« アベノミクスの2年間と日本経済の課題〜安倍政権の今後のために〜 Part 1 | トップページ | アベノミクス 2年間の経験とこれからの日本経済 »

アベノミクスの2年間と日本経済の課題〜安倍政権の今後のために〜 Part2

Vlll. 経済動向と衆議院選挙

 1. 経済動向とアベノミクスへの懐疑論

 (1)物価と賃金
  ーアベノミクスの異次元的金融緩和で円安になり、それが輸入物価を上昇させ、
   物価上昇がつづいているが、物価上昇に見合った賃上げがなかなか実現しない。
   このままでは、勤労者の実質賃金は低下し、アベノミクスは勤労者の生活向上
   に役立たないのではないか、との疑念が高まるおそれ。
  ー物価(CPI)は2013年7〜9月 0.9%、10〜12月 1.4%、2014年1〜3月1.5%
   と着実に上昇。
   これにたいし、名目賃金は2013年7〜9月 −0,4%、10〜12月 0.4%。
  ーさらに、消費税8%後は、物価は2014年4〜6月 3.6%、7〜9月 3.3%。
   ところが、名目賃金は 2014年4〜6月 0.8%、7〜9月 1.5%にとどまった。
 
   消費増税前でも賃金上昇は物価上昇に追いつかなかったが、消費増税後はさらに
   実質賃金は増税分だけ低下しており、国民に不満とアベノミクスへの不信感が
   ひろがりつつある。
  
 (2)為替と輸出
  ーアベノミクス効果で円安が進行しているが、それに見合って期待されたほど
   輸出が伸びず、それが経済成長を促進するどころか、成長を鈍化させる要因に
   なっている。これは明らかのアベノミクスの期待とは異なる現象でアベノミクス
   の成功を阻害している。

  ーその理由として、1)円安が輸出価格の引き下げにつながるには時間がかかる、
   2)2013年頃から新興国経済が低迷しはじめ、世界の貿易需要が低下している、
   3)尖閣列島問題を契機に日中関係が緊張・悪化し、対中輸出と投資が減退して
   いる、などが挙げられているが、さらに、日本の大企業が円高の時代に、そして
   重税などを嫌って、この10年くらい生産活動の重心を大きく海外に移している
   ことも大きな構造要因と考えられる。企業活動の海外展開が進めば、円安が 
   日本企業の輸出を促進する効果は減殺されるからだ。

 (3)点火しない成長

  ーアベノミクスが開始されてからの経済成長の実績は、2013年の前半には株高景気を反映
   して、半年間ほど経済成長は高まったが、それ以降は、沈滞ぎみ。2014年1〜3月期は
   消費増税前の駆け込み需要で成長は再び高まったが、その後は、大きな反動減のあと、
   成長が回復する兆しがみえない。

  ー実質経済成長率は
   2012年10〜12月期 −0.9%、
   2013年1〜3月期 6.0%、4〜6月期 3.0%、7〜9月期 1.6%、10〜12月期 −1.5%
   2014年1〜3月期 5.8%、4〜6月期 −6.7%、7〜9月期 −1.9%。

  ーGDPの6割を占める消費の低迷が成長促進を妨げている。消費増加の最大の要因は所得
   の増加であり、実質賃金が減少する状況では消費増加は期待しにくい。一方、貯蓄や
   資産が消費につながるためには、将来不安の減少や新しいライフスタイルが実現する
   などの要因が必要と考えられる。これらをどのように実現するかが、人口減少・高齢化
   の進行するこれからの日本を活性化する大きな課題だろう。

 2. 黒田第二次バズーカ発表
 (1)日銀の追加緩和発表
  ー2014年10月31日、黒田総裁、内外の意表を突いた突然の大規模第二次金融緩和発表。
  ー主要内容:・マネタリーベースの増加ペースを年10〜20兆円ふやして、年80兆円とする。
        ・長期国債買い入れ量を30兆円増加して80兆円とする。
        ・リスク資産(上場投資信託ETF, 不動産投資信託REIT)の購入を3倍に。

 (2)物価上昇率急低下への危機感
    ー物価上昇率が2014年夏から低下、予想外の原油価格急落のインパクトか。
    ー夏までは、日銀は、2015年春には物価上昇率1.9%を予測。
     2%の近傍として国際公約は実現できると踏んでいた。

