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トランプ政権のアメリカ:(2)国際協力への無理解と阻害行為

国際協力体制への無知と無理解そして阻害と破壊

 今回のエッセイでは、前回の「トランプ新政権への懸念と実際」を受けてトランプ氏がいかに国際協力体制の意義と重要性について無理解であるだけでなく、そもそも無知であり、また国際協力への諸国の努力をいかに阻害あるいは破壊しようとしてきたかを事実を振り返りながら述べたいと思う。

1.  TPP離脱とTPPのその後の展開

 トランプ大統領は、選挙戦の頃から、TPPはひどい国際協定だと非難し、大統領に当選すると、ホワイトハウスの執務の第一日目に、アメリカはTPPから離脱すると公表した。そして実際、大統領としての執務初日に、大統領令で離脱を命令した。

 TPPは今日の世界で、おそらく最も先進的かつ総合的な国際自由貿易協定である。アメリカが離脱する前にTPPに参加した12か国のGDP総計に占めるアメリカの比重は約6割に達していたのでアメリカが離脱するとTPPは自然消滅するのではないか、との観測もあった。またベトナムなどいくつかの国々にとっては大きなアメリカ市場に関税なしで輸出できることが魅力だったので、アメリカが参加しないなら、自分たちも参加しないという意向を示したこともあった。

 しかし、やがてアメリカ抜きでもここまで精緻に皆で協議してきた画期的自由貿易協定を消滅させるのは長期的には世界にとって大きな損失だとの見方で多くの国々も賛同し、特に残った11ヵ国中最大の市場を持つ日本が主導して交渉が進められた。そして2017.11.9にベトナムのダナンで”TPP11についての大筋合意”が達成され、2018年3月8日午後、チリのサンティアゴには11ヵ国で署名が行われた。

 トランプ大統領は、2018年1月末、スイスのダボスで開催されたダボス会議に初めて出席し、TPPについては、その内容が、アメリカにとってもっと有利になるよう改定されるなら、TPPに復帰しても良いと述べた。その真意は今のところまだ判然としないが、TPP11の参加各国はアメリカのために内容を変更することには慎重な態度をとっている。

 
2.   フリーライダー非難と無知

 トランプ氏は大統領選の最中に、たびたびアメリカの防衛戦略の同盟国に対して暴言とも言える非難を繰り返していた。それは、日本、韓国、ドイツなどはアメリカに防衛をおんぶするだけで本来負担すべき費用を払っていない。彼らはフリーライダー(ただ乗り)だ。日本について、もし適切な負担をしないなら、アメリカは日本から米軍を引き上げても良い。そしてさらに、アメリカの核の傘がなくなる日本が自国を守るために核武装が必要と考えるならそうすればよい、とまで言及した。

 トランプ氏はこうした発言にどこまで本気なのか、どこまで責任を取るのか、を私は危惧した。もしこれが本当なら日本は、日米安保条約に調印した1952年以来の安全保障戦略を根本から見直さなくてはならないからだ。トランプ政権に関する前回のエッセイで、私は島田塾の事業家の方々と2017年4月にトランプ政権調査のためにアメリカを訪問したことに触れたが、そうした調査訪問を企画したのは、このような点の真偽を知るためでもあった。

 この問題は、その後、James Mattis国防長官の日本訪問で、少なくとも表面的には氷解したと思う。私は島田村塾という若手事業家の勉強塾を主宰しており、そこでは2年間のプログラムの中で一度は必ず沖縄に、日本の戦争の歴史と安全保障の問題を考えるために訪問 することにしている。その際、米軍の協力が得られる限り、アメリカが国外に保有する最大 の空軍基地とされる嘉手納空軍基地を訪ねることにしている。

