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島田村塾三期生有志の中国湖南省研修訪問:とりわけ現地での議論の内容の紹介

Ⅰ.   はじめに

 島田村塾の有志と私は、2018年4月19日から22日まで、中国湖南省を訪問した。島田村塾では2年前にも同地を訪問して大変、有意義な経験と学びをしたので、前回の訪問の際に全面的にご指導を戴いた段躍中先生(日本僑報社)にお願いして、今回も充実したプログラムを企画・運営・ご指導を戴いた。まずはじめに段先生の格別のご厚情とご指導に心から感謝申し上げる次第である。

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 今回の報告は、前回の湖南省訪問の報告や通例に島田村塾の海外研修旅行の報告とはかなり趣を異にする。今回は、現地での学生諸君や応対してくださった政府機関などの方々との質疑やdiscussionの内容を詳しく報告することとした。そうした理由の一つは、前回(2016年)の湖南省訪問で、湖南省や湖南大学などの訪問先については詳細に説明(英語)したが、今回も訪問先はかなりダブルので、そうした説明は省略することとしたこと。

 今一つの理由は、今回、湖南大学での学生諸君との質疑の質は前回にも増してかなり高度で充実していたので、最近の中国の一流大学の学生諸君の知的水準と彼らの関心事を、私のこの報告でやや詳細に伝えたかったこと、また湖南省の湘潭県(長沙市の隣の県)経済開発特区での議論は、かなり突っ込んだもので私の長いコメントに対し相手方が最終的に大いに共鳴されたので、意味があったのではないかと思い、日中の議論の一つの有益な例としてこの報告で紹介したいということ、である。

 今回の研修旅行の日程の概要、ならびに参加者については参考のために以下に記します。

○研修旅行日程の概要
4月19日(木)9:25羽田発(JL081)にて上海へ、上海市内にて「歓迎昼食会」、
       長沙へ移動(高速鉄道)、長沙市内にて夕食会、長沙泊
4月20日(金)午前  長沙市内見学(馬王堆漢墓 他)、湖南大学学長主催「昼食会」、
       午後 島田晴雄先生特別講演会(於:湖南大学)、
       湖南省政府主催「夕食会」、長沙泊
4月21日(土)午前 毛沢東旧居見学、午後 湘潭県経済開発特区視察、
       湘潭県政府主催「夕食会」、長沙泊
4月22日(日)長沙出発、上海経由、14:00上海(浦東)発(JL876)にて帰国

○参加者リスト
島田晴雄、段躍中、倉持茂通、宮澤伸幸、磯野謙、秋山友紀、松田梨奈、阿座上正博、神内佑大、欧陽延軍


Ⅱ.  湖南大学でのセミナーでの質疑応答

 湖南大学は中国各地に展開するおよそ20ほどの一流大学の一つで、中国でももっとも歴史の長い名門大学である。湖南省は現代中国の創始者毛沢東を始め、胡耀邦、劉少奇、朱鎔基ら戦後を代表する中国指導者だけでなく清帝国を太平天国の乱から救った英雄、曽国藩などを輩出した特別な地域で、その中核的学塾としての伝統を守る湖南大学は、5万人の学生を始め多くの研究者と優れた研究・教育の成果をあげる誇り高い総合大学である。

 私は2年前の訪問の際に、同大学で、学生諸君200余名と教職員のために講演・討論会を行い、客座(客員)教授の名誉を戴いたが、今回も段献忠大学学長はじめ教職員ならびに段躍中先生の御尽力で同様の講演と質疑の貴重な機会を戴いた。私の中国語での30分に及ぶ講演『世界における中国と日本の地位と役割』のあとで、学生諸君と英語ならびに日本語での質疑があったが、彼らの質問の的確さの背後にある鋭い関心と問題意識が特に印象的だったので、以下で、その内容を詳細に報告したいと思う。なお私の中国語の講演は、私の中国語ブログ『島田中文説』(http://www.haruoshimada.net/chineseblog/2018/05/post-1969.html)に再録されているので、興味のある方はご参照ください。以下は、その講演に続く学生諸君との質疑の詳細の紹介です。

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○男子学生、ビジネスカレッジ、英語

 Q:日本では労働者の労働時間が長く、超過勤務(残業)や過労死などが深刻な問題になっていると聞いています。この現象は、勤労者の生活の質(Quality of working life)にとっても重要な問題を提起していると思います。政府はこの問題に対してどのような政策対応をしているのでしょうか?

