、中国の力を内外に誇示する戦略に転換した。

 
    ー習近平は、盛んに”中国夢”を唱え、中国は今や、アヘン戦争以来170年の屈辱の歴史を
     乗り越え、中国人民にふさわしい世界の大国、強国になるのだと国民を鼓舞した。
     そのキャッチフレーズが”中国夢”である。外に向かっては、習近平主席は、2013年
     にオバマ大統領に「新型大国関係」の樹立を提案、また、ユーラシア大陸を包み欧州
     に陸塊で接続する「一帯一路」戦略を、AIIBという国際投資機構も構築して強力に
     推進している。

    ー朱建栄教授によれば、中国のこうした変貌を遅ればせに認識したアメリカについて
     「わずか4~5年前まで中国の台頭を余裕をもって接していた米国は、ここにきて、
      相手の追い上げが予想以上に急であること、トランプ政権の「不可測性」にもより 
      本気に脅威を感じ始めたことは事実。米国はいつもはのんびり構えるがいざ慌てた
      ら極端に走る」と評している。

    ー習近平政権が追求する”中国夢”は、170年間の屈辱の歴史の克服と払拭そして欧米列強
     の歴史的横暴に対するリベンジであり、中国人民の国家的復権をめざすものである
     以上、それは実現せねばならぬ国家の基本戦略である。それを実現する最大の基礎は
     経済力、特に質の高い競争力に裏打ちされた経済力である。その戦略の重要な一環と
     して、中国政府は「中国製造2025」というビジョンそして工程表を提示した。

 4.  習近平政権の強国構想
   1)「中国製造2025」
           ー中国国務院が2015.5発表の産業政策『「中国製造2025」は、次世代情報技術や
     ロボットなど10の重点分野を設定、製造業の高度化をめざす。
         ー中国は建国100年の2049に「世界の製造強国の先頭グループ入り」をめざす。
          「中国製造2025」はその長期戦略の第一歩。
   ・第一段階(15~25)目標:世界の製造強国の仲間入り。
    中国は規模は大きい(米国以上)が、強くない。技術革新力、資源の利用効率、
    産業構想などで先進国に遅れを認識。
   ー中国は単なる目標というが、事実上の必達国家目標。巨額の補助金、金融支援、
    政府調達の優遇などで推進。

   2)建国100年強国構想
   ー中国は、2021(共産党創設100周年)を念頭に、
     2020:小康社会の全面完成
     2035 :社会主義現代国家建設
     2049(中華人民共和国建国100周年):社会主義現代化強国。
    ・そのためには創新(イノベーション)が基本戦略

   ー製造強国への工程表
     1. 第一段階(2015→2025):製造大国(規模)→製造強国の仲間入り
     2. 第二段階(2025→2035): →製造強国の中等水準
     3. 第3段階(2035→2049): →製造強国の先頭グループへ躍進。

 5.  破局シナリオか破壊収束か
   1)報復闘争の限界

   ートランプ発貿易戦争が勃発して以来、米中は3ラウンドにわたる関税の報復合戦を
    してきた。

 
           米国          中国
      年間輸入額(2017) 5000億ドル     1300億ドル
      第一弾(7月6日)   340                          340
      第二弾(8月23日)  160                           160
      第三弾(9月24日)  2000                          600
       合計        2500                        1100
 
     これを見てわかるように、米国は中国からの輸入総額5000億ドルの半分にあたる
     2500億ドル分に相当する中国輸出品に高追加関税をかけた。これに対し、中国も
     3回にわたり報復関税をかけたが、その総額は1100億ドルにのぼり、それは米国の
     対中輸出品総額1300億ドルの84%に達する。もしこのような関税報復を続ける場合、
     アメリカはまで2500億ドルの余裕があるが、中国は200億ドルしかなく、弾切れ状態
     に近ずいているということだ。

   ートランプ大統領は、最終的には、2670億ドル上積みし、中国からの輸入品(2017年
    5050億ドル)全てに追加関税をかける用意があると述べている。そうなると中国は
    関税では報復できなくなるので、不買運動や非関税障壁などで対抗するしかない。
   ーかりにトランプ氏が中国からの輸入品全てに追加関税をかける事態になると、中国の
    米国向け輸出は中国の輸出総額の約2割だから、その全額に15~25%もの高額追加関税
    がかかるとなると、中国の対米輸出額の縮小は、中国経済全体にとっても相当の減少
    効果をもたらすと予想される。その影響は時間の経過とともにボディブローのように
    効いてくるだろうし、また、中国に集中している世界のサプライチェーン全体への
    波及効果はそのマイナス効果をさらに増幅すると考えられる。こうした事態が想定
    される中で中国にはどのような対応策が可能か、またどのような対抗策をとるのだ
    ろうか?

