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フランス: マクロン氏への期待と可能性

1. 奇跡の登場
 
 2017年5月7日に行われたフランスの総選挙はそれまでの予想を超える驚くべき結果となった。それまで極右の国民戦線を率いるルペン候補と中道系独立候補のマクロン氏に絞り込まれた大統領選の決選投票は、大方の予想を超えて、マクロン氏の圧勝となったのである。その結果は、

マクロン 66.1%(2075万票)、ルペン 33.9%(1064万票)

 エマヌエル・マクロン氏:39歳、オランド政権の経済相、中道系独立候補。対するマリー・ルペン氏が勝てば、彼女の主張にしたがってフランスもEU離脱をする可能性があった。多くの中産階級や経済人らはマクロンの勝利に安堵。

 この決選投票に前段の、第一回投票では、これまでフランスの政治の根幹になってきた共和党と社会党という大政党が大きく後退するという地殻変動が明白に現れた。4月23日に行われた第一回投票の結果は以下の通りである。

             マクロン       24%
             ルペン        21.3%
             フィヨン(共和党)  20.0%
             メランション(極左) 19.6%
             アモン(社会党)   6.4%

  大統領は上位2人の決戦投票で決まるので、この第一回投票結果によって、これまでフランス政治を リードしてきた中道右派共和党と左派の社会党候補が揃って破れるという前代未聞の事態となった。共和党と社会党の2大政党合わせても得票率は27%に過ぎず、社会党はたったの6%を獲得しただけだった。

  マクロン氏の選挙公約は:
    既成政党の刷新(ルペンと同じ)
    移民包摂・多様性の価値、欧州統合・独仏関係深化、ナショナリズム抑制、
    解放経済と国際協調の促進(以上はルペンと正反対)
 マクロン氏の支持派は、中大都市の住民と上中所得層などであった。一方、ルペン氏の支持層は、地方の低所得者層やラストベルト(経済成長に取り残された旧工業地帯)の労働者層などであることが投票結果の分析から明らかになった。


2.  マクロン大統領の政権と政策 

  マクロン氏の政策構想は大胆で画期的だが、実現可能性について、また大統領の実行力について当初、内外から疑義が提起された。

  例えば、マクロン氏は EUを連邦型にしたいと主張。そのためにはEUの財政統合を進める。具体的にはEU予算、財務相を置き、銀行同盟で規制と監督を強化するなどである。

   これに対して、理想は良いが、膨大な予算負担と事務量が必要となり非現実的。例えば、EU予算のために、フランスは現在の国家予算の半分もの付加的負担が必要になるとの批判。危機の回避なら加盟国間で緊急資金拠出など対応できる。極端な制度改革より市場原理を活用すべきだ、との批判。また、国内改革できるか?硬直的労働市場、莫大な政府部門とその非効率性、それらを解決することが宿題なのではないか、といった批判。さらに、マクロン氏は政治基盤がないので、そうした改革を主張して国民の支持得られるか?国民議会選挙で勝てるか、などの疑問が内外から提起された。


3.   国民議会選挙で圧勝

   こうした懸念や批判を尻目に、マクロン氏は2017年6月の国民議会選挙では、大統領の「共和国前進」が308議席と過半数(総数577議席)を獲得、中道連合を入れると350議席で6割を占めた。既存の共和党は113席、社会党は29議席、極右ルペン党首率いる国民戦線はわずか8議席にとどまった。
 
   マクロン大統領は議会で過半数と獲得したので、公約の公務員削減、財政再建、労働時間規制の柔軟化などこれまで主張してきた大胆な構造改革を提案。これにより、生産性を高め、フランス経済の再生を図る方針を強調した。


4.   マクロンの人気低下と上院選挙で後退

   これら改革提案はそれが国民や労働者の既得権の見直しを迫るものだったので、不人気だった。とりわけ緊縮財政で政府支出の8兆円削減や住宅手当の削減、またフランス軍幹部の大統領批判に対しての総司令官としての高飛車な反論の仕方などが国民の反発を招いた。

