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トランプ政権のアメリカ:(4) ロシアゲート

ロシア・ゲートがトランプ政権崩壊の最有力因

Ⅰ.  はじめに

 トランプ政権はその発足当初から、クレムリンとの隠された関係が問題とされた。トランプ氏は以前から、資金洗浄に関わるなどロシアとの黒い関係が取りざたされて来たが、2016年の大統領選の最中に、ロシアが民主党本部にハッキングなどのサイバー攻撃を仕掛け、マル秘の情報を手に入れて、それを踏まえて多くのフェイクニュースをSNS上で流すなど、クリントン陣営攻撃を行って、選挙結果に重大な影響を及ぼしたのではないか、また、クレムリンにそうすることをトランプ陣営が働きかけたのではないか、との疑惑が持ち上がった。

 もしこれが事実なら、これはアメリカの民主主義を外国勢力を使用して破壊しようとしたわけであるかから、重大な国家反逆罪ともいうべき犯罪となる。アメリカは三権分立の民主国家であり、その疑いについて、司法当局も調査を進めており、その疑いがある程度立証されれば立法機関である議会がそれなりの対応をとることになる。トランプ氏はさまざまな手段でこの疑惑を否定し、追及を回避しようとしているが、これがトランプ政権の暗部に関する米国最大の事件となっている。

 もし、その疑惑が立証され、議会がそれをアメリカの民主主義に対する妨害もしくは破壊行為であると認定すればトランプ大統領は弾劾され、トランプ政権は崩壊するだろう。しかし、その疑惑が充分に立証されないか、あるいは立証されたとしても議会が、弾劾に踏み切らなければトランプ政権は存続し、それはアメリカだけでなく、世界に対しても重大な意味を持つことになるだろう。このエッセイでは、トランプ氏のこのロシア・ゲートについて事実を追いつつ、考えたいと思う。


Ⅱ.  大統領選でのロシアのネット妨害

 2016年の大統領選をつうじて、クレムリンが情報機能を使って、選挙に介入しているのではないかという疑惑が取りざたされた。

 それは、ロシアの、おそらくクレムリンの関係者が、サイバー攻撃などで、民主党本部の機密情報を入手し、それを利用して、クリントン候補を意図的に陥れるために、フェイク(偽)ニュースを、例えばウィキリークスなどを使ってネット上に散布したのではないかという疑惑である。

 大統領選は、多くの世論調査の結果による限り、選挙戦が事実上開始された2015年から。本番の2016年中とつうじて、クリントン候補への支持率がトランプ氏を上回り続けた。ところが、11月8日の結果では、大方の予想に反して、トランプ氏が選挙人獲得数で圧勝し、大統領に当選してしまったのである。

 アメリカの大統領選挙制度は、George Washington初代大統領の時代からの制度で、大統領選の勝敗は、国民の投票数ではなく、各州に割り当てられた選挙人の獲得数で決まる。これは通信が発達していなかった時代に、アメリカ大陸という広大な地域で選挙を行うには必要な知恵だったのだろうが、今日の高度情報社会ではいかにも古色蒼然とした奇妙な制度である。しかし制度は制度なので、アメリカはこの制度に従って大統領選を行っている。この制度では、選挙人は各州の人口などに比例して定められているので、人口の多い州を制した候補が選挙人を総取りするので、影響の大きい17州がスイング州とされている。

 選挙の結果は、スイング州での獲得選挙人はトランプ候補が290人、クリントン候補が227という大差だった。選挙人の数は総取り制度なので、このような結果となったが、これらのスィング州全体の投票数では、なんとHillary Clinton候補が7万票ほどトランプ氏を上回っていたのである。また、全米での獲得票数では、Hillary候補は、トランプ氏を290万票上回っていたことが判明している。

 スィング州での票獲得数で、Hillary候補がたったの7万票しか下回っていなかったことは、トランプ氏のロシア疑惑に対して重要な意味を持つ。それは、ロシアの情報関係者がHillary攻撃のフェイクニュースをネット上に散布したとすると、新聞も読まず、ネットの情報に偏りがちな最近のアメリカの大衆がフェイクかどうかの判断もつかずに、Hillary離れを起こしたことは容易に想像される。またそれがロシア・ゲート関係者の狙いでもあった。