 2)中国の「以戦止戦」方針

   ー中国は2018年6月頃から「以戦止戦」の戦略方針に転換したと上述した。「以戦止戦」
   とは、戦いを止めるのにどうしても必要なら戦いをしても良い、その結果、活路も見えて
   くる、という中国古典、春秋時代の兵書『司馬方』に描かれた戦略思想である。

  ー中国の政府当局がこの方針を決断するに至ったのは、トランプ政権の身勝手、前言変更
   かつ高圧的な対応にたいして、2018年6月頃から、戦う以外ない、という判断に傾いた
   ことがある。中国はトランプ政権が米中の貿易収支の大きな差に強い憤りを持っていた
   ことは察知しており、2017年4月、並びに11月の首脳会談に、多額の米製品購入計画を
   提示した。また、2018年3月以降、トランプ氏が鉄鋼・アルミニウム追加課税を発表し、
   さらに中国の”知財侵害”を理由に、全般的な制裁関税の発動を指示し始めた段階で、
   中国側は、米国産品の特別買い付けや、米国などからの輸入品への関税引き下げ、
   さらに米国企業の対中投資額の上限撤廃(当面は金融業)など、さまざまな譲歩案を
   提案した。

  ーしかし、5.3~4、北京で開催された第一回米中通商協議に際して米国側が突きつけた
   要求は、あまりに一方的、高圧的で、とても対等の独立国家間の要請とは思えず(Martin
   Wolf)あたかもアヘン戦争当時を彷彿とさせるようなものだった。それでも交渉の結果、
   団長のムニューシン財務長官は、高関税追加を当面 ”holt(休止)”するとした。同氏は
   中国側の譲歩や建設的対応をそれなりに評価し、高関税の応酬といった破壊的な事態の
   進展を避けようとしたものと思われる。

  ーところが、その直後、トランプ氏は、こうした一時休止の合意を全く無視して、対中
   高額追加関税案を発表した。その背後には、ホワイトハウス内の対中強硬派である
   ナバロ通商政策補佐官やライトハイザー通商代表の働きかけがあったようだ。中国側は
   トランプ政権のこうした前言無視を繰り返す乱暴な対応に強い不信感を抱いて
  「以戦止戦」方針を採用したものと思われる。その「以戦止戦」戦略の中味は何か?

  ー一方、中国は、トランプ発貿易戦争の掛け声の下でも、高追加関税の発動までは、駆け
   込み需要で対米輸出が短期的には増加したが、発動の効果が行き渡ると輸出は減退し、
   それが中国経済全体にマイナスの効果をもたらし、景気後退につながる恐れが大きい
   ので、中国政府は財政出動や金融緩和など短期的な対応を取り始めている。しかし
   「以戦止戦」戦略の基本は、アメリカから中国企業への技術移転がますます困難になる
   中で、中国が自力開発で、イノベーションと製品・サービス開発を進めて、高い生産性
   と高い品質をもつ産業と経済構造を構築していくことだ。これは時間のかかるプロセス
   だが、建国100年をめざして経済強国になるにはそれしかない。アメリカ以外の国々と
   連携・協力を密にし、国内産業の質的向上を進めることが肝要だ。

  3)相互破壊か収束か

  ー現在、トランプ氏は一方的な最終勝利を信じて?猛進しているが、これから先、どの
   ような展開になるのだろうか?シナリオは?想定外の事態は?そして決着があるのか、
   を考えて見たい。

  ートランプ氏の猛進は、先にリスクがないわけではない。アメリカ経済が当面は好景気な
   ので、トランプ政権はこれまでは遮二無二、中国はじめ対米輸出国に懲罰的な関税を
   かけているが、これは時間の経過とともに、アメリカの消費者や産業に、輸入物資の価格
   高騰と供給不足をもたらし、国内経済にマイナスの効果をもたらすハズである。それは
   アメリカ国民にとっても、トランプ氏の支持者にとっても歓迎できない事態なので、
   トランプ発貿易戦争は実はアメリカから見ても無限に続けられるものではない。

  ーしかも歴史的には、アメリカの政権が輸入課徴金や高関税をかけて失敗した前例がある。
  ・1971.8. ニクソン政権は突如10%の輸入課徴金導入。ベトナム戦争で信用不安に陥った
   ドル救済のためだったが、しかし、”ニクソンショック”で相場が混乱したため、ドル
   切り下げと同時に輸入課徴金も撤回に追い込まれた。 
  ・ブッシュ政権は2002年、鉄鋼に最大30%の高関税を発動した。しかしITバブル崩壊で景気
   が低迷。輸入制限では逆に20万人の雇用が減退したため、撤回せざるを得なくなった。

  ーまた、トランプ政権は、現在、一方的に中国を追い込んでいるが、中国が現在、アメリカ
   国債の最大保有国ということも留意しておく必要がある。その額は約1兆1800億ドル。
   もし中国がこれを売却すれば、アメリカの長期金利は急騰し、アメリカ市場の株価は
   暴落し、米ドルも急落して、アメリカはじめ世界経済は大混乱に陥る可能性がある。
  ー中島精也氏は、その可能性に言及しつつも、それは全面的な金融戦争の引き金を引くこと
   になるので、中国はその手は使わないとする。またもし中国が売却を図れば、米国は1977
   成立の「国際緊急経済権限法」により、中国保有の米国債を保護預りしている証券会社に
   命じて米国債を凍結して売却阻止もできる。それこそは本当の戦争につながるリスクなの
   で現実的には国債売却という禁じ手はあり得ないとされる。
  ・しかし、中国が深刻な窮地に追い込まれるような場合には、国債売却が俎上に上がる
   リスクも想定しておくべきかもしれない。

