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トランプ発 貿易戦争(2)

Ⅵ.   NAFTA、WTO 

 1.  NAFTA再交渉とメキシコ
  ー8.29  NAFTA: Mexico:
   8.27、米国、メキシコはNAFTA見直し案に大筋合意
              主な合意内容:
   ・自動車関税をゼロにする条件(原産地規則)として、米・メキシコからの
     部材調達比率を75%(現在はカナダ含め62.5%)
   ・時給16ドル以上の地域で製造した部材を40~45%使用。
     (メキシコの平均時給は7ドル)(→米国内で生産せよとの意)
   ・鉄鋼やガラスなどの素材で米・メキシコ産品の使用拡大。
   ・5年毎に自動失効するサン・セット条項は不採用。6年毎に見直しながら
       16年間延長する仕組み導入。

   ー新協定は2020から段階的に適用、2023に完全実施。
    ・トランプ氏はWHの記者会見でわざわざメキシコのペニャニエト大統領に
     電話して自賛。メキシコ現大統領の任期中に合意。

 2.  NAFTA再交渉とカナダ
   ー8.30:メキシコとの合意受け、カナダとの協議、8.28開始。
      米国と同様、高賃金のカナダは、16ドル以上の規定には抵抗なし。
      しかし、乳製品や卵など農産品には大きな隔たり。メキシコの農産物への輸出
      補助金など保護政策の廃止で合意。カナダに対し、乳製品への補助金
      を撤廃せねば、自動車に高関税をかけると脅し。

   ー8.30  トルドー首相は、2019年総選挙。トランプ氏に弱腰を見せれば有権者の反発も。
      トランプの望む米国乳製品への市場解放が焦点。カナダとの交渉が難航した場合、
      カナダなしの新NAFTA発効も。その場合、カナダからの輸入車に25%の高関税
      の脅し。

   ー9.2   再交渉は、合意期限としてきた8.31.に決着できず、9.5に再協議。トランプ氏は
     メキシコとの2国間協定に先行署名すると議会に通知。強硬姿勢。
     日本は、トヨタのベストセラーSUV「RAV4」はカナダ産。生産40万台のうち20万台
     はカナダからアメリカに供給。レクサスもカナダで生産。影響は大。

   ー9.3.  カナダとの妥結は遅れ、分裂リスク↑。
     米国とカナダの通商関係はメキシコより深い。米国のモノ輸出最大はカナダ
     (2827億ドル)五大湖をまたいでサプライチェーン。米国に輸出するカナダ車の
     部材5割以上は米国産。米国の対カナダ貿易赤字は173億ドル(メキシコ711億ドル)
     本来、通商で摩擦はなかったが、2017.8開始のNAFTA再交渉で、Buy American義務
     づけ要求以来摩擦↑。例、カナダ木材などを不当廉売として多額の制裁関税付加。

    ートルドー首相は、2018.5.再交渉の合意に向け、乳製品の市場開放で譲歩しかけ、
     カナダ産業界から猛烈な弱腰批判。土壇場で譲歩撤回。ワシントン入りも見送り。
     与党自由党の支持率39%や↓。野党と逆転。

    ー追い討ちはアルミの輸入制限。カナダで直後開催のG7サミット。トルドー氏は
     「侮辱的」と対米批判。トランプはG7閉幕前にカナダを去り、機上から「首脳
     宣言を承認しない」と非難。トルドー氏のトランプ批判で、支持率↑。トルドー氏
     基盤のケベック州はアルミ産地。カナダ流自国主義に同調不可避。任期切れ近い
     死に体のペニャニエト政権とは違い、総選挙控えるトルドー政権の命運はNAFTA
     再交渉にかかる。

    ー9.13.  米国とカナダ9.11にNAFTAめぐる閣僚会議。再交渉の決着期限は9月末。
     両国とも決裂は避けたい。トランプ氏は中堅選挙で選挙民向けの成果望む。
     カナダはNAFTAの恩恵がなくなるのは困る。
    ・カナダとの交渉(妥結or未決)のタイミングは日米交渉にも影響。カナダが
     うまくいけば、またはうまくいかなければ、日本との交渉で成果求める?

