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トランプ政権のアメリカ:(1) トランプ新政権への懸念と実際

 私がこの日本語ブログ「話題の泉」にエッセイを書くのは久しぶりですが、これからはこれまでより規則正しく定期的にエッセイを載せるようにしたいと思います。私は、日本語のブログの他に、英語ブログ ”Shimada Talks”, そして中国語ブログ「島田中文説」を書いています。

 英語ブログでは、主として、日本の話題、とりわけ政府の経済政策などについてのエッセイを定期的に書いて行きたいと思っています。中国語ブログでは、日本や中国そして国際関係などについての私の感想を書いています。

 この日本語ブログでは、主として、世界諸国の状況や問題などについて、解説し、感想を述べたいと思います。

 今回はそうしたブログの新たな方針に沿っての、まず最初に、今、世界に無用な混乱を引き起こしているアメリカのトランプ政権について、その誕生から最近までの事態を振り返り、数回にわたって私の観察と感想をやや詳しく記したいと思います。

 トランプ政権が誕生して1年2ヶ月が経ちましたが、このエッセイ「トランプ政権のアメリカ」では以下のようなテーマについて逐次、これまでの経過やその意味を説明し、私の感想も付け加えたいと思います。

  Ⅰ.   トランプ新政権への懸念と実際
  Ⅱ.   国際協力体制への無知を無理解そして阻害と破壊行為
  Ⅲ.  トランプの基本経済政策:減税、インフラ投資、貿易政策
  Ⅳ.  ロシア・ゲート:トランプ政権崩壊の”地雷”
  Ⅴ.  トランプ政権は持続するか、日本の対応
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Ⅰ.   トランプ新政権への懸念と実際

 1. トランプ政権への懸念

 トランプ氏が2016年11月8日のアメリカ大統領選で勝利した時、私はショックとともに大いなる懸念もしくは憂慮を禁じ得なかった。それは彼の大統領選中の言動のその粗野な振る舞いと、それ以上に、その内容が明らかに情報、知識、理解の不足と偏見からくる極端な破壊的な主張だったからである。

 独善的アメリカ第一主義、イスラム系民族や女性蔑視など多くの問題があったが、日本に直接関係するものだけを拾っても、例えば、日本の貿易は不公正であり、私は日本と中国に奪われた仕事の機会をアメリカの労働者のために取り返す、TPPはアメリカに不利な国際体制になるので大統領就任時に離脱する。日本は安全保障のフリーライダーであり、アメリカの駐留軍の費用を払っていない。充分に払わないのであれば、米軍の引き揚げもあり得るなど、無謀な発言が相次いだ。

 彼は明らかに、経済と安全保障についての国際協力の意味と意義を理解しておらず、反国際主義を主張しつづけていた。トランプ氏は選挙中に多くの暴言を吐いたが、選挙中の発言は、選挙民相手の約束であり、それは公約である。もし大統領としてそれを実行するなら日本と世界にとって重大な脅威になる。日本は1952年にサンフランシスコ講和条約ならびに日米安保条約に調印してから65年にわたってアメリカの抑止力すなわち核の傘の下で、平和を享受し、経済発展を実現してきたが、もし米軍が日本から引き上げるとなれば、日本は中国やロシアなど軍事大国と凶暴な北朝鮮などの脅威にたいし、これまで考えもしなかった自力で自分を守るという新たな安保戦略を構築しなくてはならなくなる。この一事をとってもトランプ氏の主張があまりに過激であり、もし実行されたら大変なことになるのは自明である。トランプ政権は果たして日本にとってそれほど極端で危険な存在なのだろうか?