    ー2014年9月のCPI(生鮮食品と消費増税の影響除く。10月31日発表)は1.0%。
    ー10月に準備した『物価リポート』では内部データとして2015年春1.5%。
     『物価リポート』(2014年10月)は10月末に公表されるが、1.5%では、
     国際公約は守られるとはいえない。
    ー黒田総裁、日銀幹部に危機感。ひそかに大胆な追加緩和を準備。

 (3)舞台裏
    ー10月末になって黒田総裁は急遽、腹心の雨宮正佳理事や内田真一企画局長に緩和策
     の検討を指示。実務部隊には厳しい箝口令
    ー一方、対外的には動かぬ日銀を演出。10月28日の参議院財政金融委員会でも総裁は
     いつもの強気姿勢を淡々と貫いた。市場は31日も日銀に政策変更なしと織り込んだ。
    ー日銀政策委員会の票固め。民間エコノミストの木内登英、佐藤健裕氏らはもともと
     緩和には慎重。学者の宮尾龍蔵、白井さゆり氏は議論の結果賛成。企業出身の
     森本宣久、石田浩二氏は反対。結局、4時間の議論の結果、総裁、副総裁含め、
     5:4の薄氷の決定。    
    
(4)緩和発表の影響
    ー10月末にアメリカ連銀が超金融緩和の終了を宣言し、世界がその対応に身構えて
     いたタイミングの日銀バズーカは株式市場などで大歓迎。東証株価日経平均は700円
     上昇。NY株式市場は市場最高値記録。
    ー麻生太郎財務相は「良い決定」と大歓迎。消費税10%増税への後押しと理解?
     菅義偉官房長官は「日銀独自の判断」とコメント。消費増税含んで微妙。
    ー2015年末のマネタリーベースは350兆円。(アメリカは450兆円)
     GDP比Mは、欧州1割、アメリカ2割。日本は7割と突出。将来の出口戦略が大課題。

 3. 消費税引き上げ問題
 (1)予定通りの引き上げへの期待
   ー国際社会の専門家(IMFラガルド専務理事など)は予定通りに引き上げすべしと忠告。
    日本政府の財政規律が日本の国債の信用そして世界経済への大きな影響を考慮。
   ー日本のエコノミストも多数は予定通りの引き上げを主張。
     ・成長率は低めだが、成長率は7〜9月が底で2015年にむけて回復。
      失業率3.6%(完全雇用水準)、鉱工業生産、投資も上昇傾向、
      景気はゆるやか回復軌道へとの見通し。
     ・財政規律回復、国際公約遵守のためにも、今、以上の好機なし。
      時間が経ってもめだって環境が良くなる保証もない。
    ー日銀、黒田総裁。かねてより公約遵守すべきとの立場。
     ・第二次緩和も消費増税の環境整備との観測。

  (2)引き上げ延期の判断
    ー安倍首相は、増税の判断は11月にすると言明。
    ー安倍首相のブレーン、浜田宏一、本田悦朗氏はかねてより延期派。
     最近の経済状況みてさらに主張強める。
    ーオーストラリアからの帰途、首相は機中で遵守派の麻生財務大臣に
     7〜9月期の成長率データをみせた。そこには−1.9%。首相の胸中は
     その時点で延期。

 4. 唐突な選挙挙行:その背景と意味
 (1)衆議院解散と選挙挙行の宣言
   ー安倍首相は11月18日夜、首相官邸で記者会見し、
   ・11月21日に衆議院を解散する
   ・2015年10月に予定していた消費税10%への増税は1年半延期。
    再延期はせずと言明。
   ・衆院選では「アベノミクスの是非を問いたい」とした。
   ー11月21日、衆議院本会議後の閣議で、12月2日公示、14日投開票、を正式決定。