 3.  トランプ政権のWTO批判と妨害
    ー米国は8.27. WTOに対し、9月に任期切れとなる上級委員の再任拒否伝達。
     WTOの紛争解決手続は二審制。まず提訴した国は相手国と二国間協議。60日以内
     に解決できねば、一審に相当する紛争処理小委員会(パネル)の設置要請できる。
     その結果が不服なら、最終審にあたる上級委員会に上訴。
    ・上級委員は7人定員。WTOは原則加盟国(164)全会一致方式。米国が拒否すると
     上級委員の選定進まぬ。9月末にはモーリシャス出身委員の任期切れ(任期は4年)
     一件を3人で審理。現在7人定員のうち9月末には3人に。機能不全。

                ー上級委員会が危機。委員定員の7人のうち3人が空席。任命や再任は加盟国全会の同意が
    必要。しかし米国が拒否している。9月末には4人の一人が任期。本人は再任希望。
    しかし米国が拒否。代わりの委員も任命されていない。このまま昨日不全がつづけば
    19年12月にも委員は一人に。WTOは審理は3人なので、上級委員会は機能しなくなる。

   ー多くの国がトランプ追加関税を提訴。しかしこのように機能不全なら米国には影響なし。
   ー8.15:Barry Ikengreen教授。中国の行動パターンを変えるのは有効な目標。
     しかし、トランプの高関税戦術は機能しない。各国が連帯してWTOのルール改善  
     が最善の道。

   ー9.4.  WTOアゼベド事務局長は、WTOに批判的な米国と対話しつつ改善の余地あり。
     特に全加盟国・地域の全会一致原則は改善の余地あり。

Ⅶ.   貿易戦争の行方と世界経済


 1.  破天荒なトランプ攻勢
   1)経済原理と理論の無智
   ートランプ大統領は、18世紀型の”重商主義”信奉者。これは貿易でより多くの黒字
    を獲得した方がそれだけ経済が成長するという単純な経済観。これは足し算引き算
    だけのゼロサムの世界観で、今日の経済学を知る人は誰もこのような誤った理解は
    持たない。

   ー国際経済学のみならず経済学入門でも最初に習うのは”比較優位”の原則。経済を
    構成する人々や国々が自分の得意の分野に特化して最高の生産性を上げ、お互いに得意
    を生かして交換すれば経済全体が成長し構成員も成長するという理論。これが開放的な
    国際貿易の論拠である。トランプ氏はPennsylvania Universityの学位を持つというが
    本当に勉強したのか疑問だ。

   2)二国間交渉とDeal
   ートランプ氏は経済的な競争条件を決める上での、多国間の協議を嫌う。1対1の
    勝負を好む。彼はそうした勝負の駆け引きをDealを呼ぶ。多国間協議では多くの
    国々すなわち最大多数にとってより良い結果が求められる。トランプ氏は1対1の
    Deal で勝ち、自分だけがより良い結果を得ることを好む。Dealに勝つためには
    情報も重要だが、脅しや騙しも有効だ。トランプ氏はそうした禁じ手を活用する。

3)  選挙と貿易戦争

   ートランプ氏が追求してやまない目標は、選挙で勝つことだ。彼は2016年11月の
    大統領選で、民主党のクリントン候補に勝って大統領になったが、歴代の大統領では
    もっとも不人気だったし、今も4割の支持を確保しているに過ぎない。彼は2020年の
    大統領選に勝って大統領職を二期つづけることを最大の目標としている。

   ーそのためには、まず2018年11月の中間選挙で与党共和党を勝たせなくてはならない。
    一方では、彼のロシア疑惑の調査がつづいており、少なくとも共和党が上院の過半数を
    占めなければ、彼はロシア疑惑で弾劾される恐れもある。彼は貿易戦争も北朝鮮対応も
    全てそれらの選挙の勝利のために最大限利用しようとしている。

 2.  世界経済への影響
   1)サプライチェーンの波及効果
   ー今日の世界経済では、情報が行き渡っているので、世界のどこで生産しどこで売れば
    最大の利益を得るかは見通しやすい。多くの企業は世界の有利な国や地域で、有利な
    協力者と組んで生産体制を構築している。サプライチェーンである。