2.  2017年4月のアメリカ調査訪問とその結論

 この基本的な疑問に答えを見つけるため、島田塾に参加する経営者の有志を募り、私は、そのトランプ氏の主な政策がおそらく出揃うと考えられた政権発足後100日に近い4月中旬に、ワシントンDCとNYを訪れ、多くのオピニオン・リーダーや共和党系から民主党系までいくつかのシンクタンクを訪ねて、議論をつうじて情報を収集し、かつトランプ政権とトランプを大統領にいただくアメリカについて理解を深めることとした。

 私達は事前に私達の問題認識について詳細なレポートを先方に送り、できるだけ短い時間で議論をつうじて深く詳細な情報が得られるよう努めた。面会した言論人やシンクタンクの専門家は極めてオープンに対応してくれ、大いに議論をすることができた。それを踏まえて、私達は暫定的な結論を得た。それは、トランプ氏は、乱暴だが、日本は彼を相手にしてやりこなせるというものだった。なぜか?なぜなら、トランプ氏は発言は過激だが、詰めが甘い。トランプ氏は大統領として行政の最高責任者だが、アメリカの立法と司法の仕組みは強固にできており、トランプ氏の思いつきはこうした重い仕組みの中で簡単には実現しにくい。トランプ氏は行動は我儘で放埓だが、政治家としても人間としても実力はあまりなく、要するに”大した人間ではない”ので、やりこなせる、という結論である。


3.  安倍首相のトランプ氏への取り組み

   トランプ氏という前代未聞の人物の大統領就任という事実を前にして、安倍首相の対応は迅速かつ極めて効果的だった。大統領選からほどない11月17日夕方、安倍首相は、まだ大統領に就任していないトランプ氏をNYのトランプタワーに訪ねて懇談した。同席したのは娘のイヴァンカ氏とフリン補佐官(予定)ら数人。安倍首相はゴルフ好きのトランプ氏のために特製の高価なゴルフクラブを贈呈した。この行動は外交としては異例だったが、トランプ氏が安倍首相にたいして好感を持ったことは明白だった。安倍首相はトランプ氏に気性を綿密に調査してこの行動をとったとされる。

 2017年2月11〜13日、安倍首相は大統領に就任したトランプ氏を公式に訪問した。この訪問はしかし異例ずくめだった。ホワイトハウスで最初の首脳会談が行われたが、トランプ氏は記者団の前で安倍首相と握手した際に、19秒間も手を離さなかった。見かけによらず潔癖症のトランプにしては異例とされる。しかも訪問はホワイトハウスで終わらずに、トランプ氏のフロリダの別荘、Mala la goでも首脳会談が行われた。ちなみにここはトランプ氏の個人別荘ではなく会員制のクラブなので、関係者は警護に多大な迷惑を被り苦労をしたとされる。両首脳は首脳会談と並行してゴルフを1.5ラウンド(27ホール)も楽しんだ。食事は公式と準公式を合わせ5回に及んだ。これは米国の外交史上空前とされる。FT紙は二人の関係を”Bromance”と表現した。男同士の愛である。トランプ氏は安倍首相を異例ずくめの”大歓迎”でもてなしたということだ。

 この19秒間に及ぶ握手については、後日談がある。朝日新聞の機動特派員であり、ホワイトハウスの記者団の中ではほとんど唯一の外国人メンバーとして活躍している尾形聡彦氏が、この情景を撮影し録音していたが、この時、二人の握手の際に日本人の複数のカメラマンが、おそらく「こちらを向いてください」などと叫んだところ、トランプ氏は安倍首相に「彼らは何を言っている?」と尋ねた。それに対して安倍首相が「Look at me」とだけ言葉を返したので、トランプ氏は安倍首相の顔を覗き込むような不自然な姿勢で19秒間手を離さなかった様子が明確に記録されて居た。それがどれほど奇妙な情景だったかは、英語の判る人ならすぐ想像がつくだろう。