 (2)なぜ今、選挙なのか
   ーなぜこのタイミングで選挙なのか、多くの憶測と仮説。
   ・衆議院議員の任期がまだ2年あるのに、なぜ、と多くが疑問。
    以下がその表向きの理由と推測された。
   ・2015年10月に予定されていた消費税の10%への増税を2017年4月に延期するとの
    首相の決断は当然、国会で承認されねばならない法律の規定変更であるから、その
    前に国民の信を問う必要があるとの理由。
   ・小渕前経産相の政治資金問題などで内閣の評判が低下。仕切り直し選挙。
   ・内閣の人気が低下傾向にありまだ力のあるうちに解散?力が無くなってからでは惨敗。
   ・これからは原発再稼働、集団自衛など国民の意見を2分するような課題が山積している  
    ので、その前に選挙で勝利して取り組む。

 (3)選択肢なき特急(snap)選挙
   ・安倍首相は「アベノミクスの是非を問いたい」としたが、野党は国民に問う政策
    なし。自民党の選挙公約はまさに総花でやっつけ仕事は明白。
   ・野党は、自民党のscandal探し以外、国民の訴える政策なし。しかも一部
    野党は分裂解散の惨状。公約はほとんど選択肢にならない。
   ・選択肢なき突然の選挙の国民は白けて、半数は投票せず。
   ・52.6%は史上最低の投票率。自民党・公明党の与党は絶対安定多数を60議席
    上回る圧勝だったが、国民の大多数が安部政権を信認したわけではない。海外メディア
    は異口同音にそれを指摘。

 (4)安倍首相の野望と責任
   ・以上は、おもてむきの解散・選挙の理由。
   ・真の理由は安倍首相の自己納得と長期政権への野望ではないか。
    2012年の総裁選は石破茂氏が地方票で上回った。2012年末の総選挙は
    石破幹事長、2013年の参議院選挙も石破幹事長で勝利。自前の選挙で自信を?
   ・この大勝利で、自民党は1強。党内では安倍氏1強。環境条件に想定外の変化
    がなければ、安倍氏は6年間、総裁と首相を担う戦後最長政権。それを求めた?
   ・国民はその安部政権にこれからさらに4年間という長期を付託せざるを得ない。
    安倍首相の国民に対する責任は重大。


lX. アベノミクス2年間の評価

 1. アベノミクスへの世界的関心

 (1)アベノミクスへの世界的関心の高まり

   ーアベノミクスへの世界の関心が高い
    世界の代表的経済紙であるFinancial Timesなどでも、連日のように日本経済とりわけ
    アベノミクス関連の大きな記事が掲載されている。
   ー半世紀前の1970年代前半に、戦後の廃墟を乗り越えて高度成長を達成しつつあった日本
    経済は、「日本の奇跡」として世界の注目の的となったが、今回のアベノミクスへの
    関心はそれ以来。

  (2)関心の焦点

   ーなぜ関心が高まるのか?
   ーアベノミクスは3本の矢、すなわち、金融政策、財政政策、構造改革政策という性質も
    役割も異なった政策を組み合わせて総合戦略で、理論的にも明解で判りやすい。
   ー1990年代後半から20年近く長期デフレと低成長に陥っていた日本経済がアベノミクス
    によって復活するかどうかは経済実験としても世界的に意味がある。
   ー成功すれば、今後の世界諸国の経済政策にとっても参考になるし、失敗しても反省材料
    として参考になる。

 2. 日本経済の構造と体質改革への果敢な取り組み
   ーアベノミクスの第一の矢:「異次元的な金融緩和」は市場に大量のベースマネーを提供
    することで、円売りを誘発して円レートを下げ、輸出企業の利益増大を促進するとともに
    輸入価格上昇によってインフレを促進し、人々や企業にインフレ期待を醸成するねらい
    があるが、これは円安、株高を実現したことで、一定の成果を収めた。

   ー機動的な財政政策は、デフレ経済からインフレ経済への転換過程で、経済成長を
    安定的に下支えする効果があった。もっとも、財政再建の実現は一層困難になる。

   ー成長戦略は、とりわけ、第二次成長戦略では、いわゆる「岩盤規制」分野にも
    鋭意切り込んでおり、構造改革に対する取り組みは評価できる。

   ー例えば、農業における減反政策の廃止、農協の過度な権限を削減する改革、農地を
    大農家や企業が購入するなど農地の流動化を進める政策
   ー雇用における報酬決定を労働時間だけでなく成果によって決められる制度の導入の
    試み。もっとも厚生労働省や組合などの抵抗と反対で、その適用範囲は限られる。
   ー医療における「混合診療」解禁への取り組み。もっとも適用される病院はわずかな
    大病院に限られる。
   ー企業統制における社外取締役導入の一般化の取り組み。
   