 例えば、一億人を超えるスィング州の投票者のうち、こうしたフェイクニュースの影響で、反Hillaryになり、トランプに投票した人は少なく見ても100万人程度はいただろう。もしこうしてフェイクニュースの妨害がなければ、これらの人々はHillaryに投票していただろうから、選挙結果は、おそらくHillaryの圧勝になったに違いない。つまりロシア・ゲートはアメリカの民主主義の健全性を崩壊させる上で深刻な意味を持っているということである。


Ⅲ.   オバマ大統領の怒り、ロシア外交官追放

 オバマ大統領は、この件をおそらく確信しており、早くも(あるいは遅きに失したかもしれないが)9月の中国、杭州で開催されたG20の会場で、プーチン氏に「大統領選へのサイバー攻撃での干渉をやめない場合、深刻な結果を伴う」と直接警告したことを12月に明らかにした。その時、プーチン大統領はそんなことは知らぬと嘯いていたようだ。

 大統領選がトランプ氏の圧勝に終わった後で、我慢できないオバマ氏は2016.12.7、米政府として民主党全国委員会に対するサイバー攻撃について「ロシア政府が指揮した」と断定し、名指しで非難声明を発表した。そして2016.12.29. ロシアのサイバー攻撃による米大統領選への干渉に対し、ロシア外交官35人の国外退去の制裁措置を発表したのである。


Ⅳ.   トランプ大統領への疑惑の発端

  オバマ大統領のこうした行動を別とすれば、トランプ大統領のロシア・ゲート疑惑の発端は英情報機関OB、Cristopher Steele氏が書いた35p(17章)の文書、通称ドシエー(dossier)とされる(尾形聡彦『乱流のホワイトハウス』2017)。

 この文書が書かれたのは2016年秋とされるが、FBI等米情報機関が信憑性を調査し、濃厚な疑惑があるということで、2017年1月第1週に、情報機関幹部がオバマ大統領とトランプ次期大統領ほか一部の政府高官に提出した。政府情報機関はこの時点ではまだオバマ政権下だったので、この文書を要所に配布することで簡単には消せなくしたのはオバマ大統領の指示か、とも憶測される。

 このニュースをCNNは1.10夕方のニュースで同文書を情報機関が調査中と報道した。その夜、オンラインメディアのBuzzFeedが35p全文をネットに掲載、騒ぎは一気に広まった。トランプ氏が1/11午前、初めての記者会見の席上、CNNとBZをフェイクニュースと罵倒し、大荒れとなった記者会見にはこうした背景があったのである。


Ⅴ.  フリン疑惑と解職

 2016.12.29.フリン氏がトランプ陣営幹部(クシュナー?)の指示でロシアのキスリャク駐米大使と電話で5回ほど会談したとする疑惑が表面化した。それはフリン氏がロシア大使にたいし国連のイスラエル占領地入植非難決議に反対してくれれば、アメリカのロシアにたいする経済制裁を緩和するという趣旨の会話だったと伝えられた。

 その件を、1.12.ワシントンポストが情報機関の盗聴の結果として報道した。2.8.フリン氏はその疑惑を否定。2.9.それを受けてペンス副大統領はCBSのインタビューでそうしたことは一切なしと言明した。ということは、フリン氏はFBIにも副大統領にも虚偽の説明をしていたことになる。それは充分、偽証罪に相当する。トランプ大統領は2.13.フリン氏を迅速に解任した。これは予想外に早い決断と思われたが、オバマ氏らからフリンは危険と事前に警告があったというのがもっぱらの観測である。


Ⅵ.  Comey CIA長官解任

    2017.5.9, トランプ大統領は、Comey CIA長官を突然解任した。トランプ氏はHillary候補のメール疑惑調査の不手際を理由としてが、それは表向きの理由で、本当は、Comey氏はトランプ氏のロシア関連疑惑について調査を始めたことを危険視して妨害行為に出たとうのが、関係者のもっぱらの受け止め方だった。

 2019.6.9. Comey元長官は議会で証言し、トランプ氏から”フリンの捜査を止めよ”との圧力がかかったと証言した。もしそれが事実ならトランプ氏は司法妨害の罪に問われることになる。


Ⅶ.  Mueller検察官の任命

 2017.5.17、トランプ氏のロシア・ゲート疑惑に関してRobert Mueller特別検察官が任命された。任命したのはRosenstain 司法省副長官である。本来ならSessions司法長官が任命するはずだが、Sessions長官はトランプ氏のロシア・ゲートに関しての議会証言に偽証の疑いが持たれており、この件についてはノータッチとされていたからである。特別検察官はその捜査活動について、ホワイトハウスを含む行政機関等から規制や影響をされずに独立に活動ができることが法制度的に保証されている。

