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トランプ政権のアメリカ:(5) トランプ政権の展望と日本の対応

トランプ政権の展望と日本の対応

Ⅰ.  トランプ政権の展望

 トランプ政権のこれからを展望する上では、今後の経済情勢、アメリカ社会の分断傾向、民主党の実力をどうみるか、が重要と思われる。以下、それらのファクターについて考えてみよう。

 アメリカ経済の景気は今(2018年4月)絶好調である。株価は2018年春まで最高値だった。トランプ大統領が3月にアメリカが輸入する鉄鋼とアルミニウムについて高関税をかけると突然宣告し、中国がそれに対して対抗手段を発表したため、貿易戦争に発展しかねない状況となって株価が若干下落したが、景気情勢は今のところ好調でPowell連銀議長がさらなる金利引き上げを示唆するなど、むしろ加熱が心配される状況である。

 アメリカ景気は世界経済を主導しているが、この好況をトランプ支持者はトランプ経済政策のおかげと誤解しているふしがある。トランプ政権は発足以来、1年3ヶ月を経たが、その間に成立した経済の法律は大規模減税を謳う税制改革だけであり、それもこれから実施されるので、これまでのところ主要な経済政策はまだ何も始動していない。アメリカ経済と世界経済はここ数年好調を加速しているのは、リーマンショック以来行われた数々の構造改革政策や中央銀行の舵取りが奏功したものと評価すべきだろう。トランプ氏が忌避しているオバマ政権時代の経済政策がここにきて効果を産んでいると言える。

 ただ、トランプ氏の大減税、大規模インフラ投資などの掛け声が、株式市場に、大きな期待感を抱かせ、それが株価の急上昇に結びついた面は否めない。トランプ氏の支持者は新聞も読まない人々なので、今の好景気をトランプ政権のおかげと信ずる傾向があるようだ。この景気がまだ続くとすると、それは2018年11月の中間選挙で、トランプ陣営に有利に働く可能性がある。

 民主党系に限らず、アメリカの知識層は、トランプ政権は一期で終わると観測または願望する向きが多いようだが、トランプ氏が中間選挙で負けずにロシア・ゲートの追求をなんとかに逃げきれれば、トランプ政権は2020年以降の第二期に繋がる可能性は低くない。その可能性を強めるのは、上記の景気に対するトランプ支持者の誤解に加え、民主党の対抗力の弱さである。

 民主党は、2016年の大統領選で、いくつかの戦略的誤りを犯したが、その最大のものは、黒人、イスラーム、アジア系などこれまでマイノリティーと目されてきた人々の比重が増えつつあり、これまで差別を受けたり比較的恵まれない立場にあった彼らがやがて全体としてアメリカ国民の多数を占めるようになる長期的未来を見越して、彼らの地位向上を始め、彼らに主眼を置いた選挙戦略を推進した。

 それが、白人労働者に焦点を合わせたトランプ陣営との選挙戦に敗れた大きな原因のひとつと考えられる。それ自体は長期展望として間違いではなないが、次の大統領選は事実上、2019年から始まる。この1~1.5年ほどの短期間に、トランプ陣営に勝てる戦略をどのように再構成するのか、また、トランプ氏に対抗できる新しいスターを発掘、育成できるのか、民主党には大きな課題がある。そうした民主党の弱さを鑑みると、トランプ氏の第二期続投の可能性は低くないと思われる。


Ⅱ.  トランプ政権の挫折あるいは持続:日本と世界への影響

 そこでトランプ政権がロシア・ゲートその他の原因で挫折する場合、あるいはトランプ政権がロシア・ゲートを逃げ切って第二期も持続する場合の二つのケースについてその影響やそれに対して何をすべきか考えてみよう。

 1. 挫折のケース:
 トランプ政権が、挫折する場合として最もあり得るのは、ロシア・ゲートで弾劾・罷免されるケースであろう。その場合、トランプ氏の残任期間は、ペンス副大統領が大統領に昇格する。ペンス氏はトランプ氏よりも常識的なので、トランプ流の混乱はいくらか少なくなると思われるが、基本路線は変わらないだろう。

 2.  トランプ政権が持続するケース:
 トランプ氏がロシア・ゲートで破滅せず、2020の大統領選で勝利する場合、トランプ政権の第二期は、トランプ氏の基本政策が作動する時期になるので、私見では、かなりの混乱が拡大すると思う。とりわけ経済政策面で矛盾が噴出する恐れが大きい。トランプ氏の経済の基本政策は(1)大減税を謳う税制改革、(2)大規模インフラ投資、(3)保護主義的貿易政策の3つである。

 トランプ政権第二期には、新しいトランプ税制がフルに稼働する。この大減税はすでに完全雇用で加熱している経済に対して施行されるので、経済成長を増幅する余地はほとんどない。したがって減税の財源の調達は、政権の目論見よりはるかに困難になる。それでなくても累積しているアメリカの財政赤字はさらに増大し、減税の財源負担は、結局、勤労大衆にかかってくる。それはトランプ氏を支持していた人々の負担になるので、”裏切り”と映るだろう。

 また、1兆ドル以上とされる巨額なインフラ投資の財源は手当が困難で、それも結局、勤労大衆の負担になるだろう。さらに、保護主義的な貿易政策は、2018年3月のトランプ氏の鉄鋼、アルミニウムへの関税大幅引き上げが貿易戦争の引き金を引きかねない状況からも推察されるように、結局、輸入中間財の価格上昇がアメリカ国内の物価を上昇させ、勤労大衆の実質賃金低落を通じて彼らの生活水準の実質的引き下げとなる恐れが大きい。

 このようにトランプ経済政策は、支持者達に負担を強いる”self-defeating”な帰結をうむ恐れが大きく、それは事態の経済的悪化のみならず政治的反発と混乱を生み、そのネガティブな衝撃はアメリカのみならず、全世界に波及する恐れがある。日本は、トランプ政権が持続するとこのような事態になり得る可能性をふまえ、そのような事態に備えた”プランB”を今から用意するべきではないかと思う。

 
Ⅲ.   トランプ現象の底流と日本の対応

 トランプ現象は、トランプ氏個人の個性に由来する部分もあるが、大局的には、より大きな社会の潮流の変化によるものと思われる。それは技術革新とグローバリゼーションの急速な流れに取り残された大衆の不満の鬱積が生み出した現象だからである。したがって、現代社会の”トランプ現象”は仮にトランプ氏が失脚しても消失しない。また次のトランプ型の政治家が取り残された人々の不満を吸収して登場する可能性が高い。

 この現象は、アメリカだけでなく、Brexitショックに揺れる英国でも、nationalismと排他主義が勃興する欧州でも同様に見られる。日本では、その現象はそれほど表面化してはいないように見えるが、底流では共通していると考えられる。

 近年、世界を席巻しつつあるこの現象は、第二次世界大戦後に、世界諸国が協力して営々として築きあげてきた発展と繁栄のパラダイムを壊す可能性がある。その地殻変動を克服する救済策はまだ見えていない。産業革命以来の世界の経済発展は、幾度もその矛盾が累積し、破壊的結果をもたらす中で、人々の叡智と努力によって克服されてきた。トランプ現象はそうした人類史的な大きな問題を我々に投げかけているように思う。

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