 
    ートランプ政権は中国から米国への輸出品に高関税をかけているが、実は中国は
     世界のサプライチェーンの中では比較的最終段階(組み立て段階)に位置している
     ので、高関税は中国製品の付加価値には大きく影響しない。最終製品に占める中国
     の付加価値は1~2割ていど。対中高関税は、したがってサプライチェーンを通じて
     中国の最終製品を構成する世界の多くの国々の産品に影響を及ぼす。アメリカの中国
     攻撃は実は世界諸国への攻撃となっており、時間の経過とともに高関税のネガティブ
     な影響は世界に波及し、拡散する。

   2)米金利引き上げと貿易摩擦
    ーリーマンショックから続いた超金融緩和を脱却したアメリカ連銀はこの2年ほど
     金利引き上げを進めている。とりわけトランプ政権下で経済加熱が懸念されるなか
     でJay Powell議長率いるFedは金利引き上げのペースを早めている。アメリカ国内
     経済の金融面からの調節としてはそれは肯定されるだろうが、ドル金利の引き上げ
     は債務を抱えた低所得、弱小国にとっては深刻な打撃だ。これらの国々では債務が
     膨張し、ドル資金が米国に流れるので、通貨価値が下落し、不況が深刻化している。

    ートランプ発貿易戦争は、こうした弱小国の困難を増幅する。これらの国の産品への
     高率追加関税は、それでなくても弱い競争力を一層弱め、通貨価値の下落を加速し、
     インフレを増長する。

    ートルコは相当の経済規模をもつ地域大国だが、米金利引き上げによる資金流出で
     リラの価値が急速に減価してきたところに、アメリカと政治対立して、経済制裁を
     受け、経済はたちまち破滅的な苦境に陥った。

    ー多くの債務国や弱小国は、このような劇的な危機に直面しなくても、上述のサプ
     ライ・チェーンの網の目に組み込まれている限り、米中の関税報復戦争の余波を
     受けざるを得ない。そうした多くの経済が破綻に瀕すれば、それらの地域の需要
     が縮小して、世界経済の減速、縮小を助長することになる。

  3)世界経済萎縮のおそれ
   ートランプ発貿易戦争が米中の報復関税スパイラルを震源として両国のGDPを次第に
    縮小していくことは目に見えている。その縮小効果は上記の、サプライチェーンによる
    国際分業を通じて世界に波及し、また、米金利の引き上げによる債務国や弱小国の
    困難の深刻化を通じてさらに世界経済の縮小を促進する。

   ーIMFは、貿易戦争で、米国と中国の実質経済成長率が、2019年にそれぞれ最大で
    0.9%程度下押しすると分析した(9.24)。駆け込み需要で現在は堅調な中国の輸出
    も、2018冬以降は腰折れの恐れが大きい。

 
   ークルーグマン教授はトランプ発貿易戦争の最終的な効果を分析した結果、世界貿易量は
    70%縮小する可能性があるが、GDPの縮小は3%ていどにとどまるとした。
   ・クルーグマンの分析結果について、Martin Wolf氏は、これは一般均衡分析という抽象的
    な前提の世界での分析であり、世界経済の仕組みが変化する過程での混乱や不確実性を
    考慮していない。貿易戦争の結果、国際競争が停滞すれば競争による経済の活力が
    失われ、また貿易戦争による国際的な嫌悪感や過度な自己防衛傾向が強まれば、世界
    経済の縮小傾向はさらに増幅の可能性があると指摘。

 3.  米中の覇権闘争
   1)覇権国の被害者意識と傲慢
           ー歴史を振り返ると覇権国はつねにその覇権を維持しようとし、追い上げてくる国を
     蹴落とそうとする。こうした覇権闘争は古来より”ツキディデスの罠”として知られて
     いる。近代でも英国とロシア帝国の覇権闘争は19世紀の”Great Game”と言われた。

    ー第二次大戦後は、アメリカがパックスアメリカーナの盟主となって強大な覇権国と
     なったが、アメリカは冷戦の対極となったソ連を包囲し、結局、40年かかって崩壊
     させた。1980年代、経済的にアメリカに肉迫した日本を、アメリカは1985年のプラザ
     合意などの締め付けで、結局バブルの形成と崩壊に追い込んで、脱力させている。
    ー朱建栄教授は、これを”6割法則”と呼んでいる。「米国は世界ナンバーワンの覇権を
     守るために、ナンバーツーの追い上げを絶対に許さない行動パターンを持っている。
     それは6割法則と言われ、旧ソ連や日本が6割に追い上げた時点でなりふり構わぬ攻撃
     を受けて蹴落とされた。中国は今まさにそこに差し掛かっている」と見る。  

