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トランプ政権のアメリカ:(3) トランプ政権の基本経済政策

トランプ政権の基本経済政策:減税、インフラ投資、貿易:喧伝と現実

Ⅰ.   はじめに

 トランプ政権の基本経済政策は、減税、インフラ投資、そして貿易政策がそ主なものと言える。これらについてもトランプ氏は選挙戦中から声高に喧伝していたので選挙公約と言って良いだろう。

 これらのうち、減税については、超大型減税を2017年末に議会で成立させたので、トランプ氏は大きな公約の一つは実現させたと言える。インフラ投資についてはお題目は唱えているが、その中身は詰められておらず、まだ喧伝の段階だろう。

 貿易ないし通商については、トランプ氏は2018年3月8日、突然、アメリカに対する世界の主要な鉄鋼とアルミの輸出国に対して、鉄鋼は25%、アルミは15%の関税を上乗せすると発表し、世界の貿易相手国のみならずホワイトハウスの中でも大きな波紋を引き起こした。

 以上のトランプ政権の経済政策の主要3項目について展望しよう。


Ⅱ.   税制改革(大型減税)

 2017.4.26 トランプ政権の税制改革(大型減税)案がホワイトハウスから発表された。これはMnuchin財務長官とGary Cohn CEA(経済諮問会議)議長が協力して用意したものとされる。

その主な内容は:
 1. 法人税の税率を15%とする
 2. 所得税の最高税率を引き下げ、同時にこれまで7段階だった課税率を3段階に簡素化する。
 3. 相続税の廃止。
というものだった。

 税制改正のような主要な政策は、米国では、議会の審議と法案作成のプロセスを経て、法律化され、実施に移される。まず、議会で法案が作成され、審議を経て、法律として制定され、それから政策として実施されるという段取りを踏む。言い換えれば、政権(ホワイトハウスと政府の省庁=税制の場合は財務省)は法律の原案を作成して議会に提案する。法案そのものは議会が作成する。議会では上下両院でそれぞれ審議して、法案を策定し、互いに調整して、法律化するという手続きを踏む。議会が法案を策定する作業には通常、半年はかかる。

 今回の場合、このプロセスは意見調整に手間取って、かなり遅れ、2017年11月にまず、下院で法案が策定され、ついで上院でも策定。そして年末ギリギリに上下両院の法案(両院で調整したいわば折衷案)が策定され、両院の合意を得て、法律として制定された。

 このような手続きを経て成立したトランプ政権の新しい税法の要点を以下に記そう。

   1.  法人税率を 21%に引き下げ。これまでは34%だった。
 2.  個人所得税:最高税率39.6%を37%に引き下げ。
   税率区分7段階を3段階へ。これによって税率の細かな差で支払わなければならなかった
   税を回避できる人々がいくらか増え、若干の減税効果が見込まれる。
   基礎控除の引き上げ。
 3.  資金還流のための税制。企業の海外留保金に一時的に重税を課し、資金還流を促進する。
   海外子会社からの配当への課税を廃止して配当による資金還流を促進する。
 4.   投資促進税制:例えば固定資産取得の即時償却など。

 このような措置により、減税規模は、10年間で約1.5兆ドルになると見込まれる。

 このトランプ税制に対しては以下のような批判が提起されている。

  1. これは大企業と金持ち優遇だ。法人税率をこれまでの34%から21%へ引き下げることはアメリカの歴史上もかつてない大幅減税になるが、その恩恵は企業所得の大きな大企業ほど大きい。同様に、所得の高い金持ちほど所得税率の引き下げの恩恵は大きい。所得税では税率区分を少なくして、細かい税率区分ので徴収されていた所得税をいくらか減らす工夫が中間所得層のためにこらされたが、その効果はわずかなものである。

 すなわち、トランプ税制は、大企業やトランプ氏のような大金持ちが得するものであって、多くの中間あるいは低所得層には恩恵はほとんどないということだ。留意すべきは、トランプに投票した人々は後者の階層であり、トランプ氏の経済政策は支持者に不利になる、いうなれば、Self Defeatingな効果を持つ可能性が高いということである。

 2. 減税は、それを賄う予算措置が必要である。減税で国家の財政収入そのものを減らすことはできないからだ。トランプ税制を賄う費用は2兆ドルにのぼるとされる。トランプ政権は、減税によって経済成長が刺激されるから、経済成長から得られる増収で、減税の費用は賄えると主張している。しかし、多くの専門家は、トランプ政権の成長予測は毎年1%ていどの過大推計になっていると指摘している。すなわち、トランプ税制が施行されると遠からず、アメリカの財政赤字は大きく膨らんでゆくということだ。

 3.  現在のアメリカ経済は絶好調を謳歌しており、労働市場は超完全雇用状態となっている。

  Fed(連銀)議長に新任したPowell氏は、このようないわば加熱状態のアメリカ経済なので適切に利上げを続けていく必要があると指摘している。そのような状態の経済では、本来は大減税は不要であり、むしろそれは成長を刺激するよりインフレを加速する可能性が高い。

  完全雇用状態のアメリカ経済をさらに加熱させるような大減税は通常の経済運営としては正当化されないということである。

 4. 元財務長官であり、ハーバード大学総長であったLawrence Summers氏は、トランプ税制改革はとても税制改革といえるような代物ではなく、単なる思いつき案であり、したがって多くの弊害が危惧されると警告している。
 
 トランプ氏は、この法案の議会通過は、トランプ政権の大勝利であると自賛し、その大減税がアメリカ経済をいかに活性化するか大いに喧伝するよう政府を鼓舞した。しかし、上記のような問題だらけの税制改定の欠陥と弊害は、私見では、それが実施されれば1〜2年で明白になるだろう。

