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2016年2月

アベノミクス:第二の矢と財政再建

 アベノミクスが、経済成長と財政再建という二つの目的を同時に達成することを目指していることは国民も知っている。

 アベノミクスの三つの矢のうち、第二の矢は財政政策であり、それはとりわけ必要に応じて積極的、機動的に財政支出を行うことをうたっている。言い換えれば経済成長を促進するための財政政策である。一方、財政政策には、世界でも類例のない政府債務を抱える日本の財政を健全な形に再建する役割も期待される。安倍政権はこの二つを同時に達成すると標榜している。

 経済成長を支える役割についてみると、デフレマインドに沈んだ経済をインフレマインドに活性化するという構造改革の過程では、成長を安定的に支えるために機動的に財政支出をする必要がある局面もあり、アベノミクスの第二の矢はこの面では確かに一定の役割を果たしてきた。

 安倍政権は発足早々、2013年初めに20兆円の緊急経済対策を打ち、つづく大型年次予算、そして2013年秋には、翌年4月の消費税導入後の落ち込みを支える対策として5兆円、また2015年度には96兆円、2016年には96.7兆円という史上最大の予算、さらに2015年末に打ち出した「一億総活躍」戦略を支えるために、3.3兆円の補正予算を組んだ。こうした積極的な財政支出が、経済の落ち込みを防ぐ意味で一定の役割を果たしてきたことはそれなりに評価できる。

 しかしその反面、財政政策のいまひとつの目的である財政再建の達成が困難になってきたことは否定できない。日本政府は2010年に財政再建計画を打ち出し、2020年までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)で財政均衡を達成することを国際公約した。すなわち、2010年に基礎的財政収支でGDP比6.7%(SNAベースでは32兆円)であった赤字を、2015年度に3.3%(同16兆円)に半減し、2020年度には均衡または黒字を達成するという公約である。これは民主党の菅直人政権の時に発表された計画だが、自民党の安倍政権でもこの国際公約は踏襲している。

 その計画で想定された軌道は、2014年度までは税収増と消費税率引き上げでギリギリ達成されたが、2015年秋に予定された第二次消費税率引き上げが延期されたために、2015年度には軌道をはずれることが懸念された。しかし、2015年度には大幅税収増のおかげでなんとか軌道を維持できた。2016年度も大幅税収増を見込んでいるが、そうした好条件はここまでで、それ以降は、残念ながら軌道をはずれ、2020年度に基礎的財政収支均衡を達成することは政府の試算でも困難になることが公表されている。

 内閣府が2014年7月に発表した試算では、かつての予定どおり消費税を2015年10月に10%にしても、理想的な経済再生ケース(2013年〜22年度まで年率経済成長が実質2.0%、名目3.3%)でも、2020年に基礎的財政収支は-1.8%(-11兆円)、より現実に近いベースラインケース(実質1.3%、名目2.1%成長)では、2020年度には-1.9%(-16兆円)になる。直近の2016年1月の試算では、経済再生ケースでも2020年度の収支は-1.1%(-6.5兆円)、ベースラインケースでは-2.3%(12.4兆円)になると予測されている。この数字は1年半前に比べ、税収増などを目一杯見込んで幾分改善されているが、2020年に財政再建目標を達成できないことは明白だ。

 こうした見通しを見ると、アベノミクスの第二の矢は、財政再建という目標に関する限り、残念ながら失敗というほかはない。財政再建の公約が実現できないとなにが起きるのか。財政再建が実現できないということは国が借金を返済できないことを意味するから、市場の評価次第では日本の国債の価値が低落するおそれがある。利回りは債券価値の逆数だから、国債価値が下落すると金利が高騰する可能性がある。

 日本の財政赤字はすでにGDPの2倍以上で、世界でも突出している。これまでは異常な低金利で財政赤字の増加も抑制されていたが、高金利になれば、政府債務は急激に膨張し、日本は財政破綻に陥るおそれもある。その危険を抑えるには、経済成長を飛躍的に高めるか、社会保障や公共投資をはじめ財政支出の構造を抜本的にスリム化する必要があるが、そうした構造改革にはほとんど手がつけられていない。時限爆弾の爆発が近づいているのに、政府に本格的な対応が見られなければ、国民はどうすれば良いのだろうか?