 またトランプ氏が2017年11月のアジア歴訪の旅の最初の国として日本を訪問した。その際、安倍首相は彼をまずゴルフでもてなしたことは周知だろう。日本訪問の締めくくりの記者会見の際、トランプ氏は途中まで、当局が用意したと思われる原稿を読んだ。それは日本がどれほど優れた国かを外交辞令として書いてあった。ところがトランプ氏は突然、原稿を置き、安倍首相に向かって、”We are the first, Japan is the second. OK?”と念を押したのだ。録画されたこの情景は通常のメディアでは報道されないが、これを見せてくれた尾形氏は、日本を代表する安倍首相に対してかくも失礼なトランプ氏のもの言いが象徴する日米関係の現状を深く憂慮せざると得なかったという。

 安倍首相の一連の行動を、アジアや欧州の首脳の一部には安倍首相はトランプ氏に媚びすぎているという批判的な見方もあるようだがt、私見では安倍首相の行動は日本にとってはそれなりに国益をもたらしたと言える。性格異常者とも言われるトランプ氏からここまでの信頼の勝ち得たことは安倍首相の用意周到な調査と行動力の成果であり、それは高く評価すべきだろう。しかし尾形氏の見せてくれた情報の示唆するところも過小評価はできない。


4.  知識の欠如と不勉強

 トランプ氏は、既成のワシントン主導の政治を破壊してもらいたいと望む熱烈な支持者の投票によって大統領に選ばれたという事情があるので、これまでの政治家の常識から大きく逸脱することは想定内のことであるとはいえ、彼の知識の欠如と、必要な情報を学ぼうとしない態度は常軌を逸している。

 冒頭に、選挙戦中に日本は米駐留軍の経費の負担が少なくフリーライダーだ、と批判したことに触れたが、トランプ政権発足一ヶ月後にJames Mattis国防長官が日本を訪れ、日本の安全保障協力は模範的と褒めた。日本はアメリカの同盟国としては最も経費負担率が高いことはマティス長官始め関係者は良く知っていたのだが、トランプ氏は全く知らなかった。また、彼は選挙戦中、NATOは何の役にも立っていないとこきおろしていた。それが5月にNATO本部を訪ねてからその役割を高く評価するようになった。大統領はなぜ意見が変わったのか、とメディアに聞かれて、「自分はゴルフ場の経営者だったから、そんなことは知るわけがなかった」と答えたと伝えられている。それほど無知なら大統領選に出るべきではない。Hillary Clinton氏がTV討論で毎回 ”You are unqualified”と批判していたのは正論だ。

 また彼の不勉強は周囲を困惑させている。ホワイトハウスでは、早朝に大統領が主に安全保障の専門家を呼んで世界情勢の分析をブリーフィングすることが慣例になっている。これは1959年に勃発したキューバ危機で、ケネディ大統領とソ連のフルシチョフ第一書記が、一触即発で核戦争になりかねない危機をギリギリの駆け引きで回避した時以来、ホワイトハウスは世界の安全保障を担っているという自覚から慣例化してきた。ブリーフィングは数人の専門家がそれぞれ数枚以上のレポートを提示して説明する。1時間から2時間ほどかけて熱心に情報共有する。ところが、トランプ氏は、そんなレポートは読めないから1枚以下にしろ、時間は短く、もっと遅い時間から始めろ、という。彼は毎日、遅くまでTVを観、早朝にツィッターを書いて寝るため、朝寝坊で早朝の勉強会はしたくないというのだ。

 また ”専門家”という人種の説明を受けたくない。自分はビジネスマンだから現場の直接の情報を知りたいと言い、ある同盟国の秘密機関から大統領に伝えられたIS戦線の情報を、こともあろうにロシア大使に漏らして深刻な事態になりかけたことがある。これがトランプ好みの現場情報なのかもしれないが大統領がそれでは危険極まりない話である。