   ー上記で詳述したように、このほかにも多くの構造改革に安倍政権は鋭意取り組んで
    いる。これらの改革は、戦後の歴代政権が充分には取り組めなかったもので、安倍政権
    の果敢な取り組みは大いに評価される。

   ーこれらの改革は、日本が敗戦後、占領軍のもとで”平等主義”もしくは“民主化”
    のために推進したものだが、今日では成熟期を迎えた日本経済を活性化する努力を阻害
    する要因になっていたり、また、高度成長時代に定着した制度がやはり現代のグローバ
    ル化時代の要請に逆行する要因になっていたりする、いわば閉鎖的で硬直化した
    経済構造の体質を変える改革といえる。

   ーいいかえれば、閉鎖的で硬直化した経済組織や経済構造を、開放的で競争的で効率的で
    努力する人々や企業がその成果を獲得しやすい経済構造にする改革である。

 3. 成長戦略は不在?

  (1)アベノミクスの”成長戦略”は経済体質改革戦略

   ー安倍政権が取り組んでいるこれらの構造改革は、日本経済が新しい時代に成長するため
    には必要な”経済体質の改革”だが、それはいわば必要条件であって、これらの改革が
    直ちに経済成長を誘発するものではない。

   ー人々は政府の「成長戦略」が経済成長を早期に誘発してくれるものと期待している。
    アベノミクスの第一の矢は、日銀が決定すればすぐに実行できる。それは人々の期待感
    を変える効果があるが、必ずしも実質経済の成長を導くものではない。しかも、大規模
    な「異次元緩和」は政府債務を事実上、日銀がファイナンスすることによって政府の
    財政規律を弱めるリスクがつきまとう。

   ー積極的な財政政策による機動的な財政支出は財務省の幹部が短時間で実行できる。
    そして積極的な財政政策は経済の安定を下支えする効果はあるが、大規模は財政支出
    の実施は膨大な財政債務をかかえた日本の財政再建計画を危うくするリスクがある。

   ーこれらのリスクを吸収するものとして「経済成長戦略」に国民の期待が集まる。
    たしかに成長があれば、人々や企業の所得が増え、税収がふえることによって
    財政再建はしやすくなり、財政規律も維持しやすくなる。政府の「成長戦略」
    に人々は成長→増収を実現する即効薬的効果を期待しがちである。

   ーしかし、安倍政権が鋭意取り組んでいる構造改革政策は、多くの制度、法律を変えて
    経済構造を改革し、それをつうじて、人々の働き方や企業行動を変えようというもの
    で、そうした構造改革を実現するには国民の多くが参加して、法律、制度、構造、行動
    パターンを変えるというプロセスを実行するのであるから、おそらく短期間に効果を
    期待することは非現実的である。これらの改革には数年、10年、あるいは20年かかる
    であろうし、その効果が出てくるにはさらに時間がかかるだろう。

   ー安倍政権が取り組んでいる「成長戦略」は、端的に言えば、経済の体質を変える構造
    改革であって、多くの人々が期待しているような短期に効果が期待できる「成長
    戦略」ではない。多くの人々が期待しているような短期に効果が期待できる「成長
    戦略」はアベノミクスには不在なのではないか。

(2)人口縮小・高齢化経済に成長戦略はあり得るか?

   ー安部政権の構造改革による「成長戦略」は、経済の体質を、開放的、競争的、効率的
    な構造に変えることによって、人々や企業の期待感や行動パターンを変え、それによって
    自律的に生産性が向上し経済が成長することを期待する戦略と言える。私見ではそれは
    全うな経済戦略の王道である。しかし、それは政府依存に慣れた人々の期待感とは
    大きく乖離するだろうし、構造改革にかかる時間を人々は待ちきれず、アベノミクスを
    評価しなくなるだろう。