  ー金融面からのリスクについて、ハーバード大学のロゴフ教授は、トランプ大統領は利上げ
   を好まない。大統領選のある2020年頃に、ツィッターでFRB攻撃を始めないか心配だ。
   もし見境もなくFRB攻撃をすれば、インフレ急進し、株式相場は急落して米国経済は大き
   くつまずく。米国で景気後退が起きれば、財政赤字は2兆ドル近くに拡大。金融政策も財政
   政策も柔軟に対応できない。大量の米国債を保有して米財政赤字を支える中国は、貿易
   戦争でそこを狙うだろう、と危険なリスクを指摘している。
  ー貿易戦争のチキンレースの限界は見えているが、その後の展開については、上述のように
   多くの不可測要因とリスクがある。

  ー中国が歴史的覚悟を持って経済強国化への道を進むことはほぼ所与のシナリオと思われる
   が、利に聡いトランプ氏が選挙民の反応を見て、休止や収束の手を打つ可能性は否定でき
   ない。

トランプ発 貿易戦争(1) 

Ⅰ.   はじめに

 ー今、世界中が最も関心を持って注視しているのは、アメリカのトランプ大統領が中国はじめ
  世界諸国に一方的に仕掛けている高率の追加関税の問題ではないか。トランプ氏はこれまで
  世界で協議して合意してきたWTOの国際ルールも無視して”America First”を掲げ、無法な
  攻勢で世界に”貿易戦争”ともいうべき波乱を巻き起こしている。

 ーこの追加関税攻勢は、貿易量を萎縮させて世界経済を収縮させる危険があるが、それは当の
  アメリカにも消費や生産活動に必要な輸入品の減少と物価の高騰をもたらす弊害がある。
  中国は大国のメンツにかけて報復関税で応じているが、このチキンレースはいつまでつづく
  のか、これからどのように展開するのか、世界経済にどのような影響・衝撃をもたらすのか、
  収束あるいは終着点はあるのか、など切実な関心は高まるばかりである。そうした疑問に
  答える手がかりを得るために、これまでの貿易戦争の事実を詳細に辿って整理してみたい。

  ー2018年9月24日、トランプ政権は、中国に対して、制裁追加関税の第3弾を発動した。それは 
  約2000億ドル(約22兆円)相当の中国製品に10%の追加関税を課すものだが、中国も600億
  ドル相当の米国製品に5~10%を上乗せする報復関税と即日実施した。両国の貿易戦争は
  お互いの輸入品の5~7割に高関税を課す危険な領域に入った。今回、米国が発動したのは
  家具、家電など多くの消費財を含む5745品目。消費者への影響も大きい。

 ートランプ大統領はさらに、中国が報復をつづけるなら、この第3弾とは別に、中国からの
  輸入品2670億ドル(約30 兆円)相当に新たに関税をかける用意があると表明している。
  これまでの制裁関税にこれを加えると、総額5170億ドルの輸入品に追加関税をかけること
  になるが、それは2017年の中国の対米輸出総額5050億ドルを上回る。

 2.  どこまで行くのか
 ーこの貿易戦争はいったいどこまで行くのだろうか?アメリカと中国はこれまで3回にわたって
  高追加関税の応酬をしているが、アメリカは中国から年間5000億ドル強の輸入をしているの
  に対して中国はアメリカから1300億ドル程度の輸入である。

 ー今回、互いの第3弾までの応酬で、アメリカは中国からのほぼ半額に相当する輸入品に追加
  関税をかけることになるが、中国の報復関税はすでにアメリカからの輸入品の8割以上に
  及ぶことになる。言いかえれば、中国はこれ以上、関税で報復することは難しくなる。
  それでは中国はこのチキンレースに敗退するのか。事態はそう単純ではない。

 ー中国は、鄧小平氏の時代に開放改革戦略で目覚ましい成長を遂げたが、習近平主席は鄧小平
  氏の韜光養晦路線を脱却し、”中国夢”のスローガンのもとに、170年の屈辱の歴史を克服して
  あからさまに世界強国への路線に邁進しており、簡単に引き下がることはありえない。関税
  追加が難しければ、非関税障壁も不買運動もありうる。ちなみに、中国はアメリカ国債の
  世界最大の保有国なので、もしそれを売却にすれば、米国の金利の高騰、株価とドルの暴落
  など世界は大混乱になるからそれは禁じ手だが、脅しにはなるだろう。

 3.  世界経済へのインパクト
 ー米中の対決は、米中の経済だけでは収まらない。現代の世界は中国を大きな核とする”サプ
  ライ・チェーン”で包まれており、米中の関税報復合戦は、実は、このサプライ・チェーンに
  部品や製品を供給する世界諸国に影響する。

 ーまた、このところ、アメリカが金利引き上げを続けているため、リーマンショック後、
  アメリカをはじめ世界諸国の金融緩和、財政出動で世界に散布された資金がアメリカに
  還流しており、低所得国の通貨下落、債務国の債務膨張が進行している。貿易摩擦はそう
  した苦境を増幅しており、これらの国々の需要の収縮が世界経済の低迷に拍車をかける
  という負の悪循環が波及している。

 4.  着地点はあるのか?
 ー貿易戦争が引き起こすこうした混乱や悪循環はどこかで収束するのか、着地点はあるのか。
  それは誰もが知りたい切実な問題だが、それは米中の指導者の認識や覚悟、また自国経済
  のみならず、世界経済の動向、また、不可測の事象など、多くの要因に左右される。この
  エッセイではその問題を考える手がかりを整理して提示したい。

