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北朝鮮と核ミサイル問題

l.   はじめに

 現在(2018年4月初旬)、世界の最大の懸念でありまた関心事は北朝鮮の核とミサイル開発問題だろう。北朝鮮はこの数年、核と長距離弾道ミサイルの開発を加速してきたが、それはアメリカ全土を核ミサイルで攻撃できる能力をほぼ入手できる段階に達してきたと考えられる。

 アメリカはそれは絶対に許容しない、ということで、国際社会に働きかけて北朝鮮に対する経済制裁を強化し、また必要であれば武力行使も辞さないという強硬な態度を取り続けてきた。日本はアメリカの同盟国として忠実に経済制裁路線にしたがっている。

 ところが、2018冬季(平昌ピョンチャン)オリンピックを契機に、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領の呼びかけに、北朝鮮側が応じて、オリンピックに選手団と応援団を参加させることになり、その交渉のために板門店での交渉、そして韓国入りした北朝鮮の高官使節団への答礼として北朝鮮を訪れた文大統領の特使に、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)委員長自身が応対するという厚遇の中で、金委員長は、「トランプ大統領と会う用意がある」「非核化について検討しても良い」という驚くべき言質を与えたとされる。

 文大統領の特使達は間をおかずにホワイトハウスにトランプ大統領を訪ね、北朝鮮の金委員長との会見の報告をすると、トランプ氏は二つ返事で、「私が金委員長と会おう」と発言。この歴史的会見は5月末までに実現する、とされた。それを受けて、北朝鮮側は、ピョンチャン・オリンピックを利用しての”微笑外交”に引き続き、中国をはじめ、欧州各国と積極的な接触を展開している。特に、中国に対しては、金委員長が突然、列車で北京入りし、習近平首席に面会したことが事後、報道され世界を驚かせた。こうした一連の動きの中で北朝鮮の核ミサイル開発を巡って、いつ戦争になってもおかしくないという緊張感が急速にほぐれ、対話による解決への期待感が世界的に高まっている。

 対話による解決とは、非核化とはいえ、それだけの核ミサイル能力を確保した北朝鮮を事実上の核保有国として認めることになると思われる。それはアメリカ、中国、ロシア、欧州主要国のように既に核保有国となっている国々にとっては、それほどの衝撃ではないが、アメリカの核の傘を命綱としてこれまで60年以上にわたって平和と経済的繁栄を享受してきた日本にとっては、大げさに言えば、地盤が崩壊するほどの大きな影響をジワジワと受けざるを得ないだろう。

 北朝鮮の核とミサイル開発の問題は、世界平和にとって大きな脅威であるという同時に、特に日本にとっては国家の基本戦略を見直さなくてはならないほどの大きな負の影響をもたらすという意味で、極めて深刻な問題である。今回から数回にわたり、私は北朝鮮の核とミサイル開発問題の事実、意味、そしてその世界と日本に対する衝撃もしくは影響について考えてみたい。そしてそうした新しい歴史の段階で日本のとるべき方向について私見を述べたいと思う。

ll.    北朝鮮の核・ミサイル問題の深刻さ

 1. 核と弾道ミサイル開発に盲進する北朝鮮

    2017.11.29、北朝鮮は最新の火星15型弾道ミサイルの発射実験を敢行した。
   それはロフテッド軌道(真上に打ち上げ)で宇宙4800kmの高度に達した模様。
   日本海側では火の玉の落下が目撃されたとの証言もあった。大気圏突入の際、数千度
   で燃え尽きたと推定される。 

    韓国国防省の推定では、これは通常軌道だと1万3000kmほどは飛べる能力という。
   そうであるとすればその意味は重大だ。その飛距離は米国東海岸全域を射程内に収める
   ことになるからだ。この実験の直後、金正恩氏は「我々は核戦力を完成した」と宣言し 
   た。ただ、専門家筋は、この能力が実戦配備されるにはまだ少なくとも以下の3条件が
   満たされる必要があるとする。

    それは(1)弾頭の大気圏再突入を円滑に実現する技術、(2)精密誘導技術、3.
   弾頭が狙った通り爆発するか、という技術である。これらの意味で、実戦配備の技術
   や体制、また搭載核弾頭はまだ完成していないと見られる。これらの条件を満たすに
   は、 早ければ半年、遅ければ数年と専門家の見解にも幅があるが、それは結局、時間
   の問題と考えられる。