 A:   これは大変、良い質問です。なぜなら、これはまさに現在の日本政府すなわち安倍政権が”働き方改革(work way reform)”というテーマで最も重要な政策課題として取り組んでいる問題だからです。

   働き方改革には二つの重要な側面があります。ひとつは、残業を減らし、労働時間を減らして、勤労生活の質を高めるという課題、いまひとつは労働の報酬を労働時間ではなく成果に対して支払う、”成果報酬(pay by performance)”制度の導入です。後者のテーマは、経済のサービス化が進む現代にはますます重要な課題になりつつあります。サービス労働はベルトコンベアーの製造業とは異なり、その成果は必ずしも労働時間に比例しません。労働時間は短くても工夫と努力で大きな成果を挙げることができるからです。

   安倍政権は、働き方改革という政策を進める上で、この二つの課題に取り組んで来ました。労働時間の短縮は残業時間の上限を設けるなど、進展して来ました。その一方で、成果報酬制度の導入は足踏みしています。成果報酬を導入するために、政府は”脱時間給”という考え方を労働組合や経営団体に受け入れてもらうよう努めて来ましたが、労働組合などは抵抗しています。
 
   今次国会に、政府は、成果報酬制度の導入を含む”働き方改革”の法案を提議しました。厚生労働省は、そのための審議の資料として、成果報酬制度で働く勤労者の労働時間が比較的短いという統計データを示しましたが、そのデータの信憑性に疑義が持たれ、野党から激しい攻撃を受けたため、政府は結局、働き方改革法案から、”成果報酬”制度導入の部分を削除することを余儀なくされました。欺瞞のあるデータを提示した厚生労働省の作為とは思いたくありませんが、これは安倍政権にとっては打撃でした。

   なぜなら、労働時間短縮と成果報酬制度の組み合わせで、働き方改革はバランスがとれるからです。労働時間短縮だけでは、労働コストの上昇になりますが、仕事の質ないし生産性向上を刺激する成果報酬制度と合わせて、労働生活の質の向上と経済の効率化が同時に実現されるからです。

○女子学生、ビジネスカレッジ、英語

 Q:  トランプ大統領は、アメリカが輸入する鉄鋼やアルミニウムに対して高い付加関税を課しました。アメリカに大量の鉄鋼を輸出している中国は大きな影響を受けるので、中国は対抗措置としてアメリカから輸入する農産物に対して報復関税を課すと発表しています。このような応酬は、貿易戦争に発展するのでしょうか?このような状況の中で、日本はどのような立場をとるのでしょうか。日本はどう対応するのでしょうか?

 A:  トランプ大統領が、3月に鉄鋼については25%、アルミニウムについては10%の付加関税をかけると言明しました。一部の同盟国や、NAFTA改革を協議中のカナダとメキシコ以外は、例外なく、この関税を適用するとしています。日本も例外ではありません。中国は構造的に鉄鋼生産の過剰設備を持ち、過剰生産せざるを得ず、アメリカに対する最大の鉄鋼輸出国なので、最大のターゲットにされています。

   中国は、アメリカの関税攻撃に対して、アメリカから輸入する農産物に高い関税をかけるという対抗処置をうちだしました。これは特にトランプ大統領の支持基盤である中西部の農民層を狙ったとも言われています。これに対してトランプ氏はさらなる対抗処置を講ずる用意があると脅しをかけています。

   しかし、中国は最近、これまで外資を厳しく制限していた金融市場の抜本的な開放政策を宣言しました。例えば100%外資でも参入可能にするとしていますが、それが実現すれば、数年以内に金融産業は大きく国際化されるでしょう。中国の政策当局は、金融のような基幹産業でも、開放できる実力を身につけたとの自信を持ったのでしょう。トランプ氏のさらなる攻撃目標はIT産業や知的財産権問題とも言われています。

   こうした状況の中で、大きな鉄鋼輸出国である日本は、比較的、冷静に対応しています。その理由は、日本からアメリカに輸出される鉄鋼は高品質の特殊鉄鋼が多く、それらは品質で差別化されているので、高関税を付加されてもアメリカの需要産業は買わざるを得ないという競争上の優位がある場合が多いからです。そのため、今のところ、日本はアメリカに日本を付加関税の対象から除くよう要望は出していますが、アメリカの対して中国のような対抗措置はとっていません。

   トランプ氏は、日本に対し、日本はアメリカを利用するばかりで、アメリカ製品に対して十分な市場開放をしていないと非難しています。アメリカは、これから日本に対して、特別な市場開放を迫ってくる可能性はあります。また、トランプ氏は、一度離脱したTPPに、もしアメリカに対してより良い条件を提供するなら、復帰しても良いと言っていますが、TPP11を推進してきた日本政府は11ヵ国で合意されたTPPの条件は原則的に変えないという立場です。