 5.  日本の対応は?
  ーまた、この貿易戦争に日本はどう対応すれば良いのか。トランプ氏が世界に押し付けた
   鉄鋼とアルミニウムへの高追加関税の段階では、日本は高品質の鉄鋼をアメリカに輸出
   しているので、関税で価格が上昇しても数量への影響は限定的だったが、9月末になって
   トランプ大統領は、自動車への高追加関税を日本に対しても課税する姿勢を明確にした
   ので、トランプ氏が本気なら日本は重大な局面に入ることになる。この問題も考えたい。


Ⅱ.  トランプ氏のこだわり

 1.  2016選挙戦中の公約
  ートランプ氏は2016年選挙戦中から、保護主義的な主張を繰り返し強調していた。
  ー中西部や南部ラストベルトの選挙民にたいし、彼らの雇用機会(job)は中国や
   日本に騙し取られている。俺はそれを取り返してやる
   ”Your jobs have been ripped off and shipped off to China and Japan. I will
            get them back to you guys”
       ー以下のような主張:それは事実上の公約。選挙民はそれを信じて投票?
    ・NAFT見直し
    ・TPP離脱と二国間FTA主張
    ・中国を為替操作国と認定して45%関税
    ・米企業の海外移転を止めるための国境税
    ・対米黒字国に対しダンピングや非関税障壁など不公正貿易への対抗措置として高関税
     等々の保護主義主張。

 2.  トランプ流重商主義
   ートランプ氏の経済観は独特な重商主義。
   ・重商主義は16~18世紀の欧州の急速な経済発展期に、英国やオランダなど海洋国家が
    輸出を輸入以上に伸ばして国富を蓄積し、経済成長→発展を促進しようとする考え方。
    これはその後、帝国主義と植民地収奪の源流となった。トランプ氏はそれを現代の世界
    で追求しようとしているように見える。
   ・帝国主義時代の末期1930年代に、この考え方は列強の排他的関税戦略から第二次世界
    大戦の引き金となり破綻。戦後は、比較優位に基づく特化と開放的な貿易による世界
    経済の発展が、世界諸国の発展にもつながるという考え方が主流となり、開放的な
    国際貿易と国際協調による世界経済発展が志向され、大きな成果を挙げてきた。
   ・そうした国際協調による世界的な発展戦略を主導したのがアメリカだった。
   ・トランプ氏はそうした歴史も実績も理論も知らず、これまでのアメリカが主導して構築
    してきた国際協力の仕組みを破壊している。

 3.  異形のトランプ政権
  ートランプ政権は、これまでのアメリカ政治史上に類例を見ない特殊な政権。予測不能で
   かつ独裁的なトランプ氏が専横を振るう政権であり、その実態は互いの猜疑、密告、中傷
   と激しい勢力闘争で明け暮れている模様。その実態は、ベストセラーになったMichael
         Wolf “Fire and Fury”, Bob Woodward “Fear”などでも詳細に描かれている。

  ー貿易戦争の観点からは、この政権の中で、対中強硬派であるPeter Navaro 大統領通商
   補佐官とRobert Lighthauser USTR代表の役割が突出して大きいこと、また貿易交渉は
   閣僚レベルで合意しても、トランプ大統領にひっくり返されかねない不確実性が、とり  
   わけ留意すべき特質。

 4.  2018年から関税攻勢本格化
  ートランプ氏は、2017年は選挙公約を実現するため多くの大統領令を発令し、世界にかなり
   無謀な結果と被害をもたらした。
  ーまた、彼が主張した経済政策では、大型減税、大規模インフラ投資、高関税による雇用
   機会の確保が主な3つの柱。このうち議会工作が必要な大型減税を実現するのに2017年
   の大半を費やした。関税戦略は2018年に入って本格的に着手した。特に2018年3月に
   言明した鉄鋼とアルミ輸入品に対する大幅追加関税がその端緒となった。

Ⅲ.   鉄鋼・アルミへの高追加関税

 1.  安保理由の制裁関税
  ー2018.3.1. トランプ氏は鉄鋼とアルミの輸入増が安全保障上の脅威になっているとして
   輸入制限を発動する方針発表。鉄鋼25%、アルミ10%。

  ー米通商拡大法232条。これは1962年に制定。産品の輸入が米国の安全保障を脅かす
   恐れがある場合。これまで、79年の対イラン原油輸入禁止措置、82年の対リビア原油
   輸入禁止措置のみ。日本や欧州など同盟国にも適用する米国の主張に正当性があるか疑問。
  ー3.8 トランプ大統領は、鉄鋼とアルミの輸入制限する文書に署名。
  ・関税上乗せ措置は23日から発動。
    当面、カナダ・メキシコ除外(NAFTA交渉に関わるので)
  ・通商交渉や軍事負担でアメリカに譲歩した国は適用を除外する考えも。

 2.  同盟国へも課税
  ー中国の供給過剰に照準を合わせているが、一国だけ特定しても迂回輸出などで世界中に
   かかわるので、全ての国や地域に適用の考え。
  ・3.4.:与党共和党批判↑。特に国家経済会議コーン委員長は、政権内で関税反対の立場
   コーン氏辞任の観測も。(その後、辞任)      
  ・アメリカ産業界は負担増で競争力損なうと発動見送りを要求。
  ・中国、必要な対応とる(王毅外相)