  2.  核保有国をめざす北朝鮮

    北朝鮮は真剣に核保有国をめざしている。核保有国とは仮想敵国から抑止されない
   核武力を持った国である。アメリカ東海岸に届く核弾頭つき長距離弾道ミサイルの保有
   は、一撃でアメリカの政治経済の心臓部に深手を負わせる能力であり、その能力を持た
   れてしまうとアメリカも簡単に抑止できなくなる。

  3.   北朝鮮の核保有国化と米、日への衝撃

    北朝鮮が核保有国化すると、アメリカは攻撃を抑制せざるを得ない。日本はアメリカ
   の核の傘を抑止力とする日米防衛体制の下で平和を享受してきたので、アメリカが北朝
   鮮の脅威に対して抑止力を使用しにくくなると日本の安全保障体制は根底から形骸化す
   る恐れが大きい。アメリカの核の傘のない日米安保は言うなれば”張り子の虎”だ。その
   影響は軍事だけでなく通商でも領土問題でも交渉力の低下は不可避。アメリカの抑止力
   の効かない場合の防衛戦略をどう構築するか、これからの日本が直面する最大の課題に
   なる。
 
    また、文在寅(ムンジェイン)韓国大統領は半日の確信犯であり、逆に北朝鮮に対し  
   ては融和を唱えて土下座外交も辞さない。今回の五輪外交は北の宣伝戦に極めて効果的
   に利用された。北朝鮮はオリンピックに平和の”楽団”を派遣して平和ムードを盛り上げ  
   た。そうした空気と国際社会衆目の中で米韓軍事演習はしにくい。事実、軍事演習は
   オリンピック後しばらく経って開始されたが、規模は通例よりはるかに小規模となっ
   た。北朝鮮の外交戦略の巧みさが光る。北は「非核化を検討する意思がある」とする
   が、これまでにも何回も交渉相手を騙してきた実績があり、現時点では、米朝トップ
   会談がどのような結果になるか予測はつきにくい。
     
  4)世界核拡散の危険 
    北朝鮮が核保有国になると、イラン、サウジなどの紛争国やテロ集団など多くが
   北朝鮮の跡を追って核武装を求める可能性がある。今、北朝鮮の核保有国化を阻止しな
   いと、世界の崩壊に繋がる核拡散は防ぎようがなくなる可能性がある。この段階に達し
   た北朝鮮問題の核とミサイルの脅威は、世界そして人類的な規模の大問題と言わざる
   を得ない。   
  

lll.    北朝鮮の弾道ミサイルと核開発の経緯

 1.   開発の経緯

  (1)核開発
    北朝鮮の創立者、初代労働党委員長の金日成の時代に、核ミサイル開発を構想したが
   国力がなく、夢物語だった。当時、友好国だったソ連、中国から技術面の支援が得られな
   かったのも困難の原因。1985年、北朝鮮はNPT(核不拡散条約)に加盟させられ、IAEA(国
   際原子力機関)の監視下に置かれた。
    
    しかし、冷戦終結(1980年代末)で、事態は大きく変化した。ソ連が崩壊し、同国の核
   ミサイル技術のノウハウが技術者と共に流出した。ちなみに核兵器の多くはソ連邦の一部
  (民族共和国)だったウクライナにかなり集中していたし、技術者も多かった。パキスタン、
   イラン、北朝鮮などは、これらの技術者の協力で核開発が可能になった面が大きい。新し
   い技術人材や資源を得て核開発に着手した北は1993年3月、NPTを脱退した。

  (2)弾道ミサイル開発
    過去20年ほどの間に、下記のミサイルが開発された。
   スカッド(短距離弾道)最大射程 300〜1000km
   ノドン(準中距離弾道)同1300km:日本全域
   テポドン1型(1500km):日本全域
   ムスダン(中距離弾道)2500〜4000km →グアム
   テポドン2型(大陸間弾道)6000km、テポドンの派生型は1万km以上の飛距離をもち、
   主に人工衛星打ち上げなどに利用された。ただし、2017.4頃までは成功率は極めて低
   かった。例えば、ムスダン2016.4 以降、8発中7発失敗している。これらは旧ソ連の技術
   を使って、北朝鮮で実用化を図ったものである。