 嘉手納基地は旧嘉手納町の町域の8割以上を占有し、隣接する2つの町にまたがる広大な基地である。この広大な基地については日米安保条約に基づき、インフラや施設そして基地運営のための多くの人権費など、およそ米軍人の給与と戦闘機の費用など以外はほとんど負担している。日本の米軍駐留経費の負担は、全体で、74.5%に達している。もしこれ以上の負担をするとなれば、米軍士官・兵士の給与や戦闘機の費用まで負担することになる。それでは米軍はアメリカ合衆国の軍隊ではなく、日本の傭兵集団になるだろう。実際、同盟国の韓国は40.0%、ドイツは32.6%の負担という。要するに、トランプ氏はこうした事実を全く知らずに暴言を吐きつづけていたと思われる。

 Mattis国防長官は、2017年2月初頭に来日し、安倍首相、稲田防衛大臣と階段をしたが、会談後の2月4日の記者会見で、「日米安保は他国の見本」と称賛した。Mattis氏は、任命直後、アメリカでは”Mad Dog(狂犬)”の異名をとる人物と日本ではもっぱら伝えられた。

 それは、海兵隊の将軍としてアラブ各地での戦闘を指揮し、「ゲリラを撃ち殺すのは気持ちが良い」と言ったとされることなどからそうした評判になったもののようだが、Mattis氏を良く知る人々の間では、米軍きっての読書家であり、敬虔で冷静、沈着な名将と評価されている。彼はトランプ氏の暴言が問題を起こさないうちに早期に同盟国を訪ねて問題の沈静化をはかったのだろう。そのニュースがトランプ氏の耳に入ることをMattis氏はおそらく期待しただろうが、TVとSNSしか見ないトランプ氏がそれを知ったかどうかは不明である。

 3.   イスラム入国制限とその後

 トランプ氏は執務開始直後、矢継ぎ早に大統領令を打ち出した。それは選挙期間中に数々の暴言ともいえる発言(大統領になればそれらは撤回しない限り、公約と受け取られる)を繰り返したが、それを真に受けて投票した支持者に対するパフォーマンスでもあったと思われる。TPP離脱に次ぐ、早い段階に、彼は、イスラム教徒の入国を禁止する大統領令に署名した。

 トランプ氏によれば、アメリカ大統領は自国民の安全を守る使命がある。近年多発しているテロ事件にはイスラム教徒が多く関わっているので、国民の安全を守るためにイスラム教徒の入国を禁止するという命令である。この大統領令で入国が禁止されたのは多くのイスラム教国のうちたったの7ヵ国であった。それらの国々はトランプ氏が経営するホテルやゴルフ場がないことが共通項であることが後で判明した。トランプ氏の公私混同は目に余るものがあるが、これもその例だろう。なお、イスラム教徒入国禁止という極端な大統領令を背後で推進したのが、トランプ氏の選挙戦で最も影響力があったという外国人排斥主義のSteve Bannon氏であったと言われる。

 この大統領令は、あからさまな人種差別であり、人種差別を無くそうと努力してきたこれまでのがアメリカ合衆国の歴史的方向性に逆行し、法的にも問題が多い。そうした違法性に着目して、直後から、ワシントン州や、サンフランシスコ市の連邦地裁が、2017年2月中に、この不当な入国禁止令にたいして、差し止め命令を発した。差し止め命令が有効な間、入国禁止は実行できないことになる。また、この極端な差し止め命令に対して多くのハイテク企業が批判の声をあげた。なぜなら、アメリカはこれまで世界から多くの多様な人々と才能を集めて、産業発展を実現してきたのであり、ハイテク企業は今やアジアや東欧、イスラムなど多くの民族の才能と努力で成り立っているからである。

 トランプ大統領は裁判所の差し止めに対し、大統領令を修正して抵抗した。そして2017年6月26日に、連邦最高裁が大統領の修正入国禁止令につき、条件付きで発効を容認する決定を行った。それは家族への合流、留学手続きが完了している入学者などは除外するということで、入国禁止の範囲をやや狭めた決定である。トランプ氏はこの決定を”偉大な勝利”と自賛している。

