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2016年3月

アベノミクス:企業統治と資本市場の改革

アベノミクスでは、2013、2014、2015年と3次にわたって成長戦略が打ち出された。私見ではそのうち、最も本格的な構造改革の取り組みが行われたのが、2014年6月に閣議決定された第二次成長戦略だった。構造改革は一定の成果も挙げたが、課題も残された。ここではもっとも成果が挙がったといえる企業統治と資本市場の改革について振り返ってみよう。

なぜ企業統治と資本市場の改革が重要なのか。1970年代から80年代にかけて世界を席巻するかに見えた日本企業の競争力が、近年の世界競争の中で立ち後れる傾向が顕著になっているが、それはグローバル市場の激しい変化を敏感にとらえ、迅速に戦略を展開しえない企業の難点、また本来、活用できる資本が効率的かつ効果的に活用されないといった資本市場の欠陥など構造的弱点が背景にあるように思われる。

先進国企業を追うかつてのキャッチアップ段階では、日本企業は先進技術を迅速に吸収するために経営資源を企業内に凝集することが求められたが、先進国となりグローバル競争の先頭に立つべき現代では、そうした閉鎖性や集団制はかえって障碍になる。アベノミクスの成長戦略では、そうした構造的難点を克服するために、企業の開かれた意思決定と資本の活用を促進するために、以下のような改革を推進した。

(1)会社法改正による社外取締役の導入
 2014年6月に会社法を改正し、企業は社外取締役を最低1人は導入すべしとした。義務化は見送られたが、しない場合はその理由を株主総会で説明しなくてはならないので、多くの企業が社外取締役を選任した。米欧先進企業では社外役員の役割が極めて大きく、開かれた戦略的意思決定ができるとされている。社外取締役の導入は、これまでの日本企業の閉鎖性を打破する手段と期待されている。

(2)ガバナンスコードの策定
 成長戦略では、企業価値最大化のためにガバナンスコード(企業統治のための行動規範)を策定するよう提案し、金融庁と東京証券取引所が2015年6月の株主総会シーズンまでに企業が策定するよう指導することとした。これは企業経営の透明性、公正性を高め、経営資源の有効活用を促進すると期待されている。

(3)スチュアードシップコードの導入
 これは、機関投資家が、投資先企業に対して経営改善要請など投資方針を表明することで、一般投資家も投資先企業をより理解し積極的に投資するよう誘導する英国生まれの取り組みである。日本ではこれまで常態だった”もの言わぬ株主”の文化を、積極投資の文化に変えることが期待されている。

(4)GPIFの運用方針の積極化
 GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は年金基金など約130兆円を運用する世界最大級の公的年金運用団体だが、これまで国債などリスクが少ないと思われた債権を中心に運用をしてきた。アベノミクスでは、よりハイリターンを期待しうる株式などの運用比率を高めるよう要請し、2015年から内外株式などリスク資産比率が半分ほどに高められた。

(5)JPX日経400インデックス
 2014年1月に開発・導入された「JPX日経400インデックス」は、日本企業がROE向上の重要性をもっと認識し、ROEの向上に向けて企業戦略を見直して尽力すべしというアベノミクスの呼びかけに応える民間の仕組みだが、多くの企業がこのインデックスで評価されるよう資本政策などを変革した結果、それら企業のROEは短期間に飛躍的に高まった。

これら一連の改革は、日本企業に株式市場などを媒介してより積極的かつ効率的に資金を活用させる上で、ROEの向上など一定の成果を挙げた。資本政策で数字上引き上げられたROEを裏打ちする企業効率の真の向上が実行されるか、株式運用比率を高めたGPIFの運用ならびに管理体制は大丈夫か、など幾多の課題は残されるが、短期に可視的成果を挙げたという意味では、企業統治と資本市場の改革は、アベノミクスの成長戦略の中ではもっとも成功した例と言える。

(The Huffington Postへの投稿より
http://www.huffingtonpost.jp/haruo-shimada/abenomics-governance-and-market-reform_b_9466588.html

アベノミクスの成長戦略

今回はアベノミクスの成長戦略について見てみよう。

私のこのシリーズでは、これまでに、アベノミクスを構成する三本の矢のうち、第一と第二について評価をしてきた。第一の矢は株価と企業利益の上昇に大きな効果があったので”成功”と言える反面、膨大なベースマネーの処理に懸念があることを指摘した。第二の矢は経済成長を底支えした役割は評価できるが、財政再建計画が実現できそうもないというリスクを指摘した。アベノミクスの最大のねらいは日本経済をたしかな成長軌道に乗せることで、それができればこれらのリスクもある程度吸収できる。