   ーそれでは、ここで短期に成果の期待できる経済政策を実行すべきなのだろうか。
    日本経済が今、世界でもっとも多額な政府債務に苦しんでいる状況は、実は、
    日本の政府がバブル崩壊以降、即効性の期待できる成長政策として、建設国債に
    よる公共工事を繰り返してきたことに大きな原因がある。小泉政権以来、さすが
    に公共工事は大幅に削減されたが、近年は、高齢化の社会的費用の増大が財政負担
    の膨張要因になっている。

   ー公共投資は、日本が戦後の高度成長時代にもインフラ整備のために大いに推進し
    それが成長を加速させた。1980年代以降のバブル崩壊後は、成長を下支えするために
    公共工事を大規模に展開したが、それが今日の膨大な財政債務を蓄積する原因に
    なった。公共投資は開発途上経済では経済効率を高めて成長を加速させる要因になる。
    中国やブラジルなどはその典型である。しかし日本のように先進・成熟段階に入る
    と公共投資による乗数効果は著しく低下する。日本は道路や鉄道の普及率は世界でも
    突出して高く、成長に対する限界効果はほとんどない。

   ー一方、高齢化は高齢者福祉のための“社会的費用”が加速度的に増大させ、そのための歳出
    がたしかにGDPの構成要素として拡大する。この点に着目して菅直人政権の時代に、
    システムは国民の負担増によって福祉費用を賄うしくみになっており、投資が
    技術革新などをつうじて生産性を向上させ、その結果、国民の所得水準と国富がふえる
    循環はそこでは機能しない。今は菅首相の「第三の道」を信ずる人は誰もいない。

   ーこうした現状で、経済成長を実現する政策を構想するとなれば、安倍政権の構造改革
    戦略のほかに何があり得るであろうか。安倍首相は、2014年末の総選挙のために用意
    された政権公約のタイトルを『景気回復、この道しかない』としたが、たしかに日本
    経済が直面する所与の状況の中では、経済構造を改革することで、人々や企業の期待感
    と行動パターンを変えて、成長を期待するという戦略は、正攻法であり、普通に考えれば
    ”それしかない”かもしれない。

   ーしかし、その方法では現在の安部政権が掲げる「成長戦略」がすべて実行されたとして
    も、以下に指摘するような人口縮小と高齢化という大きな制約の下では、日本の抱える
    財政赤字や社会保障問題を解決するほどの成長を達成することは不可能のように思える。

   ーこれからの日本の最大の構造問題は、人口の縮小と高齢化である。人口の縮小は
    経済成長の実現を大きく制約する。日本が高度成長していた時代には、経済は年々、
    実質10%の成長を達成していた。そのうち、8%は一人当たり生産性の上昇であり、
    2%は労働力人口の増加率だった。ところが日本では、2009年から人口が全体でも
    減少しはじめ、これからは毎年、0.7%前後のペースで縮小していく。今後期待できる
    一人当たり生産性の上昇率は、専門家の推計ではせいぜい1%程度であり、労働力
    増加率(減少率)を加味すると、期待しうる実質潜在成長率は、0.3%ていどにしか
    ならない。

   ーこのような経済の長期展望のもとで、アベノミクスの第一、第二の矢のリスクを吸収
    できる成長戦略は果たして構想できるだろうか?

X. 日本再生の真の課題

 1. 失われた期間は20年か40年か?

(1)失われた20年間
  ーこれからの日本経済の中長期の潜在成長率がせいぜい0.3%程度と上述したが、これは
   過去20年ほどの日本経済の実績をふまえて推計したもの。その20年は”失われた20年で
   あり、その期間の日本経済の構造や技術進歩率を前提にし、人口の減少と高齢化を加味
   して推計すればそうした値になるのは驚く事ではない。

  ー「高度成長期」といわれた1950年代後半から1970年代前半にかけては、日本経済は
   実質で毎年10%ていど成長した。生産年齢人口の伸び率は年率で2%ていどだったから、
   それを差し引くとそれでも一人当たり生産性上昇率は8%になる。