 2017年の夏にRex Tillerson国務長官がトランプ氏を”moron(バカ)”と呼んだとあるメディアが10月に報道して物議を醸した。Tillersonn氏はその報道を否定しなかったが、Tillerson氏はこんなバカな男と仕事をするのが耐え難かったのだろう。その後、Tillerson氏は2018年3月、突然、理由もなく解任された。また、トランプ氏がいかに異常性格で偏執的であるかを、彼の腹心中の腹心と目されていたSteve Banon氏がホワイトハウスに入り浸っていたジャーナリスト?のMichael Wolf氏に洗いざらい漏らしていたことが、Banon氏が夏に解職されて半年後にWolf氏が”Fury and Fire”という暴露本で明らかにして騒ぎになった。それがトランプ・ホワイトハウスの実態なのだろう。


5.  行政体制の不備、一年経って実績なし、主要側近の解任につぐ解任

 トランプ政権の特徴の一つは歴代のホワイトハウスでも際立って行政府の業務執行体制の整備が遅れていることだ。大統領が変わると、特に、その政党が変わるとワシントンの行政府の幹部は総入れ替えになる。幹部は政治任命なので、大統領が直接・間接に任命する。その数は任命の仕方によっても違うようだが、私達がトランプ政権の研究のため4月に訪ねた時には、政治任命の530人のうち、23人しか決まっていないというのがもっぱらの説だった。その後、NYTが7月17日付で報道(日経新聞7.19)したところでは、主要幹部ポスト210のうち、承認が33人、未承認が177人ということである。就任後、一年経った2018年1月でも、おそらく幹部のうち半分前後はまだ決定していない状況だろう。

 行政府の政治任命幹部の任命が遅れているのは、一つには、議会で民主党が反対して承認人事が遅れるということもあるが、大統領自身による任命が遅れていることが大きいとされる。2016年の選挙戦中、民主党系の政治家や官僚などが、トランプ氏の暴言があまりに激しく悪評なので、2016年の夏に、彼ら約130人ほどがトランプ候補を否定する「Never Trump Letter」に共同署名したことがあった。執念深いトランプ氏はこれら有力政治家や官僚を良く覚えていて、彼らのみならずその一派や関係者は指名のリストから綿密に排除していると言われる。そのため、共和党系の多くに有能な人材が候補からはずされてしまう。その影響も大きいとされる。

  政府の幹部任命の遅れは政府の機能発揮を著しく阻害している。トランプ氏はアメリカの力を取り戻すとして国防予算の大幅増額には熱心だが、それを賄うためにも、国務省などの予算は大幅に削減すると主張している。トランプ政権発足後、国務省などの省は、何ヶ月も幹部が決まらず、現場の職員も削減されたため、例えば、Tillerson国務長官は、外国と交渉する際にも、通常なら随行するはずの次官や局長、課長などのスタッフの補佐がない状態がしばらく続く有様だった。トランプ任命の幹部職員が絶対的に不足したため、しばらくはオバマ任命の職員が代行を務めたことが珍しくなかった。

 トランプ氏は、大統領就任後、”やる気”と”実力?”を見せるためか、彼の一存で実行できる大統領令”executive order”を矢継ぎ早に打ち出した。その数は、就任後、数ヶ月で30本以上に及んだ。TPP離脱、イスラム系の入国制限など非常識な大統領令が相次いだ。しかし、議会の承認を必要とする本格的な立法と伴う政策は、議会野党の反対や与党の造反などがあって遅々として進まなかった。就任後、一年経って、トランプ氏が主張していた本格的な政策案の中で曲がりなりにも議会を通過したのは、2017年末ギリギリに成立した税制改革(通称、減税法案)法だけである。

 また、主要側近がつぎつぎに退任に追い込まれ続けたのもトランプ政権の特徴だ。トランプ政権は当初から、ホワイトハウスの幹部や政府長官などを、家族、軍人、イデオローグ(思想的扇動者)で編成した異様な政権だった。