 3.  諸国の批判・対応とトランプ政権の関税発動
  ー3.19  G20(財務相・中央銀行総裁会議)がブエノスアイレスで開幕。
     関税引き上げに批判集中。米国は強気で対決。
   ・主な輸入相手のEUやカナダなど7ヶ国・地域は関税適用を一時的に猶予。
    中国、日本は適用。
   ・日本政府は日本を適用対象から外すよう求めてきたが通らず。首脳の個人関係限界。

  -3.23. トランプ政権は、鉄鋼、アルミへの高付加関税による輸入制限を発動。
     対象は、最大で600億ドル(6.4兆円)
   ー3.22. トランプ大統領は知的財産権の侵害などを理由に中国製品に関税を課す
     大統領令にも署名。500億ドル相当の中国製品に高関税をかける制裁措置表明。
   ー米通商法301条に基づき、米国は外国による不公正な貿易慣行に対し、調査した
     うえで、一方的に制裁措置を発動できるとしている。
   ・これは1980年代から90年代初頭、主に日本市場の閉鎖性に制裁を加える手段として
    適用された。95年にWTO協定が成立し、WTO紛争処理に付託して紛争を解決する
    ことが義務付けられた。近年、米国は通商法301に基づく一方的な制裁を控えて
    きた。しかし、今回中国にたいして発動されている追加関税は、WTO紛争処理を
    経ずに一方的に発動されており、WTO協定に違反する可能性が高い。

  ー韓国文政権とFTA再交渉妥結を3.27発表。交渉開始から3ヶ月のスピード決着。
     内容:
     ・アメリカピックアップトラックの関税撤廃期限の延長
     ・米国安全基準適合車の韓国輸入台数枠を2倍に
     ・競争的な通貨切り下げを禁ずる為替条項導入。
     ・韓国の鉄鋼輸出の数量を制限するクォータ制導入。
       (事実上の数量規制はWTOのルール骨抜きの危険。価格競争力をつけても制限)


Ⅳ.   中国知財侵害への制裁関税

 1.  ナバロペーパー
  ーナバロ氏の主張
  ・世界貿易はペテン師にやり込められている。中国は最大のペテン師、米国にとって最大の  
   貿易赤字国。
  ・1947から2000年まで米国の平均成長率は3.5%。2002以降は1.9%、
   その一因は中国のWTO加盟だ。
  ・トランプ政権は我慢しない。貿易の不正がつづくなら防御的な関税を課す。

  ーナバロ・ペーパー(2016.9)
  ・貿易赤字解消でGDP押し上げ
  ・中国のWTO加盟で米成長率が低迷
  ・為替操作があれば報復関税課す
  ・中国が世界貿易で最大のペテン師
  ・関税は貿易不正をやめさせる交渉手段
  ・不正が止まらないなら関税を発動
  ・貿易赤字が減れば給料も↑インフレを相殺できる
  ・韓国、ドイツ、日本には原油や天然ガスの輸出増を要求。

 2.  USTRの調査報告書
   ーUSTRの調査では:1.中国進出の米企業が不当な技術移転を求められたり、
     2. 米企業の買収に中国政府の資金が使われたなどの「知的財産権の侵害」結論。
   ー技術移転の強制懸念:米政権が主張する中国の4 つの手口
     1.  外資規制で技術移転を強要:
       EVなどの中核技術を中国企業との合弁会社に移さないと事業できず。
     2.  技術移転契約で米企業を差別的扱い
       米企業が中国企業に技術供与契約を結ぶとき、中国企業間ではかけない厳しい
       規制をかける。
     3.   先端技術を持つ米企業を買収
        中国企業が特許侵害で争う米プリンター大手を買収。中国政府が資金支援。
     4.   米国企業にサイバー攻撃
        人民解放軍の攻撃を受け、鉄鋼や原発など米企業から情報漏洩。

    ー4.3.  USTR:知財侵害に対して発動する制裁関税の原案公表。1300品目
      制裁項目:生産機械、航空宇宙輸送機器、重工業、医療機器、部品、電化製品
      対象外:スマホ、PC,タブレット端末、AIスピーカー:消費者への影響考慮。
    ・4.5:中国製造2025を狙い撃ち
      産業用ロボット    105億ドル
      航空機、通信衛星    10
      船舶・タンカー    1600
                  鉄道車両、部品     2.5
       乗用車、商用車    20
       タービン・発電機   70
       農業機械       11
       化学品        92
       超音波診断装置など  47

 3.  ZTE事件
   ー4.16. ZTEに制裁。米企業との取引禁止。
   -4.27:米政府は、中国通信機器大手の中興通訳(ZTE)の制裁につづき、同最大手の
     華為(ファーウェイ)にも圧力↑。FWはZTEの5.5倍売り上げ。
     ZTEはイランとの違法輸出で米企業と7年間取引禁止。
     FWには、イラン違法輸出の疑い、スパイ活動懸念で米通信会社の調達禁止。
   ー5.14  トランプは習近平主席の要請を受けて、ZTEの米企業との取引禁止の見直し指令。
   ー5.25、トランプ氏は、ZTEへの制裁を見直すことで習近平主席と同意したと
     Fox TVが報道。ツィッターへの投稿では、13億ドル(1400億円)の罰金
     支払い条件に、米国企業との取引禁止を解く方針示した。しかし議会など
     では安全保障への懸念から反発強い。 
   ー6.6.  米政権は、ZTEへの制裁解除の見通し。ZTEはこの2ヶ月経営危機。中国スマート
    フォンメーカー問題が米側の交渉カードになった。米政府は中国側に、制裁解除の
    条件として最大14億ドル(1500億円)の罰金、現経営陣の退陣、米国による事業監視。
    (罰金:10億ドル=罰金、4億ドル=新たな違反時に没収する預け金)、また2017に
    9億ドルの罰金。合わせて23億ドル。 
   ー6.9  米国はZTE制裁解除の条件で、予想以上の成果で自信?
     ロス商務長官「過去最大の懲罰金」
    中国は今回の教訓を踏まえ、基幹技術の自前開発を急ぐ構え。

