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日本の国民から見た米朝会談の結果

 2018年6月12日、シンガポールで、歴史上初めての米朝会談が行われた。この会談の結果について、日本国民の一人として、私の感想を述べたい。

 会談の結果については、失望を禁じ得ず、また今後に残された大きな課題が懸念される。

 失望は、トランプ大統領が会談の直前まで主張しつづけていた会談成功の要件、すなわち朝鮮半島の完全な、検証可能な、そして非可逆的な”非核化”について具体的で明確な合意がなかったことである。共同声明文には、「金委員長が完全非核化への確固で揺るぎのない約束を再確認した」とだけ記されたが、これは4月27日の金委員長と文在寅韓国大統領との間で行われた南北会談ですでに合意されたことである。南北会談では、その具体的内容は、6月12日の米朝会談に委ねるとされたが、米朝会談ではその最重要事項について具体的な内容や手続きを確認するような前進は全くなかった。

 非核化問題をこのように抽象的な精神規定にとどめてしまった一方で、トランプ大統領は「DPRKすなわち朝鮮民主主義共和國に安全の保証を与えることを約束」した。言い替えれば、現在の金王朝体制の安全を保障したということである。これは金正恩氏の祖父である金日成氏の時代からの悲願であり、その悲願をトランプ大統領は非核化の具体的な内容を確認しないまま、いともやすやすと約束してしまった。

 その上、記者団に聞かれて、トランプ大統領は、米韓軍事演習は費用が高いので考えなおす、経済制裁は続けるが、最大の圧力をかけることはしないと言い、さらに、北朝鮮は、もともと偉大な国であり、考え方を変えれば素晴らしい繁栄を手にすることができるだろう、と言ったお世辞まで付け加えた。また、北朝鮮を支援する費用は、韓国と日本が負担すれば良いとまで発言した。

 トランプ大統領は、クリントン、ブッシュ、オバマなど歴代アメリカ大統領が、北朝鮮との交渉で繰り返し裏切られて核ミサイル開発を止められなかったことを批判し、自分は彼らとは異なって”Deal(取引)”に長けているので、必ず非核化を実現させると公言していた。しかし、今回の米朝会談の結果は、トランプ氏は、公約の非核化の具体的な答えを引き出せなかった一方、金正恩氏のかねてからの要望に充分以上に応えてしまった。取引の交渉としては、トランプ氏の一方的な負けと評価されても仕方がないだろう。トランプ氏は自分で言うほど強力な”取引交渉者”ではないのかもしれない。

 日本の観点から見ると、二つの大きな課題が残る。一つは、今回の交渉では、弾道ミサイルの問題が全く議論されなかったことである。トランプ氏は”アメリカ第一主義”を唱えているが、これは実は”トランプ第一主義”である。彼は2018年11月のアメリカ議会の中間選挙に勝ち、2020年の大統領選挙に勝つことに全てを集中している。米朝会談もそのための材料だ。アメリカの選挙民に「もうアメリカへの核ミサイルの危険はなくなった」とアピールするための会談だったと考えれば、今回の会談の結果はトランプ氏にとっては合目的である。しかし、中距離弾道ミサイルの問題が全く触れられなかったということは、日本、韓国、中国などの近隣諸国にとっては北朝鮮の軍事的脅威はそのまま残る。この問題は残された大きな課題であり、アメリカがこの問題に真剣に取り組まないならば、日本は中国の指導力に期待しつつ、この危険の除去のために、関係諸国と密接に協力して解決のために最大限の努力をする必要がある。

 今一つは、拉致問題である。トランプ氏はかねてからの安倍首相の要望をふまえて、米朝会談で拉致問題に言及したと記者会見で答えた。しかし、それは共同声明には盛り込まれなかった。拉致問題は15年前に、小泉純一郎首相と金正日委員長の会談で、数人の拉致被害者が帰国するという成果があったが、それ以降は全く進展がない。近年では北朝鮮は、拉致問題は”解決済み”として交渉は閉ざされている。無実の国民が多数、理由もなく拉致されて何十年も安否も不明というのは、国家主権の重大な侵害であり、日本がこの問題を深刻に捉えるのは当然である。安倍首相は今年の8月から9月に金正恩氏に会いたいという意欲を示しているが、会談が実現するのか、会談で成果が得られるのか、全く不明である。

 北朝鮮が、自国の国民に豊かな生活を提供できる国になることは、日本としても大いに希望することであり、そのために日本が技術や経済面で支援することは意義があり、日本は十分にその意思がある。しかし、日本がそうした協力を実行するためには、北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルが完全に除去されることと、拉致問題が完全に解決されることが大前提である。

 

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