  ー8%の生産性上昇率を可能にした要因は、1)規模の経済性をフルに享受できるタイプの
   鉄鋼、造船、自動車、電機・電子機器など製造業が著しく成長した時代、2)戦後の復興
   意欲が高かった時代、3)アメリカなど先進国にキャッチアップする過程で、技術革新の
   学習速度が早く、若い労働力の技術適応力が高かったこと、などがある。今日の日本
   では、それらの要因はほとんどあてはまらない。今日の日本は、1)産業構造は成熟化し、
   比重の高いサービス業では規模の経済性はあまり働かない、2)先進国となって成熟化した
   日本にはキャッチアップの有利性はない、3)労働力は高齢化し技術吸収力、学習力は低下
   している。

  ー高度成長期の日本と今の日本では、キャッチアップ過程と成熟段階の大きな違いがある
   ことは事実だが、成熟段階の経済でも、成熟段階ならではの新しい成長があり得るの
   ではないか。若い人材は体力があり、学習力が高いが、熟年の人材には経験と知恵と
   資産と人脈という貴重な資源がある。それらを活用した新しい成長モデルがあり得る
   のではないか。いいかえれば、人口の縮小と高齢化が進む日本経済を大きく活性化する
   “異次元的”成長戦略ないし成長モデルはあり得るのではないか。

  (2)失われた40年間
  ーいまひとつ、“失われた20年間”はたしかに経済が長期デフレに陥って低迷した時代
   だったが、日本はもっと重要な活力を、過去40年にわたって失ってきたのではないか。
   ちなみに、現在の日本経済のサブシステムをしらべてみると、ほとんどのシステムが
   1960年代もしくは1970年代初頭までにできあがっており、それ以降に、抜本的な
   革新がない。

  ーたとえば、農業、医療、社会保障、エネルギー産業、都市、産業、企業構造、企業統治、
   企業戦略、教育、行政、政治などほとんどのサブシステムの原型は、1960年代から
   1970年代初頭までに完成している。その後、40ないし50年が経過しているが、
   その間に、日本内外のメガトレンドは大きく変化した。日本では人口構造が富士山型
   から釣り鐘型にそして逆三角形型に逆転している。ところが社会保障や医療保険などの
   システムは1960年代に完成したものを踏襲してきており、人口構造の逆転に対応して
   いない。世界では、情報化、グローバル化、人口変動、環境変動が起きたが、日本の
   産業も企業も教育もそうした環境変化への適応がおくれたため矛盾が爆発している。

  ーこれだけの大きな環境条件の変化に、システムが適応しなければ、経済の活力や創造力
   が失われるのは当然の帰結だ。1990年代の失われた20年間の背景には、さらに深刻な
   失われた40年間があるのではないか。

 (3)求められる環境変化への本格適応と自己改革
  ー環境変化にたいする自己適応や自己改革を怠った、もしくは成功しなかったことが、
   経済低迷や成長可能性の低下の原因であるとすれば、逆説的だが、内外の環境変化に
   適応し自己改革を進めれば、日本経済は新しい時代にふさわしい先進成熟経済として
   の創造力と活力を実現し、それが日本経済の潜在成長力を大きく高めることにつながる
   ことも充分可能なのではないか。

 2. 戦後改革に比肩する根本改革が求められる日本

  ー私達の課題は、それがどれほどの自己改革なのかを想像し、構想し、スケッチし、
   ブループリントを描くことである。おそらくそのヒントは他国の経験に、そして
   何よりも日本の戦後改革に求めることができるように思う。

 (1)外国の例:
  ードバイ:地理的有利性、アメリカ、ユーラシア、アフリカの中間点
       空港料ゼロ、外資企業法人税率↓
       今や、世界の中継地点、中継貿易、なんでも世界一
       ドバイ人口は1割。

    ーシンガポール:1960年マレーシアから分断、食糧なし、資源なし LKY
        地震調査から高層ビル、家賃払う仕事場:外資導入、賃金上昇↑競争力↓
       より高い付加価値、金融・コンサルティングサービス
       平均所得6万ドル、日本4万ドル

  (2)日本の戦後改革に学べ
    ー最強の参考事例は日本
      ・戦争で、世界の権益全喪失、都市焼け野原、310万人死亡、国連敵国条項
      ・25年で世界第二の経済大国へ
       ・敗戦:戦前の軍事国家体制全否定、冷戦下のアメリカの支援、安保と経済
       ・戦後改革:軍の解体、農地改革、教育改革、財閥解体、労働組合法認
          →身分差別と独占社会→平等と競争社会→国民の勤労意欲↑民間企業↑
       ・1950年代の改革:
          金融システム:国民資金の輸出部門への戦略的集中(階層金融システム)
          産業構造:傾斜生産、石炭→鉄→造船→機械→自動車→電機
          技術革新:技術導入と改善、生産性と品質改良、トヨタ方式
          強力な輸出立国、Ezra Vogel “Japan as no.1”