   2)屈辱の歴史と中国夢
    ー一方、中国の観点からは別の世界観が示される。中国は古代から近代まで東洋の圧倒
     的な超大国であり、文化の中心であり、最大の覇権国だった。ところが、18世紀後半
     から産業革命を達成して経済力、軍事力をつけた列強が、東洋の植民地化による収奪
     を図り、多くの国々が侵略、侵食された。

    ー中国は特に1840~42年のアヘン戦争と1856年のアロー号事件で、イギリスに事実上
     植民地化され、欧米列強が相次いで中国に利権を設定し、つづいて20世紀前半には
     日本によって蹂躙されるに至った。中国は第二次大戦では戦勝国となったが、2049
     年に毛沢東率いる共産党によって現在の中国が建国された。

    ー中国は1980年代以降、鄧小平の指導による積極的な開放改革戦略で目覚ましい
     発展を遂げた。鄧小平は事実上の超大国への道を急進するこの期間、”韜光養晦
     (爪を隠して内に力を蓄える)という路線を堅持した。しかし、2012年、国家主席
     に就任した習近平は、中国の力を内外に誇示する戦略に転換した。

 
    ー習近平は、盛んに”中国夢”を唱え、中国は今や、アヘン戦争以来170年の屈辱の歴史を
     乗り越え、中国人民にふさわしい世界の大国、強国になるのだと国民を鼓舞した。
     そのキャッチフレーズが”中国夢”である。外に向かっては、習近平主席は、2013年
     にオバマ大統領に「新型大国関係」の樹立を提案、また、ユーラシア大陸を包み欧州
     に陸塊で接続する「一帯一路」戦略を、AIIBという国際投資機構も構築して強力に
     推進している。

    ー朱建栄教授によれば、中国のこうした変貌を遅ればせに認識したアメリカについて
     「わずか4~5年前まで中国の台頭を余裕をもって接していた米国は、ここにきて、
      相手の追い上げが予想以上に急であること、トランプ政権の「不可測性」にもより 
      本気に脅威を感じ始めたことは事実。米国はいつもはのんびり構えるがいざ慌てた
      ら極端に走る」と評している。

    ー習近平政権が追求する”中国夢”は、170年間の屈辱の歴史の克服と払拭そして欧米列強
     の歴史的横暴に対するリベンジであり、中国人民の国家的復権をめざすものである
     以上、それは実現せねばならぬ国家の基本戦略である。それを実現する最大の基礎は
     経済力、特に質の高い競争力に裏打ちされた経済力である。その戦略の重要な一環と
     して、中国政府は「中国製造2025」というビジョンそして工程表を提示した。

 4.  習近平政権の強国構想
   1)「中国製造2025」
           ー中国国務院が2015.5発表の産業政策『「中国製造2025」は、次世代情報技術や
     ロボットなど10の重点分野を設定、製造業の高度化をめざす。
         ー中国は建国100年の2049に「世界の製造強国の先頭グループ入り」をめざす。
          「中国製造2025」はその長期戦略の第一歩。
   ・第一段階(15~25)目標:世界の製造強国の仲間入り。
    中国は規模は大きい(米国以上)が、強くない。技術革新力、資源の利用効率、
    産業構想などで先進国に遅れを認識。
   ー中国は単なる目標というが、事実上の必達国家目標。巨額の補助金、金融支援、
    政府調達の優遇などで推進。

   2)建国100年強国構想
   ー中国は、2021(共産党創設100周年)を念頭に、
     2020:小康社会の全面完成
     2035 :社会主義現代国家建設
     2049(中華人民共和国建国100周年):社会主義現代化強国。
    ・そのためには創新(イノベーション)が基本戦略

   ー製造強国への工程表
     1. 第一段階(2015→2025):製造大国(規模)→製造強国の仲間入り
     2. 第二段階(2025→2035): →製造強国の中等水準
     3. 第3段階(2035→2049): →製造強国の先頭グループへ躍進。