 Mueller氏は、前CIA長官であり、解任されたComey長官の前任者である。Mueller氏はベトナム戦争でも戦功をあげた勇者として国民的人気があり、正義を貫く検察官僚として評判が高く、CIAの長官職の任期10年を延長し、12年長官を務めた人物である。

 Mueller特別検察官は2017.8.5.大陪審招集し、トランプJr、マナフォート氏の疑いなどを調査した。トランプ氏はMuellerを解任しようと画策しているとの噂がもっぱらだが、下院は解任したら再度任命するとトランプ氏に警告している。


Ⅷ.  被疑者起訴

 2017.10.30 Mueller特別検察官はトランプ氏の選挙対策本部の幹部であったPaul Manafort氏とGeorge Papadopoulos氏を起訴した。起訴の理由はウクライナのヤヌコビッチ大統領から多額の顧問料を受け、さらに資金洗浄に関わった疑いである。

 さらに2017.12.3:フリン氏を偽証罪で追訴。フリン氏は司法取引に応じた。トランプ氏はフリン氏を解任した理由として「副大統領とFBIに嘘をついたから」としていたが、トランプ氏が本当の事態を認知していたならトランプ氏は司法妨害の罪に問われることになる。


Ⅸ.  トランプのロシア疑惑

  トランプ氏のロシア疑惑は広範かつ多様にだが、その主要なものは以下のように整理できるだろう(中島精也氏)。

    1. ロシア政府と共謀して選挙妨害
    2. 捜査過程での司法妨害
    3. ロシアへの機密漏洩
    4. トランプ就任前の二重外交(フリン)
    5. 資金洗浄(ロシア関係者がトランプ資産購買)
    6. モスクワでのセックススキャンダル


Ⅹ.  弾劾の可能性

 トランプ氏がロシア・ゲート疑惑に絡んで、大統領選をロシアの力を借りて妨害するなどの行為をしたことが明らかになれば、それは国家反逆罪にも相当する罪であり、議会の権能に定められた弾劾が適用される可能性がある。以下、弾劾の手続きと可能性についてここで整理しておこう。

弾劾(impeachment)の手続きとその可能性:

 1. 下院本会議が過半数で弾劾訴追を決定し、その結果を上院へ伝える      
 2.  上院では最高裁長官が議長となり弾劾裁判が行われる。そこでは、下院が議決
       した弾劾訴追項目を審議する。それぞれの項目につき、有罪か無罪の採決がなさ
       れる。2/3以上が有罪に賛成すれば大統領は罷免される。

大統領の弾劾は、下院、上院の2段階で審議し、決定を下すのはあくまで議会。従って、その決定は議会の構成が大きく左右することになる。

 参考としてこれまで弾劾で解任されそうになった大統領は、戦後ではNixon氏とClinton氏である。Nixon大統領は、1974年、下院司法委員会が弾劾訴追を決定したところで、自ら辞任した。一方、Clinton大統領は、1998.12. 下院本会議が弾劾訴追を決定。99年に始まった上院での弾劾裁判で無罪となり、罷免を免れた。

 クリントン氏の時は上下両院とも共和党が多数を占めていたので、弾劾裁判まで進んだと言える。ニクソン氏の場合は、彼が辞任した1974年には中間選挙があり、ニクソン弾劾に反対した下院議員はほとんどが落選し、逆に民主党が大躍進をした。Nixon氏は民主党優位の議会構成では弾劾・罷免は不可避と判断し、自らの名誉と守るために辞任したとされる。

 2017.4時点での機会の構成は、
  下院(定数 435。欠員4)共和党238、民主党193。共和党員の20数人必要
  上院 共和党52人のうち19人賛成必要
となっており、中間選挙の結果が事態を左右するが、そこでは世論の動向が決定的。

  トランプは就任100日目のWashington PostやABCの世論調査では2016年11月に投票者した人々の96%がトランプ氏に再び投票すると回答しており、支持率4割を維持している。従って、トランプ氏はこの岩盤にほんのすこし浮動票を乗せるだけで勝利できる可能性が高い。ただし、選挙はやって見なければ判らないのが通例であり、2018年11月の中間選挙で民主党が勝てば、状況変わる可能性も十分にありうる。その場合は、トランプ大統領は弾劾・罷免されるだろう。

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