  (3) 2017.5.からの様相変化
    ところが、2017年5月頃からミサイル開発の様相が大きく変化した。技術レベルが
   飛躍的に高まったのである。その経緯を振り返ると、開発は以下のように加速度的に
   進んだことがわかる。
   ・スカッド後継。5.29発射。海上艦船狙える。精密操縦誘導システム。誤差7m?
   ・北極星1型。潜水艦から発射。SLBM: submarine launched ballistic missile
   ・北極星2型。2.21、5.12.発射。北極星1型を地上型に改良。固体燃料、移動自由
     発射位置特定しにくく、攻撃されにくい。実用性は高い。
   ・火星12型(グァムを射程)、ムスダンの後継、ロフテッド軌道で、5.14発射。
     なお、8.19、9.15にも発射。ロフテッド軌道。日本上空通過、襟裳岬沖。
   ・火星14型(ICBM) 7.4,  7.28発射。アメリカ本土ほぼ全域射程内に。
   ・火星15型(ICBM) 最大飛距離13000km。東海岸含むアメリカ本土全部。

  (4) 大気圏への再突入問題
    このように飛距離は飛躍的に伸びたが、これらのミサイルを実用化する、すなわち
   実戦配備するにはまだいくつかの課題が残されている。

    2016.6.からロフテッド軌道で発射実験を6回行っている。それはムスダン1回、北極星
   2型が2回、火星12型が1回、そして火星14型が2回である。これらの発射はデータ収集が
   主たる目的であったと考えれる。ロフテッド軌道での発射を繰り返して行い、データを収
   集して搭載する核弾頭の実用化にメドをつけようということと思われる。
 
    ロフテッド軌道は真上に打ち上げて、真下に落下する軌道だが、大陸間のような長距離
   弾ミサイルの場合、大気圏に再突入する際の通常軌道の射角は10度くらいとされる。この
   入射角度でのデータはまだおそらく未入手だろう。もし大陸間長距離弾道ミサイルでその
   実験をするとすると、ミサイルはアメリカ大陸の周辺に打ち込まなくてはならない。それ
   はアメリカはじめ国際社会の激しい反発を引き起こすので、その規模の実験でデータを
   収集することは容易ではない。データとは、例えば、摩擦温度、振動、加速度、軌道の
   ブレと命中精度への影響などである。
  
 (5)搭載核弾頭
    北朝鮮の発表では、2017.9.3.に水爆実験は成功したという。それは火星14型に搭載
   する核弾頭を入手したということかもしれない。しかしそれを搭載するミサイルは現段階
   ではまだ未完成ではないか、と推測される。

  (6)長距離ミサイルの誘導システム   
     現在のICBMでは、計画軌道と打ち上げ後の位置の誤差を修正するのに、おそらく北
    朝鮮が利用していると思われる、ミサイルそのものに搭載される慣性航法装置とGPS
    だけでは不十分である。これはピッチャーが直球を投げるようなもので、何千キロ
    という長距離の行き着く先での誤差がかなり大きくなる、すなわち目標に打ち込めない
    リスクが大きいということである。

     アメリカでは、ミサイルの発射後、星の位置を測定して弾道ミサイルの軌道修正に利用
    する技術が確立している。例えば、ミニッツマンのような12000km級の大陸間弾道ミサ
    イルで、着弾地点での誤差は経ったの80mに抑えられるという。もっとも、北朝鮮は
    米軍のようなピンポイント攻撃は殻なずしも必要ない。北朝鮮のICBMはアメリカ軍の
    ようにミサイルサイロのような小さな目標でなく、大都市狙いなので80mもの精度は
    不要だが、誘導システムは不可欠だろう。また、核弾頭の小型化も必要だ。北朝鮮は
    彼らの戦略目標に合わせて、種を絞って開発を集中化する方向に注力しているのでは
    ないかと推察される。

lV.  北朝鮮はなぜ弾道ミサイルと核の開発に執着するのか

  1.  朝鮮戦争は終わっていない

     第二次大戦後73年がすぎ、朝鮮戦争勃発から58年が経過しているが、朝鮮
    戦争は現実にはまだ終わっていない。朝鮮半島では1953に南北朝鮮間で休戦協定が
    結ばれたが、未だ、38度線の休戦ラインを境に南北は軍事的に対峙しており現在でも
    休戦中の状態にある。

     北朝鮮は通常戦力は量は大きいが装備も古くて弱体。その中で長距離砲兵部隊と
    スパイなど特殊部隊とサイバー部隊は突出している。北朝鮮はこれまで25年にわたり
    核とミサイルに偏った軍備を進めてきたので軍備の実態は以上のように極めて偏って
    いる。北朝鮮は正規軍120万人と準軍隊20万人を擁している。それは全人口2500万人
    のうち、18人に1人が軍役についていることになる。ちなみに徴兵制を敷く韓国が、
    国民約75人に一人の比重。北朝鮮の人的資源は伸びきっていると言える。