 5.  破局シナリオか破壊収束か
   1)報復闘争の限界

   ートランプ発貿易戦争が勃発して以来、米中は3ラウンドにわたる関税の報復合戦を
    してきた。

 
           米国          中国
      年間輸入額(2017) 5000億ドル     1300億ドル
      第一弾(7月6日)   340                          340
      第二弾(8月23日)  160                           160
      第三弾(9月24日)  2000                          600
       合計        2500                        1100
 
     これを見てわかるように、米国は中国からの輸入総額5000億ドルの半分にあたる
     2500億ドル分に相当する中国輸出品に高追加関税をかけた。これに対し、中国も
     3回にわたり報復関税をかけたが、その総額は1100億ドルにのぼり、それは米国の
     対中輸出品総額1300億ドルの84%に達する。もしこのような関税報復を続ける場合、
     アメリカはまで2500億ドルの余裕があるが、中国は200億ドルしかなく、弾切れ状態
     に近ずいているということだ。

   ートランプ大統領は、最終的には、2670億ドル上積みし、中国からの輸入品(2017年
    5050億ドル)全てに追加関税をかける用意があると述べている。そうなると中国は
    関税では報復できなくなるので、不買運動や非関税障壁などで対抗するしかない。
   ーかりにトランプ氏が中国からの輸入品全てに追加関税をかける事態になると、中国の
    米国向け輸出は中国の輸出総額の約2割だから、その全額に15~25%もの高額追加関税
    がかかるとなると、中国の対米輸出額の縮小は、中国経済全体にとっても相当の減少
    効果をもたらすと予想される。その影響は時間の経過とともにボディブローのように
    効いてくるだろうし、また、中国に集中している世界のサプライチェーン全体への
    波及効果はそのマイナス効果をさらに増幅すると考えられる。こうした事態が想定
    される中で中国にはどのような対応策が可能か、またどのような対抗策をとるのだ
    ろうか?

 2)中国の「以戦止戦」方針

   ー中国は2018年6月頃から「以戦止戦」の戦略方針に転換したと上述した。「以戦止戦」
   とは、戦いを止めるのにどうしても必要なら戦いをしても良い、その結果、活路も見えて
   くる、という中国古典、春秋時代の兵書『司馬方』に描かれた戦略思想である。

  ー中国の政府当局がこの方針を決断するに至ったのは、トランプ政権の身勝手、前言変更
   かつ高圧的な対応にたいして、2018年6月頃から、戦う以外ない、という判断に傾いた
   ことがある。中国はトランプ政権が米中の貿易収支の大きな差に強い憤りを持っていた
   ことは察知しており、2017年4月、並びに11月の首脳会談に、多額の米製品購入計画を
   提示した。また、2018年3月以降、トランプ氏が鉄鋼・アルミニウム追加課税を発表し、
   さらに中国の”知財侵害”を理由に、全般的な制裁関税の発動を指示し始めた段階で、
   中国側は、米国産品の特別買い付けや、米国などからの輸入品への関税引き下げ、
   さらに米国企業の対中投資額の上限撤廃(当面は金融業)など、さまざまな譲歩案を
   提案した。

  ーしかし、5.3~4、北京で開催された第一回米中通商協議に際して米国側が突きつけた
   要求は、あまりに一方的、高圧的で、とても対等の独立国家間の要請とは思えず(Martin
   Wolf)あたかもアヘン戦争当時を彷彿とさせるようなものだった。それでも交渉の結果、
   団長のムニューシン財務長官は、高関税追加を当面 ”holt(休止)”するとした。同氏は
   中国側の譲歩や建設的対応をそれなりに評価し、高関税の応酬といった破壊的な事態の
   進展を避けようとしたものと思われる。

  ーところが、その直後、トランプ氏は、こうした一時休止の合意を全く無視して、対中
   高額追加関税案を発表した。その背後には、ホワイトハウス内の対中強硬派である
   ナバロ通商政策補佐官やライトハイザー通商代表の働きかけがあったようだ。中国側は
   トランプ政権のこうした前言無視を繰り返す乱暴な対応に強い不信感を抱いて
  「以戦止戦」方針を採用したものと思われる。その「以戦止戦」戦略の中味は何か?