(The Huffington Postへの投稿より
http://www.huffingtonpost.jp/haruo-shimada/abenomics-second-arrow_b_9322686.html

クロダノミクスは成功するか

 今年1月29日に日銀がマイナス金利採用を発表した。欧州では2年ほど前からマイナス金利が浸透しつつあったが、日銀が採用したことで、国内のみならず世界にも衝撃が走った。

 マイナス金利とは、日銀が全国の銀行から預かっている当座預金のこれからの増加分についての金利をマイナス0.1%に引き下げるという政策で、2月16日から実行された。日銀が預かっている当座預金総額は現在、約260兆円ほどだが、マイナス金利を適用するのは今後預けられる分で、10ないし30兆円と日銀は見込んでいる。その増加分から差し引かれる利子支払はそれほど多額ではないが、それでも銀行は当座預金でなく利幅のある融資や投資に資金を振り向けることで経済が活性化することを日銀は期待した。

 利益の減少を恐れた銀行は、低い預金者金利をさらに引き下げ、わずかでも利回りの期待される国債購入に殺到した。その結果、長期金利が史上はじめてマイナスになった。日銀の発表直後、株価はわずかに上昇したが、ほどなく日銀の期待とは裏腹に株価が低下し、円レートは上昇した。これは日銀の発表と踵を合わせて世界経済の不安が高まり、リスク回避の動きが強まった結果と推察されている。マイナス金利そのものは投資や消費を刺激すると理論的には期待されるが、今回は、中国経済の不調や原油価格の低落にアメリカ経済の変調が重なり、その先行きは不透明でもっぱら不安が募っている。

 クロダノミクスは日銀の黒田東彦総裁が主導するアベノミクスの第一の矢、すなわち金融の矢のニックネームだが、この最大のねらいは、1990年代後半から続いた長期デフレを脱却し、経済を沈滞させるデフレマインドを、活性化させるインフレマインドに転換させることにあった。そのために、黒田総裁は2013年春の着任早々、日銀のベースマネーのストックを2年間で130兆円から270兆円に倍増することで2015年中に2%の物価上昇を達成すると大見得を切った。

 ベースマネー急増の発表で、為替レートが急落し、輸入物価の上昇もあって、物価上昇は順調に
進むかに見えた。同時に、円レートの大幅下落が輸出企業の利益期待を高め、株価が高騰したことは大きな成果だった。ところが、2014年夏頃から物価上昇ペースが急速に鈍化し、目標達成が難しく見えてきた。その背景には、”逆オイルショック”と呼ばれる原油価格の急落があった。

 この展開に危機感を募らせた黒田日銀は、2014年10月末に、内外の意表をついて、ベースマネーを年80兆円増加するなどの大規模な第二次金融緩和を発表した。その結果、マネタリーベースは350兆円、GDP比で7割まで増加することになった。これは内外の期待感を高めて株価が上昇したが、その効果はほどなく逆オイルショックの波に呑まれてしまった。

 日銀は、それでも目標達成時点を遅らせつつも、インフレ実現のために、生鮮食品とエネルギーを除く新CPIを適用したり、2015年12月には金融資産買い入れ枠拡大など金融緩和制度的補強策の導入といった懸命の努力を続けた。そして、今年2月、歴史上はじめてマイナス金利の導入に踏み切ったのである。黒田総裁は、これで量的、質的そして金利と全方位の異次元緩和を推進するとしている。