 4.  第一回米中通商協議(2018.5.3~4)
   -5.3~4:ムニューシン財務長官、ライトハイザー通商代表、ロス商務長官ら。
     訪中して通商協議。公式交渉
      ー5:3~4の通商交渉で米国が中国に突きつけた要求は馬鹿げている(M.Wolf
        FT 5.9)。
       ・1000億ドルの赤字(imbalance)を2018.6.から12ヶ月以内に削減
        さらに1000億ドル(11兆円)を2019.6から12ヶ月で削減。
       ・中国は過剰生産につながるあらゆる補助金を全面撤廃。
       ・中国は米企業から不当に技術を獲得するすべての手段を撤廃 
       ・中国は米国の輸出規制法に同意する。
       ・中国はWTOに対する関税や知財に関するすべての訴えを取り下げる。
       ・中国は米国が採択するあらゆる政策に対する報復をしない。
       ・中国は米国のハイテク分野への投資に対する米国の制限や処罰に反対せず
       ・米企業の対中投資に対して中国は完全な自由を提供する。
       ・2020.7までに、中国はハイテク以外の分野での関税を米国と同等に引下げる。
       ・協定は四半期ごとにモニターされる。もし米国が中国は忠実に協定を実行して
        いないと判断すれば、さらなる制裁や罰則を科す。中国はそれに反対しては
        ならず、受容すべし。
       ーこのような要求は、独立国に対するものではない。不平等条約の再来か?
        中国は即刻、拒否すべし。諸国は協力して米国の狂気の要求を阻止し、自由
        貿易を確保すべし

 5.  第二回米中通商協議と”手打ち”
    -5.17~18:第二回の貿易協議(於ワシントン)
       ・中国から劉鶴副首相招かれて参加
       ・米貿易赤字削減では、中国側が天然ガスや農産物の輸入拡大案を示し、
        一定の進展。
       ・中国が求めた国有通信機器大手ZTEへの米制裁緩和は結論出ず、溝深い。
        ZTEの利益は米国の制裁で激減。
       ・トランプ氏はZTEの制裁緩和に関して習近平主席から要請があったと暴露。
        共和党はトランプ氏のそうした取引による緩和を批判。トランプの奇怪な
        Uターン(FT5.15)
       ・5.21. 第二回の貿易協議。貿易赤字削減では歩み寄り。ハイテクは対立続く。

    ー5.20.:第二回の交渉を踏まえ、中国側がアメリカ農産物や石油関連産品の購入↑
        などで2000億ドルの赤字削減に努力する前提で、アメリカは、1500億ドル
        分の輸入に対する関税付加を、しばらくhalt(休戦)とするとムニューシン
        財務長官が発表。これに対してトランプ政権内部のタカ派からは、曖昧な
        口約束で信頼できない、などと批判も。

 6.  対米国際批判とトランプの対中チャブ台返し
      ー6.1. G7財務相、中央銀行総裁会議は、鉄鋼・アルミの輸入制限を↑した米国に
     非難集中。日本などはWTOルール違反と指弾。米国と6ヶ国は1:6に分裂。
  ー6.2 G7 財務相、中銀総裁会議は6.1~6.2で閉幕。通商政策をめぐる深刻な対立。
    対米批判は、鉄鋼、アルミの輸入制限につづき、日欧の基幹産業の自動車に
    および始めたから。米国は同盟国にも強硬姿勢。G7南欧発市場リスクなど素通り。
    6/8~9の首脳会議も波乱必至。
    →実際、波乱。トランプ主張。6ヶ国批判、
   ・異例の議長声明。カナダモルノー財務相「全員一致の懸念や失望」とする議長声明。6.6.
   ー6.6. EUは、米国の鉄鋼・アルミへの追加関税に対し、報復として280億ユーロ分の米国
   からの輸入品に追加関税かけることを確認。

   ー6.15. トランプ氏は、15日、知財侵害を理由に500億ドル(約5.5兆円)相当の
    中国製品への追加関税は、一部を除き、7.6に発動すると発表。
   -6.15. 中国国務院、米国産の農産物、自動車、エネルギーなど659品目(500億ドル相当
    に25%追加関税発表。  
   ー6.18 トランプ氏は、6.18.、中国からの2000億ドル(約22兆円)相当の製品に対し、
    10%の追加関税措置検討すると発表。6.16発表の500億ドル相当の報復関税に
    対する報復。

 7.  米政権内の強硬派主導
  ー5月以降、重ねた交渉では、トランプ政権内の強硬派が勢いを増し、中国では定まらぬ
   米側の姿勢やハイテク摩擦への発展に態度を硬化させている。