○女子学生、ビジネスカレッジ、英語

 Q:   日本の右翼(right wing)について聞きたい。日本では近年、右翼の活動が活発化していると聞きますが、実際は?日中関係は、かつては友好な関係の時もあったが、最近の日中関係は必ずしも友好とは言えない。”右翼”の活動の活発化で、友好関係の前進が阻害されないだろうか。

 A.:   まず、貴女は、右翼という言葉で何を意味しているのか、具体的にどのような勢力や人々を指しているのかを知りたいと思います。

  日中関係について言うと、戦後の日中関係の正常化(国交回復)に最大の貢献をしたのは田中角栄氏と思います。田中首相は、毛沢東時代、周恩来総理と交渉をして日中国交回復を実現しました。田中氏は戦後日本の最大の政治家と思う。彼は保守本流の政治家で日中国交回復という大事業を成し遂げたが、右翼ではない。

 一方、戦後日本には、ソ連のコミンテルンの影響を受けた共産党があり、それらと深い関係を持つ社会党、その後の民主党などの系譜がある。彼らは、中国共産党にも親近感を持つだろう。コミンテルンの影響下で発展したという意味では兄弟のような関係とも言える。これらは日本では一般に”左翼”と呼ばれている。

         ただ、日本では、これらの勢力は単に政権党に対して批判するだけで、国家を治める対案を提示してこなかった。彼らの主張は、現代社会から遊離した非現実的なもので、責任ある政治勢力ではない。しかし、国民の間に一定の支持はある。2009年から3年間、この流れを汲む民主党が政権をとった時期があったが、結果は、日本の混乱と衰退で無残だった。

   安倍首相については、国際的にもナショナリストという評価があるし、日本では”右翼”という人々もいる。しかし、彼は責任ある政治指導者である。一般に、政治家は皆、ナショナリストではないか。トランプ氏はAmerica Firstを標榜しているが、どの国のでも政治家は自国優先、自国firstは常識だろう。ただ、トランプ氏のAmerica Firstはその他の国々を犠牲にしても構わないという極めてegoisticなAmerica Firstなので、世界的指導者としては無責任でむしろ危険な存在だ。世界諸国のまともな政治家の”自国first”は、世界の共存、共栄のバランスをふまえての自国firstだ。

   日本の政治は基本的に”保守勢力”の政治。彼らは野党の批判は十分認識した上で政治を行なっている。それが責任ある政治ということである。単純に、日本の政治にRight wing(右翼勢力)の影響がある、とするのは、表現として不適切であり、実体の理解を妨げる危険がある。

 ○男子学生、法学部、英語

  Q:  日中交流は重要と思うが、メリットと同時に、ジレンマがあるのではないか。中国が台頭し、存在が大きくなってくると、国際社会には、それが国際秩序を変えようとしている、という懸念が高まる。とりわけ、アメリカは、中国の発展が、国際経済を大きく巻き込む ”一帯一路(One belt, one road)” やそれを支えるAIIBのような発展につながること、また、特に、”2025年情報化計画” などがアメリカを脅かす可能性があると認識して、中国の発展を抑え込もうとしている。

   日本にとって、中国の発展はどのような意味を持ち、どのように受けとめられているのか。中国の発展は、日本にとって、脅威なのか、それとも機会(チャンス)なのか、見解を聞かせて戴きたい。

  A:  結論的には日本にとって中国の発展は機会(chance)と考える。しかし、機会とするには日中双方にとって多くの努力が必要。

    中国の発展が世界に脅威を与えるように見えるのは、それが世界秩序に変更を迫るように思われるからだ。既存の世界秩序とは、覇権国やその勢力が確立した秩序。現在の世界ではそれは欧米諸国が確立した秩序だ。それは、例えば、自由、人権、競争、民主主義などに象徴される秩序でである。これはフランス革命、英国の産業革命、アメリカ合衆国の独立など欧米諸国の発展を通じて醸成され、確立された。

    後発国が覇権国を追い上げる過程で、両者の間では対立関係が先鋭化することが多い。よく知られた「ツキディデスの罠」はアテナとスパルタの対立が戦争に発展した故事からの教訓を説いたもの。近代では、19世紀の英国とロシアの”Great Game”と言われた対立、20世紀前半の日本の急激が発展による欧米列強との対立、そして現在に米中対立などはその例。このような後発国と覇権国の対立は、世界史を通観すると、約2/3は戦争になっている。

    欧米の秩序や価値観から見れば、中国は明らかに異質。異質の中国が発展し、その世界におけるプレゼンスを高めることは、そのままなら確かに欧米にとって脅威だろう。日本は今、建前として欧米の価値観を受容している。そうであるとすれば、中国の発展について欧米と同様の脅威感を共有するのだろうか?

