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今次、TPP交渉参加の問題点

このブログは私は原則、英語で書いているが、この問題については日本人ならびに日本語の読者にも読んで戴きたく、例外で、日本語のコメントを掲載させて戴くことにした。

野田佳彦首相は来る11月12~13日にハワイで開催されるAPEC首脳会議で、TPP交渉参加の意志表明をする腹づもりのようだ。

TPPは自由貿易を促進する国際協力のひとつで、私は元来、自由貿易が、関係諸国の経済効率を高め、人々の生活水準の向上に役立つ限りにおいて、自由貿易の促進には賛成する立場をとって来たし、また現在でもその立場に変わりはない。その意味で、TPPの目的や広域自由貿易圏をつくろうというその趣旨には賛成である。

しかし今回のTPP交渉に参加するかどうかという個別具体的な問題については、いわば戦術的な意味で、多いに注意して置かなくてはならない問題があることを私達は充分に自覚しておく必要がある。その意味で今回はとくに日本語でもコメントを書かせて戴いた。

TPPは2006年に、シンガポール、NZ、チリ、ブルネイの4カ国からなる通称P4の自由貿易協定としてスタートした。環太平洋地域の諸国にその頃から参加の呼びかけが行われた。2010年までに、アメリカ合衆国、オーストラリア、ヴェトナム、ペルーが加わり、やや遅れたマレーシアが参加したP9となった。

TPPは貿易財については全品目にわたって即時ないしは段階的に自由化をめざし、またサービス、政府調達、競争政策、知的財産権、労働移動などについては包括的な協定をめざす、としている。

日本は過去数年にわたって参加の誘いをうけていたが、実質的な対応はとっとこなかった。2010年11月の横浜APEC首脳会議に際に菅直人首相がTPP参加を検討すると発言したが、その後は、ほとんど実質的な動きはなく、また情報の収集も、分析もしてこなかった。情報の収集は、参加国でないから蚊帳の外に置かれたという事情もあったが、参加・不参加の功罪は、農林水産省や経済産業省が、それぞれ数兆円の違いになるとしてかなり粗っぽい前提の下で全く異なった主張をした程度で、総合的、本格的な政策分析が行われたとは言い難い。

一方、この数年、TPPの枠組みの中で、24の分野で作業部会が立ち上げられてかなり詳細な議論をしていると伝えられ、また、これまでに9回にわたる全体会合が参加各国の持ち回りで開催されて来ており、TPPの内容について相当進んだ議論がなされていると推察される。推察というのは日本は参加表明をしていないという理由で情報が政府当局にも提供されていないからである。

こうした状況の下で、来る11月12~13日に野田総理は交渉参加の意思表明をすると推察されるが、上記の状況は、国益を最重視しつつ参加する国際交渉の常識から見ると極めて異様な状況に見えるので、ここでいくつかの点について改めて注意を喚起し、日本としてどう行動するのが国益にかなっているのか、ここで考えてみたい。

(1)TPPに関する内容や規約はこれまでの参加国の間ですでにほとんど詰められているように推察されるが、これに参加するとなればアメリカに次ぐ市場を提供することになる日本にその内容がほとんど知らされていないという状況は奇異であり異常である。事前の検討のために必要な情報がない中で参加の意志決定が迫られるとう不自然さは納得しがたい。参加国でないから情報は提供できないという建前のようだが、参加するとなれば大規模な構造改革や制度改革が必要になる可能性が大きく、経済構造や国民生活に重大な影響の及ぶ可能性が大きいこうした国際協定の議論の中味を未参加だからという理由で情報開示をしないことは妥当ではないだろう。

(2)参加している9カ国の中ではアメリカが圧倒的な比重を占めており、他は小国なので、アメリカが貿易と投資で実質的な成果を挙げる目的でTPPを利用するならば、中国が参加しない以上、その最大のねらいは当然、日本を巻込み日本の市場に浸透することと考えられる。実際、日本が参加すれば日米両国のGDPの比重は9割を超えると推察される。