したがって、アベノミクスの第三の矢すなわち成長戦略には期待が高まらざるを得ない。成長戦略は、2013年、2014年、2015年と3回にわたって打ち出されてきた。ここでは、それら3つの成長戦略について大まかに評価してみよう。


第一次成長戦略は、2013年6月に閣議決定され「日本再興戦略」として公表された。それは3つのアクションプランから構成される。1. 産業や人材の新陳代謝を進める産業再興プラン、2. 健康、エネルギー、次世代インフラなど戦略市場創造プラン、3. 自由貿易を拡大する国際展開戦略プランである。国民の期待を担って打ち出された戦略だったが、発表後、経済成長率はむしろ鈍化した。成長戦略は元来、時間のかかる構造改革なので短期の成長動向で評価すべきではないが、政治は短期の変化に左右されやすいので、安倍首相は年末に、より本格的な成長戦略を翌年にまとめると宣言した。


2014年6月に発表された第二次成長戦略は、安倍首相が「岩盤規制」を突き崩すと決意を表明した通り、農業など抵抗の多い既得権分野にも踏み込んだ。その積極性には世界も注目したが、分野があまりにも多かったので、海外メディアは the third arrowでなく one thousand needlesと評した。

その多くの分野のうち、主だったものを拾ってみよう。
1. 企業統治と資本市場改革:日本企業は閉鎖的で世界競争に遅れ気味であることから企業の意思決定を開放、透明化し、また資本効率を高めるための一連の制度改革が実行された。この改革は安倍成長戦略の中でも最も成果があがったと言える。
2. 農業改革:既得権と岩盤規制の最たる分野だが、減反廃止、土地所有改革、農協改革など困難な分野に敢えて踏み込み、一定の成果をあげた。
3. TPP:安倍首相が初めて正式に交渉参加を表明し、3年半の精力的交渉の結果、昨年10月に参加12か国で”大筋合意”が達成された。この合意で日本が最大のメリットを得るとされる。
4. 働きかたの改革:サービスなど頭脳労働が大半の先進経済となった日本の労働生産性を上げるには成果報酬制や雇用の柔軟化が不可欠だが、それらを目指した労働改革は労働組合や厚生労働省の抵抗で残念ながら入り口で止まっている。
5. 女性の活躍支援:政府は保育所拡充、企業へのアピールなど旗を振っているが、まだ目立った成果はない。
6. 地方創生:人口減少、地方の空洞化対策として華々しく打ち出されたが、まだ成果は見えない。
7. 医療改革:膨大な分野だが、”混合診療”の部分的に着手された程度に止まっている。
8. 社会保障改革:人口減少・高齢化社会の持続可能性を確保するには最大最重要だが、支払い能力のある階層の負担をやや高めるだけに止まっており、解決の方向は見えない。
9. 国家戦略特区:飛躍的な改革が期待されたが、一部の都市などで僅かな進展が見られる程度。

以上は第二次成長戦略のいわば目玉である。その目玉項目も企業統治と資本市場政策のようにある程度成果が上がったものもあるが、農業や働き方などの重要項目はまだ取り組み途中であり、医療は着手したはかり、社会保障などはこれからである。言いかえれば、成長戦略の取り組みはこれからが本番ということだ。安倍政権は、翌2015年6月に第三次成長戦略を発表したが、それがどれほど取り組みを推進したかには、したがって誰もが強い関心を持たざるを得ない。


第三次成長戦略は、しかしながら、こうした期待を大きく裏切るものだった。それは生産性向上とイノベーションというスローガンを掲げてはいるが、中味の項目は、第一次成長戦略の焼き直しであり、内容は明らかに第二次成長戦略よりも後退している。第三次成長戦略の内容についてはまた別の機会にやや詳しく紹介するが、国民はアベノミクスの大黒柱であるべき成長戦略のこうした展開を見て、安倍政権の経済戦略への取り組みの真剣度がどうなったのか、拍子抜けをし、疑問と不安を感ずるのではないだろうか。

(The Huffington Postへの投稿より
http://www.huffingtonpost.jp/haruo-shimada/growth-strategy-of-abenomics_b_9423464.html

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