    しかし、日本は第二次大戦前は、日本特有の価値観、国家観を奉じかつ主張していた。それは皇国史観にもとづいた”神の国”という国家観。神の国だから鬼畜米英に負けることはありえないという価値観で国民を戦争に駆り立てた。

    その日本は1952年、サンフランシスコ講和条約を契機に、急遽、それまでの価値観を捨て、米欧と価値観を共有すると宣言した。欧米は、市民革命や独立戦争などの試練を経て、このような価値観を醸成したが、日本は、被占領状態解除のいわば条件として、欧米流の価値観を受け入れたのであって、自分の努力で勝ちとったものとは言えない。

    日本は歴史的には、中国から1000年以上にわたって文明を吸収し、それを消化して日本の伝統や価値観を醸成、構築してきた。日本は、中国的価値観や国家観を研究してきた歴史があり、中国的価値観を理解する素地がある。中国は3000年に及ぶ世界でももっとも長い文明史があるが、多くの民族が入り乱れて王朝が変遷する歴史なので、必ずしも一貫していない。中国はそれ自体、異民族、異文化の葛藤と共存を繰り返してきた。

    現在の中国は、習近平国家主席の指導力の下で、中国的価値観と国家観を内外に向けて強く主張し始めている。これは現代中国の経済発展を主導した鄧小平が唱えた”韜光養晦(爪を隠して実力を磨く)”の考え方とは対照的。習近平体制で求められる価値観や国家観が何を意味し、何を求めるのか、を日本はもっと研究し、理解する必要がある。

    日本は、歴史的、文化的、地政学的にそれができる立場にある。ツキディデスの罠に陥ってはならない。共存・共栄の行き方を示せる可能性がある。その時、中国の発展は日本にとって、脅威ではなく、機会になるだろう。

  ○女子学生、外国語学院院生、日本語

  Q: 中国とアメリカの間で貿易戦争になりかねない対立が高まっています。最近、アメリカは中国のハイテク企業のアメリカ進出を禁止しました。トランプ氏は、鉄鋼やアルミへの高関税の付加、投資活動の制限、輸入制限措置の強化などの排他的、攻撃的政策を発動していますが、その理由は何なのですか?トランプのこのような対外通商政策は、アメリカにとって、また世界にとってメリットになるのでしょうか。中米対立がますます激化しそうな状況ですが、そうした中で、日本は、アメリカか中国か、どちらに付くのでしょうか?

  A:   たしかに貿易や通商をめぐる米中対立は大いに懸念されます。貿易戦争に発展するかどうかと言えば、その可能性はなくはありません。しかし、最近の中国は金融など重要な面で開放政策を発表するなど、対立の激化や紛争を避ける方向に努力しており、私はその努力は評価しています。

    トランプ氏がこうした排他的、また攻撃的通商政策を仕掛けてくる理由は明白です。トランプ氏は選挙中から、アメリカの労働者の雇用機会は中国の不当貿易で騙しとられ(rip off), 奪われた(ship off)のだから、それをとり返してやる、と繰り返し発言していた。それは彼の公約となった。その手段としてトランプ氏は必要なら40%もの高関税をかけると脅していた。今回、その公約を、鉄鋼には25%、アルミには10%という関税を付加することで実行した。

    トランプ政権のこうした行動が、アメリカや世界にメリットがあるかと言えば、それは全くない。逆にデメリットが大きく拡大する。なぜなら中国や日本からアメリカに輸出される鉄やアルミ製品は、アメリカ企業の製品の原材料や工作機械などに使われる生産材である。これらに高関税がかかると、アメリカ企業製品の価格が上昇し、生産量は下がる。これはアメリカ経済や消費者にとって悪影響を及ぼす。世界にとっても同様の影響で、価格上昇と生産縮小につながり世界市場は収縮する。

    実際、1930年代の大不況後、アメリカのSmoot Hawley法に基づく、関税引き上げが国際的な関税引き上げ競争を加速させ、それが第二次大戦の引き金になったという説もある。第二次大戦後の世界は、その誤ちを繰り返さないため、アメリカ主導で、自由貿易と守るための国際協力の枠組みを整備してきて。その仕組みをアメリカ大統領であるトランプ氏が、アメリカ第一のスローガンの下で、事実上、私利私欲の暴挙を行っていることは誠に残念。