 4.   地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」離脱 

 
 トランプ大統領は 2017.6.1、ホワイトハウスで声明を発表し、地球温暖化対策の国際枠組みであるいわゆる「パリ協定」は「非常に不公であり米国に不利益。他国の利益を優先するもの」として激しく非難し、この協定から離脱すると宣言した。

 これはトランプ氏の選挙戦中の公約でもあり、それを実現したということだが、パリ協定は195ヶ国が署名するこれまでにない大きな広がりを持った協定であり、世界最大の産業力を持ち、しかも最大のCO2排出国である米国の離脱はこの国際協力の目的を実現するためには大きな打撃となるトランプ氏の離脱宣言の具体的理由はアメリカ国内の石炭産業支援にあると言わる。

 すなわち石炭産業に従事する労働者の雇用を守るというのがトランプ氏の選挙公約だが、アメリカの石炭産業は衰退産業でもあり、また自動化で雇用量は極めて少ない。

 石炭産業の雇用を守る効果より、地球温室効果を防ぐための様々な技術革新や新産業の発展がもたらす雇用機会を失うことのマイナスの効果がはるかに大きいことは多くの専門家や研究機関が明らかにしており、トランプ氏のこの決定は極めて非合理的である。当然のことながら、多くのハイテク企業はトランプ氏の決定に強く反発している。なぜならパリ協定から離脱することで、アメリカは地球環境保護のための国際的なルール設定から疎外されるので、環境技術の開発に大きな遅れをとるからである。

 
 また進んだ技術を持ち、しかも世界最大の温室ガス排出国であるアメリカの離脱は国際協力を阻害するものとして国際社会は厳しく批判している。どう見ても正当化の困難はパリ協定離脱の意思決定は、国際協定推進にオバマ大統領が熱心であったことからオバマ氏への”意趣返し”が、トランプ氏の真の動機かもしれない。

 5.    NATOでの無知とG7、G20での態度とメルケル首相

 2017年5月、NATOの首脳会議に出席したトランプ氏は意外にもNATOの役割を評価する発言をした。その理由として9.11.テロの際、NATOが集団自衛権条項発動してテロリストの戦いに協力したことなどを挙げた。トランプ氏は大統領選挙戦中NATOは時代遅れで何の役にもたっていないとの批判を繰り返していたので、意外感をもって、受け止められた。

 ちなみにトランプ氏は見方を変えたのか、と聞かれ、「私はゴルフ場の経営だけをやってきたので、NATOなど知らなかった。勉強してそれが役にたっていることが判った」と答えたと伝えられているが、もしそうなら彼は大統領になるべきではなかった。

 それほど無知な人が世界最大国の大統領になることは世界にとって甚だしい迷惑でありトラブルの因となる。大統領選終盤のTV討論で、Hillary Clinton候補がトランプ氏を指差して”You are unqualified”と繰り返し批判していたことに同感である。

 
 NATOの会議では、トランプ氏は欧州のNATO加盟国が国防費のGDP比2%の負担をするよう強く要請した。その一方で、ブラッセルのNATO本部にある「米欧相互防衛の誓い(pledge)」には敬意を表さなかった。これは歴代米国大統領としては初めてのことであり、それが単に冷戦時代の欧米の対ソ協力としてNATOが設立されたことなどを単に無知で知らなかったのかどうか、何れにしても欧州首脳はトランプ氏の態度にいたく失望したという。

 2017.5.28、メルケル首相はミュンヘンのビアホールで解されたCDUの友党であるCSUの大会で、 “The times we can fully count on others are somewhat over・・” と発言して世界から注目された。これは言外に欧州はもうトランプのアメリカには期待できない、と述べており、バランス感覚が売り物のメルケル氏のこの控え目な発言のニュースは世界を駆け巡った。

 メルケル氏はその前にトランプ氏をホワイトハウスに訪ねた時には握手をトランプ氏に拒否されており、もともとトランプ氏には好感はもっていなかったと思われるがこの時のNATOの会議での彼の傍若無人さに呆れ、無知に失望したのではないか。またその後、イタリーでのG7とドイツでは7月にHumburugでのG20が開催されたが、トランプ氏はいずれでも首脳の間に嫌悪感を持たれたように思われる。