(3)貿易財の関税の撤廃、非貿易財に関する総合的な国際ルールの策定といった遠大な目的をかかげるTPPだが、こうした交渉は二国間交渉でも相当の準備と時間がかかる。ましてこれまでの経験が示しているようにGATTとWTOといった多国間交渉ではあまりに時間がかかってラチが開かないので、世界中で、多くの地域自由貿易協定が結ばれてきた経緯がある。今回のTPPで不可解なことは、2国間交渉でもすくなくとも数年以上の時間がかかりそうな膨大な課題を掲げているにもかかわらず、多国間交渉というテコを使って、それを1~2年で達成しようという拙速さは理解しがたい。しかも日本が11月のAPECハワイ会議で参加表明をしても、実際の協議に参加できるためには既参加国での検討に半年以上に時間がかかるとされ、実際の参加は来年の夏頃になると見込まれるという。その間に、参加国の間で実質的な協議がさらに進み、日本の交渉余地はさらに狭まるおそれがある。

(4)情報がほとんど欠如ないし著しく不足したままで参加の意思表明が迫られるという異常な状況に対し、前原誠司氏ほか若干の政治家が、「参加した後で交渉の展開によっては離脱もあり得る」とコメントしたが、これに対してアメリカ政府の高官が直ち「我々は真摯な参加国のみを歓迎する」と反論したと伝えられる。このやりとりは前原氏他の方が自然に思える。アメリカには何か急がなくてはならない特別な理由があるのだろうか。

こうした状況をふまえると、11月のAPECハワイ首脳会議では、野田首相がかりにTPP交渉への参加表明をするとしても、それは今後の交渉のあり方、進め方について特別の覚悟をもって臨む必要があると考える。

自由貿易を促進するというTPPの趣旨は望ましいものとしても、日本にとって大きな構造や制度の改革を必要とする国際協定への参加にあたって、これまでに累積した情報不足や交渉の余地の縮小といういわば”負の遺産”を叶う限り解消する効果的な交渉努力が何よりも重要である。

もし日本の国益を守りかつ促進するうえで、充分な情報と交渉の余地が確保し難い状況であるならば、ハワイのAPEC首脳会議では、参加発言を見送る選択肢もあり得ると思う。カナダは参加表明になお慎重であり、その慎重さには一理がある。

TPP交渉参加を急ぐべきだとの見解には、自由貿易促進という一般論の他に、(1)重要な同盟国アメリカに協力すべき、(2)交渉参加が遅れるほど情報ギャップが大きくなり交渉の余地が狭まる、(3)アメリカとの2国間協議よりも多国間協議の方が交渉の範囲を広くとれる、(4)多国間協定を進める方がやがて中国などを取り込みやすくなる、などの論点が含まれているようだ。そのうち(1)は重要であるとしても、(2)の不利性は変わらない、そして(3)と(4)の現実性は自明ではない。日本という経済大国にとっては、本来は、最大のパートナーであるアメリカと真摯に自由貿易協定を結ぶ方が、望ましい戦略ではないかと思う。その点では韓国の知恵に学ぶところがあるように思う。

野田首相は、ハワイのAPEC首脳会議で、かりにTPP交渉への参加表明をするにしても、国益と世界益を真剣にふまえ、場合によっては今回は参加を見送る、あるいは、日米自由貿易協定を結ぶ努力もありうることを視野に入れつつ、もし参加するなら、これまでの情報ギャップを充分に解消し、日本が充分な交渉の余地を確保できるよう、覚悟を決めて、効果的な意志表明をしてもらいたいと思う。

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コメント

おっしゃる通りだと思います。先生がもっと声を大にして主張されることを希望します。マスコミは権力に加担していて、世論を形成しようとしています。国民の無力さを感じます。

投稿: あべ力也 | 2011/11/08 11:49

ボクはTPP賛成の立場でありますが、参加を表明しない事には、情報を開示しないというスタンスは賛同しかねませんね。

投稿: 神田敏晶 | 2011/11/09 11:59

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