    このようなアメリカと中国の対立の中で、日本はどちらに付くのか、という質問ですが、経済面では、日本は自由貿易と国際協力という戦後のアメリカが主導してきたシステムを活用して発展を実現してきた。TPPもその延長線上にある。
    一方、安全保障面では日本は日米安保が基本。日本の安全は今はアメリカに依存している。どちらに付くかは、経済と安全保障の総合的判断の結果。日本は経済では自由貿易を標榜しているが、パートナーとしての中国の重要はますます高まっている。中国とどのような関係を築くかについては先の質問者への答えのような努力が必要。

  ○男子学生、日本語

   Q:    日本では人口の減少と高齢化が進んでおり、労働力が不足していると聞いている。日本は移民が必要ではないか。日本政府や人々は、移民についてどう考えているのかを聞きたい。

   A: 移民はこれからの日本にとって極めて重要な課題と思います

    日本では現在、移民を厳しく制限しています。実際、日本には日本に受け入れる人々を管理する法律としては入国管理法と難民認定法しかなく、移民法も整備されていません。それが象徴するように、日本には移民を受け入れるための戦略もありません。

     移民受入の必要については、戦後、労働力不足の局面で、3回ほど議論が高まった時期がありました。それらは、高度成長で労働力が不足した1960年代、バブルで労働力が不足した1990年代、そして人口の長期的減少と高齢化によって長期的に労働力不足が懸念される現在です。

     歴史的に見れば、日本は移民で成立した国と言えます。5000年前には日本列島には縄文人と呼ばれる先住民がいました。彼らは主として南洋方面からの人種と思われます。3000年前頃に、中国やモンゴルを起源とする弥生と呼ばれる異人種が日本列島に参入し、縄文人は大部分排除されました。そして日本に古代文明が芽生えてから今日に至る2000年間は、日本には大量の移民受入れはありませんでした。

     私は日本では移民の推奨者です。ただ、移民はしっかりした受入の準備なしに受け入れると社会の低層に追いやられて差別される傾向があり、彼らにとっても気の毒ですし、受け入れた国でも深刻な社会問題となります。そうした弊害を避けるために、私は移民を受けるなら、7つの基本的人権を保障して受け入れよと主張しています。それらは、失業保険、医療保管、傷害保険などの公的保険や生活保護、住居で差別されない権利、子供が教育を受ける権利、地方選挙権などです。そして多くの国で法制化されている「移民法」を整備することは日本の基本的な課題です。

     世界史を見ても成熟国で移民を受け入れずに存続した文明はおそらく無いので、移民問題はこれからの日本にとって大変重要な課題です。

  ○男子学生、3年生、日本語

   Q:日本の職場の現状について伺いたい。特に職場慣行について聞きたいのだが、女性が差別されており、正規労働者と非正労働者との間の所得格差は大変、大きいと聞いている。それは本当か。また、女性が外で労働するためには、家事と外の仕事のバランスをうまく取らなくてはならず、そのあたりは日本では政策的にどのように対応しているのか。

   A:  確かに日本の職場で、男女間の格差はある。しかし、格差は次第に縮小している。女性でも、資格や高い技能を持った女性には男性との間で基本的に格差はない。

     しかし企業の中には、仕事の内容がほぼ同じでも、職位で工夫して女性の仕事には別の名称をつけて事実上、格差を維持している場合もある。ただ、こうした実情も時間の経過とともに着実に改善してきている。例えば、男女平等とされるアメリカでも40年前には、女性医師は非常に少なく、医学部に学ぶ女性が少なかった時代がある。それが今では、女性が医師の過半を占めている。日本はこうした状態を30年遅れで追随している。

     女性は家事労働の負担があるとされるが、日本の女性の外での仕事志向は高い。女性の外での就業を妨げる要因の一つは家事の負担。しかし、家事の負担は、技術の進歩で、年々減少している。例えば、洗濯機、掃除機、炊飯器などの電化製品やロボットの使用などで急速に減っている。企業の職場観光も影響する。また家族や夫の理解も大きい。しかしこれらの全般にわたって女性の外での就業を妨げる要因は減少し、女性の就業は増加の傾向にある。

  ○女子学生、日本語

   Q:日本での就職に興味があります。日本の職場では中国人への差別がありますか?