 ところが、そうした腹心のはずの幹部が、つぎつぎに解任され、辞職に追い込まれ、あるいは辞任した。例を挙げれば、2017年2月には、最側近と言われたMIke Flynn大統領補佐官(安全保障担当)が解任された。ロシア疑惑に絡んだ解任だった。2017年5月には James Brien Comey Jr. FBI長官が突然解任。大統領はクリントン候補のメール疑惑の処理の瑕疵を理由に挙げたが、実情は、ロシア疑惑の深まりを予防した解任だった。2017年7月には、Spicer報道官、Reince Priebus首席補佐官、そしてScaramucci広報部長が相次いで更迭された。ホワイトハウスでは人事を巡る闇の闘争が繰り広げられ、忠誠心だけを重視する大統領による見せしめ人事だった。

 そして2017年8月には選挙戦中からの腹心中の腹心だったSteve Banon首席戦略官兼上級顧問が解雇された。路線の微妙な乖離、ホワイトハウス内の権力闘争、社会的不評など多くの原因が絡んでいるようだが、トランプ氏にとってあまりに過激なイデオローグは重荷に感じられるようになったのかもしれない。Banon氏は上述のように、後にMichael Wolf氏の暴露本「Fury and Fire」の中でトランプ氏への不満をぶちまけている。

 2018年3月6日、トランプ政権の(NEC)委員長でNational Economic Committee経済政策を支える主柱だったGary David Cohn氏が、トランプ氏が突然打ち出すことにした世界各国の鉄鋼、アルミニウムの対米輸出品に対するそれぞれ25%、10%という高率関税賦課の方針に反対して辞任した。Cohn氏はGoldman Sachs社の社長を長年務めビジネスリーダーとして評価が高く、根っからの自由貿易主義者だったので、経済減速を無視したトランプ氏の暴挙に我慢がならなかったのだろう。

 トランプ氏はCohn NEC委員長の後任に、Larry Kudlow氏を指名した。Kudlow氏は保守系のTV評論家として一般に良く知られている。Kudlow氏はレーガン政権時代にホワイトハウス入りした経験もあるが、近年は、インフレなき経済成長を唱えて、トランプ氏の共感を得たようだ。それはトランプ氏の推進する大型減税で企業は投資が出来、生産性が向上する結果、物価を引き下げることができるので、インフレなき成長ができるという主張で批判の多いトランプ減税を支持したいる。

 その直後、2018年3月13日、突然、米国外交政策を担う責任者である Rex Tillerson国務長官が、トランプ氏によって解任された。その解任の仕方はトランプ流そのものだが、曲がりにも自分が任命した政府の最高官にたいして失礼極まるものだった。トランプ氏は13日朝9時前にツィッターでTillerson氏解任の意向と後任人事を伝えたが、Tillerson氏がトランプ氏から直接聞いたのはその3時間後、大統領専用機からの電話だったという。

 Tillerson氏とトランプ大統領は初めから路線のズレがあり、2017年の夏、内輪の安全保障に関する会議の際、Tillerson氏がトランプ氏を”moron(バカ)と呼んだという騒動”に象徴されるようにトランプ氏を信頼していないなど人間的ズレもあったようだ。Tillerson氏は北朝鮮問題についても外交的解決を主張し続けていたが、折しも、トランプ氏は金正恩氏との面会受諾を即決した直後で、一貫して交渉による解決を志向してきたTillerson氏との個人的な乖離が修復不能域に達していたようだ。

 Tillerson氏の後任に、トランプ氏は、Mike Pompeoを指名した。Pompeo氏は陸軍出身で下院議員から2015年5月、トランプ氏によって解任されたComey前長官の後任としてCIA長官に任命されていた。Pompeo氏はイラン核合意は最悪の協定として批判、CIAによる拷問と容認し、イスラム教徒の入国禁止も支持しており、トランプ氏は”思考回路を共有できる”ので、この重要な仕事を任せたという。