 6.   イラン核協定破棄問題。

 2017年10月上旬:トランプ氏はイランが核合意を順守していないと声高に非難した。イランの核合意とは、2015年に結ばれたイランと米欧6ヶ国の合意の核開発の自制をめぐる合意ある。それはイランが今後10年間、核開発をしないと約束するなら、それまで30年間続いた経済制裁を解除する、というもので、オバマ大統領の平和外交の象徴的成果とされるものである。

 トランプ氏はそのイランがテロ組織の支援をしており、合意を順守していないと 難癖をつけ、この合意を破棄しても良いと脅しをかけた。合意の結果、アメリカは これまでの経済制裁を解除し、イランは国際社会に復帰し、世界の多くの国々や企業がこれを機会に、イランとの経済交流を深めようとしてきた矢先である。

 トランプ氏の難癖に対して、イランは猛反発し、アメリカとイランの対立が再燃しかけている。この間までは対立は激化する可能性があり、イランはアメリカがそうした主張を続けるなら戦争も辞さないと反発している。この不穏な動きはそれでなくとも摩擦の多いこの地域にさらに地政学的な紛争のリスクを増幅することになりかねない。

 2017.10.14. トランプ氏は議会に「イラン包括法を提出した。トランプ包括法案では、違反の場合の罰則などオバマ条件と変わらない。ただ、経済制裁を再開するかどうかの判断権能を議会に付与したことは今後、国際社会に混乱を招く恐れがある。

 いずれにせよ、米欧6ヵ国が正式の手続きを踏んで慎重に判断して決めた合意をトランプ氏の一存で反故にするようなアメリカにたいしては、今後、国際信用が大きく損なわれる可能性がある。

 7.    中国対応、4月フロリダ会談、11月北京会談、習首席の勝ち?

 2017年4月、トランプ氏は中国の習近平首席をフロリダの自称別荘「冬のホワイトハウス」Ma la lago(これは実は会員制のクラブで、トランプ氏の別荘ではない。トランプ氏がそこに要人を招いて首脳会談をするので、特別警戒など、Ma la lago側 は大いに迷惑しているとも伝えれる)に招いた会談をした。

 この首脳会談で、トランプ氏は中国に、北朝鮮への圧力を強化し、核やミサイル の開発を制御するよう要請した。その際、夕食会でデザートが配られた頃、トランプ氏は習近平氏に、シリアの政府軍基地に対してミサイル攻撃をした、と突然、通告した。これは「武力の行使も辞さない」という意志を見せつけるトランプ流の示威力外交で、この行動にたいしてはその後、アメリカ世論の受けも良い。トランプ氏の報告を聞いて習近平氏は賛意を示したと発表されているが事実は定かではない。

 トランプ氏は中国が北朝鮮を制御してくれるなら、それへの見返りとして、これまで中国を罵ってきた、通貨操作国、不当貿易国などの非難は取り下げるとした。

 会談後、トランプ氏は、「こちらを手伝おうという国を批判することはない。これが私流のDeal(取引)だ」と胸を張ったという。

 中国側もトランプ氏にたいしてお土産を持ってきていた。それは米中の貿易促進のための「100日計画」と喧伝されたが、アメリカはそれを貿易赤字削減策と理解し、一方、中国側は経済交流促進策と理解するという具合に、明らかに同床異夢だった。

 その後、トランプ氏は、中国は北朝鮮に対する制裁、制御に積極的でないとして、貿易慣行への批判を再開している。

 2017年11月、両首脳は北京で再び直接の首脳会談を行った。これはトランプ氏にアジア歴訪の旅の一環として行われたものである。トランプ氏は中国にたいして北朝鮮へのさらなる圧力の強化を要請したが、中国はその場では確約しなかった。習氏はトランプ氏を明と清の王朝の皇帝が住んだ故宮でもてなした。これは破格の待遇だったが、国内では、10月の共産党大会で国家主席第二期就任を圧倒的多数の指示できめ、一強体制を確立した習近平氏には何に批判はなかった。