  新税制は、大企業や金持ちを優遇するが、減税によって財源不足は拡大し、その財源は、結局、勤労大衆の負担増となる。そして、完全雇用時の大規模減税は、経済成長を促進するよりも、インフレを加速し、悪くすればインフレ下の不況(Stagflation)につながりかねないことが危惧される。


Ⅲ.   インフラ投資

 インフラ投資はトランプ政権の経済政策の目玉である。これはトランプ氏が選挙戦中から強調していたもので、選挙公約である。トランプ氏は、選挙戦中は、1兆ドルのインフラ投資と喧伝していたが、最近では、1.5兆ドルと増額しているようである。

 たしかに、アメリカ経済は基本的なインフラの多くが老朽化している。道路、港湾、電装網、発電設備等々、枚挙にいとまがない。老朽化しているインフラの補強や更新あるいは新設はたしかに必要である。

 トランプ氏の1兆ドルのインフラ投資公約に、株式市場は敏感に反応した。そのような投資が行われるとすれば建設、交通、通信産業などには莫大な注文が集中するであろうから当然、これらの産業を中心に、株価の高騰が予想される。市場関係者は、実際に株価の上昇が起きる前に大規模投資をして儲けるのが習い性になっているから、トランプ大統領就任前から株式市場は急騰を始めた。それはその後も続いて、2018年初頭でも株式市場はfeever状態になっている。

 株式市場が思惑で加熱している反面、この大規模インフラ投資についての具体案はまだほとんどない。投資の具体案と並んで、重要なことは、その大規模投資の財源についての具体策も2018年春の段階ではほとんど明らかになっていないどころか議論もないことである。1兆ドルの大規模投資の財源をどうするのか、借金なのか、それを連邦債で調達するのか?いずれにしても、それがアメリカの財政赤字の累積を増幅することは明らかである。それは最終的には誰が負担するのか。借金か、連邦債による次世代への事実上の課税か、それとも、中間層、勤労者層への税負担か。トランプ氏のインフラ投資構想も、結局、彼の支持者に負担を課す、”self defeating” か ”voter deceiving”の政策に帰結するおそれが大きいように思える。


Ⅳ.    貿易政策

 トランプ氏は選挙戦中から、アメリカの労働者の雇用機会は中国、日本やドイツのようなアメリカに大量に輸出している国々によって奪われており、雇用を取り戻すために、それらの輸出国に対して高い関税をかけると主張していた。

 トランプ氏の主張は、米国の貿易収支の対外赤字は相手国の不公正貿易によるものという思い込みにもとづいている。彼の認識では、これらの国々は為替レート低め誘導や非関税障壁などによる事実上の輸入制限によって、米国の貿易赤字を増幅しているというものだ。

 この認識は、すでに述べたように、基本的に誤まっている。2国間の貿易不均衡は、それぞれの国の国内貯蓄と投資のバランスによって決まってくる。例えば、米国では貯蓄が投資より少ないので、対外収支は赤字になる。逆に中国は貯蓄が投資より多いので、対外収支は黒字になる。これはマクロ経済の投資・貯蓄バランスと対外収支の定義式である。アメリカの貿易赤字を減らしたいのであれば、トランプ氏が本来やるべきことは、アメリカ国内の貯蓄を増大(消費を抑制?)して投資を増やし、生産性を高めて、輸出競争力を高めることだ。そうした経済構造の転換なくして貿易収支を変えることは困難である。

 トランプ氏がこのように主張して、関税引き上げなどによる貿易制限を示唆していたため、2017年には、それを見越して、輸入品に対する駆け込み需要がむしろ高まり、米国の貿易赤字は大きく増加した。そして、トランプ流の貿易制限が実現すれば、輸入価格は上昇するから、アメリカでは輸入インフレが加速し、それは結局、労働者の実質賃金を引き下げるという形で労働者の利益を損なう結果になることは十分に予想されることである。

 トランプ氏のこのような主張に対しては、当然、多くのエコノミストも、国際社会からも批判の声が高まり、また、アメリカ国内の産業界からもこうした考え方はアメリカの国内産業の生産性向上を妨げるものだ、との批判の声が上がった。

 しかし、トランプ氏は、突如、2018年3月1日、米国の鉄鋼とアルミニウムの輸入増加が、米国の安全保障上の脅威になっているという理由で、それらについて輸入制限を発動するとの方針を発表した。鉄鋼とアルミニウムは防衛に欠かせない産業なので、保護する必要があるという理屈であり、これは米国通称拡大法232条にもとづく措置であるという。鉄鋼については25%、アルミニウムについては10%という新たな関税を上乗せするという措置である。

 そして、3月8日、鉄鋼とアルミニウムの輸入を制限するという文書に署名し、その発動は3月23日とした。その際、メキシコとカナダは北米自由貿易協定の再交渉中なので、当面、その適用から除外するが、その他の国々は日本など同盟国も含め、適用するとした。

 最大の輸入制限対象国となる中国はこの措置に、強く反発し、中国国務院は、4月1日、米国産の豚肉やワインなど計128品目に最大25%の関税を上乗せすると発表し、4月2日から発動した。これにたいし、米国は、中国の知財産業などを標的にしたさらに大規模な制裁措置を準備していることを発表するなど、対立と対抗措置はエスカレートし、文字通り貿易戦争に発展しかねない様相となっている。これは重大なテーマなので、改めてブログの新しいエッセイで取り上げたいと思う。

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