  ートランプ氏と習近平氏に、2017.4.そして11月の会談で、巨額商談が成立したはず。
   しかしその後も増え続ける貿易赤字に不満を深めたトランプ氏は、2018.3. 、関税発動
   を表明。5月からムニューシン財務長官や劉鶴副首相らによる高官協議で最後の譲歩迫る。
   交渉は、ムニューシン氏(穏健派)とライトハウザー氏の対立。

  ー当初強い発言権はムニューシンら穏健派。5月中旬2回目の協議後、米国の対中輸出増を
   盛り込んだ共同声明をまとめ『貿易戦争は一時保留」と宣言。ただし口約束。

  ー強硬派ライトハウザー氏はWHで関税の必要性を力説。メディアが「勝者は中国」など
   と書き立てると、弱腰批判を嫌うトランプ氏は対中交渉の進捗に不満表明。政権は強硬派
   に傾斜。中国の産業振興策「中国製造2050」に照準。巨額の補助金を使った米ハイテク
   企業の買収停止要求。人民解放軍を使ってサイバー攻撃をしているとまで主張。

 8.  中国の”以戦止戦”覚悟
  ー中国は姿勢を二転三転させる米国に不信感↑。6月初旬の最後の公式協議で、中国は
   農産品やエネエルギーの輸入拡大策を提示。しかし追加関税の撤回が条件とくぎ。米側の
   前言撤回を恐れ。米中が探った6月中旬の協議は流れ、互いに関税リストを公表。

 ー米国が仕掛けた貿易戦争に、中国側はトランプ政権の要求にある程度譲歩し、同時に
  米国のestablishment層の中国叩きを交わそうと行った対応をしてきたが、しかし、その後
  中国の対米認識が大きく変わり、6月に入って、中央外事工作会議では韜光養晦論を軌道修正
  し、そして対米方針では、「以戦止戦」の方針を決めたと見られる(朱建栄「視点・論点7
  以戦復降 vs  以戦止戦」(2018.8.20)

 ー中国側の一連の証言から、米中間の貿易交渉で3回も一旦合意されたが、その都度、米側に
  食言され、更に圧力を加えられたことで強い警戒感を持ち、対米認識と作戦の方針を変える
  に至った。

 9.  自動車関税の脅しと各国の対応
   -5,23. トランプ政権は、23日、安全保障を理由に、自動車や部品に追加関税を課す
    輸入制限の検討に入ると発表。乗用車関税25%↑を検討?対米輸出の多い日本に打撃。
    市場規模が大きい自動車にまでの一方的な輸入制限はWTO違反の恐れ大。
   ー5.30  トランプ政権が、ドイツ車に追加関税をかけるかどうか安保への阻害効果が
    あるか調査に入ることを支持したことに対し、ドイツでは閣僚から強い反発。

   ー6.23.  EUは6.22. 米国の鉄鋼・アルミ関税への対抗措置として、鉄鋼製品やオート
    バイ、ウィスキーなど28億EURO(3600億円相当)規模の輸入品に25%の報復関税を
    発動。オートバイ(ハーレイダビッドソンなど)やウィスキーは共和党議員の選挙区狙い

   ー6.24.  米政権の自動車関税引き上げに日本政府とメーカーは苦慮。ロス長官は事前調査
    を8月までに完了の予定。
   ・米国の2017自動車販売台数は1730万台。うちに本社は677(4割)。
    うち345万台(5割)は米国現地生産。177万台(3割)は日本からの輸出。
    残り2割155万台は、カナダなど日本以外から対米輸出。
    現地生産に振り向ける余地も限られており、WTO提訴しても時間がかかる。
   ・関税25%引き上げルト、影響額は2.3兆円(大手6社の営業利益総額4.5兆円の5割強)

        ー7.2  トランプ氏の自動車関税は、全面的な貿易戦争につながる恐れあり、とEUが警告。


Ⅴ.   対中追加関税の発動と報復

 1.  第一次対中追加関税発動2018.7.6
  ー7.6 トランプ政権は、6日、中国の知財侵害に対する制裁関税を発動した。産業用ロボット
    など340億ドル(約3.8兆円)分に25%の関税を課した。中国も同規模の報復に出る構え
    トランプ大統領は中国の出方次第では、中国からの輸入品全てに関税をかける可能性
    も示唆。
      米中が6日発動する関税の主な対象品目
    米国:818品目(340億ドル):
     自動車、産業用ロボット、半導体、医療機器、
    中国:545品目(340億ドル)
     自動車、大豆、牛肉など農産物、水産、ウィスキー

  ー中国政府は、これに対し、8/3夜、米国から輸入する600億ドル(6.7兆円)分の製品に、
    最大で25%の関税をかける報復措置を発表。品目によって追加関税率は異なるが、
    最大の25%適用する品目にはLNGや砂糖など。

 2.  トランプー欧州の一時休戦
   ー2018.7. トランプーユンケル欧州委員長会談(ワシントン)で新たな貿易交渉合意
    ○新たな貿易交渉開始
    ・自動車のぞく工業製品の関税・非関税障壁などゼロめざす。
    ・農産物、政府調達は交渉対象に含まず。
    ・高官協議で具体策詰め、120日以内で報告

    ○貿易戦争開戦を回避
    ・米国は自動車への追加関税を貿易交渉中は棚上げ。
    ・米の鉄鋼・アルミ追加関税をEUによる報復関税の解決めざす。
    ○EUは米国産大豆・LNGの輸入を増やす。
    ○不公正は貿易慣行是正、WTO改革で連携強化
   ーこれはそれまで高まっていたトランプ政権とEUとの貿易戦争への懸念を、新たな合意を
    めざす交渉過程で一時、鎮静させる意味がある。