  その後、3月23日には、安全保障担当の最高補佐官だったHerbert Raymond MacMaster前陸軍中将も解任された。MacMaster補佐官は2月に解任されたFlynn補佐官の後任だが、厳格な軍人らしくホワイトハウスの綱紀引締めにも尽力していた。トランプ氏は彼の話は理屈が多く時間が長いと不満を漏らし、相性が悪かったようだ。

 MacMaster補佐官の後任に、トランプ氏は、John Bolton元国連大使を任命すると3月22日ツィッターで表明していた。Bolton氏はBush Jr.政権で国務次官や国連大使を歴任し、最近はトランプ氏に外交や安保政策で個人的に助言していた。北朝鮮やイラクへの攻撃を主張するなどタカ派のネオコン(新保守主義者)として知られている。


6.  オバマ全否定とオバマケア

 トランプ氏の政策?選択や行動を見ていると、ある共通項が浮かんでくる。それは、トランプ氏の政策選択や行動が、不自然なほど、オバマ否定で貫かれたいるということだ。その筆頭がオバマケアの否定と対案の提出で、これはトランプ氏の最大の選挙公約だった。さらにTPPの政権初日の離脱宣言。TPPはオバマ大統領が日本に参加を呼びかけ、菅直人首相がそれに前向きの態度を示したが、本格的に参加をオバマ氏に伝えて、参加交渉に入ったのは安倍首相である。それをトランプ氏は最悪の協定として離脱した。イラン核合意も最悪と称して否定を辞さないとした。リーマンショックを経て、オバマ大統領が金融機関の行動を監視するために提案し立法化されたDodd-Frank法に対してもトランプ氏は敵愾心をむき出しに、否定しており、さらに、オバマ大統が60年に及ぶ経済制裁を解除して国交を回復したキューバとの国交回復にもトランプ氏は難癖をつけて厳しい条件を課そうとしている。トランプ氏の”オバマ全否定”ともいうべきこの悪意に満ちた態度と政策行動は、いったい、何故なのか?

 この問題について、おそらく最も的確に詳しい情報を提供してくれている尾形聡彦氏(朝日新聞機動特派員)著『乱流のホワイトハウス』に描かれた要点を紹介しよう。

(1)ホワイトハウス記者協会ディナーの一件

 トランプ氏はメジャーなメディアのニュースをフェイク(嘘、偽物)として批判するが、実はトランプ氏自身、競争相手についてフェイクの情報を撒き散らしてのし上がってきた人物。そのトランプ氏がオバマ大統領を陥れようとして、2011年頃『オバマはアメリカ生まれではないので、大統領になる資格がない。オバマのケニアにいる祖母は彼がケニア生まれと言っている」などと言いふらした。この中傷は無視できないほど大きくなり、ホワイトハウスは堪り兼ねて、オバマ氏が1961年8.4にホノルルで生まれたことを示す出生証明書の原本の写真を公表するという異例の対応をした。

 
 その直後、2011年4月30.日に、恒例のホワイトハウス記者協会ディナーが開催された。これは100年も続いている伝統行事だが、この年はワシントンDC のヒルトンホテルで開かれた。ここにはトランプ氏もメラニア夫人を伴って参加し、最前列に陣取って居た。(ちなみに2017年の同ディナーはトランプ欠席)。

 この席で、恒例の大統領スピーチに立ったオバマ氏は、上記の出生証明書をスクリーンに大写しさせ、壇上からトランプ氏に向かって、「この出生証明書問題を一段落させられたことを誰よりも幸せに思っているのはドナルドだ」「だって、これで彼は、他の重要問題にやっと集中できるだろうからね。例えば、我々が月面着陸をフェイク(偽装)していたとか」と痛烈にトランプ氏のこれまでのフェイクに満ちた言動を公衆の面前で皮肉った。会場は爆笑に包まれ、トランプは公衆の面前で恥をかかされた。尾形氏は会場でこの情況を目撃したという。