   A:  昔は、中国人が日本で就職するには困難があった。学卒の就職でも中国人は不利だった。私は大学で教えていたが、20年ほど前までは中国人の学生は日本での就職に苦労していた記憶がある。

     しかし、最近は、中国人社員へのニーズが高まり、需要が増えている。ユニクロなどはその代表的な例。中国人材への需要が増えているので、能力さえあれば差別はない。中国人材への需要は大きく増えているので、実情をよく調べて就職活動をすることをお勧めする。

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Ⅲ. 湖南大学MBAの学生諸君との対話

 学部学生諸君との大会場での質疑応答の後で、別室のセミナールームで経営大学院のMBAコースの院生諸君と座談会を行った。この座談会では、島田村塾の塾生諸君と湖南大学院生諸君との対論が主な趣旨であった。

中国院生: 今の国際情勢では、日中が協力してビジネスチャンスを増やすべき時。対日貿易に関わるビジネスチャンスをどう増やすかが課題と思う。

中国院生:私は日本企業のあり方などは映画やドラマで知る程度。日本では職人気質の技能者がおり、それが日本の工業の基礎になっていると聞く。しかし、今はITで毎日技術が変化しているので、職人気質だけでは対応が難しい時代になっているのではないか。

中国院生:仕事の仕方は、中国では、まずプロジェクトを立ち上げ、細かいところは後で詰める。日本はむしろ細部から積み上げて、全体を完成させる方式のようだ。

欧陽:私は投資業務に関わっているので、沢山の企業の現場を見てきているし、多くの調査分析もしている。その経験から言うと、日本はmicro innovation は強いと思う。hardware のkey components, consumer electronics製品、semi-conductor,などは強い。これに対し、ITのサービスは中国が優れている。ITはデータの規模が競争力も源泉になるので、人口が多い国が有利になる。日本は細かい部分は強い。ただ、中国も進歩している。お互いに、長所を組み合わせて双方とも発展することは可能と思う。

島田:中国政府は、今後10~20年以内に、中国の自動車を全てEV化するという大方針をうちだしたが、それは自動車産業の現場にはどのようなimpactをもたらしたのか?

中国院生:自動車生産のvalue chainは企業集団(中国企業、JV, 外資の独資など)や地域によっても大きく異なるので、一概にはいい難い。どのようなvalue chainを作るかが鍵になる。

欧陽: 中国の自動車の生産ラインでは、high endのロボットが足りない。

中国院生:生産ラインの完全なロボット化は、テスラでもできない。中国は技術を海外から獲得してきた。J way社はその国産化を進めている。low end,  middle endのロボットは今めざましく進歩している。

松田: 私は自動車部品製造メーカーの社長をしているが、私の業界では、給料を日本の2~3倍出しても日本の熟練技能者が中国企業に引き抜かれる例が後を絶たない。中国のITは例えばAI搭載機器などの形でも大きく進んでいる印象だ。

中国院生:私はMBAの院生として中国国内企業を見学する機会は多いが、租州には多くの日本企業が進出している。そうした企業の現場を見学したいができるか?

島田:それは大いに可能と思う。私は日本に留学している中国の研究者の高度研究の助成金の審査員をしているが、多くの中国人研究者が日本企業の研究調査に携わっている。良い研究計画を用意し、人脈をたどっていけばできるはずだ。

中国院生:私は社会的な課題に応えるビジネスに関心がある。そうしたビジネスinnovationの可能性はあるか?

島田:日本には今、ITやゲノム解析など最先端の技術を活用した医療ベンチャーが多く台頭している。一方、中国からは特に富裕層の人々が大量に、日本に良い医療を求めてやって来る、いわゆる医療ツーリズムが成長している。中国の健康保険システムは、未整備で多くの大衆はその欠陥の被害を受けている。そうした状況の中で、多くの富裕層の中国人が中国には期待せず、日本の医療を求めてやって来る現象が高まっている。日本でも最新技術を持った医療機関や医療研究ベンチャーがそれを受け入れている。ここには中国ベンチャーが介在する余地が多様にあるのではないか、そしてそれは社会的な課題に応えることでもある。


Ⅳ.   湘潭県経済開発区

  20180421_3 湘潭県は湖南省州都長沙市に包摂される自治体だが、ここは毛沢東をはじめ中国の数々の指導者の活躍の場となり、経済活動も盛んな意欲の高い自治体。その経済開発区の本部を訪問して県幹部と懇談をしたが、その議論が、日中の相互理解にとって重要な内容に触れるものとなったので、以下にそこでの議論の内容を紹介したいと思う。

 段副主任:湘潭県は外国企業誘致に関心が高い。医療や自動車部品などの分野はその例だ。(段副主任ー中国共産党湘潭縣委員会副書記、縣長段偉長氏)