 トランプ氏は、米中関係は最重要であると強調し、直接、貿易観光の批判を避けた。それだけでなく米中の貿易不均衡は前任者オバマのせいだ、としてあらぬ方向に矛先を向けた。中国は2500億ドル(28兆円)にのぼる商談の締結を提案したが、これは民間ベースのことであり、どれだけ進むかはこれからの展開にかかるだろう。11月の第二次米中首脳会談は終始、第二期政権体制を確立して自信に満ちた習近平氏のペースで習近平氏の優勢勝ちだった。

 8.   貿易収支と不当貿易の主張、America First空回り、しかしAPECなど妨害

 トランプ氏は、アジア諸国歴訪中も、またその一環としてAPECの会議に臨んだ時もアメリカとアジア諸国の貿易不均衡の原因がアジアの対米貿易国の不当貿易と主張し、中国、日本、そして他のアジア諸国を非難した。

 トランプ氏のこの批判は、重商主義者の批判とも言えるが、彼が市場経済の原理を全く理解していないことを反映している。貿易不均衡は基本的に当該国の投資と貯蓄のバランスの問題に帰着する。アメリカのように国内貯蓄が投資を下回っている国は、貿易赤字になり、逆に中国のように貯蓄が投資を上回っている国は貿易黒字になる。投資・貯蓄バランスと対外貿易収支の関係は、マクロ経済の”定義式”であって、貿易慣行とは基本的に無関係である。トランプ氏はペンシルバニア大学を出ているというが経済理論に全く無知のように思える。

 したがって、彼がAmerica Firstを主張して、具体的には、関税、国境税、企業立地への介入によってアメリカの貿易赤字を減らそうとしているがそれは空回りするほかはない。もし彼が正しくその目標を実現したいのなら、アメリカ国民に消費を抑制して貯蓄を増やし、あらゆる手段で労働生産性を高める努力と鼓舞するべ気だろう。

 11月のアジア歴訪は、訪問国でも、APEC会議でも不当貿易非難を繰り返し、企業立地に介入するなど、効率的に構築されたSupply chainの展開を妨げて、国際経済システムの円滑かつ効率的な運行をいたずらに阻害する破壊的結果につながるだけだった。

 9.   メキシコの壁、NAFTA再交渉、WTO問題

 トランプ大統領は選挙戦中から、メキシコからの不法移民の侵入を遮断するためにメキシコとの国境に高い壁を構築する。その費用はメキシコ側に払わせると主張していた。 

 
 大統領になってすぐ、トランプ氏はメキシコ側に壁の費用負担を要請した。これに対してメキシコ大統領は強く反発し、トランプ氏のワシントンDCへ来て話し合わないか、との呼びかけを拒否した。メキシコが対応しないので、結局、壁は米国の費用で建設することになった。

 トランプ政権は2017FY後期予算にそのために15億ドル分を載せるよう議会に要請した。しかし、財政の壁で政府閉鎖を避けるため、共和党が反対し、これは実現していない。

 10.  NAFTA再交渉

 NAFTA(北米自由貿易協定)の抜本的な見直しもトランプ氏の選挙公約だった。その趣旨は、NAFTAのおかげで隣国のメキシコやカナダで生産された産品がアメリカ市場に低いあるいは非関税で流入してくるので、アメリカ国内の雇用機会が奪われるので、条件を見直し、安い産品がアメリカに容易に流入できないようにしたい、ということである。

 この交渉を担当するのはUSTR(US通商代表部)だが、その代表としてトランプ 氏が選んだ、Lighthauser氏の承認手続きが遅れ、2017.8.になって通商交渉はようやく始動した。トランプ政権では、アメリカ第一主義の旗印の下、NAFTA域内国との貿易赤字の削減を明記するよう迫った。これに対し、カナダとメキシコは貿易赤字の削減明記に反発している。