 この事件が、トランプ氏が根に持ってオバマ氏の全否定に走っていることの大きな一因ではないかと思われる。それはトランプ氏の側近で政治アドヴァイザーであるRoger Stone氏が2017.1の公共放送PBS番組で以下のような発言をしたことでも想像される。「トランプが大統領選に出る決意をしたのはあの夜だったと思う。大統領選に出て皆に見せつけてやる、とね」。

(2)オバマケアの否定と代替案の顛末

 さて、トランプ氏のオバマ大統領の全否定の最大の目玉は、オバマ大統領が主導したアメリカの医療保険の大改正、いわゆるオバマケアを否定し代替案を立法化するという件である。

 オバマケアは、「アメリカは先進国であるのに、なぜ国民皆保険がないのか?」という国民の年来の疑問と不満に答えようとして構想されたものである。2009年に大統領に就任したオバマは、政権初期、民主党が上・下両院で多数を占めていた政治的条件をテコに、医療保険制度改革を歴史的事業として打ち出した。

 オバマケア(Barack Obama’s Affordable Care Act)は、保険会社に、無保険者や病歴のある人にも手頃な値段の保険を提供させる内容で、個人や中小企業には保険に加入するために補助金をだし、個人に保険加入を義務付けた。10年間の政府支出は1.3兆ドル(140兆円)に登る。そのおかげで無保険者は約半分の2500万人に減ると見込まれた。

 この構想に共和党関係者は当初から反対し、Repeal Obama care! は共和党の大スローガンとなった。トランプ大統領は政権発足100日目の4月29日までにオバマケア廃止法案を議会で通過させることを企図した。トランプ氏の求めに応じて共和党執行部は3月初旬、オバマケア廃止のための代替案を提出した。それは保険加入義務を廃止し、病歴があっても保険に入れる仕組みの一部は維持するもの。ところがオバマケアが廃止されると、これまで大きく減っていた無保険者が急増するとの試算CBO(議会予算局)が公表し、世論の風向きが変わった。

 結局、トランプ大統領はこの代替法案を下院に提出断念することを2017.3.24断念した、というより断念に追い込まれた。それは主として共和党の党内事情の読みによった。共和党は下院(計435議席、空席5)で237の過半数を占めていたが、党内では、オバマケアの全廃を求める強硬派と、無保険者の増加を懸念する穏健派の双方から反発が出ており、投票直前の読みでは30人近くが反対する見通しで、過半数確保が難しい情勢であることが判明した。トランプ氏は自ら説得に乗り出したがその壁は崩せず、結局3.24、提出を断念したという訳である。これは、彼にとっては無残な敗北だった。トランプ政権の支持率も前週より5%低下し30%に落ちた。トランプ氏はこの挫折で失意に陥ったことは想像に難くない。これがキッカケでトランプ氏がその後、議会対策などでも現実路線に転換したという見方もある。

 その後、2017.5.4にオバマケアの代替法案はようやく下院を通過した。これはなんと217対213の僅差だった。そこれはなお共和党員20人反対を防ぎきれなかった。アメリカの立法制度では、下院の法案作成と承認、そして上院の法案作成と承認があり、その双方をすり合わせた法案が両院を通過して初めて法律になる。オバマケア代替法案の場合、下院で作成・承認された法案を上院が修正し、それが通過すれば立方される。したがってその手続きとして、2017.6.22に上院共和党執行部が修正代替法案発表した。しかしその後の審議過程では7月から8月にかけて3回も否決され、結局、修正案の採決は断念せざるを得ないことになった。

 これを不満とするトランプ大統領は2017.10.11に大統領令を発し、オバマケアの規定弱めることを命令した。その趣旨は小企業とその従業員がオバマケア規制に従わなくて良いという大統領令である。その結果、現実のオバマケアの運用がその効果がそれだけ薄められることになるが、この傷だらけのプロセスを経て、現在、オバマケアの実効性は低下したが帰結はウヤムヤになっている。

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