 
 島田: 自動車産業のsupply chainはご当地ではどうなっている?自動車は数万点の部品を組み立てて製造される。その調達網は複雑に広域にわたって構築されるので、地域間の協業が大切なはず。ここではそれがどのような構造になっているのか知りたい。特に中国政府が、10~20年先には、自動車を全てEVにするという大方針を打ち出したので、自動車産業のsupply chainは根本的な構造変化を迫られるハズ。それがどう受け止められどのような対応が始まっているのか知りたい。

 中国側: 政府の2016~2020計画では、政府はEV公用車の支援をするとしている。2020年までには16万台が目標。当地ではEV生産はまだ5%に過ぎない。全国的には吉林省には自動車産業が集中している。北京汽車やVWも。日本からは、トヨタ、ホンダ三菱などが進出している。

 島田:私達の仲間の、磯野謙氏は、「自然電力」という企業を立ち上げ、電力の地産・地消を進めている。地産・地消なら送電線は不要。地域の発展と独立に役立つ。中国は広大なので、電力の地産・地消はとくに地域の発展と自立に貢献できると思う。

 
 磯野:中国の電力事業には外資は参入できるか。

 中国側:外資は参入できるが、それは発電機や発電所の分野だ。電力供給サービスは政府の管轄だ。

 磯野:100%外資は参入できるか?

 段副主任:それはものによる。

   太陽光発電は、中国では設備品質がもうひとつと思う。必ずしも成功していない。外資の対中投資は、投資に興味があれば原則全てOKだ。投資拠点作りたければそれもOK. 現状の上に何かプラスアルファの開発を進めてくれるような投資は大歓迎。

   湘潭県の特産は、コメ(ビーフン)、豚(豚料理)、ハスの実。

   また地中鉱産物「海泡石」の埋蔵量は豊富。海包石は炭酸の原料になるが、9億トンと推定。
 島田:それら地中埋蔵物は輸出するのか。

 段: 輸出はしない。海外の先進技術を持った企業が中国に進出し、地元企業を共同開発をしてくれるのはとくに歓迎だ。今は開発はもっぱら地元の中小企業が担っている。

 段:今ひとつ、湘潭県は長い歴史と伝統にもとづく人文と文化の蓄積が豊かだ。

   私達は当地で、文化産業を育てたいと思う。湘潭県は朝鮮戦争で中国軍の総司令官として米軍と戦った彭徳懐将軍の出身地であり、水墨画の巨匠、斉白石の生地でもある。近年韓国人が当地の文化に興味を持ち、文化産業の企業も進出して文化交流を進めている。

   日本の企業やNPOの進出に期待したい。そして文化産業と文化交流の発展に貢献してもらえたら、と思う。

 島田:文化産業に育成と交流は大賛成。ここでそうしたことを考える上で、巨視的な視点からコメントしたい。とりわけ日本との関係について少々時間を戴いて述べたいと思う。

 
            日本は古来、中国から文化、文明を学んできた。奈良時代以前、日本には人々が話す日本語はあったが、文字はなかった。中国は3000年も前から漢字を開発した超先進国。

   日本は中国からその文明を学ぶために、役人、僧侶、学者などが遣唐使、遣隋使などとして訪中、留学して中国文明を学習し、吸収し、その過程で、中国の行政制度や仏教などの宗教も導入された。奈良時代の朝廷では、おそらく例えば今日の日本で日本語と英語が併用されるような形で、中国語がそのまま話されていたのではないか。

    平安時代に入って、日本では仮名文字が開発された。それには宮廷の学問のある女官たちが大きく貢献したと言われる。仮名文字、平仮名などが開発され、それと漢字を組み合わせた日本独自の言語体系が発展した。この時代以来、近世まで、中国は1000年以上にわたって日本の師範だったと言える。日本の知識人は中国を尊敬し、憧れた。明治時代まで、日本の知識人は中国文化に親しんでいた。優れた知識人には、中国古来のエリート養成制度である「科挙」に合格するほど中国文化に通暁する人々もいた。彼らにとっていわゆる四書五経は薬籠中の教養だった。

    1850年代以降、欧米列強の圧力が日本にも及んできた。欧米諸国は、産業革命で強化した工業力を背景に国力を増強し、軍備を拡大し、アジア諸国の収奪を企んだ。中国はその餌食となり、アヘン戦争、アロー号事件などで搾奪された。欧州列強の暴威に対して無力だった清王朝を見限って、太平天国を樹立する太平天国の乱が起きた。これは清帝国そのものが直面する危機となるので、湖南省を代表する知識人でありかつ武人だった曽国藩が兵を起こして反乱を平定し、清帝国を救ったことは有名。