 一方、アメリカ国内の産業界は原産地規制強化に反対している。アメリカ産業は メキシコやカナダから安価に部品などを調達できるメリットが失われるとしてトランプ流のNAFTA見直しには反対している。トランプ氏は交渉がうまく行かないならNAFTAからの脱退も有り得るとしている。トランプ氏のNAFTA見直しについては、このように内外の批判が高まっており、トランプ流の強硬姿勢を貫けるか、その可能性は高くないだろう。

 
 11.   WTO批判

 トランプ氏はWTOは不公正で機能していないと批判している。2017年春にWTOに提出された意見書の冒頭には「アメリカは他国が決めたルールに従う意図も義務 もない・・」と通商に関してルールに基づく国際協力を全面否定するような文言が 書き込まれていることをFinancial Timesが報道したことがあった。この原案はトランプ氏に極端なNationalismを焚きつけてきたSteve Bannon氏が書いたと伝えられる。

  WTOはそもそもアメリカ政府が戦後の通商に関するルールづくりが不充分だ、としてクリントン政権時代にアメリカ政府が主導して実現した経緯がある。なぜ戦後の通商に関する国際ルールづくりが不充分だったのか。それは第二次大戦後、戦後体制構築のために金融や通商などで世界経済を管轄する国際機関づくりに必要が叫ばれ、金融ではIMP, 貿易ではITO(International Trade Organization)などの組織が策定されたことがあった。

 これはアメリカ主導の構想だったが、アメリカ議会がITO設立を承認しなかった ために、暫定的なGATT(General Agreement ofTrade and Tariff)という組織でその後、半世紀をやりこなしてきた。クリントン時代に初心に還っって本格的な通商管轄の世界機関を作ろうということでWTOが設立れたという経緯がある。

 それをアメリカの大統領であるトランプ氏が壊そうというのである。2017年末に至り、アメリカはWTOの基幹委員会に任命しているアメリカの委員を選任しないとし、WTOの組織運営妨害の挙に出た。2017.12.13、WTO閣僚会議ではアメリカの反対で6年ぶりに宣言が採択できなかった。トランプ政権のこのような横暴を抑制できなければ、WTOそのものが機能不全になり、崩壊の恐れもあるという指摘もある。

 12.   イェルサレムをイスラエル首都に認定

 トランプ氏は2017年末、イェルサレムを、アメリカはイスラエルの首都と認定すると発表して国際的な物議を醸し、イスラエル周辺のアラブ諸国などで激しい反対運動が起きている。

 イェルサレム=首都宣言も、トランプ氏の選挙公約である。トランプ氏の宣言は、実はかつてアメリカで策定された法律に基づいている。その法律は議会で多数を得て成立したものだが、それ以降、歴代の大統領はこの問題の国際的な難しさを考慮して法律があっても、その法律に基づいて、例えば、アメリカ大使館を今のテルアビブからイェルサレムに移すなどの行動は慎重に避けてきた。

 イェルサレムは周知のようにユダヤ教の聖地であると同時に、キリスト教、イスラム教の聖地でもあり、過去、数千年の間にその支配権は戦いを経て幾度も変更されてきた。そのイェルサレムに対してトランプ氏がイスラエルの首都宣言をすることは、いたずらに、残り火に不要な油をそそぐようなもので、百害あって一利なしの行為である。トランプ氏はユダヤ人脈と深いつながりがあり、最愛の娘イヴァンカの婿クシュナーはユダヤ人である。彼の判断がまた公私混同なのかどうか、いずれにしても理解に苦しむ暴挙というほかはない。

  以上、トランプ氏の国際問題への対応を、事実を追って述べてきた。彼の一連の発言や行動は、彼が国際問題についていかに無知であるか、また、国際協力の意義や重要性をいかに理解していないか、そして、彼の行動が、意図的かどうかはともかく、結果的に世界に無用な混乱をもたらし、世界の繁栄と平和に害をもたらしているかが、以上を振り返ると明白だろう。

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