     その現実の中で、国家体制存続の保証を取り付けるためアメリカに核ミサイル保有に
    よる核武力を認知させることが唯一の体制保障になるとの戦略に固執している。
  
  2.   冷戦後に孤立した北朝鮮

     北朝鮮は、ソ連も中国も、アメリカのように駐留軍を置いて守ってくれてはいない
    したがって、北朝鮮は自力で自国防衛をしなくてはならない。その意味でも戦争状態
    が続いていると言える。

     中国は、朝鮮戦争の際、人民解放軍の義勇兵(実際には中国軍)を大量に送り込み
    北朝鮮を助けた。この共闘は”血の同盟”と言われた。ソ連は、最新鋭のジェット戦闘
    機部隊を戦略的に派遣し、北朝鮮と中国の同盟軍を支援した。中ソの参加と支援が
    あって朝鮮戦争は初めて休戦に持ち込むことができた。これがなければ、圧倒的
    な米軍の戦力の前に金日成指揮下の北朝鮮は国家として崩壊していたはず。

     そのソ連が、まずゴルバチョフ時代、北朝鮮を見限って韓国に接近し、1990年に
    国交回復をした。1992年には韓国ロシア基本関係条約が締結された。中国も1992年
    に韓国と国交を樹立。1998年には中韓協力パートナーシップ、2008年には戦略的
    パートナーシップを締結し、互いの経済交流を深めている。こうした動きは北朝鮮か
    ら見れば裏切りの驚愕と見えたはず。そうした中で北朝鮮は事実上、国際的に孤立化
    した。これは例えば、アメリカが日本を飛び越して北朝鮮と国交回復した状況を想像
    すれば、北朝鮮にとっての深刻さが理解できるだろう。

     かつて、私が長女と一緒に、1990年スイスのダボス会議に参加した際、参加
    各国も行っているような北朝鮮のディナーミーティングに出席したことがあった。
    外国人の参加はわずかで、日本人は私達と読売新聞の記者が一人だけだった。参加者
    は皆、胸に金日成の徽章をつけており、彼らが口を揃えてソ連を厳しく非難してい
    たのが印象的だった。ソ連からは何も援助ないし、むしろ北朝鮮を妨害していると
    行った不満を述べていた。これはソ連が韓国と国交回復した頃の率直な感情だったの
    だろう。ちなみに私は帰国後、京都の公安係官から何度も訪問質問を受けたことが
    記憶に残っている。

V.    北朝鮮を誤解させたアメリカの対北戦略

              北朝鮮が核開発に着手し始めた1994年、 アメリカは核開発の中止(核放棄)を要求
    した。しかし、その後24年間、クリントン、ブッシュJ, そしてオバマ大統領は抑止の
    ための軍事力使用をためらい、もっぱら国連による経済制裁と6ヶ国協議の対話に期待を
    かけたが、結局、その成果はなく、北朝鮮は上述のような核とミサイルの開発で長足
    の進歩を遂げた。
   
     クリントン政権時、米国は北朝鮮国内での核開発の凍結、国交正常化の道筋をつける
    枠組みで北朝鮮と合意をした。しかしそれは結局、反故にされたので、クリントン政権
    は、一旦は北への爆撃と地上軍攻撃を計画したことがあった。しかし地上戦が起きれ
    ば、韓国で100万人規模の民間人の犠牲者が出るというアメリカの研究機関の報告が
    あり、クリントン氏は攻撃の決断を躊躇した経緯がある。そして94.6.クリントン大統領
    は、カーター元大統領を特使として平壌に派遣した。そこで金日成はアメリカの派兵
    停止と新たな援助と引き換えに、核爆弾製造可能な黒鉛炉の導入と運転の停止を約束、
    見返りに軽水炉導入の「米朝枠組み」に合意した。その直後に金日成は死去した。

     クリントン政権はその合意を受けて1995年に「朝鮮半島エネルギー開発機構
   (KEDO)を設立。しかし、結局、北が核凍結を破棄して核施を再稼働させたため、2003
    年、枠組み合意は崩壊し、その後、北朝鮮は核と弾道ミサイルの開発を再開した。