    欧米列強の脅威は日本にも及んだ。1853年のアメリカペリー艦隊による開国への圧力に続き、英、仏、ロシアなどが通商を求めて日本に圧力をかけたが、これは日本にとっては半植民地化への脅威だった。日本は、植民地化を避けるために、”文明開化”の掛け声とともに、欧米文明を猛烈に吸収した。

    幕末の開国以来、わずか20~30年間で、日本は西欧文明を急速に吸収した。それは科学・技術、経済・産業、行政制度、文化、医学など広範に渡り、明治20年頃には、これらのすべてが日本語に翻訳され、日本で学べるようになった。日清戦争に敗れ、科挙の制度を廃止した中国から、日本で西欧を学ぶために年間1万人にも及ぶ多数の中国のエリートが日本に留学したほどである。日本に留学した中国人の中で湖南省出身者が最多だったことは特筆されよう。そうした中でも、中国文化は日本の知識人にとって不可欠の教養であり続けた。

    ところが第二次大戦後、中国は日本の知識人にとって尊敬の対象になりにくくなった。それは、中国が、毛沢東時代、共産主義を強調するあまり、中国の宗教を否定し、古来の自らの文化遺産を尊重しなくなったからである。自らの文化遺産を軽視する中国は、日本の知識人にとって尊敬や憧憬の対象になりにくくなった。

    私は、かつて、中国社会科学院の副院長から次のような質問を受けたことがある。「日本人にはアメリカが好きな人が多く、中国を嫌いな人が多いと聞く。アメリカは先に戦争で原爆で罪のない日本国民を30万人も殺し、日本全土を焦土にし、310万人もの日本人の命を奪った。中国は日本に侵略されたが、日本を侵略したことは一度もない。それなのに、なぜ、日本人はアメリカが好きで、中国を嫌うのでしょうか?」

    これは大変重要な質問であった。私は次のように答えた。「確かに戦争中、アメリカは無差別爆撃などで、民間人も子供も含めて310万人の命を奪い、日本全土を焦土にしたので、日本人はしばらくアメリカを憎みました。しかし、ほどなく日本人のアメリカを憎む感情は薄れ、むしろアメリカを好きになり、アメリカを憧れる人々が増えてきました。

    それはAmerican way of lifeが日本人を魅了したからでしょう。自動車、電化製品、摩天楼、ハリウッドの映画、大学、等々。アメリカは日本人留学生を大量に受け入れました。それはまず、Fulbright上院議員の提案で、第二次世界大戦集結で、用済みになった大量の兵器の売却代金を、世界各国からの留学生の奨学金に充てたのです。そのおかげで日本だけからでも数十万人の留学生がアメリカの大学で学んだのです。それは多くに若者がアメリカを理解し、好きになり、そして尊敬する基礎になりました。

    実は、日本政府は、戦後の復興過程にも拘らず、経済援助の一環として毎年、数万人の中国人留学生をを受け入れてきました。その数は、戦後の半世紀で数十万人に及びました。その他にも多くの民間や私費留学生が日本に留学したので、その総数は200万人規模に達しているでしょう。その半数くらいの人々は日中の通訳ができるでしょうから、中国で日中の通訳のできる人は100万人はいるでしょう。それに比べ、日本人で日中の通訳ができる人は1万人もいるでしょうか。私は何度もこれまで中国を訪れていますが、日本人の通訳に日中の通訳をしてもらった経験はありません。

    日本に留学した中国人が日本を好きになったかどうかには様々な説がありますが、日本がまだ貧しい時代に、多くの中国人留学生に奨学金を提供してきた事実は注目すべきであり、留意すべきです。

    中国は今、世界中に、500箇所にも及ぶ「孔子学院」(Confucious School)を設立して中国語と中国文化の普及に努めていますが、私は中国に、むしろ、大規模な世界からそして日本からの留学生招聘計画を推進してはどうかと提案したいと思います。例えば、日本から毎年10万人の留学生を招いてはどうでしょう。それは日本の若い世代の中国理解を深め、中国ファンを増やし、中国を尊敬する次の世代を形成する上で大きく貢献するに違いないと思います。

    私はその意味で、段副主任が言われる文化交流の振興には大賛成です。」

 段副主任:習近平主席もこれから文化外交、文化交流に注力するとおっしゃっています。

 島田:文化戦略は、ソフトパワーの平和戦略で、大いに推進する価値があると思います。

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