 5. 日本の可能性と再生の真の課題

   安倍政権が推進している構造改革による成長戦略は、経済の体質と構造を変えることに
  よって人々や企業の考え方と行動を変え、その結果として経済成長を実現しようという真に
  まっとうな正攻法である。

   しかし、人口が縮小し高齢化が進むこれからの日本経済を活性化するには、これまでの
  延長線上の戦略では、日本が必要とする経済成長は実現しにくいように思う。丁度、敗戦後
  の廃墟の中から私達の先輩達がまったく新しいいわば異次元の取り組みで奇跡の復興と成長  
  を実現したように、人口縮小と高齢化の進む日本経済にめざましい成長を実現するには
  まさに“異次元的は成長戦略”の実行が求められるのではないか。以下、そのためのヒントを
  いくつか指摘したい。

 (1)成熟国に必要な革新力と健康増進
   ー成熟国は、公共投資で成長させることはできない。キャッチアップ段階にない成熟国に
    求められるのは 1)前人未到を実現する革新力、そしてとくに2)高齢成熟国の最大の課題
    は高齢化の社会的費用膨張をいかに抑えるか、である。

   ー技術革新を促進するためにはアベノミクスで計画しているように科学技術促進戦略の
    司令塔をつくることも、また政府の予算をふやすことも必要だが、問題は、技術開発
    やシステム開発の現場で、ひとびとがどれだけ本当に才能を極限まで生かして創造を
    実現するかという人的要素が革新を実現するための鍵になる。

   ーこの人的要素は、予算を増やしたり、教育を進めるだけでは、実現しにくい。それらは
    必要条件ではあるが成果をあげる充分条件ではない。アメリカのような混合民族の国
    は多様性と透明な競争を組み合わせて革新力を強化してきた。日本にはそれらの条件
    は乏しい。しかし、明治維新や敗戦後などの異常な危機に直面して日本人はその革新力
    を爆発させた。常識的には低迷と縮小が予想されるこれからの日本を革新するには
    過去の経験も参考にしつつ異次元的取り組みを工夫する必要がある。

   ーいまひとつは健康増進。高齢化の社会的費用は莫大で、高齢人口比25%の現在4割の
    国民負担率はそれが40%になる2050年には7割を超えると見込まれる。この費用を
    抑えることが、国にも社会にも個人にも急務である。この費用を最小化する最大の
    要因は健康増進だ。かつて厚生労働省の辻哲夫次官は国民のメタボを抑制するため
    に「健康増進法」を制定し、健康保険組合にメタボ症候群の組合員の特別指導を
    義務づけた。しかし行政経費がかかる割には効果はあがっていない。

   ー中高年者の健康増進の最大の秘訣は、カロリー抑制と筋肉トレーニングである。
    これを義務にすれば人間の心理として拒否反応が働く。いかにして楽しく結果と
    して国民のカロリー抑制と筋トレを実現させるか、科学と政策の革新的かつ総合的
    取り組みが求められる。

  (2)人材・労働力の活用

   1)若年労働力
    ー現在、日本の若年労働力は半数くらいは悲惨な状況にある。失業者150万人、
     フリーター400万人、ニート(Not Employed, Educated or Trained) 80万人、
     ワーキングプア、900万人がその状況を物語る。

    ーこの状況は、高度成長が終わり、バブルが崩壊してから深刻化した。背景には
     日本企業の年功序列に象徴される正社員優遇、既得権者優遇主義、そして成績や業績
     などの理由で指名解雇ができない頑迷な解雇法制がある。

    ー高度成長期に効果があり定着した古い日本的雇用慣行を変え、ILOが100年前から
     提唱している「同一労働同一賃金」を実現することだ。日本は雇用の地位で報酬が
     決まる異様な雇用制度だが、これを能力、努力、成果で報酬と処遇が決まる制度に
     根本から変える必要がある。