     米朝枠組み崩壊後、2003年から6ヶ国協議(北、アメリカ、韓国、中国、ロシア、
    と日本)開始されたが、結果から見ると結局、北朝鮮による一次的な時間稼ぎに利用さ
     れただけと言えるだろう。6ヶ国はそれぞれ事情も違い、関心も違う。日本は拉致
     問題が重要だが、他の諸国はそれを共有しない。そうして齟齬を北朝鮮は巧みに
    「食い逃げ外交」に利用してきた。

     ブッシュJ大統領は北朝鮮をイラク、リビアと並べて「悪の枢軸」と非難し、テロ支援
    国家に指定した。しかし任期の末期(2008)にそれを取り下げている。

     オバマ大統領に至っては、北への軍事力行使というオプションを完全に放棄してし
    まった。こうした経緯を振り返ると、北朝鮮の核疑惑が顕在化した1993年からオバマ
    大統領の退任する2017年初までの24年間、アメリカは実質、何もせずに来たと言わざ
    るを得ない。その間に北朝鮮は実験を重ね、長距離弾道ミサイルと核弾頭の開発に注力
    してきた。 
  
     こうした対応が20年以上も続いたため、北朝鮮の内部には一つの神話ができたのでは
    ないかという観測もある。それは、北朝鮮が何をしてもアメリカは武力攻撃はしてこな
    い。「アメリカが北を怖がっているからだ」という考えがあったとすれば、それは妄想
    という他はない。ただ、日本がかつて、生産力が10倍も大きいアメリカを相手に太平洋
    戦争に挑んだ頃の日本のメディアの喧伝や軍部の戦略判断を思いやると、北朝鮮の”妄想”
    は四半世紀の経験の基づいているだけ、日本のかつての経験より”実証的”かもしれない。

Vl.   2016年から変わった米朝関係

 1.  アメリカの認識の変化

   北朝鮮の弾道ミサイルの開発が新段階に入り、米本土攻撃が現実味を帯びてきた2016
  年頃からアメリカの認識に変化が起きたようだ。アメリカはその頃から攻撃準備態勢に
  入ったと観測される。たとえば、2016.10.ネバダ州で核爆弾投下実験が行われ、それを
  ”公表”した。通常、このようなことは軍事上の秘密にされるのが常識だが、公表には、核
  の使用を辞さないとの意思表示が含まれていると見てとれる。そして、2016から2017に
  かけて北朝鮮を十分に射程内にとらえる最新鋭の大陸間弾道( ICBM)ミニットマンの発
  射実験を5回以上も行っている。

   2017.3.北朝鮮は日本近海に向けてテポドンの発射実験を4回行った。北朝鮮はそれは日本
  に設置されている米軍基地を攻撃目標と想定していると明言した。それは、アメリカの一部
  である在日基地に駐する米軍人を人質にとるということで重大な意味がある。ムスダンの成功は
  グアムを射程内に捉えるということだ。米本土の前にアメリカの一部である基地を照準としたのである
  しかし、オバマ大統領は戦略的忍耐(strategic patience)を続けた。

   オバマ大統領は、かつてシリアに対して、化学兵器などで一般民衆を殺害した時は、それを
  シリア政府が”Red Line”を超えたと見なし、その時は武力制裁も辞さない、としていたが、
  実際に、国連の機関が、明らかに化学兵器で殺害されたと見られる多数の民間の犠牲者の被
  害について報告したとき、オバマ大統領は、自ら示したレッドラインを超えても、議会に
   図って攻撃の判断を保留し武力攻撃を控えた。中国はそうしたアメリカの足許を見て
   南シナ海の埋め立てを進めたという観測がある。
      
 2.   トランプ大統領の登場

       2017.1.のトランプ大統領の登場を契機に、アメリアかはこれまで24年間の実質的放置か
   ら軍事力の行使も辞さない姿勢へ大きくを舵を切ることになった。実際、2017年4月、
   シリアのアサド政権が化学兵器を使ったとしてシリア政府軍の空軍基地を突如、ミサイル
   で攻撃した。しかもそれはトランプ氏がフロリダの”別荘”に迎えた習近平首席との会食中
   という劇的な行動で、それは北朝鮮への強烈なメッセージを意図されたものとされる。

    トランプ氏は独特のツィッターを使った”口撃”も繰り返しており、レトリックが激しい。
   例えば、2017.7に北朝鮮がグアム島攻撃を示唆した際には、「世界が見たこともないよう
   な炎と怒りに包まれるだろう」と述べ、また2017.9.19の国連演説では「防衛のために
   は、北朝鮮を完全に破壊する以外、選択肢はない」と公的に威嚇した。