  ー一方、中国は、トランプ発貿易戦争の掛け声の下でも、高追加関税の発動までは、駆け
   込み需要で対米輸出が短期的には増加したが、発動の効果が行き渡ると輸出は減退し、
   それが中国経済全体にマイナスの効果をもたらし、景気後退につながる恐れが大きい
   ので、中国政府は財政出動や金融緩和など短期的な対応を取り始めている。しかし
   「以戦止戦」戦略の基本は、アメリカから中国企業への技術移転がますます困難になる
   中で、中国が自力開発で、イノベーションと製品・サービス開発を進めて、高い生産性
   と高い品質をもつ産業と経済構造を構築していくことだ。これは時間のかかるプロセス
   だが、建国100年をめざして経済強国になるにはそれしかない。アメリカ以外の国々と
   連携・協力を密にし、国内産業の質的向上を進めることが肝要だ。

  3)相互破壊か収束か

  ー現在、トランプ氏は一方的な最終勝利を信じて?猛進しているが、これから先、どの
   ような展開になるのだろうか?シナリオは?想定外の事態は?そして決着があるのか、
   を考えて見たい。

  ートランプ氏の猛進は、先にリスクがないわけではない。アメリカ経済が当面は好景気な
   ので、トランプ政権はこれまでは遮二無二、中国はじめ対米輸出国に懲罰的な関税を
   かけているが、これは時間の経過とともに、アメリカの消費者や産業に、輸入物資の価格
   高騰と供給不足をもたらし、国内経済にマイナスの効果をもたらすハズである。それは
   アメリカ国民にとっても、トランプ氏の支持者にとっても歓迎できない事態なので、
   トランプ発貿易戦争は実はアメリカから見ても無限に続けられるものではない。

  ーしかも歴史的には、アメリカの政権が輸入課徴金や高関税をかけて失敗した前例がある。
  ・1971.8. ニクソン政権は突如10%の輸入課徴金導入。ベトナム戦争で信用不安に陥った
   ドル救済のためだったが、しかし、”ニクソンショック”で相場が混乱したため、ドル
   切り下げと同時に輸入課徴金も撤回に追い込まれた。 
  ・ブッシュ政権は2002年、鉄鋼に最大30%の高関税を発動した。しかしITバブル崩壊で景気
   が低迷。輸入制限では逆に20万人の雇用が減退したため、撤回せざるを得なくなった。

  ーまた、トランプ政権は、現在、一方的に中国を追い込んでいるが、中国が現在、アメリカ
   国債の最大保有国ということも留意しておく必要がある。その額は約1兆1800億ドル。
   もし中国がこれを売却すれば、アメリカの長期金利は急騰し、アメリカ市場の株価は
   暴落し、米ドルも急落して、アメリカはじめ世界経済は大混乱に陥る可能性がある。
  ー中島精也氏は、その可能性に言及しつつも、それは全面的な金融戦争の引き金を引くこと
   になるので、中国はその手は使わないとする。またもし中国が売却を図れば、米国は1977
   成立の「国際緊急経済権限法」により、中国保有の米国債を保護預りしている証券会社に
   命じて米国債を凍結して売却阻止もできる。それこそは本当の戦争につながるリスクなの
   で現実的には国債売却という禁じ手はあり得ないとされる。
  ・しかし、中国が深刻な窮地に追い込まれるような場合には、国債売却が俎上に上がる
   リスクも想定しておくべきかもしれない。

  ー金融面からのリスクについて、ハーバード大学のロゴフ教授は、トランプ大統領は利上げ
   を好まない。大統領選のある2020年頃に、ツィッターでFRB攻撃を始めないか心配だ。
   もし見境もなくFRB攻撃をすれば、インフレ急進し、株式相場は急落して米国経済は大き
   くつまずく。米国で景気後退が起きれば、財政赤字は2兆ドル近くに拡大。金融政策も財政
   政策も柔軟に対応できない。大量の米国債を保有して米財政赤字を支える中国は、貿易
   戦争でそこを狙うだろう、と危険なリスクを指摘している。
  ー貿易戦争のチキンレースの限界は見えているが、その後の展開については、上述のように
   多くの不可測要因とリスクがある。

  ー中国が歴史的覚悟を持って経済強国化への道を進むことはほぼ所与のシナリオと思われる
   が、利に聡いトランプ氏が選挙民の反応を見て、休止や収束の手を打つ可能性は否定でき
   ない。

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