   ーその後、フォローアップとして、9.11.  米欧高官会議 9.10.ブリュッセル
     米国からライトハイザー通商代表、EUから通商政策担当マルストローム欧州委員。
     関税ゼロなどの協議、米欧間の主張早くも食い違い。
            ・多くの技術的課題を克服できるか、11月の決着をめざす。      

 3.  第二次対中追加関税発動2018.8.23.
   -8.23.  トランプ政権は、23日、知財侵害を理由に、中国への制裁関税の第二弾を発動。
    半導体や化学品など、279品目。160億ドル相当、に25%の関税上乗せ。
    中国も直ちに同規模の報復。

   ・第二弾関税
      米国(279品目)半導体、プラスチック製品、ゴム製品、鉄道車両・部品
      中国(333品目) 古紙、自動車、銅クズ、アルミくず。

 4.  第三次対中追加関税発動2018.9.24.
   ー9.24、トランプ政権は、約2000億ドル(約22兆円)相当の中国製品に10%の追加関税
     を課す対中制裁関税第三弾を発動。
   ・中国も600億ドル相当の米国製品に5~10%を上乗せする報復関税と即日実施。
   ・両国の貿易戦争はお互いの輸入品の5~7割に高関税を課す危険水域に。

   ・今回、米国が発動したのは家具、家電など5745品目。
   ・第三弾で制裁対象は中国からの年間輸入額(約5000億ドル)の半分に拡大し、
     消費者への影響も大きい。

   ートランプ政権が制裁関税を乱発するまで、米国の平均関税率(関税収入/輸入金額)
     は1.5%程度で最低水準。対中関税第三弾で3.5%、2019.1.に追加関税が10%から
     25%に上がると平均関税率は5%近辺に。
 5.  第四次対中追加関税の脅し
  -9.9  トランプ氏は9.7. 中国からの輸入品2670億ドル(約30兆円)相当に新たに関税
    をかける用意があると表明。第3弾の2000億ドル相当とは別。
    これまでの第一弾と第二弾で、500億ドル相当に25%。第3弾2000億と第4弾2670
    を足すと計5170。中国からの輸入品(2017年5055)全てに追加関税が課される。
  ー9.24.:トランプ氏は中国が報復すれば全ての輸入品に関税をかけると脅し。

 6.  貿易戦争と世界経済への衝撃
   ー1930年前後の大恐慌を悪化させたスムート・ホーリー法の再来を不安視も。
     同法では、2万品目に追加関税。平均関税率が14%→20%に急上昇。
     トランプ氏が示唆するように、中国からの全輸入品に追加課税すれば、
     平均関税率は6%に達し、大恐慌時と並ぶ。自動車の追加関税まで実施すれば、
     平均関税率は10%を超える前例のない貿易制限となる。

    ー最悪シナリオは、世界景気の大幅減速。貿易戦争深刻化すれば、米中経済とも
     1%近い成長減速見込まれる。駆け込みで堅調な中国の輸出も、冬以降は腰折れ
     しかねない。

    ーIMFは、貿易戦争で、米国と中国の実質経済成長率が、2019年にそれぞれ最大で
     0.9%程度下押しと分析(9.24)。

 7.  日本にも貿易で圧力?日本の対応
   -9.8  トランプ政権は日本にも強硬姿勢↑。安倍首相が、貿易で米国を出し抜いて不当な
     利益を得てきたのに笑顔を見せられる関係はもう終わりだ!
   -9.9. これまでにない強い表現で日本に市場開放迫る姿勢。WSJに電話「日本が米国に
     対価をどれだけ払うべきか伝えれば、安倍首相との良好な関係は終わるだろう」
     これまでは中国問題があったから日本との交渉はおいておいたが、中国との貿易戦争
     が長期戦になることを見据え、日本と本格交渉を志向?

   ー9月末にNYで国連総会が開催され、諸国の首脳が集結した。NYで、トランプ氏は
    安倍首相と二度会談した。一度はトランプタワーの私的な食事。二度目は国連の場  
    で正式な首脳会談。首脳会談の結果、両国は、FTAではなく、物的な貿易に限定した
    交渉を開始することで合意した。それは脳産品と自動車と考えられる。

   ートランプ氏に最大の目標は、11月の中間選挙に勝つことであり、そのために選挙民に
    アピールできる成果を日本との交渉で引き出したいということだ。トランプ氏の面目
    も保ちながら、日本が国益に沿った解決をするにはどうすれば良いか。中川淳司氏は
    の提案が参考になる(貿易戦争の行方 日経18.9.7)

   ーそれは、1. 日本の農産物市場の開放。TPP11が発効すれば、TPPから離脱した米国
    農産物は不利になる。トランプが選挙で支持されるには日本の農産物市場開放必要。
    TPPの水準を上回らない市場開放に応ぜよ。それは米国のTPP復帰の地ならしにもなる。
    2.  知財、投資、国有企業規制、電子商取引 4分野で、実質的にTPP復活と同等の
    ルールを提案せよ。これらは米国の中国対策に理解を示すことになる。3  自動車、
    部品分野はじめ日本企業の対米投資拡大による米国の雇用創出に資する。

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