 
   8月になると支持率は4割以下となり、不人気だったオランド前大統領の同時期の支持率を下回った。しかし、8月、労組幹部に労働市場改革で合意取り付けるという画期的な成果を挙げ、その労働改革は59%の国民支持率を達成した。一方、マクロン氏は企業に対しては国内企業の損益状況で、海外で利益が上がっていても国内での損益状況が悪ければ解雇を可能にする税法改正を提案したが、これは経済界からは歓迎された。

   こうした動きをふまえた9月24日の上院選挙ではマクロン大統領の与党は後退した。「共和国前進」系正統派29議席から28議席(非改選9議席含む)へと議席を減らした。しかし、権限の大きい下院で過半数占めているので、マクロン陣営は所期の改革は追求できる、としている。ちなみに、上院の定数は348、今回はそのうち、171議席が改選された。なお、憲法改正には両院で3/5(555議席)以上の賛成が必要である。


5.   EU統合深化策提案(ソルボンヌ大学での講演)

 
   マクロン大統領は2017年9月26日、ソルボンヌ大学での講演で、 EUの統合深化策について画期的な提案を行った。その要点は以下のとおりである。  
    ・各国共通防衛予算
    ・急進的技術革新担うEUの専門機関
    ・利益あげた国での課税(グローバル企業のタックスヘブン利用阻止のため)
    ・法人税率統一(低税率国で生産:social dumping防止)
    ・富裕層減税capital gainsに同一税率(flat rate)

   マクロン大統領の改革提案は急進的でプロビジネスである。マクロン氏は大統領当選当初、既存の政治基盤を持たず、また政治指導力も未知数だったので、同氏が主張する改革が実行・実現できるのかについて懐疑的な見解が多かったが、その後、マクロン氏は国内のパワーネットワークをかなり掌握しており、意外にしたたか、という評価が増えている。 

   国内政治で地歩を固めつつ、特に、ユーロ共通予算の編成とユーロ財務相ポストの新設など懸案の財政統合に踏み出すものと見られる。一方、ドイツの選挙後、求心力が低下したメルケル首相も、マクロン氏の唱えるEU条約改正への取り組みには一定の理解を示している。

   しかし、彼女が率いる与党CDUは、2018年3月にようやく辿りついた大連合におけるメルケル氏のSPDにたいする妥協に不満で、SPDが主張してきたマクロン流のユーロ圏改革には反対もしくは消極的な態度を強めており、マクロン流のユーロ圏改革がどこまで進むかは現段階では不透明だ。


6.  労働組合との対決ーフランス国鉄労組のスト

   2018年4月3日、フランス国鉄(SNCF)の労働組合はフランス全土でストに突入した。スト初日の4.3.には、フランス国内の鉄道運行本数は、高速鉄道(TGV)は1/8、都市間移動の列車は1/5に減らされ、事前通告はあったが、一部の主要駅では人があふれ、自家用車の増加でパリ都市圏の道路は渋滞した。

   同労組は、4.3.から6月まで3ヶ月、5日に2日の頻度でストを続ける計画。フランスではストはたびたび起きているが、今回のストは早期に解決されなければ、2010年や2013年に発生した大規模ストに近いものとなると見込まれる。

   ストの理由は、3月にフランス政府が発表したSNCFに対する改革法案。社員の多くが終身雇用や年金優遇を受ける「鉄道員」として働くが、この運用区分をを今後の採用から廃止、同社を公的な法人から株式会社に改組し、規制も一般企業に近ずけるという改革。同社の累積債務は現在約545億ユーロ(約7.1兆円)。合理化でこうした債務も削減を見込む。

   マクロン大統領の改革は、これまで、労働者や公的部門が享受してきた特権的な保護や報酬を、大胆に見直し、組織の効率性と柔軟性を高めて、生産性を向上させ、フランス経済の活力と競争力を強化しようというものだが、その進め方は大胆で急進的なので、反発も強い。今回の鉄道労組のストは、トランプ大統領の経済改革が成功するか頓挫するかを占う重要な結節点になると見込まれる。トランプ政権は、このストでも妥協せず、改革を貫徹する姿勢で臨んでいる。

   トランプ大統領の大きな目標は、欧州とりわけユーロ圏の根本的な構造改革であり、それを実現するためには、まず国内で、不退転の指導力を示し、改革の成果を挙げることが必要になる。鉄道労組の全国ストは、トランプ氏の政治家としての指導力を試す重要な試金石になりそうだ。

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