    
Vll.    北朝鮮を非核化できるか

  1.  ”すべてのオプション(手段)はテーブルの上にある

    トランプ政権は「すべてのoptionはテーブルの上にある」と繰り返し警告しているが、
   これは必要なら武力攻撃も辞さないというメッセージである。
     
  2.   外交と経済圧力
    国際協力による外交圧力としては、国連安保理事会での合意がある。そこでは、北朝
   鮮の危険な朝鮮に対して非難と警告そして経済的な制裁協議の合意が段階的に強化され
   てきた。
 
    経済制裁による圧力としては以下のような対策が取られている。
    ・国際協調:北朝鮮の石炭など産品不買、北朝鮮に資材を不売、
     北朝鮮の収入を遮断:交流国への出稼ぎ収入、鉱産物販売収入、ミサイル収入など
     を遮断
     石油の禁輸:最近の制裁:国連合意(2017.12.22):石油製品9割禁輸
    ・これらの制裁は徐々に効果を発揮してきていると観測される。例えば、北朝鮮国内 
     の市場では外国品が姿を消し、ほとんど国産品となっているが、それは禁輸措置が
     影響を持ってきているので、当局は国産奨励しているからではないか。それは経済
     制裁への危機感の反映と考えられる。
   
  3.  軍事手段
   ー先制攻撃
     アメリカはしばしば先制攻撃を仕掛ける。アメリカが最後の手段として武力を選ぶ
    場合、国連、同盟国にすら相談せず、戦略的に最適のタイミングを選んで、
    一方的かつ強烈な一撃を加える。例えば、1990年湾岸、2001年アフガン、
    2003年イラク戦争などが前例だ。

     ただ、北朝鮮の場合、同盟国ソウルと日本に深刻な被害の可能性がある。ソウルは
    長距離砲兵隊の展開地から2〜30kmしか離れておらず、日本はノドン、テポドンの
    射程距離内にある。

  ー斬首作戦:
    こうした脅威に対してピンポイントで金正恩の殺害を図る斬首作戦が有効という見方
   もあった。それは事前の諜報で金委員長の可能な所在拠点を把握して超高精度の攻撃で
   殺害するというもの。これは金体制の崩壊を狙うが、崩壊後の安定化の見通しが立たな
   ければ混乱助長してむしろマイナス。あくまで非核化が目的なので、現体制は維持する
   方が現実的との見方が現在は主流。

  ー外科手術(surgical strike)
    これは、北朝鮮を迅速に効果的に”無力化”するための軍事作戦である。
    まず、手術の前には麻酔で神経を麻痺させる作戦。すなわち、サイバー攻撃で情報
   ネットワークを妨害して遮断し、通信を混乱させて機能不全状態にする。直後に、
   ミサイル発射装置、軍施設、司令装置などをピンポイントで攻撃して破壊する。
   その際、長距離砲兵隊(火砲8500門とされる)、戦車3500輌、核兵器とミサイル部隊
   と各種防空施設は重要な攻撃目標。それら所在場所の情報が鍵となる。

    第一次攻撃は最初の5〜6時間。東西海岸沖からの艦艇、潜水艦からのトマホーク。
   グアムから出撃のB1やB52など爆撃機による巡航ミサイル攻撃。
    第二次攻撃は第一次で破壊漏らした残存戦力や施設に:F16や海軍のFA18など
   有人戦闘爆撃機投入でwipe outする。

    こうした攻撃が迅速に実行されれば被害は最小限に抑えられ、例えば、韓国に在住する
   米民間人約20万人も移動の必要はないという見方もある。多数の人々の移動は戦闘を用意
   しているとうシグナルを敵に送ることになり、負の効果があるとされる。
   
      4.   迫るタイムリミット

    北朝鮮が火星15級ミサイルの大気圏突入データ収集と突入対応技術、着弾誘導
   精度向上技術と核弾頭の小型化を進めて実戦配備するのにかかる時間は今や秒読みの
   段階にあると見込まれる。そのX dayはいつか?アメリカ本土を射程に入れる核ミサイ
   ルが完成間近とすれば、アメリカは独自の情報で躊躇なく軍事行動起こす可能性がある。
    2018年平昌冬季オリンピックを契機に、北朝鮮が積極化した微笑外交、
   それに応ずる姿勢を見せているトランプ大統領。

    2018年2月以来、事態は大きく変化。次回のエッセイでは、現下の新展開について論じたい。

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