    ーその結果、正社員であろうとパートであろうと関係なく、働きで報酬が決まるように
     なり、労働市場は流動化して、適材適所が実現するだろう。こうしてはじめて不利に
     差別された若年層にも公平な雇用機会が与えられる。

    2)女性の活躍
    ー安部政権は女性の活用を大目標にかかげ、その環境整備として子育て支援、役所や
     企業での女性登用促進、働く女性に不利な税制の改革などを推進している。これら
     はいずれも重要だが、上述したようにまだ緒についたばかりの段階。
   
    ー政府の旗ふりも政策も重要だが、女性が活躍するには、それ以上に、企業、社会、
     家庭の価値観の転換が必要だ。この大転換をどう実現するか、日本の異次元的
     取り組みが求められる。

    ーいまひとつ、結婚を絶対的制度としない社会をつくること。結婚はしたい人がすれば 
     良いという人生の選択肢のひとつとすべきだ。そうすることで女性は多様にライフ
     スタイルを選択できる。どのような人生を選択するとしても子供は平等な社会的
     保護とサービスを受けられるようにする。社会的、行政的に嫡子、嫡外子の区別を
     無くす。フランスとスエーデンは、かつて少子化に悩んだが、結婚を相対化する
     ことと、子育て家庭(母子、父子家庭含む)への徹底的行政支援で、人口増加
     に成功していることを参照すべきだ。

  3)外国人。
    ー日本は将来、深刻な人口減少が予期されているのに、外国人労働力の導入を頑に拒ん
     でいる珍しい国だ。ローマ帝国以来、人口減少に直面した先進国で外国人材を導入
     せずに繁栄した国はない。

    ー日本は外国人材に対して、国政選挙権以外のあらゆる生活権(傷害、医療、失業
     補償、年金、社会保障、教育、居住など)を提供して、優れた外国人材を迎え  
     受けるべきだ。

    ーそのための基本条件として、世界諸国が法定している「移民法」を制定すべきだ。
     移民法はおそらく戦前の民族差別がトラウマになって日本ではタブー視されている 
     が、異次元的活性化のためには避けて通れない。これがなければ、外国人材はど
     日本が必要とする優れた人材を選別することができる。 

 (3)エネルギー、農業、医療の抜本改革
    
    ーエネルギー、農業、医療はいわゆる岩盤規制と既得権で固まった分野であるが、
     抜本的な改革によって最も強力な成長分野にすることができる。

     1)エネルギー
      ー50基、かつて30%、高度成長
      ー今、CO2↑, 3〜4兆円↑、貿易赤字
      ー抜本安全対策、
      ー自然エネルギー:太陽光、風力、地熱、バイオ(林業の発展)
            水力(小水力)、波力(潮力)
      ー省エネ、見える化、苦汗省力でなく都市計画と技術

    2)農林水産業
      ー農業:”自給率40%、農村疲弊”の欺瞞
       穀物自給:野菜、果物、畜産
      ー農村: 196万軒、165、30、135万軒
      ー政治米価、減反、
      ー自由化、社会農業:
      ー価格低下、遺伝子組み換えなし、世界輸出農業へ。

    3)医療
     ー昔、国民皆医療、皆保険、最長寿国
     ー今、3時間待って3分医療、たらい回し、医師不足、赤字、保険財政↓
     ーメガトレンド:高齢化、医療技術↑、成長鈍化(担税力)
     ー規制:価格:診療報酬、薬価、
         数量:ベッド規制、地域計画、医学部規制
     ー解決策:情報化、包括支払い制度:DRGーPPS、日本 DPC
       outcome情報
       混合診療
       民間保険を7割に
       Drug lag, Device lag解消

« アベノミクスの2年間と日本経済の課題〜安倍政権の今後のために〜 Part 1 | トップページ | アベノミクス 2年間の経験とこれからの日本経済 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1441035/58474111

この記事へのトラックバック一覧です: アベノミクスの2年間と日本経済の課題〜安倍政権の今後のために〜 Part2:

« アベノミクスの2年間と日本経済の課題〜安倍政権の今後のために〜 Part 1 | トップページ | アベノミクス 2年間の経験とこれからの日本経済 »