 その強い意思と努力は大いに評価するが、これで所期のインフレマインド醸成が可能になるかは、特にここに来て世界同時不況の気配が俄に強まってきていることもあり、期待し難そうである。マイナス金利は、日本では未踏の世界で、金融機関、家計、そして企業にとっても理解し納得できるまで多大な時間がかかりそうだ。

 しかも、その混乱の後には、350兆円ものベースマネーをどう後始末して適切な出口を見い出すかという気の遠くなるような課題がある。世界経済の激変に翻弄される不運はあるが、これだけ苦労して推進しているクロダノミクスは果たして合目的なのか、問い直してみる必要もあるかもしれない。

(The Huffington Postへの投稿より
http://www.huffingtonpost.jp/haruo-shimada/will-kurodanomics-be-succeed_b_9271408.html

アベノミクスは変質したのか?

 安倍首相が日本の指導者として良く努力していることを私は大いに評価している。安倍政権が掲げるアベノミクスは日本経済と国民の生活にとって重要な政策であり、世界でも注目が集まっている。

 しかし、安倍政権に期待するだけにアベノミクスのこれまでの結果と最近の方向性を見ると心配がつのる。

 アベノミクスの最大の目的は、20年間近く続いたデフレの脱却だった。そのために日銀が大量のベースマネーを供給してインフレを引き起こし、人々や企業にインフレマインドを持たせる異次元的金融緩和政策を断行した。この第一の矢は、為替レートを下げて企業の利益を増やし株価を上昇させることでは成功したが、原油価格の下落もあって、黒田日銀の懸命の努力にもかかわらず、2%のインフレは実現しそうもない。異次元の金融政策はその最大の目的を達せそうもない。

 膨大なベースマネー供給の今ひとつの目的は、為替レートを下げて輸出を伸ばし、経済成長を促進することにあったが、為替レートは下がっても輸出はほとんど増えず、成長に貢献していない。中国はじめ世界経済の低迷という不運もあったが、実は、これまでの円高の時代に、輸出を担う日本の大企業が海外に軸足を大きく移したため、円安でも輸出は増えないという構造変化があったことを政府は見逃したのではないか。

 第二の矢の財政は、機動的な財政支出で経済を支えたが、その結果、2020年に基礎収支の均衡を達成するという国際公約は守れない事がほぼ明らかになった。

 期待がかかるのが、第三の矢の成長戦略だ。成長戦略は2013年、2014年、2015年と3回発表された。2013年の戦略は3つのアクションプランを掲げたが、その内容はいささか希薄だった。2014年の戦略は、資本市場の改革、農業改革、労働改革など日本経済の体質改革に意欲的に取り組んで国際的にも評価されたが、こうした構造改革が成長に寄与するには10年も20年もかかる。不可解なのは2015年6月に閣議決定された成長戦略だ。これは率直に言って内容が空疎でむしろ退化している。

 金融政策に荷重がかかったアベノミクスは、社会保障や地域振興など長期政策は手薄だった。しかし人口減少や高齢化など長期問題の深刻さは国民の不安を高めているので、政権は「地方創生」や「一億総活躍」などのスローガンを掲げて対応に躍起になっているが、そうした“政策”で地方が創生できるのか、国民が活躍できるのか、その道筋は見えない。むしろ見えてくるのは、地方への補助金配分、国民各層への支援増大、とりわけ低所得高齢者への総額3600億円にのぼる給付、公明党の要求を丸呑みした消費税軽減税率制度など、経済よりも7月の参議院もしくは衆参同日選目当ての意図を感ぜざるを得ない。

 安倍政権を支持したい筆者としては、政権が私達をどこに導こうとしているのか急速に見えにくくなりつつある思いを禁じ得ない。ハフポストの場を借りて、これからこの大きな問題の各論をひとつひとつ考えていきたいと思う。

(The Huffington Postへの投稿より
http://www.huffingtonpost.jp/haruo-shimada/is-abenomics-deteriorated_b_9156136.html

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